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アラクネ戦

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新たに創造した武器を手に、試し斬りに出る八雲達―――

―――仄かな光に包まれた巨大な黒い鱗は形を変えていき、やがてそこには巨大なハンマーが誕生した。




―――黒戦鎚、銘を雷神(らいじん)


黒く輝く鏡面仕上げである鎚頭の片方は平面となっており、反対の鎚頭は円錐型で一点に集中して全ての物質を穿ち砕く仕様になっている。




柄も黒神龍の鱗で出来ており、折れることはない。


「ウォーハンマーは鎚頭のバランスが難しいから、試しておかしかったら、また言ってくれ」


そう言った八雲が黒戦鎚=雷神を渡すと、嬉しそうな表情を隠すこともなくシュティーアが喜び笑っている。


「あ、ありがとう!アタイ、こんな凄い戦鎚、初めてだよ!あの、銘の由来はあるの?」


雷神と名付けた由来を気にするシュティーアと、それにレオとリブラにクレーブスも興味津々な顔をして八雲に注目していた。


「うん、名前の由来は俺の世界の神話で、鎚を武器にする雷神と呼ばれる神様がいて、その鎚で打ち付けると思う存分に打ちつけても壊れることがないという神話があるんだよ」


「へぇぇ!確かにノワール様の鱗で出来ているんだから、絶対壊れたりしないね!」


銘の由来を聞いたシュティーアはますます黒戦鎚を抱きしめて、満面の笑みを浮かべていた。


「ほう、そんな神話が……興味深い」


クレーブスはむしろ八雲の世界の神話に大きな興味を抱いていた。


「さて……武器も揃ったことだし―――次はやっぱ、試し斬りだろ?」


この世界に来て魔物を狩るごとに、八雲の性格がだんだん殺生に対して日本人的な抵抗感が減ってきていて、今では強力な武器を造ると試したくなる危ない一面が形成され始めている。


だが……八雲の言葉を聞いて、彼の周りでそれ以上に危ない光を目に輝かせながら、ニヤリと黒い笑みを浮かべる女性陣も、それはそれで大概な集団だった。


工房にいた屈強なドワーフ達ですら、その黒いオーラを纏った集団にガクブルする勢いだったと語り継がれていく逸話が誕生した瞬間だった……






―――それぞれの手に武器を持った集団が歩みを進める。




―――黒刀=夜叉やしゃを手にする八雲




―――黒槍=闇雲やみくもを手にするレオ




―――黒大剣=黒曜こくようを手にするリブラ




―――黒細剣=飛影ひえいを手にするクレーブス




―――黒戦鎚=雷神らいじんを手にするシュティーア




これだけ見れば、全員から噴き出す『威圧』で一般人なら即気を失うレベルの集団が、お馴染みになった八雲の魔物狩りの広場に集結していた。


「あ、そう言えば、アレが空いたから使おう」


そう言って八雲は『収納』の空間から、黒小太刀=羅刹らせつを取り出して、夜叉を差した腰にそれも差し込んで、八雲の腰に夜叉・羅刹が揃った。


「さてと、基本的には今までレオとリブラと一緒にやっていた方法と一緒だ。魔物を10匹ずつ召喚する。俺と、もう一人はそっちの四人で交代制にして召喚もパートナーにしてもらうことにする。俺は全部参加するから、皆は交代しながら武器の使い具合なんかを確認しといてくれ。鍛錬終わってから纏めて使い心地と改善点は聞くから。それじゃ、最初はレオから行こうか」


「承知しました。では順番も決めておきましょう。私の次はリブラ、次にクレーブス、その次にシュティーア。私はもう闇雲は改善点もありませんから、新しく造って頂いた三人は何か気がついたところがあれば、八雲様に報告するということで」


レオの提案に他の三人も納得して頷き、次に何を召喚するかの話になる。


「クレーブスは魔物にも詳しいのか?」


「ああ、このノワール様の胎内世界にいる魔物は全て把握している。八雲様は今のLevelはいくつなんですか?」


「68」


「……は?すみません、今、Level.68って言いましたか?」


「ヤクモウソツカナイ」


「何かイラッとしますねそれ……ええっと……レオ?リブラ?」


思考が追いついていないのか、クレーブスは近くにいて八雲の鍛錬に今まで付き合っていたレオとリブラに確認を求める。


「間違いありません。前回はオーガを相手にしていました。今日はそれよりも上の魔物でなければ今の八雲様には相手にならないでしょう」


アッサリとレオに説明されたクレーブスは、


「これは……御子様はすでに英雄越えだったか。だったら厳選して召喚しなければ、かえってLevel向上に時間の無駄が出てしまいますね……そうだな、ここは『アラクネ』にしよう」


アラクネ……クレーブスによると、半蜘蛛半人の女型のモンスターで蜘蛛の糸の他、神経毒を持つ場合が多いと八雲に説明してくれた。


何故アラクネなのか?という八雲の質問にクレーブスは、


「アラクネは俊敏で糸という特殊な武器を使う。あと八雲様が神経毒を受けたりすれば、おそらくスキルに『毒耐性』が身に付く可能性が高いし、アラクネの速度や戦闘力は今の八雲様の相手としては丁度良いでしょう」


