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目覚めの温もりと新たな武器

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朝、八雲が温もりを感じるとそこには―――

―――昨日までの目まぐるしく激しい日常に飲まれて、八雲は深い眠りに包まれていたが、窓から差す明るい光と同時に、つい最近感じたことのある温かくて柔らかい感触が接触していることに、どんどん意識が覚醒していく。


「ア、アリエスさん?!……お前、何してんの?」


「あ、おはようございます八雲様。ノワール様より八雲様にご奉仕をせよと、ご命令頂きまして、こうして朝のお目覚めが少しでも心地よくなるようにと/////」


普段、表情をそれほど面に出さず、綺麗な銀髪を常に整えて万能メイドといった雰囲気を醸し出しているあのアリエスが、今この時、八雲の頬に自らの胸を押し当てているが、八雲からするとその大きさから息苦しい状況に陥っていた―――


「プハッ!!―――いやそんな命令、聞かなくていいから!」


その大きな胸を押しのけようと手で押し返そうとすると、思わずそれに指が沈み込んでいく。


「―――違います!確かにノワール様にご命令頂きましたが、本当は私が八雲様にご奉仕して尽くして差し上げたいという想いを、ノワール様が汲んで下さったのです!」


「……どういうことだ?」


ちょっと真面目な話になるのかと思った八雲だが、そんな真面目な表情なのに両手でシッカリと八雲の頭を抱き締めて窒息させる気か!とツッコミたくなる。


「八雲様は意地悪です……私が……八雲様を憎からず想っていることは伝わっているものと……」


いやいや、知り合って間がないし、流石にあれだけいつも平静を装って接して来られたら、奥ゆかしい日本人は気づかねえから……八雲はそれを口には出さず、心の中でツッコミを入れる。


だが、それと同時に自分を想ってわざわざ寝床まで来てくれて今までたぶんだが、やったことなどないだろうエロい奉仕を、必死に続けようとする美女の気持ちを無下にするなんて、それこそ男として終わってるだろう、と思った。


「正直、アリエスみたいな美人が俺のことをこの短い期間で、そこまで想ってくれるなんて思ってもいなかった。すまん……鈍い男で」


「そんなこと、ありません。それにちゃんと伝えなかった私も、八雲様なら気づいてくれていると勝手に自分の気持ちを押し付けていたのがいけないのです……申し訳ございません」


万能メイドにしか見えないアリエスでもこんな一面があるのかと、それはそれで新鮮で好感度が上がったことに少し笑いが込み上げてきた八雲は、そっとアリエスの綺麗な銀髪の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でていた。


その仕草に蒼い瞳を細めて、まるで懐いている飼い猫のように喜んでいる仕草を見せるアリエスに、今度は頭に置いていた手をスッと頬に移して撫でていく。


「それじゃ、気持ちよく目が覚めて腹が減ったから、一緒に食堂に行こうか」


誤魔化すようにして口から出た言葉がこれだった。


「……うふふ♪畏まりました。それではお着替えお手伝い致しますね」


手を軽く唇の傍に当てて微笑みを浮かべているアリエスは、吸い込まれそうな蒼い瞳で八雲を見つめて、そのあとは着替えて共に城の食堂に向かっていて、一緒になったノワールとも合流し、アクアーリオの作った朝食を皆で頂くのだった―――






―――食事が終わって、アクアーリオの淹れてくれたお茶を楽しんでいたところ、


「ほおお、ついに魔術が発現したか!ならば基本的な魔術について学ばなければいけないな!」


食事が終わってそのまま食堂で、八雲は昨日向上したLevelについてノワールに話していた。


「その事を相談しようと思っててさ。でも学ぶ?てことは誰か教えてくれるってことだよな?俺が知ってる人か?」


「いや、アイツはなかなか自分の部屋から出て来ないヤツでな……有事の際にはちゃんと動くのだが、それ以外だと自分の研究や情報収集に執着して他が疎かになるのだ」


どうやら典型的な引き籠りだと考えた八雲だが、その気持ちが分からないわけでもない。


八雲自身も両親が亡くなった際には学校にも行かず、人の話も聞かず、ただただ息をしているだけの生き物という状況に陥ったことがあった。


そのときは幼馴染が自分を無理矢理外に引っ張り出して、そして目を覚ましてくれたから、その後の八雲は普段の生活に戻っていくことが出来た経緯があったからだ。


「だが魔法にしろ、今の世界情勢にしろ、アイツに学ぶのが一番八雲にとって適任なんだがな……」


ノワールが龍の牙(ドラゴン・ファング)の子達をどれだけ可愛がっているのかは、その接し方を見れば分かるので、口ではこう言っていても、その子の自由は尊重してあげたいのだろう。


