南国の姫
pixivにて新規キャライメージ画像更新中!
※AI生成画像
https://www.pixiv.net/users/15342558
※モチベーションに繋がります!※
いいね・ブックマーク・評価☆☆☆☆☆採点いただけますと励みになります。よろしくお願いします。
―――ウルス共和国の空港エリアに到着した天翔船黒の皇帝
その接舷された船から八雲を先頭にしてゾロゾロと列を成して下船する集団を、国王であるバンドリンとその娘であるイザベルが出迎える。
「ようこそお越し下さった!!黒帝陛下!!―――ガハハハッ!!!」
大袈裟な笑い声で諸手を上げて歓迎ムードのバンドリンを見て、
「元気だなぁ~バンドリンは。何かいいことでもあったのか?」
その歓迎ムードに答えるように笑顔で問い掛ける八雲。
「―――えっ!?」
その問い掛けにバンドリンと何故かイザベルの表情まで固まったことに八雲は首を傾げる。
「どうかしたのか?急に真顔になったりして?」
「いや、それは……ガハハッ!!何でもござらん!!吾輩は陛下にお会い出来ただけで気分はいいですぞ!!!」
無理矢理に笑顔を作って躱そうとするバンドリンに八雲は内心不信感を覚えたが、隣のイザベルは困ったような顔で笑みを浮かべているので大きな問題ではないのだろうとここは話しを流すことにした。
「それじゃあ早速だけど、ティーグルの学園の件についてと近況について話し合うのでいいか?」
「勿論!此方です!!」
国王自ら八雲を案内して空港エリア内にある会談用の部屋に移動する。
例によって子供達はアリエス達が面倒を見て、首都に行って色々と散策しに向かった。
会談には八雲、ノワール、ラーン、グラハムドの四人が赴いた。
「こっちのふたりは俺の秘書官になったラーンとグラハムドだ。よろしくな」
「ほぉ~♪ このような美女を秘書官に!黒帝陛下は流石ですなぁ~♪」
いやにもち上げてくるバンドリンに違和感を覚えつつ、八雲はリオンやレオパールで話してきた内容をそのままに黒神龍学園について話を始めた―――
―――様々な取り組みを説明していき、バンドリン達ウルス共和国が特に興味を示したのは自分達に課せられた農学部の部門に対する話しだった。
八雲の話しを一通り聞き終わって、
「―――承知致しました。教える者についてはウルスでも信頼出来る者を送り出すとお約束致しますぞ」
「ありがとな!ウルスは酪農を始めたのは最近だけど荒れた土地でも野菜を育てたり、創意工夫してきたりと歴史はあるから、そのノウハウを学生達に授けてくれるとこれからのオーヴェストの未来で役に立つと思うから」
「確かに。ところで、話は変わりますが……」
そこでバンドリンが言い澱むと参加していたイザベルの表情が強張る。
(―――父上!?遂に八雲様にお話を!?)
