妖魔との決着
―――灰色の鬣の様な体毛を持った狼のような顔に変貌し、額には刃のような角が生えて、
―――再生されて繋がった手足には、長い刃の爪が伸び、
―――背中には蝙蝠のような黒い翼が生えて羽ばたいていた。
身体も一回り以上大きくなったグレイピークの変貌した恐ろしい姿を見ても、イェンリンは堂々と対峙している―――
空中戦からグレイストルス城の郊外にある岩山に飛行して降り立ったイェンリンを追って、グレイピークも岩山に降り立つ。
「やはり妖魔というだけあって、そうして醜い姿に変わると魔物具合が増すものだ!!」
―――手に握った黒炎剣=焔羅を振り翳して、グレイピークに突撃するイェンリン。
【黙れっ!―――ここで貴様を葬り、ヴァーミリオンもルドナ様に捧げる!!!】
獣の頭部に変貌したグレイピークの大きく裂けた口から、イェンリンに向かって言い放つ―――
―――両手の刃となっている長い爪をイェンリンに向かって振り翳すグレイピーク。
「舐めるなよ!狼男!!―――そのような爪ごときで、我が剣を受けられると思うなァアアッ!!!」
焔羅と爪の刃が激突した瞬間、火花が散ったかと思うとグレイピークの爪が尽く切断されていった―――
【チッ!―――だが!!まだまだ!!!】
―――激突と同時にすれ違ったイェンリンとグレイピークだが、振り返りざまに右腕を鞭のように変化させて離れた位置から遠距離攻撃を仕掛ける。
その鞭が振り返ったイェンリンの焔羅の刀身に巻き付くと、左手の爪をイェンリンに向けて弾丸のように爪を発射した―――
【串刺しで死ねェエッ!!!】
―――迫る爪にイェンリンは恐れる事もなく、
「―――フンッ!!」
気合いと共に焔羅の刀身に炎を纏わせ、絡みついたグレイピークの右腕の鞭を炎上させて焼き斬った―――
【―――ッ!?】
―――と、同時に発射された爪の弾丸に向かって、残像を生み出すほどの速度で焔羅を振り払い、尽く撃ち落としていった。
「姿が変わっても大した芸は出来んようだな、大道芸人」
【グルゥウウウ!!!】
獣の唸り声を漏らしながら殺意に満ちた眼をイェンリンに向けるグレイピークに、イェンリンは大道芸人呼ばわりで挑発する―――
【コロスッ!!―――グルルルッ!ゼッタイニ、コロスゥウウッ!!!】
―――人間の姿だった時よりも獣染みた声色に変わっていくグレイピーク。
イェンリンへの怒りが人間の姿をしていた時の僅かな理性を取り払い、妖魔の本性が面に出始めていた―――
「獣に堕ちていく姿を見るのは忍びない―――ここで決着をつける」
手にした焔羅にイェンリンは白い輝きを纏わせていく……
八雲の鍛えた焔羅には七つの属性を付与された魔法石が柄に仕込まれており、イェンリンの魔術を強力に跳ね上げる。
今、焔羅の刃が纏っているのは魔法石を介して発動させた光属性魔術であり、八雲が石に付与した膨大な魔力と『龍紋』で接続され与えられる魔力がイェンリンの力となっていく。
「この一閃で貴様のそのドス黒い命を―――断つ!!!」
【UGAAAAAA―――ッ!!!】
最早言葉すら忘れ去ったようにグレイピークが雄叫びを上げながらイェンリンに突撃する―――
―――迎え撃つイェンリンは両手で柄を握った焔羅の刀身を横に構え、その白い光を放つ刃と同じく全身を白い光へと変えてグレイピークの身体を突き抜けた。
まるで自分の身体をすり抜けたような錯覚に囚われたグレイピークは、驚きで思わず振り返ってしまうが―――
―――その瞬間、身体が180°クルリと回転して尚も停止せず、腰のところを軸にして切断されたことに気がついた時にはもう遅い。
「剣聖技―――『粉砕斬』……貴様の身体は粉微塵に斬り捨てた」
イェンリンの声が聞こえた瞬間、グレイピークの全身に縦横に走り抜ける白い光の斬撃が走り始めたかと思うと、まるで破裂するようにその場でバラバラに砕けて辺りに飛び散っていった―――
―――その勢いで弾け飛ぶ狼のようなグレイピークの頭部が宙を舞い、イェンリンの前にボトリと転げ落ちてくる。
【GYUSYUUUU―――ッ!GYAHAA!GURUUU!!】
首だけになってもイェンリンを地面から睨みつけ、今にも喉笛を食いちぎらんばかりに唸り声を上げるグレイピークの姿に、イェンリンは哀しげな瞳を向けて見つめる……
「もう、眠れ……来世は人として生きよ」
―――そう告げたイェンリンは下に構えた焔羅をグレイピークの額に突き刺して光属性魔術を流し込み、牙を剥いていたグレイピークを白い塵へと帰していく。
そうして静まり返った岩場でイェンリンは振り返ると、八雲が闘っている方向を見つめるのだった―――
―――魔神ルドナと闘う八雲
「ウオォオオオ―――ッ!!!」
目にも止まらぬ剣閃を繰り出し、ルドナに斬り掛かる八雲だったが、ルドナの周囲に浮かぶ黒い球が形成する防壁に尽く受け止められ、その反撃に防壁の中からルドナによって怨霊が込められ放たれる魔神剣の攻撃を回避していく―――
「ハハハハッ!!―――馬鹿のひとつ覚えとはお前のことを言うのだ!九頭竜八雲!!」