だから無理強いするのは避けたいノワールの様子を汲み取った八雲は、


「だったら俺が直接教えてくれるように頼んでみるよ。ダメなら独学とか他の人に頼むし」


「なに?ふむ……確かにその方がアイツも興味が湧くかも知れんな。よしでは今から向かうとしよう!」


八雲の提案を受けてノワールは八雲とアリエスの二人を連れて、城の奥にある地下への入口に立った。


「この城に地下室なんてあったんだな」


「ああ、地下には倉庫や地下牢なんかもある。もちろん普通の部屋もあって、そこの一室をアイツは研究室として使っているんだ」


「なるほど……まぁ地下なら余計な騒音もなくて静かに研究出来そうだしな」


「うむ。それに倉庫もすぐ傍だから、資料なんかも取りに行きやすくて本人はけっこう気に入っているらしい」


「ああ、何となく分かるな、それ」


八雲も祖父母が亡くなってから、自分の必要な物は一所にある程度まとめて置いており、手を伸ばせば届く距離というものがあったので、たぶんそういう感覚だと思った。


「こっちだ」


そう言って地下に降りていくノワールの背中から、八雲は隣にいるアリエスにフッと視線を振ってみると、目が合ったアリエスはそっと柔らかい笑みを向けてくれた。


そうして地下に降りて行くと、廊下には光る石のようなものが壁に掛けられており、暗闇に足を取られたり壁に衝突するようなことは回避出来た。


進んで行くうちに、ひとつの扉の前でようやくノワールが足を止める。


そこでノックもしないで躊躇なく扉を開けて中に入るノワールに、八雲とアリエスも続いて中に入った。


部屋の中を見渡すと、ノワールの書斎よりも広い間取りではあるものの、そこはまるで図書館と言っていいくらい本棚と多くの書籍が陳列され、部屋の奥にある書斎机の周りには、渦高く積まれた本がところ狭しと無造作に置かれていた。


「おい!クレーブス!いるかぁ―――!」


地下の図書館のような建物の中で叫ぶと木霊して隅々まで声が響き渡っていく。


すると、幾つも本棚が波のように立ち並ぶ間から人影が現れ、こちらに向かってきた。


「これはノワール様。わざわざここまでいらっしゃるなんて、何かご用でしょうか?」


ストレートの腰にかかるくらい長い黒髪に、切れ長の緑色の瞳とその瞳を飾る眼鏡をかけ、メイド服は着ているもののエプロンの代わりに白衣を纏った褐色の肌をした美女がそこに立っていたのだった―――






―――クレーブスと呼ばれた美女は、その眼鏡の奥の鮮やかな緑の瞳を細めて八雲を値踏みするように見つめてくる。


「こちらは、あの御子様……ですか」


クレーブスの視線に八雲は、


(ああ、この人、完全に俺のこと不審者認定……)


と、彼女の放つ空気を察した。


ノワールを始め彼女を敬愛しているこの城の臣下達は黒神龍の御子になったというだけで八雲が別世界から来たことや、その出自など細かいことを気にする者は今まで一人もいなかった。


しかしそれは八雲の感覚からすれば御子になったとはいえ、まったく知らない赤の他人が同じ場所に棲んでいる、という事実だけを考えればすぐに受け入れられる気持ちのいい話ではない。


だがこのままクレーブスに挨拶をしないのも、それはそれで八雲としては筋が通らないことだと思い、


「はじめまして。九頭竜八雲だ。これからよろしくお願いします」


と言って八雲はクレーブスに向かって、スッと腰から曲げて頭を下げしっかりと一礼した。


それを見たクレーブスと、隣にいたアリエスまでが「え?」と言って、瞳を見開いて驚いている。


「い、いや御子様!どうぞ、頭をお上げ下さい」


クレーブスはさきほどまでの不審者を見る目から一転、慌てて気をつかいだしたが、もう遅い。


ここは日本ではないので、男性が気軽に頭を下げるなんて挨拶の風習はない。


ノワールは鼻歌混じりにまったく気にする様子もなかったが八雲の隣に控えていたアリエスは、この状況にクレーブスに対してその蒼い瞳を鋭くし睨みつけており、お得意の無言の威圧を発動させている。