「なに?……そんな深刻そうな顔をして」
訝しんでいる八雲にバンドリンは問い掛ける。
「陛下は……オーヴェスト以外の国を統べる気はおありなのですか?」
「なんだよ?突然。俺にそんな気はないよ。今のオーヴェスト=シュヴァルツ連邦にしても帝国をうち立てたりしてないだろう?元々俺は国を治めるなんて柄じゃないんだから」
「―――そのようなことはござらん!吾輩達は陛下を君主と崇めておる!!連邦と言っても陛下の国で間違いはありませんぞ」
「そんな重責背負いたくない……世の中を便利にするとかなら力になれるけど、政治についてはてんで駄目だから」
「では……版図を広げる気はないと」
「随分と食い下がるな?どこか攻め込んで来るなんて話でもあるのか?」
「ある意味、そういうことになりますな……」
「マジでっ!?どこの国だよ!?」
バンドリンの思わぬ返事に八雲は席を立ち上がる勢いで問い返した。
「―――ソプラ・ゾット諸島連合国です」
「ハァアアア―――ッ!?どうして!?統一したばかりじゃないか!?」
ソプラとゾットを統一させた張本人である八雲は予想外の国の名前が上がり、仰け反るほど驚いた。
「それで!兵の数は?いつ頃攻めてくる?」
「―――もう到着しています」
「へっ?―――数は!?」
「―――ひとりですな」
「……おい?バンドリン、俺のことを揶揄っているのか?」
連続で驚かされた八雲だったが、話の内容がどうも妙だと気づいたところで冷静さを取り戻す。
「揶揄っておる訳ではござらん。正真正銘、たったひとりで乗り込んできた者がおります」
「それじゃあ、そのひとりで攻め込んできた猛者は今どこにいるんだ?」
「―――其方に控えております」
そう言って視線を送った先には並び座る重鎮達の一番末席にひとり、ローブを深く被っていた女性をゆっくりと指差す。
「……妙に深くローブを被っているとは思ってたけど、どこのどちら様?」
八雲がその女性に声を掛けるとその場で席を立ち上がった女性はゆっくりと白いローブを捲り、素顔を八雲の前に晒す。
「―――初めてご尊顔を拝します、黒帝陛下。わたくしはソプラ・ゾット諸島連合国の国王デカダン=イェダンの娘、第二王女のアクニス=イェダンと申します」
そう言って作法に則ったカーテシーを見せて礼を尽くすのは父親と同じく蒼く長いストレートの髪に手首と足首には海人族の証しともいえる魚鱗がある『マーメイド』の美少女だった。
海人族は男性を『マーマン』、女性のことを『マーメイド』と呼び、水中でも呼吸が出来るといった特徴のある亜人族である。
「ソプラ・ゾット諸島連合国のお姫様……」
―――ソプラ・ゾット諸島連合国
かつてのシュヴァルツ包囲網の際に海からの援軍を見込んだイロンデル公王ワインドが結託してゾット列島国と密約していたが、八雲によって崩壊され、北にあるソプラ諸島国に併合される形で誕生した統一国家である。
そしてこの国はフロンテ大陸ではないので神龍の縄張りではないため、ノワール達でも干渉することのない地域である。
「お姫様が単身でウルスまで来たのは国元で何かあったのか?」
「いいえ。黒帝陛下によってもたらされた統一により、今までの蟠りが無かったかのように国民も前を向き、協力しております」
アクニスは淡々と国の情勢について説明していく。
「―――だったら、どうしてひとりで攻め込んできたみたいな話になるんだ?」
八雲の疑問は当然のことだった。
「それは……」
そこで言い澱みながらバンドリンに視線を向けるアクニス。
目的を直接自分で告げないのは父からこの国の国王に頼んだ手前、勝手に話しを進めては非礼になると考えてのことだ。
しかしバンドリンにとってはいい迷惑である。
だが正直なところソプラ・ゾット諸島連合国とは海産物の貿易でいい関係となっている手前、バンドリンも無下には出来ない。
「実はですな陛下。ソプラ・ゾット諸島連合国の国王は此方のアクニス殿と陛下の婚姻を所望していまして―――」
「―――断る」
「―――即答!?」
電光石火の八雲の返事にバンドリンが泡を吹いて倒れそうなほど卒倒していた。
アクニスも八雲に即答で断られたことに驚きを隠せず顔に出ている。
「……非礼を承知の上でお伺い申し上げます。わたくしのどこに御不満がおありなのでしょうか?」
まさか多くの妻を持ち、飛ぶ鳥を落とす勢いで名を馳せる黒帝に拒否されるとは考えていなかったアクニスは問わずにはいられない。
「ああ、別に君が悪いとか気に入らないって訳じゃないんだ。誤解していたらすまない。俺が断った理由―――これは政略結婚だろう?」
隣国の国王が姫を嫁に出すと言ってくれば、何処の世界でもそれは国と国の関係を強固にしたいという政略結婚以外の何物でもない。
「確かに、我が国とオーヴェストとの関係をより強くするために―――」
「―――それが気に入らない」
「……」
躊躇の無い八雲の返答にアクニスも口を開けたまま二の次が出て来ない。
「結婚っていうのはお互いに想い合う気持ちがなければ成立しないと俺は思ってる。政略結婚にはそれがない」
「それは王家の女として生まれたからには仕方のないことでは?」
「だったら君の気持ちはどうなる?」
「わたくしの気持ちは決まっております。陛下のものとなる覚悟を―――」
「―――君が一緒になりたいのはオーヴェストだろう?だったら城の外で大地に寝そべっていろ。それで君はオーヴェストとひとつになれる」
「―――まぁっ!?それは……」
「へ、陛下!?どうぞ御心を落ち着かせてくだされっ!!」
正気を取り戻してからふたりのやりとりを黙って聴いていたバンドリンだったが、ここに来てアクニスへの八雲の対応に、
(―――心臓がもたん!)
