ヴァーミリオンへの帰還
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―――復活した魔神メサイアリスト=グラハムド・アンドロマリウスを隷属化した八雲は、
未だに混乱の見える首都ディオスタニアの街をバサラやイェンリン達と抜けてオクターブ城へと登城した―――
グラハムドについては一旦フレイアと共に天翔船に隔離するため、アテネを呼び朱色の女皇帝へと収容させた。
混乱を巻き起こしたのはルドナだが、その本体の身体を利用されていたグラハムドを女王達の前に連れて行くことは憚られて、八雲はバサラにもその考えを告げて天翔船に収容させることを決めた。
その代わりに朱色の女皇帝に乗っていたルシアとウルスラを地上に下ろし、共にオクターブ城へと向かったのだった。
貴賓室で待っていた女王に謁見する八雲―――
「黒帝陛下!イェンリン様!それにバサラ、ルシア、よくぞ無事で……」
皆の顔を見た女王クレオニアは笑みと涙を浮かべて迎える。
「女王陛下、この国を狙った魔神ルドナ=クレイシア・アンドロマリウスはバサラが見事討ち取りました」
八雲が真っ先にバサラの功績を女王に報告すると、それを聞いていたバサラが驚き、
「いえっ!それは黒帝陛下が―――」
「―――俺にはルドナの防壁を破壊する手が無かった。『神剣』を手にしたお前の協力がなかったら、この国は魔神の手に堕ちていただろう。だからお前はこの国を救った英雄だ」
八雲のその言葉に女王と一緒にいた重臣達は、
「オオオ―――ッ!流石はクロイツ公爵閣下!」
といったバサラに対して賞賛の声を上げて喜び合う。
「そうですか。バサラ=クロイツ公爵、貴方のこの国に対する功績は計り知れません。救国の英雄と呼ぶに相応しいでしょう」
「陛下……勿体ないお言葉です」
バサラはクレオニアに頭を下げて賛辞の礼を述べる。
その様子に湧き立つ重臣達を宥めて女王クレオニアが言葉を続ける。
「丁度良いでしょう……皆に伝えます。わたくしクレオニア=リアニス・インディゴは女王の座を退位し、ここにいるルシア=フォン・ローゼン公爵に女王の座を譲位します」
「―――ッ!?」
突然の女王退位の宣言に重臣達だけではなく八雲やイェンリン達も驚きの表情に変わる。
「陛下!?」
指名されたルシアも驚きの声を上げずにはいられない。
「お、おい、クレオ。突然何を言い出すのだ?」
その中でもクレオニアを幼き頃から知っているイェンリンが問い質す。
「イェンリン様。わたくしはこの度のことで何一つ、この国のために出来ることはございませんでした。唯バサラとルシアが無事に戻って来ることを祈るだけ……これからの時代、わたくしのような年寄りは国の危機にも対処出来ません。此処にいる若き力がこの国には必要なのです」
「クレオ……」
女王としての言葉に自らもフォウリンを後継者としたイェンリンにはその気持ちが痛いほど伝わってくる。
「ルシア、バサラ……これからは貴方達の時代です。どうかインディゴ公国をお願いします」
「陛下……わたくしは―――」
困惑した表情で何かを言おうとしたルシアに、クレオニアは続けざまにバサラに向かって告げる。
「―――クロイツ公爵。貴方には救国の英雄として新たな女王の夫となって欲しい。女王を支え、この国を守護する護り手となり、どうかインディゴ公国を護って」
「陛下!?―――いや、しかし私は……」
バサラが躊躇した理由は自らの血縁のことが頭を過ぎったからである。
クロイツ公爵だった父親と血縁のない自分がルシアの夫になるということがバサラを苦しめる。
しかし―――
「それはめでたい!!―――ローゼン公爵が女王となり、クロイツ公爵が夫となった暁には、共に魔神と戦った戦友としてオーヴェストは全面的にインディゴの繁栄に協力することをここに宣言しましょう!!!」
―――突然、八雲が仰々しく、そしてわざとらしく貴賓室に響き渡る大きな声で宣言した。