「八雲様……以前も申し上げましたが、眷属にそのような遜った態度で接するのは、どうかおやめ下さい―――気をつかわせるような態度を取った眷属の方が、ここでは問題ですが……」


そう言って、キッ!と鋭い目つきのアリエスがクレーブスを睨みつけて、その威圧を強めるのを傍で見た八雲は、


「いやアリエス。俺のいた世界、俺の国では初対面の相手に頭を下げて、しっかり挨拶を交わすのは当たり前の礼儀作法なんだ。だからクレーブスが悪いわけじゃないし、そもそも御子になったとはいえ知らない男が同じ城の中にいるんだ。警戒心を持っていてもそれは責められることじゃない」


「八雲様が、そう仰るのでしたら……これ以上は私も控えます」


アリエスはクレーブスにかけていた威圧をスッと解き、それを見ていたノワールはクックックッと笑いを堪えながら改めてクレーブスを紹介する。


「八雲、改めて紹介しよう。コイツがクレーブスだ。」


「クレーブスです。右の牙(ライト・ファング)序列03位でございます。以後、お見知りおき下さい」


そういって軽く頭を下げたクレーブス。


「このクレーブスは魔法・魔術について我の龍の牙(ドラゴン・ファング)の中でも随一の逸材だ。それだけでは収まらず、外の世界、つまりこの世界の情勢や経済状況についてなど、様々な情報や知識にも精通している」


「へえぇ、凄いな。確かに情報は力だからな。近代戦争では情報戦が勝敗を決めるくらいだったし」


八雲の言葉にクレーブスが身を乗り出すようにして八雲に接近する。


「それはどこのお話ですか!?」


身を乗り出してくるものだから、その白衣の下のメイド服から盛り上がる立派な双丘が今にも八雲にぶつからんといったところまで来ていた。


また少しアリエスの威圧が噴き出した……


「え?ああ、俺のいた世界だと、そうだな……簡単に言うと遠方の相手と話をしたり、情報を届ける機械……この世界だと絡繰りでいいのか?とにかくそういう道具があったんだ。あ、『伝心』ていう能力があるだろ?あれを能力のない人でも出来る道具みたいなイメージだ」


「ほう、『伝心』の出来る道具ですか?」


八雲が言いたいのは電話機やネットのことを言っている。


「ああ、それを一般人はほとんどが持っていて、いつでもどこでも遠方の人と連絡が取れるから、戦争している国同士でも、そういった便利な道具の数々を使って、より情報を得て先んじて行動を起こした方が有利に戦況を進められるっていう話なんだけど」


分かりやすく説明する八雲の話を、クレーブスはアリエスの威圧などどこ吹く風と気にせず、一言一句聞き漏らすまいといった雰囲気で身を寄せて耳を傾けていた。


「そんな道具があった世界……素晴らしい!だが同時に『伝心』を能力のない多くの者が使えるという状況は想像すると―――ある意味恐ろしいですね」


聞き惚れていたクレーブスは、そう言って美しい瞳を覆った赤いフレームの眼鏡を、クイッと人差し指で上に直した姿はまさに黒髪褐色女教師。


「そうだな。だからその後に情報漏洩という行為に対して制限や制約、罰則なんてものが法令化されたりしていったけど、もう世界中に繋がる情報網には、そういったセキュリティーの対処の方が大変な時代に入っていたな」


「便利になっていく半面、そういった便利なものには制限をもうけなければならない、というジレンマですね……勉強になります」


「いや勉強教えるのはお前だから!」


八雲の話に夢中になっているクレーブスに、思わずノワールがツッコミを入れた。


「とにかく!明日から八雲はクレーブスに魔法の講義と一緒に、外の世界の情勢についても学んでおけ!クレーブスもいいな!八雲がここを出る時には、その知識が必ず必要になるからな!」


