胎内世界の二日目
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―――胎内世界での一夜目
「アイタッ!―――痛ぅ!」
「大丈夫!?ユウリ!」
小屋の中で上着を脱いだユウリの背中には、赤く痣になっている痕がくっきりと浮かび上がり、他にも小さな切り傷や擦り傷が身体の彼方此方に刻まれている―――
「……ごめんね。私がもっと上手く、炎の魔術を使えていたら……」
「カイは十分私を助けてくれたわ。ひとりだったらゴブリンに慰み者にされてから殺されていたもの」
「……ユウリ」
ユウリの言葉にカイは力ない微笑みを返す。
―――八雲に連れて来られたノワールの『胎内世界』で、三日間を過ごす試練を与えられたユウリとカイは、今日の水を確保するために水場を探しに出て、三匹のゴブリンに遭遇した。
すぐに戦闘に入ったふたりは前衛をユウリが、後衛をカイと役割分担していたおかげで苦戦したものの三匹ともを倒すことが出来た―――
―――しかし運よく仲間を呼ばれなかったことが、このふたりにとっては幸運としか言いようがない。
ゴブリンは集団で行動していることが多い魔物だ。
外の世界でも群れと化したゴブリンが村や町を襲うことは珍しいことではない。
そんな習性をもつ魔物に遭遇して仲間を呼ばれなかったのは、ゴブリンが人間の女ふたりと侮ったから助かったに他ならない。
「ユウリ、これ回復薬。飲んで」
カイが八雲の置いていった回復薬を一本、ユウリに差し出す。
しかし、ユウリはその回復薬をそっとカイに差し戻した。
「ダメよ、カイ。回復薬は貴重だもの。さっきのゴブリンと戦った時に、もう二本も使ってしまったわ。まだ二日あるもの。このくらいの傷なら、明日にはマシになっているでしょう。心配はいらないわ」
「……ゴメンね……私が『回復』の加護を持っていれば……」
「それは私も一緒よ。さあ、これから夜になる。ここからは交代で休みながら見張りもしないと。何が襲ってくるか分からないから。まずは先にカイが休んでいて。暫くしたら起こして交代してもらうから」
「分かった……でも、無理はしちゃダメだよ」
「分かっているわ」
カイはユウリと同い年ではあるが、しっかり者のユウリがいつもお姉さんのように振る舞いながらカイとは上手くやってきた幼馴染なのだ。
しかし、カイからしてみれば思いつめたユウリが無茶をすることも、また幼馴染であるカイには分かっている。
そんな意地っ張りな幼馴染のことを心配しつつも、昼間のゴブリンとの戦いに魔力をかなり使ってしまったカイは床に寝転がるとそのまま眠りに就いていった。
そんなカイを見つめながら微笑むユウリ。
しかし、再び表情を引き締めながら、
「絶対に……生き残ってみせる」
静かにひとり、そう呟くのだった―――
―――同じ頃、黒龍城に戻っている八雲
マキシ、ウェンス、サジェッサにお礼を言われながらも、また今度デートをすることを約束して自室に戻った八雲はテーブルの前のソファーに座って今日のふたりの少女のことを考えていた。
「八雲様。お茶が入りました」
優しい口調で告げてきたのはレオだ。
「ありがとう、レオ。」
礼を言ってレオが用意してくれた紅茶に口をつけた時―――
【御子……聞こえるか?】
―――スコーピオからの『伝心』が入った。
【ああ、聞こえてる。何かあったか?】
【とりあえず、あのふたりは森でゴブリンと戦闘後に小屋に戻った。使った回復薬の瓶に水を入れて】
【そうか……強力な魔物は周囲から排除してくれたか?】
【ああ。それはサジテールが問題無く暗影で射殺してくれているが……ひとつ問題が……】
