八雲訪問記・エレファン獣王国(7)
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治水工事も概ね作業を終えて、八雲は黒翼のメンテナンスをすることにしたが―――
―――八雲の造った田畑用の区画は凡そ二百面の数に上った。
荒野だった土地が今では水路によって二百の区画に区切られ、その水路にはまだ貯水池に水が溜まり切っていないので水は流れていないが、このまま貯水池を貯めておけば水も入るだろう―――
八雲は更にその水路から流れ込むだろう水の出口として別の小川の近くにもうひとつの貯水池を造り、そこから小川に排水出来るように整えた。
「ここから後はエレファンで頼むよ」
八雲が作業に着いて来ていた国王のエミリオにそう伝えると、エミリオも喜んで頷いた。
そして今日は八雲が黒翼のメンテナンスをしたいと希望して、もう一日エレファン獣王国にお世話になることとなった。
「さて、それじゃ黒翼を空間船渠に停泊させる」
レアオン城のバルコニー近くに浮遊していた黒翼の後部に『空間』が開き、後進して後部からその空間に呑まれていく船を、地上から見上げて口を空けているエドワード達をそのままに八雲自身がメンテナンスするとのことで、
「―――それじゃ明日の朝に!」
シュバッ!と右手を上げて言い放つと、そのまま飛び上がって黒翼と一緒に『空間船渠』へ姿を消した。
「―――八雲は忙しいようだから、今日はこっちの城で世話になるが構わないか?」
置いていかれたノワールとジュディ、ジェナとアリエス始め龍の牙達。
「勿論です!黒神龍様は我ら獣人にとって神に等しき御方です。どうぞ心ゆくまでお寛ぎください」
そう言ってエドワード達とともにノワール達を城内へと案内をするエミリオだった―――
―――『空間船渠』のある『空間』は当然だが八雲の《黒神龍の加護》である『空間創造』で造ったものだ。
その『空間船渠』は他には何もない暗黒の空間に、天翔船が停泊出来る設備が用意されていて、施設の左右から何本ものクレーンが入渠した黒翼に掛かっている。
「八雲様!待ってたよ♪」
『空間船渠』に到着した八雲に声を掛けてきたのは、シュティーアだった。
他にも『空間船渠』には黒龍城の工房でお馴染みのドワーフ達も忙しそうに走り回っている。
「―――入渠の船体固定急げ!!!」
「クレーンの作業は後だって言ってるだろぉお!!!まずは船体の固定だ!!!馬鹿野郎!!!」
あちこちからドワーフの喧騒が響き渡る中、シュティーアは八雲に寄り添ってくる。
「エヘヘ♪/////」
八雲と一夜を共にしてからシュティーアは奥手ながらも少しずつ積極的になってきていて、八雲もそこまで鈍感ではないのでそんな彼女の些細な変化に嬉しく思えた。
だからこそ男として彼女に試してみたいことがある。
それはカップルになった男女であれば、男であれば一度は試してみたくなること……
『―――どこまで彼女は許してくれるのか?』
―――という純粋な興味だ。
勿論だが八雲も無理なお願いやシュティーアの嫌がるようなことをさせるつもりはない。
「シュティーア、黒翼のメンテはどうせ一晩掛かるだろうし、俺のメンテナンスしてくれないか?」
遠回しに今からしようと誘う八雲の言葉に―――
「……え!?―――あうう……えっと、は、はい/////」
―――小さく返事したシュティーアの手を取って、空間船渠に造っていた寝泊まり用の自分の部屋に連れて行く八雲。
手を引かれて赤い髪のポニテ―ルを揺らしながらついて行くシュティーアを見て、周りのドワーフ達はすぐに察して皆がグッ!と親指を立てて見送っていく。
それを見て余計に顔を赤らめるシュティーアの様子に八雲は笑って足を早めていった―――
―――自室に造った浴室のシャワーの下で、シュティーアと抱き合いながらキスを繰り返して舌を絡める八雲。
部屋に入るとすぐに八雲は一緒に風呂に入ろうと誘って、シュティーアも顔を赤くしたままついてきた。
そしてボイラー設備を、火属性魔術を付与して『創造』して水属性魔術の水を熱してシャワーと湯船にお湯を供給する設備を整えている浴場は、黒翼に設置する各部屋の浴室に設置するために『創造』したプロトタイプだ。
その温かいシャワーを浴びながら、
「うん……はあ……ちゅう……ん……/////」
夢中で舌を絡めてくるシュティーアが愛しくなって背中と尻に腕を回して抱き寄せ、同時に八雲は自身の胸板に柔らかい二つの塊が押しつけられていた。
「ん……それじゃシュティーア、俺のメンテナンス始めてくれ」
唇を離してそう言われたシュティーアはコクリと頷いてその場に跪く。
見つめるシュティーアの頭に、八雲がそっと手を置くとシュティーアはハッとして、
「あ、はい!すぐにメンテナンスします/////」
あくまでメンテナンスというスタンスは変えない八雲に、シュティーアも―――
後ろを向いて浴室の壁に手を着くと、クイッと腰を突き出して形のいい尻を向けると―――
「こっちで……本格的にメンテナンスしてみないと/////」
―――今までになかった妖艶な瞳を八雲に向ける。
「それじゃあ―――しっかりと診てもらわないとな!」