「オォオオッ!!オーヴェストの覇者からの心強いお言葉!!新たな女王とクロイツ公爵万歳!!!」
「―――万歳!!!」
突然の八雲の宣言に困惑したバサラが言い返す前に、高揚した重臣達がルシアとバサラをもてはやす。
「女王クレオニアとも旧知の中である余とヴァーミリオン皇国も、同盟国に対してこれからも更に手厚い親交を望む」
八雲に続いてイェンリンもヴァーミリオンがインディゴとの関係を手厚く扱うと宣言したことに部屋の中は盛り上がっていく。
魔神の脅威が過ぎ去り、新たな女王と英雄の誕生にインディゴ公国は湧きに湧いていった。
そんな中、バサラの肩にポンと手を置いた八雲は、
「これからオーヴェストとの交友もよろしくな!」
笑顔でそう告げるが、先のバサラのことを持ち上げるような話しも、実はバサラとルシアのふたりのことを思ってのことだ。
八雲の予想通りクレオニアは譲位のみではなく、ふたりの婚姻まで宣言に盛り込んで戦勝ムードの時に乗じたのだ。
この状況ではルシアの王配になることを辞退することなど出来ない、そう理解したバサラはフゥと溜め息をひとつ吐いて、
「ルシア……俺がこれからもお前の傍で護ることを許してくれるか?」
同じく困惑していたルシアに問い掛ける。
「バサラ……はいっ!お願いします!!/////」
みるみる涙ぐんだルシアの溌剌とした声が貴賓室に響き、ここに新たな女王と、その女王の王配が誕生したのだった―――
―――それからの八雲達は、
混乱の収まったディオスタニアで、今度はルドナが『魔種』を移植して魔物兵に変えていたシニストラ国民の対応に追われた。
その魔物兵に変えられていた人々の中から有力者や領主だった者達を一所に集めて、この度の経緯と終焉について説明する。
メサイアリストの件は伏せながら、魔神ルドナの所業と何故インディゴにいるのかということを説明した八雲達の話しに、初めは信じられないといった雰囲気が広がっていたが、今置かれている状況を考えると信じざるを得ない。
そして魔神が現れる前のシニストラの情報には詳しいバサラと諜報部隊のカイトの知識を借りて、生き残った者の中からインディゴとの関係が良好だった有力貴族達を集めてシニストラへの帰還について尽力することを条件に民衆への説明責任を負わせる。
だがそこで上がったのは皇族が滅亡している件だ。
皇帝位が空位となり、その皇族達も尽くグレイピークによって始末されていることをイェンリンから聞かされた有力貴族達は、内戦が勃発してもおかしくはないという緊迫した事態を語る。
そこで八雲は、
「本当に皇族は全員死んだのか?本島以外の場所にいた人とかいないのか?」
と、難を逃れた者がいないのか問い掛ける。
すると、ひとりの貴族が声を上げた。
「ああっ!―――確か、ギオ島の離宮で療養されていらっしゃる御方がいらっしゃったはずです!」
その言葉に他の貴族達も思い出したように「確かに!」と頷き始める。
「その話は本当か?」
八雲はバサラとカイトに今の話しを確かめると、カイトが報告する。
「はい、確かにコモシロフ=スカヤ・シニストラ皇帝の甥にあたる御方が体調を崩された時にギオ島の離宮で療養しているという情報は聞いています」
「よし、その人に皇帝位を継いでもらうのがシニストラで一番争いが起こらないだろう。すぐにギオ島に使者を出せるか?」
八雲の提案にバサラもカイトに目配せすると、カイトがすぐにその場を離れて手配に走った。
次にシニストラに対しては魔神が跋扈し、大乱を起こしたという背景はあるものの戦争を吹っかけておいて賠償もなしではインディゴの国民が納得しない。
しかしこの件を今この場にいる貴族達だけで決定することは難しいというのが結論だった。
「事情が事情とはいえ……友好国に対して戦争を起こし、迷惑をかけたことは遺憾に存じます。国に戻り次第この件を話し合い、インディゴの納得のいく形で賠償を新皇帝に進言すると約束しましょう」