【どうした?他に何か問題でも―――】
すると外部の音を載せてスコーピオは『伝心』を伝えてくる。
【ああ~♪ 可愛いでしゅねぇ♪ ファンロンは本当にお利口さんだなぁ♡】
【ぎゃぶぅ~♪】
あり得ないほどに蕩けた声を出しているサジテールの声が聞こえてきた。
【おい……なんでそこにファンロンまで連れて行ってるんだ?】
今度はサジテールにも『伝心』を繋げて、何やってくれてんの?という気持ちが伝わるように八雲が告げる。
すると―――
【や、八雲様!?―――い、いやファンロンも、此処で鍛えておくに越したことはないと思ってだな!】
妙に狼狽えたサジテールの声が返ってくる。
【一秒でバレる嘘つくなよ……ノワールに言ってあるのか?】
【勿論だ!ノワール様にもファンロンを誇り高き古代龍へと成長させるために、胎内世界で修行をさせたいとお願いした】
【それで?ノワールは何て言ってたんだ?】
【その意気やよし!新しく生まれた古代龍を誇り高く育てるには丁度良い!と、おっしゃってくれたぞ】
【それで本音は?】
【ファンロンと離れて人間の娘の護衛に駆り出されるなど、堪えられるか!って、いや、今のは違う!違うんだ!!】
【そこまで言っておいて、今更何言っても無理だろ……ハァ……しょうがないなぁ。邪魔だけはさせるなよ?】
【ああっ!分かっているとも!ありがとう、八雲様。ほぉ~ら♪ ファンロンもよかったでちゅねぇ♡】
【きゃるるぅ~♪】
【御子……俺の神経がもちそうにないんだが……】
横でニコニコしながら楽しげにファンロンを撫で撫でするサジテールにスコーピオが溜め息を吐く。
【なんだか人選した俺の責任を感じるけど……あと二日だけ堪えてくれスコーピオ】
【……善処する】
そう言って『伝心』は途切れた。
「黙って聴いていましたけれど、サジテールはファンロンにかなりメロメロになってしまっていますね」
隣で聴いていたレオが呆れ気味に言うと八雲も困り顔で、
「でも、あのサジテールが顔をふにゃふにゃにしてファンロンを可愛がる姿って、それはそれで俺的な需要はあるんだけど」
「まぁ!ウフフッ♪ でも、それはアリエスの前では言わない方がよろしいですよ」
「あぁ……あのふにゃふにゃサジテールになってから、ダラシナイ!とか言ってピリピリしてるもんな」
「アリエスにとってサジテールは特に姉妹に近い存在ですから、他の序列者よりも厳しい目で見ているところはあります」
「確か左右の一番大きな牙から生まれたんだよな。でも、知ってるか?」
「何をですか?」
「サジテールの隙をついて、実はアリエスも滅茶苦茶ファンロンのこと可愛がってるんだぜ」
「まぁ♪ それは……聞かなかったことにしておきますわね♪」
そう言ってレオは八雲と笑い合っていた―――
―――胎内世界での二日目
交代で一夜目の夜を明かしたユウリとカイ。
回復薬の入っていた瓶に詰めた水を飲みながら、今日は何か食料を探して来なければ動けなくなってしまう。
そう考えたユウリはカイを連れて再び森に向かって歩く―――
周辺を注意深く警戒しつつ、同時に食べられそうな植物がないかも一緒に探索するが、なかなか目当ての物は見つかりそうな様子がない。
「なかなか見つからないね……」
空腹で元気を失っていくカイ。
「ええ……でも、家にいた時でもご飯のない時なんて何度もあったじゃない。自分で探せるだけ今の方がマシよ」
ユウリはこれまでの生活の苦しさと比べれば、自分達の思ったように動ける今の方がよっぽど良いと思える。
昨日と同じ草むらを進み、水を確保した河原までやって来ると、昨日のゴブリンの死体がない。
「まさか……生きてたのかな?」
カイが不安そうにユウリに訊ねる。