その言葉にクレーブスは自分の研究時間が無くなる!などと色々ノワールに抗議の声を上げていたが、


「あと、講義をちゃんとすれば、八雲の世界の話を教えてもらうことを許可してやってもいいぞ?」


とノワールが付け足すと、


「お任せ下さい。世界一の賢者に育ててみせます(キリッ)」


と手の平ペロンと180°捻ってキメ顔で答えたクレーブスに、八雲はもう苦笑いしか出てこなかった……


「では八雲様、明日また、この時間ここに来て頂けますか?それまでに必要な物を用意しておきますので」


明日から、ここで講義を受けるのか、と普通なら勉強にガックリと肩を落とすところだが、学ぶのは神の強制召喚で初めて来たこの世界のことであり、しかもこんな黒髪褐色眼鏡美人教師と、マンツーマンで授業なんて嫌がる理由など八雲にはない。


だがそんなことを思い浮かべているとき、隣にいたアリエスがきゅっ!と八雲の腕を痛くない程度で抓ってきて、ムゥッ!とした蒼い目で睨んでいた。


「な、なに?どうした?」


八雲もいまさらアリエスの気持ちに気づかないほど朴念仁ではなかったが、面と向かって「妬いてるのか?ん?」なんて言葉が吐けるほど、イケメンを気取ってカッコつける勇気はない。


なので、頬を少し膨らませたアリエスの耳元で、そっと囁いた。


「……かわいい」


と、一言だけ囁くと、アリエスはほんのりと頬を染めて押し黙ってしまった。


「ほう……」


その様子を黙って見ているノワールとクレーブスは、二人揃ってお互い目線を重ねて、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていたが、俯いて照れていたアリエスは気づかず、気づいていた八雲はスルーすることにした―――






―――地下から戻って、それから八雲は再びレオとリブラと一緒に城を出て、魔物相手にLevel上げの日課に入る予定だったのだが、その前にシュティーアの工房に立ち寄ることにした。


その予定を話すと、なんとクレーブスも一緒に付いて来ると……引き籠りじゃなかったの?と八雲の心の中のツッコミが炸裂する。


昨日レオとリブラには食事を終えたあとに、黒槍=闇雲(やみくも)と黒小太刀=羅刹(らせつ)の使い心地について少し話をしていた。


「闇雲は何の問題も感じませんでした。むしろ今まで使ってきた槍の中では一番です♪」


レオは闇雲について、今のままでまったく問題を感じないと八雲に報告し、もう一人のリブラは―――


「羅刹も何の問題もないと思います……ですが、私はやっぱり剣の方が個人的には合っています」


と、得意な武器について正直に申し出てくるので、


「そうか、わかった。それじゃリブラはどんな剣が使いやすいんだ?」


「そうですね……私は八雲様の夜叉(やしゃ)よりも長めの、重さのあるロングソードがしっくりくる感じです」


「なるほど、ロングソード……両手剣、てヤツだよな。よし、それじゃ造るか」


「―――え!?」


八雲の思わぬ言葉にリブラが素っ頓狂な返事を上げる。


八雲の『創造』のことを知らないクレーブスは、黒神龍装ノワール・シリーズについても何も知らないので、「何の話だ?」と興味を向けていたため、八雲はここで簡単に一連の武器を『創造』で造ったことを説明する。


「なんと!そんな加護をお持ちとは、八雲様はますます興味をそそりますね♪」


と言いながらも、その瞳は猛禽類が獲物を見つけたような危険な色をしていたことを八雲は敏感に感じ取り、迫るクレーブスから一歩下がったのは言うまでもない。


ここはリブラの武器に話を戻そうと―――リブラに目を向ける。


「せっかくノワールが希少素材の鱗を山ほどくれたからな。何か色々造ってみないと勿体ないし。それに俺の世話をしてくれている二人にも御礼がしたいから。鍛錬に付き合ってくれている二人が使いやすい武器を造れる加護があるんだから有効活用して、俺が用意できるものは用意する」