今はそこまでしか話が出来ないことを納得したバサラは、シニストラの国民達を帰国させる話しを進めていく。
シニストラの国民は凡そ一万人を数え、その国民達を海の向こうに送るための段取りをつけるのは容易ではない。
「ならばヴァーミリオン皇国軍が助力しよう。糧食も十分にあるからな。一万くらいの人を動かすのだ。その辺りの手助けも必要であろう」
遠征に来たヴァーミリオン皇国軍もシニストラの民を移動させることに協力することがイェンリンの命で決まり、ジャミルとガレスもその意志に賛同して兵を動かすことになった。
こうして戦後の処理を並行して解決していく八雲達とバサラ、ルシア達。
民の大移動が纏まると次は八雲とイェンリン、フォウリン、そしてスクルドがクレオニア、ルシア、バサラと会談していた―――
「―――以上が俺からの提案だ。道を整備すればこれから先の未来でも役に立つのは間違いない」
八雲が提案したのはオーヴェスト=シュヴァルツ連邦のリオン議会領と、ヴァーミリオン皇国からの街道の整備についてだった。
「バサラはこの話の重要性が分かると思うんだが?」
ワザとらしくニヤリと笑みを浮かべながら問い掛ける八雲を見て、バサラは澄ましたまま答える。
「八雲の言いたいことは分かる。流通は繁栄の第一歩だ。特にこの世界の道はまだまだ山道や畦道といった険しい道が多い。それに警備府の設置も賊に対して牽制になる」
同じく異世界からの転生者であるバサラも、この世界に来て道の悪さにはウンザリとしていた。
魔術で簡単に街道を整備するという八雲の説明には内心驚くと同時に、そのような事が出来る八雲の能力に改めて感嘆した。
「話しが早いな。道については此方で全面的に任せてもらう。リオンからの物資が届くのが安全で早くなれば、インディゴの復興にも拍車が掛かるはずだ」
そうは言っているが、八雲の狙いとしてはこの功績をルシアの新女王即位に花を添えたいという思惑がある。
そしてそのことをバサラとクレオニアは逸早く気がついていた―――
―――そのようにして忙しない日々が数日続き、すべての問題にある程度目途が立ったところで八雲達はヴァーミリオンに帰国することにした。
シニストラの国民移動にはジャミルとガレスが担ってインディゴ正規軍と共に同行することになり、フォウリンは八雲達と共に朱色の女皇帝で帰国する。
首都の郊外に着陸した朱色の女皇帝の元にはクレオニアにバサラとルシア、そして近衛騎士からオクターブ城の使用人に至るまでが見送りに来ていた。
「ルシアの即位式には出席するから、ちゃんと手紙くれよ?」
ルシアと並んで立つバサラにそう告げる八雲。
「ああ、分かった……八雲、本当に助かった。ありがとう」
そう告げて右手を差し出すバサラ。
「俺の方こそ転生者に会えて、友人になれてよかったよ。バサラ」
八雲も手を差し出してふたりは固い握手を交わした。
そして八雲はルシアに向き合うと、
「ルシア、以前女王に耳元で囁かれていたのはバサラを夫にすればいいって話しだったんだろ?」
と、女王がルシアに囁いていた時のことを指摘した。
「なっ!?や、八雲様……まさか聞こえて/////」
途端にルシアは顔を赤らめて八雲の指摘が正解だとその身で応えていたが、
「ハハハッ!ふたりのことをこれだけ思ってくれている女王陛下の御考えになることだ。多分そうだと思ったのさ!それじゃあふたり共!―――幸せにな!!!」
八雲は笑い声を上げて朱色の女皇帝へと乗り込んでいった。
静かに浮上し始める朱色の女皇帝の真紅の艦体を見上げるバサラとルシア―――
―――そんなふたりはどちらともなく固く手を握り合っていた。
「アテネ!―――ヴァーミリオンに帰るぞ!!」
「了解しました、マスター」
アテネの操舵により船は一路、ヴァーミリオン皇国へと向かって飛び立つのだった―――
 