五つの黒球が発生させたピラミッド型の防壁の中で、高笑いを決め込むルドナに、八雲は舌打ちをしながら隙を伺って空中を飛び交う。
「逃げ回るのも大概にして、諦めるがいい―――死ねっ!!!」
防壁の中から伸ばした両腕の先から燃え盛る溶岩を噴き出すルドナ―――
「ッ!?―――マグマか?!」
―――噴き出した溶岩は只の溶岩ではない。
「コイツ!?追ってくるだとっ!?」
空中で回避した八雲の後ろで方向を変えた溶岩は、まるで龍のような怪物の形となって八雲にその口を広げて襲い掛かってくる―――
―――空中で旋回して戻って来たマグマ・ドラゴンを更に回避し、ルドナに突撃しようと試みる八雲。
しかし―――
「クソッ!!もう一匹がっ!!」
―――その正面にもう一匹のマグマ・ドラゴンが姿を現して、巨大な顎を開きながら八雲に食らいついてきた。
「アチチッ?!―――熱っ!!!あちゅちゅ!!!」
見た目通り超高熱を放つマグマ・ドラゴンは横をすり抜けただけでも数千度の熱波が伝わってきて八雲の身体を焼きつける―――
―――その間にも魔神ルドナはもう一匹、更にもう一匹と合計四匹のマグマ・ドラゴンを飼い慣らし、四方から八雲を追い詰めていった。
「―――このままだと追い詰められる!!」
蒼白いオーラに身を包み、オーバー・ステータスを発動している八雲のスピードはまさに神速と呼ぶに相応しい超スピードを繰り出す。
だが、それも広範囲に熱波を振り撒くマグマ・ドラゴンの前では回避範囲が大きくなり、少なからずその身に熱波を浴びて火傷を常に追っている状況となっていた。
「まだまだ行くぞっ!大人しく焼け死ねェエエ―――ッ!!!」
―――両腕を正面に出したルドナは魔神剣の魔力も取り込んで、更なるマグマ・ドラゴンを生み出してくる。
完全包囲されるほどに数を増やしたマグマ・ドラゴンを前にして、八雲も反撃を開始する―――
「やられっ放しでいられるかよっ!!!
―――《氷弾》!!!」
―――水属性魔術《氷弾》を発動し、全方位のマグマ・ドラゴンに向けた魔法陣から連続で氷の弾丸を一斉掃射する。
八雲の膨大な魔力から生み出された巨大な氷弾がマグマ・ドラゴンに命中して激しい水蒸気を上げて溶解すると同時に、冷やされたマグマ・ドラゴンが動かない石の塊へと変わっていった―――
―――空中から次々に下に落下していくマグマ・ドラゴンだった石の塊を見て舌打ちをするルドナ。
「チッ!しぶとい男だ……ヤツは何処にいった?」
周囲はマグマと氷弾の衝突で噴き上がった水蒸気によって白い煙に覆われ、ルドナの視界は完全に塞がれていた―――
「まさか、逃げたのか―――」
―――気配が完全に消えた八雲の姿を探すルドナ。
その時、八雲は―――
―――ルドナのいる位置から更に遥か上空に飛び上がり、足元で白い水蒸気に包まれるルドナを『索敵』で捕捉していた。
八雲は右手を天に向かって翳す―――
「―――『魔術反射衛星』起動」
―――八雲は自身の周囲に十二個の魔法陣を円形に展開する。
すると魔法陣には、この世界、この惑星の惑星儀が現れると、十二機の衛星が惑星の周囲で点滅していた。
「―――各機、反射角度調整……Contact Start!」
すると八雲の周囲にある魔法陣から両隣の魔方陣へと真っ直ぐに光の線が放たれ、さらにその魔法陣が次の魔法陣へと光を結んでいく―――
八雲を挟んで両側から繋がっていく魔法陣は、やがて八雲を中心にして正十二角形の線を結んでいくと、最後のひとつ、八雲の正面にある魔法陣に向かって行くところで、
「―――《光属性基礎》!!」
魔術反射衛星に付与した《遠見》の魔術により、遥か上空の宇宙空間に浮かぶ衛星から下で警戒するルドナを捕らえる。
魔術反射衛星によって世界から収集されていた魔力が変換されて反射衛星を通り、上空の魔術反射衛星に集中し続ける。
「八雲式創造魔術
―――《殲滅極煌》!!!発射!!!!!」
収束された魔力を上空に展開された巨大な魔法陣に衛星軌道上から光の柱に変えて注ぎ、さらに下にいるルドナに向かって閃光が走った―――
「なにぃ!?―――これはっ?!グラハムドを葬ったあの魔術かっ!!!」
―――レオパールで魔神を召喚した際に、その魔神グラハムドを葬り去った超絶の光属性魔術がルドナ自身に今、降り注ぐ。
光を収束し続けている巨大な魔法陣から、直下の魔神ルドナに向けて強烈な光の力が光速で降り注ぎ包み込むと―――
「ウオォオオ―――ッ!!!」
―――魔神を中心に半径一kmほどが一瞬で真っ白な光の柱に呑み込まれたかと思うと、強烈な光属性の魔力と太陽光の超高熱攻撃を浴びて絶叫する。
完全なる白に染め上げる八雲の《殲滅極煌》は地上にいる人間には影響を与えず、城に残っていた魔物兵達には光の矢となって降り注ぎ、次々と浄化して塵へと帰していく―――
「これでルドナも―――ッ!?なにっ!!」
―――ルドナを仕留めたと息を吐いた八雲の目に映ったのは、
《殲滅極煌》の光の柱の中で黒球の発生させた防壁により、無傷のままニヤついた笑みを浮かべるルドナだった―――




