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プロローグ

「アイリスー、アイリスー?どこー?もう降参するから出てきてよー」


 カイルはあちこち走り回ってついに疲れると、キョロキョロしながらそう言った。


 何度訪問しても、このかくれんぼばかりせがまれて、公爵家の庭も自分の家の庭かのようにどこに何があるのかすっかり覚えてしまった。

 それなのに、いつもアイリスは突拍子もないところに隠れるから、カイルは探し当てた試しがなかった。


ガサッガサガサッ


 カイルの真上で音がして、自分に覆い被さるように伸びた庭の大きな木を見上げた。


「うわっ!アイリス⁉︎そんなところにいたの⁉︎」


「ふふっ、またカイルさまのまけー」


 大木の大きな枝に座って、アイリスはカイルを見下ろしながら笑っていた。


 かなり高いところまで登っている。


「アイリス!危ないから降りておいで?ほらっ、ここで受け止めて上げるから」


 カイルは木の下で小さな腕を精一杯広げて見せた。


「大丈夫!自分でおりられますよー」


 アイリスはそう言って可愛いらしく舌を覗かせると、枝に足を乗せて立ち上がり、木の幹にしがみついて、そのまま下へ降りようとした。


「あっ‼︎」


ガササササーーッ


 降りかけていたアイリスは足が滑り、バランスを崩して思わず木から手を離すと、かなり上から落ち始めた!


「キャーーー‼︎」


「アイリス‼︎」


ドサッ


 カイルは落ちてきたアイリスをなんとか受け止めたが、10歳のカイルには6歳のアイリスを受け止めきれるほどの力はまだなく、2人一緒に下の芝生に倒れ込んだ。


「ったたたた」


 カイルは痛みがするお尻の辺りを撫でながら体を起こすと、一緒に転んでしまったアイリスが気になり、すぐに無事を確認する。


「アイリス‼︎大丈夫⁉︎」


「…い、いたいっ…カイルさま…ぅっ」


 アイリスは左腕を押さえてカイルの隣でうずくまり、しかし負けず嫌いなので幼いのに涙を堪えていた。


「アイリス!ちょっとごめんっ、見せて!」


 腕を押さえているアイリスの手をそっと避けると、ドレスがそこだけびりびりに破れ、見えた傷口から血が滲んでいた。


 落ちた時に、伸びた枝で強く擦ったのかもしれない。


 カイルは青ざめた。


 幼いながらにも、女の子にケガを負わせる罪深さはわかっていた。


「アイリス!すぐに手当てしてもらおう!ほらっ、僕に掴まって」


 と背中をアイリスに向けて、おぶさるように促した。


 カイルに懐いていたアイリスは、それを見て嬉しくなり、痛みと落ちた時の恐怖が少し和らいで、カイルの背中に飛びついた。


「おっと、…うぐっ、ちょっ、ちょっとアイリス、手緩めて…グビがじまる…」


 飛びつかれて転びそうになったカイルは、なんとか体勢を立て直したが、次は首が締まるほど強く腕を回されて目を白黒させながら、アイリスの手をトントンと緩めるよう合図した。


「だってカイルさまかっこいいんだもん。えへへ」


 そう言って涙はまだ目に溜まっているのに、アイリスはニコニコしてカイルの背中に頬をぐりぐり擦り寄せてきた。


「はいはい、ありがとう。腕は?痛くない?」


「いたいけど、カイルさまにのってるといたくないわ」


「何それ?変なの。ハハハ。じゃあ行くから、しっかり掴まっててね?」


「はい!カイルさま、しゅっぱーつ」


 そう言って、ずっと背中にぐりぐり頭やらほっぺたやらを擦り付けてくる幼いアイリスが、カイルにはとても可愛らしく思えた。


「ねぇ、アイリス?僕のこと好き?」


「すきすきー」


「そう…じゃあ、もしもその腕の傷が残ったら、僕がお嫁さんに貰ってあげるからね?」


「きずがないとカイルさまのお嫁さんになれないの?」


「…なりたいの?」


「もちろん!アイリスはカイルさまのお嫁さんになるってきめてるんだから!」


「そう。それは君と僕の父上が喜びそうだな」


「え?どうして?」


「僕たちに結婚してほしがってるからだよ。だからこうやって仲良くする時間を作ってるんだ。


でも、君が嫌なら無理にとは僕は思っていないから安心して?


アイリスは好きな人と結婚すればいいから。僕は自由に笑っているそのアイリスの笑顔を奪いたくないからね」


 カイルは真面目にそう言った。


「うーん…よくわからないけど、アイリスの好きな人はカイルさまだから、カイルさまと結婚するのがアイリスの自由ってことよね?


じゃあカイルさま、アイリスと結婚するって約束してくれる?」


「ふふっ、君がいいなら約束するよ?アイリスと一生一緒にいられたら楽しいだろうなぁ」


 笑いながら言ったカイルは本当にそう思った。


 いつも振り回してくるこの元気なアイリスがそばにいてくれたら、きっと未来は明るい気がした。


「じゃあきまり!カイルさまは私のものだから、ぜったい、ぜーーったい忘れないでねっ?」


「ああ、絶対忘れないよ」


 目を輝かせて背中から身を乗り出し覗き込んでくるアイリスに、カイルは横を向いて目を合わせると、優しく微笑んでそう言った。

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