「そ、そ、そのようなこと、本当に、よろしいのですか!?/////」


リブラはまさか、自分に合わせて武器を造ってもらえるとは考えておらず、恐縮した様子で八雲に恐る恐る問い返した。


「ああ、加護で造るのは正直簡単だし全然問題なんてない」


「あ、ありがとうございます八雲様/////」


「よかったわね♪リブラ」


「ふむ、羨ましい」


自分に武器を用意してもらえると知ったリブラは感動して顔を真っ赤にしながら、八雲をますます尊敬する眼差しで見つめていた―――だが最後のクレーブスの言葉に、


「それじゃクレーブスにも、これから講義で世話になるし興味あるなら武器造るよ?」


「よろしいのですか!?」


「もちろん。クレーブスはどんな武器が好みなんだ?」


「そうですね……何でも使えはしますが、好みで言えば―――細剣でしょうか」


「細剣?レイピアみたいな認識でいいのか?」


「そうです。重たい武器よりも軽い武器を用いて手数で攻める感じですね」


「わかった。リブラの剣と一緒に造ってみよう」


「あ、ありがとう、ございます/////」


引き籠り生活で御礼を言うのに慣れていないのか、クレーブスが少し照れているのに八雲もおかしくなって、そして人を喜ばせるということに嬉しい気持ちが、胸の中に温かく広がる感覚を覚えていた―――






―――こうした経緯もあって、シュティーアの工房に立ち寄ると、


「おお!御子様!今日はどういったご用で?」


と工房で忙しそうに汗をかいて働いていたドワーフ達に次々に挨拶される八雲。


「シュティーアいるか?」


「八雲様?今日はどうしたんだい?アタイに何か用事でも?って、エッ?!―――クレーブス!?なに?どうしたのさ外に出て来て!?何か城に攻めて来た!?」


ドワーフ達の声が聞こえたのか、工房の奥からシュティーアがやってきたが、一緒に来たクレーブスがいることに、城の緊急事態発生かと言わんばかりの驚き様だった。


「ああ、今日はまた『創造』で武器を造ろうと思って。リブラに合うロングソードと、クレーブスに合う細剣が造りたいから意見を聴きに来た。武器を造る時は見せるって約束してたし」


「リブラとクレーブスの?そういうことなら何でもするけど、リブラって確か―――大剣が好きだったよね?」


「うん、それで八雲様が剣を造って下さるということで/////」


八雲と同じようにリブラの使いやすい剣についてシュティーアも質問していく。


「俺はロングソード、両手剣をイメージしたんだけど?」


「う~ん、そのイメージで間違ってないと思うけど、こう見えてリブラはかなり重い剣を好んで使っていたから、剣自体、イメージよりもっと長くて重い物が一番合うと思うよ」


シュティーアの意見に、八雲はどんな剣なのか参考になる剣がないか尋ねると、


「ちょっと待ってな!」


一旦工房の奥に引っ込んだシュティーアが、その手に巨大な金属の塊としか言えないくらいの大剣を持ち出してきた。


「アタイには重たいんだけど、リブラがよく使ってたのって、これだよね?」


「そう!これです八雲様!」


そこにある、剣と呼ぶには長く、刃幅も柄に近い最大幅のところで30cmくらいは余裕である金属の塊を見て、八雲は開いた口が塞がらない。


「……これか」


予想の斜め上の剣が出て来て八雲はまだ顔が引きつり気味だった。


「クレーブスは普通の細剣が好みだったよね?」


シュティーアが改めてクレーブスに確認すると、クレーブスは頷き、


「ああ、流石にそんな金属の塊は使わないな」


とシュティーアの持ち出してきた大剣に視線を向けて首を横に振っていた。


「ええ~!大剣、使いやすいのに……」


リブラはちっちゃく抗議の声を上げて、ちょっと落ち込んでいたが、


「まぁまぁ。人にはそれぞれ好みがあるから。それじゃリブラ、サイズとか重さはこの剣と同じくらいで良いのか?」


リブラを励まそうと八雲は剣の細部について確認し、


「はい!お願いします!」


リブラは元気を取り戻して、また笑顔を八雲に向けていた。


「それじゃ―――始めるか」


『収納』のスキルで異空間から黒神龍の鱗をドンドン取り出す八雲は、全部で4枚の大きな黒い鱗を取り出した。


そして、3枚と1枚に振り分けて、まずは3枚重ねた鱗に『創造』の力を発動する。


「おお、これが神の加護……『創造』の力なのか。実に興味深い……」


仄かな光に包まれた鱗は、ひとつに纏まるように形を変え、剣の形に形成されていき、その様子を初めて見るレオ、リブラ、クレーブスの三人は驚きを隠せない。


シュティーアは以前にも見ているのだが、それでも八雲の『創造』の力に視線は釘付けになっていた。


「よし、こんな感じでどうかな?」


そしてそこには巨大な剣が姿を現す―――




―――黒大剣、銘を黒曜(こくよう)