と思い抱いて横槍を入れる。
「俺は別に冷静だし、当たり前のことを言っているつもりだ」
「そ、そうだとしても!姫もたったひとりでウルスまでやってきた覚悟もござろう!その気持ちを無下にするのは余りに酷ですぞ!!」
「うっ……それは、確かに少し言い過ぎだった……」
政略結婚ということに反感が湧き上がり、それを受け止めて他国までやってきたアクニスの覚悟を慮っていなかったことをバンドリンに指摘され、王族の意識がない八雲はアクニスを蔑ろにしたような形となり自己嫌悪する。
「すまない。姫の気持ちも考えるべきだった。謝るよ」
「……いえ、わたくしは気にしておりません」
(いや、絶対気にしてるよね!?顔が不満そうですよ!?)
冷静に見てアクニスの表情に不満気な空気が漂っていることは誰の目にも明らかだ。
「ですが、わたくしも国元には戻らない覚悟で出国して参りました。陛下に拒まれたとあれば、おめおめ国元にも戻れません」
「何その言い回し?どう聞いても脅迫文句なんですけど?」
振られたなら死んでやる!みたいな流れになってきたことに八雲は不穏な空気を感じ取った。
「父上には拒まれた際には恥を濯ぐためにも自決することも伝えて参りましたので―――」
「―――ちょっと待ったぁああ!!!」
王族という立場の人間であればこうなるのは当然だが、一般人だった八雲にはそこまで考えが回らない。
アクニスが守り刀のように持参していた短剣を取り出したところで八雲が止めた。
ここで八雲はどうにかいい方法はないかと―――『思考加速』の世界に入る。
(王族の考えは本当に理解出来ないぞ……だけど何かいい方法を考えないと、地雷を踏んだら自殺コース待ったなしだ)
結婚の話は回避しつつ、アクニスの地雷を踏まない方法を思考加速で考える八雲―――
(―――そうだっ!!!)
そうして八雲は『思考加速』を解除すると―――
「アクニス姫。俺はまずお互いのことを知らない相手と強制的に結婚する行為が受け入れられないって言ってるんだ。それは君も理解出来るだろう?」
「それは……はい」
(―――よし!)
「だったら!まずは俺達のお互いのことをもっとよく知ることから始めたいんだ!分かるよな?」
「それは……黒帝陛下はわたくしとの婚姻を拒むという訳ではないのですね?」
「あ、ああ!勿論そういう訳じゃない!ただ順序を守りたいだけなんだよ!」
「陛下の順序を……なるほど。では具体的にどうすればよろしいのでしょうか?」
「それな!まずは来年の春にティーグル公王領にある黒神龍特区に国立黒神龍学園っていう新しい学校を建てる。俺もそこに通う予定なんだ。だからアクニス王女もそこに入学して、まずは同じ学び舎で過ごしてお互いのことを知っていかないか?」
「学び舎をお造りに?それは……素晴らしいことですわね!実はわたくし……学校というものに一度通ってみたいと思っておりましたの/////」
真剣な表情から穏やかな表情に変わってきたアクニスに八雲が続ける。
「だから!国元に戻ってイェダン王に黒帝から、そうしろと言われたって説明してくれ。順序・大事・絶対ってさ!」
「畏まりましたわ。それにしても……黒帝陛下は思った以上にロマンチストですのね♪」
そう言ってクスクスと笑みを溢すアクニスに、八雲は顔を赤くしながら、
「男の子は皆ロマンチストなのっ!!/////」
と声を大にして主張するのだった―――