そう言って全身隈なくメンテナンスに耽る八雲とシュティーアだった……
―――そして一頻りメンテナンスという名の情事を終えた八雲とシュティーア。
空間船渠の中ではドワーフ達に指揮を出すディオネの姿があった。
「マスター、何処に行っていたのです?」
知ってか知らずか無表情で八雲に問い掛けるディオネに八雲は苦笑いを浮かべながらも
「―――シュティーアとちょっとな!」
と、無難な答えを返したつもりだったが、
「なるほど。シュティーアと交尾していて作業が遅れたと」
そのディオネの言葉に八雲は思わず―――ブゥッ!と吹き出す。
「もう少しオブラートに包めよ!ストレート過ぎるだろっ!!」
まるで動物のような扱いをするディオネに思わずツッコミを入れる八雲。
「オブラートとは、マスターの記憶にあるところの―――ばれいしょでん粉や、かんしょでん粉を主原料とする薬を飲む際に包み込む物だな。人間は会話をそんな物に包み込む魔術が使えるのか?」
「それは只の例えだ!あまり直接的に言わないのが人間の配慮や奥ゆかしさって話!」
八雲の説教に首を傾げてから、
「なるほど。次回からは善処しよう」
と、また無表情に答えるディオネを見て、八雲は言っても無駄なんだと悟る。
「それ絶対善処しないやつ……お前ホントに俺の人格が根本にあるんだな……」
すると、ディオネが当たり前のように答える。
「―――貴方が私を生み出したのだ。その私が貴方に性格が似ているのは当然だろう」
何を当たり前のことを言っているんだ?と言わんばかりの表情で告げる。
「もういいよ……それで?作業の方は進んでいるのか?」
そう言って船渠に停泊している黒翼を見上げる八雲。
「ああ、至って順調だぞ。何ならもう一度シュティーアと連結してきてはどうか?」
「機械的になってるけど、言ってること全く包めてないからな!」
自らが生み出した自動人形のディオネに振り回されながらも、八雲もドワーフ達と一緒に作業に加わる。
完成したてだった黒翼に、新しく手を加えることは元々の予定に入っていたが、ティーグルでそのまま旅に出ることになり作業が旅先の現地で行う工程に変わってしまったのだ。
しかし、必要な資材と人材達は一緒に積んできているので、この『空間船渠』にさえ停泊出来れば、何処でも作業は再開出来るという仕組みだ。
ドックの中を今も彼方此方でドワーフ達が大声で叫びながら作業は進む。
身形を整え直したシュティーアもまたドワーフ達に混ざって作業に入る。
時折シュティーアを揶揄たであろうドワーフ達が何人も吹き飛ばされて気絶しているのが目に入るが、八雲はそれも日常風景といった風に最早気にもとめていない。
「マスター。此方の魔法陣と魔術回路の接続を確認してみてほしい」
「どこだ?ああ、此処か。此処は―――」
ディオネから確認を求められる箇所を何カ所も巡りながら、八雲は天翔船の新たな姿に期待と皆の驚く表情を思い浮かべて笑みが込み上げるのだった―――
―――翌日の朝、八雲がレアオン城に姿を見せる。
「おはよう八雲。船のメンテナンスとやらは終わったのか?」
「―――おはようノワール。ああ、ここまでの飛行で問題がなかったかのチェックだよ。特に問題はなかったけど、クレーブスに教えてもらった各種魔術用の魔法陣や紋様でお色直ししたのさ」
「んん?お色直しだと?それは―――」
ノワールが丁度聴き返そうとした時に、
「―――おはようございます黒帝陛下!」
エミリオ達エレファンの一団と、エドワード王達が一緒に城の前に集まって来た。
「おはよう。エレファンの皆には世話になったな」
「いえいえ!お世話になったのは我々の方です!」
恐縮した態度を取るエミリオに八雲は、
「これから『共和国』の一員として出来ることは支援するから頑張ってくれ」
「はい!この御恩は獣人族一同、決して忘れません!」
爽やかな笑顔で言い切るエミリオに八雲も笑顔で答える。
そしてエミリオの姉であるアンジェラ王女が歩み寄り、
「エミリオ、また暫くは会えないと思うけど、元気で。お父様のこと、お願いね」
「分かっております姉上。姉上もどうかお幸せに」
姉弟で別れの挨拶を済ませているのを見届けた八雲は、『空間船渠』の『空間』を開いて黒翼を召喚する。
「ムウウ?―――八雲!あれは!?」
「新しくマーキングを施した黒翼だ!」
『空間船渠』を出港して『空間』の裂け目から現れた黒翼―――
八雲が言ったお色直しとは、その船体に様々な魔術術式が込められたマーキングを施された雄姿だった。
「認識阻害や対魔術攻撃の耐性や船内への衝撃緩和といった安全面の対策だ」
「クレーブスに教えてもらったのか。確かにあいつは魔術特化したヤツだからな」
その出來にノワールも満足そうな表情を浮かべ、他の者達は一晩で変わった巨大な船体を見上げて呆気に取られている。
「それじゃあ―――次は商業国家リオンに向けて出発だ!」
八雲はそう宣言してエレファン獣王国を後にするのだった。
次は一路、商業国家リオンへと向かう―――
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