自身のスキル獲得まで考えてくれたクレーブスに感謝し、八雲は夜叉と羅刹をスラリと抜いて構える。


「二本ともお使いになられるのですか?」


隣りに立った一番手のレオに質問されるが、


「ああ、俺の流派、剣術の中に二刀流もあるんだ。久しぶりだけど、これからいつでも使えるように慣れておきたいから」


「二刀流ですか……八雲様はまだまだ秘密があるんですね♪」


そう言ってニコリと可愛らしい笑みを見せるレオは、急に真顔に戻って前方に10個の魔法陣を静かに展開する。


「では、《召喚サモン》―――来ます!」


レオの召喚によって出現したアラクネ達。


巨大な蜘蛛の身体に女性の上半身が突き出したような魔物が現れ出でた。


「―――なんだい?これ、召喚されたのかい?」


アラクネの一匹がそう呟くと、すぐに八雲達を見つけた。


「アタシ達を召喚したってことは、黒神龍のところの牙娘どもだね?―――ん?なんだい?その男は?」


アラクネの質問にレオが闇雲を手に前に出て、


「黒神龍ノワール様の御子、八雲様です」


「御子?!御子だって?御子を取らないことで有名な黒神龍が御子だって?アハッ―――アハハハハッ!!そうかい!それでそいつを育てるってわけかい!いやぁでも、それはさ、つまり逆に殺られるってことも―――覚悟しているんだろうね!!!」


―――そう言い放った瞬間、アラクネの姿が八雲達の目の前から消える。


「―――速い?!」


アラクネは八雲が今まで相手した魔物達とは、圧倒的に速度が違う。


その違いに驚いた八雲だったが瞬間で『思考加速』に入り、さらに『索敵』を用いてアラクネの位置をすぐに把握したのだが、なんと自分の目の前まで迫って来ていたことに、改めて油断は禁物だということを噛み締めて自身を戒めた。


そしてゆっくりと近づいてくるアラクネの首に、八雲はスパッと夜叉を一線振り抜いて絶命させる必殺モーションに入った―――だが、


「へええ、今の動きに反応出来るなんて、それなりにLevelは高そうだねぇ」


振り抜いた夜叉は空を虚しく斬り、目の前にいたアラクネは数m下がった位置に立っている。


「今の間合いで、回避するか……」


一筋縄ではいかない相手を前にして、八雲は集中してさらに警戒心を高めた。


アラクネは下半身の八本の脚をカサカサと蠢かせて、次の瞬間―――また一瞬で姿を消した。


「ッ?!―――そこか!」


感覚を研ぎ澄ませた八雲は、すぐに真上に飛んでいたアラクネに目線を送るも、すでにアラクネはその空中から尾を八雲に向けて粘液のような糸を噴出させていた。


と同時に、目の前に別のアラクネが接近し、八雲の首を狙って飛び込んで来ている。


「―――このォオオッ?!」


10匹も召喚しているのだ。


隙をついて攻撃を仕掛けてくる他のアラクネがいることを警戒しておかなければならないというのに、八雲は一匹目の動きに翻弄され、焦った結果が今の二匹目の追撃を受ける結果となった。


ここはもう戦場だ。


一対一なんて誰が決めた?それを嫌というほど痛感する八雲。


二匹目の女体部分の上半身から腕が八雲の首に伸びて来て、その長い爪が届かんとした瞬間―――


黒槍の柄がその間に飛び込んで、接近するアラクネを巻き込むようにして吹き飛ばしていた。


もちろんそれはレオの仕業である。


「お気をつけ下さい八雲様。アラクネはオーガのような本能で襲ってくる魔物とは違います」


「すまん。助かった、ありがとう」


上から襲ってきた糸を夜叉と羅刹で切り捨てながら礼を伝える八雲だが、その糸に神経毒が染み込んでいるため、手に少し絡んだ糸がその手を痺れさせてくる。


すぐに回復する感覚にホッとしているものの、内心は自分の不甲斐なさに少し落ち込んでいた。


「八雲様はこれまでのLevelの向上で手に入れられた力があります。恐れながら八雲様、あなた自身が、まだそのお力を使いこなせていないのではありませんか?」


隣りに立つレオの言葉に、八雲は再び『思考加速』することで、レオの言葉を反芻して自身に問いかける。



―――この世界に来て、Levelという概念が存在し、八雲自身もそのLevelによる恩恵を受けている。



―――だがここ数日の激変した生活の中で得た力のことを、八雲は本当に掌握できていたのか、納得していたかと言えば以前の世界の常識がストッパーになっていたのではないか?と振り返る。