長さは180cm、剣の黒い刃はクロムメッキのような鏡面。手元の刃幅は最大30cmほどあり、鍔の代わりに刃と柄との境目に40cmほどの四角い飾りを形作っていた。




他の素材も使って鞘を造り、担いで持ち歩けるように、その鞘にショルダーカバーと鎖を取り付けて完成した。


「リブラ、どうだ?」


そう言って手渡すとリブラは顔を真っ赤にして興奮を隠せずにいる。


「は、はい!スゴイです八雲様!『創造』ってスゴイんですね♪/////」


「気に入ってもらえたみたいで何より。さ、次はクレーブスだな」


残った鱗は1枚だが、八雲の黒刀=夜叉と同じく重さよりも速さを追求するなら、この1枚でいいだろうとシュティーアとも確認するが、


「……いいな」


聞こえないくらいの声でシュティーアが、そう囁いたことを八雲は聞き逃さなかった。


「それじゃ、クレーブスのを造るか」


黒大剣=黒曜と同じく、再び『創造』の力で黒い鱗を変化させて、おもいっきり圧縮をかけた最硬の細剣がその姿を現した。




―――黒細剣、銘を飛影(ひえい)


世界最硬の黒神龍の鱗を極限まで圧縮して、折れることのない細剣。

だが重さは見た目の通り軽く、斬れ味は夜叉と変わらない。




鞘の意匠をクレーブスに訊いて、金の装飾を頼まれたので、それと一緒に手を保護する部分のヒルトには八雲が拘った。


八雲は家の道場で武術を学んでいた兼ね合いから、色々な武器について興味を抱いた時期……厨二の入口に立った時期があった。


八雲の世界でレイピアの最も注目すべき点である手を保護するカバーであるヒルトは、時代や生産国で多種多様な形の展開を見せていた。


これは剣の握り方に関係し、八雲の世界の15世紀半ばでは「ロマネスク握り」と呼ばれる普通に柄を握る持ち方から、「ゴティク握り」と呼ばれる人差し指をガード(鍔)にかける持ち方へ変化していったことで、ガード部分に指をかけるためのリングが付けられるようになったという経緯があった。


拘りを持って造りたい八雲は、素材の金と鱗を使ってヒルトは複雑な曲線のガードを造り、指を掛けて持つこともできるように銀を使用したリングも取り付けた。


最後に黒い鞘を造り、完成した黒細剣=飛影をクレーブスに渡す。


「このような素晴らしい剣を、本当に頂いてもよろしいのですか?/////」


普段は知的な眼鏡美女教師といった雰囲気のクレーブスだが、八雲からどこぞの国の国宝級の細剣を手渡されて、リブラと同様に顔を赤らめていた。


「ああ、これから講義で世話になるんだし、気にしないでくれ」


八雲はそう言ってから、また『収納』から鱗を3枚取り出した。


「あれ?八雲様、まだ何か造るんですか?」


気になったシュティーアが鱗を置く八雲の背中から身を乗り出して尋ねる。


「ああ、シュティーアはどんな武器が好みなんだ?」


「……え?」


突然そんなことを言われて、思考が固まるシュティーアに、


「工房を使わせてもらってるし、シュティーアにも何か造りたいと思ってたから。何がいい?」


そう言われて、再び思考が活動を始めたシュティーアは顔を真っ赤にして、


「い、いいの?それじゃ……ハンマー/////」


ちょっとしたサプライズを受けて、シュティーアは顔を真っ赤にしてブツブツと小声で返事すると、その姿を見て八雲も笑みが浮かんだ。


「分かった。武器として使うハンマーでいいんだよな?」


再度確認する八雲にシュティーアはコク!コク!と顔を赤くしたまま、何度も頷く。


「それじゃ、造ってみる」


八雲は三度、『創造』を発動させて、目の前の鱗をシュティーアのために加工していくのだった―――



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