12話 アクアの思い
あれから1か月…
アクアの傷は治ったが、記憶は相変わらず戻っていない。
1つわかったことは、毎晩アクアは狼になるということ。日が落ちて暗くなると変身し、日の出と共に人間に戻った。
人間に戻る時は裸なので、眠る前にそばに服を置いておく。
アクアはアイリスに裸になることを伝え、キッチンの部屋で寝かせて欲しいと頼んだが、狼を見ながら寝たいとアイリスにせがまれ、今まで1年も1人きりで、よっぽど寂しかったんだろうと同情したアクアは、朝方もし早く起きてもアクアを見ない約束で同じ部屋で眠った。
アイリスがいつも世話になっている猟師に頼んで布団を増やして貰ったので、寒くて無意識にアイリスのベッドに潜り込むようなこともなく、2人は人狼アクアを受け入れ仲良く過ごしていた——
「アクア?今日は魚にしない?いいお天気だし釣り日和よ?」
「ハハハっ、ほんとに君は面白いよね?ご令嬢だったなんて嘘じゃないのかい?」
「失礼ね!生きるためなら釣りくらいするわよ!人間だもの!」
アクアは頬を膨らませて怒るアイリスがとても可愛いく思えて、もっと怒らせて見たくなる。
「じゃあ、どっちが多く獲れるか競争しようか?」
「ええ!望むところよ!この前は負けたけど、今日は絶対負けないんだから!」
そういう負けず嫌いなところもまた可愛いかった。
見ず知らずの自分を受け入れて、こうして毎日明るく振る舞ってくれるアイリスにアクアは救われ、いつの間にかその天真爛漫な魅力に惹かれていた。
しかし、自分の素性も、年齢さえわからないとあっては、公爵令嬢であるアイリスにそんな思いを打ち明けられるはずもなかった。
その上、狼に変身してしまうのだから、得体の知れない自分はそもそも相手に身分があろうとなかろうと、誰かと思いを通じ合うことなど夢のまた夢。
そう思ったアクアは、ただ穏やかに毎日を過ごせていることに感謝だけして、アイリスを見守ることに決めていた。