―――「人間にこんなことはできない」「人間ができることじゃない」……そんな日本にいた時の常識という枠組みに、今でもハマってしまっているのではないか、と。



『思考加速』の中でもう一度、自身のステータスを表示させて再度自身の力を見る。


ここに来た時は二桁しかなかった様々な能力が、今ではふざけた数字の五桁に達していることを八雲は自分に再認識させる。


お前はもう人間じゃない、と他ならぬ自分自身に心の中で告げた瞬間、身体の中で何かが―――切り替った気がした。


「―――スゥ~……ハァ~」


体の隅々までその息を流し込むようにして八雲はゆっくりと深呼吸すると、自身の中の全ての能力を沸き立たせるように意識する。


「―――フンッ!!」


肺に貯めた空気を一気に吐き出して、途端に八雲の周りの空気が変わったのを傍にいたレオを始め、離れて見ていたクレーブス、リブラ、シュティーアの三人も首の後ろがザワリとするような感覚に襲われて、重厚な力の奔流をオーラのように纏っている八雲から眼が離せない。


「あん?何?ドン亀のくせに力んじゃって、踏ん張ってもアタシらには追いつけないよ!!」


そう言い放ったアラクネの一体が超スピードにのって八雲に接近した―――はずだったが、八雲はもう、そこにはいない。


「―――遅いな」


八雲に近づいたはずのアラクネの背中から―――八雲の声がする。


「えっ?」


その声に振り返ろうとしたアラクネだが、振り返れない。


何故ならアラクネの首はすでに身体から斬り離されて、振り返ろうにもそのまま地面に向かって落ちるしかなかったのだから。


頭と身体がお別れしたアラクネは、斬り口から噴水のように鮮血を噴き出して崩れ落ちる。


「この野郎ぉおッ!!―――ふざけるなよッ!!!」


レオがこの間に二体のアラクネを得意の連突きで蜂の巣に変えていたので、残りのアラクネは七体となったが、あからさまに身体能力が突然跳ね上がった八雲の変貌に、アラクネ達も額から汗を流しながら、それでも口汚く罵っていた。


「クソガキィがあぁっ!!その腕切り落としてケツ穴から突っ込んでから、なぶり殺しにしてやるっ!!!」


「こうなったら一斉にかかるよ!」


残ったアラクネの一体が大声でそう宣うと、七体のアラクネが一斉に高速移動を開始した。


レオが前に出ようとしたが、それを目線で止めて、八雲は両手の夜叉・羅刹を握りしめた。


九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう剣術

―――『風柳(ふうりゅう)』」


高速のアラクネとは真逆に、八雲はゆっくりと足を前に出すと全身をまるで風に揺れる柳の葉のように、流れるような柔らかな動きで進む。


レオにクレーブス、リブラとシュティーアも高速のアラクネに対して八雲の余りにも遅い動きに、殺されるつもりなのか?と不安にかられたが、そこで不思議な光景を目にする。


高速で突っ込んでいくアラクネが、ゆっくりと構えて出した八雲の夜叉に自ら飛び込んで斬り裂かれたのだ。


一体だけに止まらず二体目も三体目も、八雲が次々と突き出した先にある夜叉と羅刹に自ら飛び込んで自害していく……


「これは……」


龍の牙(ドラゴン・ファング)の知識担当であるクレーブスですら、目の前で何が起こっているのか理由が分からない。


八雲の動きは決して速く動いているわけではないのに、その風に揺られる柳のような動きで、次々と差し出す刃に自ら飛び込んで絶命していくなんてアラクネが狂ったか、強力な催眠にでも掛けられているとしか理由が思いつかなかった。


「これで―――終わりだ」


最後の一体が、羅刹に飛び込んで自滅したところで、八雲はやっと構えを解き、血で汚れた刃を振り払って夜叉と羅刹を納めた。


「あの、八雲様。今のは、いったいどういう仕掛けですか?」


全員を代表してレオが恐る恐る八雲に尋ねる。


「さっきのも元々は家の流派の剣術なんだけど、こっちの世界で身体能力が上がったから、ちょっとこっち風に強化したんだよ」


「ですが、私にはアラクネ達が自ら刃に飛び込んで、自滅しているようにしか見えなかったのですが?」


レオの言葉にクレーブス達もウンウン!と頷いている。


「先の先を取るっていう言葉があるんだけど、文字通り相手が仕掛けようとしたところにカウンターを撃ち込むって意味なんだ。だから俺もアラクネが仕掛けてくるために動く先に夜叉と羅刹を差し出して、あとは勝手に斬られて死んだってわけ」


「いや、簡単に言ってますけど、そんなこと普通は出来ませんよ?」


簡単そうに説明する八雲にレオは思わず言い返すが、


「ん?だから俺、もう普通じゃないから」


アラクネに対峙して遅れを取り、自らの固定観念を取り去ることによって、今の自分の力を受け入れることができた八雲は、改めて人間をやめたことを実感していた。


「さて、それじゃ次の召喚いってみようか」


次はもっと身体を慣らしていく、そう八雲は決めて次のリブラの召喚を促した―――



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