「そんな訳ないわ。あれだけ何度もトドメを刺したもの。きっと……他の魔物の餌にでもなったんじゃないかしら……」
「でも……それって……」
そんな時、ふたりのいる河原の近くの草むらがガサガサと音を立てる―――
「ッ?!―――カイ!下がって!!」
―――すぐにカイに後方に下がる様に促したユウリは、手にした槍を構えて草むらの動きに集中して睨みつける。
すると、そこから姿を現したものは―――
【GOHOOOッ!BUHOOO―――ッ!!】
―――鼻息を荒くした豚の頭をした魔物が現れて、ふたりを見つけてさらに興奮したように目を血走らせていた。
「カイ!―――オークよっ!気をつけて!」
「うん!分かったっ!」
昨日のゴブリンの時のように前衛がユウリ、後衛にカイといったフォーメーションで前衛のユウリが攻撃している間に、後衛のカイが魔術を展開するという、ふたりにとっては今出来る最大で最終の戦法だった。
しかし、そんなふたりの戦意を挫くかのように、別方向からもガサガサと気配が近づく―――
【BUHOOッ!BUFUUUッ!】
「そ、そんな……もう一匹出てくるなんて……」
―――初めのオークと同じくらいの巨体をしたもう一匹のオークが現れた。
驚愕して絶望的な表情をしているカイに向かってユウリが叫ぶ―――
「カイ!―――先に出て来た方から倒すわ!落ち着いて魔術を使って!」
「う、うん!―――《火球》!!!」
火属性の魔法石が取り付けられた杖で、強化された《火球》を放つカイ―――
―――それに乗じて槍を構えて最初のオークに突っ込んでいくユウリ。
しかし―――
―――ドオォンッ!と《火球》の直撃を受けたオークは炎に塗れながらも、手にした盾でユウリの槍を受け止める。
「―――クゥッ!このっ!」
槍を止められたユウリは、焦りを浮かべた表情で次の攻撃を打ち込もうとするが―――
「イヤァ―――ッ!放してぇ!!」
―――後方から聞こえてくる悲鳴は、幼馴染の声だった。
「カイ!!―――このっ!!カイを放せぇ!」
腕を掴まれ、片腕で吊り下げられたようになっているカイの姿を見て、激しい怒りに飲まれるユウリ―――
―――手にした槍を、カイを捕まえているオークに向けて突進していく。
「―――ワアアアアッ!!!」
その槍がオークの肩口に突き刺さると―――
【BUMOOOO―――ッ!!!】
―――オークが出血と共に掴んだカイを放り出す。
「キャアアッ!!」
途端に地面に落とされたカイは尻もちをつくがユウリが声を張り上げて―――
「離れて!カイ!すぐに体勢を立て直して―――キャアッ?!」
「ユウリッ!?クッ!―――《火球》!」
ユウリの隙をついて、もう一匹のオークがユウリを太い腕で殴りつけたところで今度はカイが《火球》を打ち込んで、その炎に怯んだオークがバタバタと暴れているところに―――
【BUHUOGAAA―――ッ!!!】
―――今度は正確にオークの喉元にユウリの槍が突き刺さった。
首から噴水のように鮮血を噴き出すオーク―――
―――その返り血を浴びて赤く染まっていくユウリ。
「グゥウウッ!!!―――死ねぇええ!!!」
深々と突き刺した槍を、力いっぱいに押し込むユウリ―――
―――だが、オークはもう一匹いる。
【BUHOOッ!!BUFUUUッ!!】
一匹倒されたことに興奮した残りの一匹が血塗れのユウリに突撃してくる―――
「ユウリッ!―――危ないっ!!!」
―――まだ床に座り込んでいたカイが叫ぶ。
「クッ?!―――抜けないっ!」
トドメを刺したオークに深く突き刺しすぎたために、槍が引き抜けず戸惑うユウリにオークの手が迫る―――
―――そして、
その手がユウリを掴まんとしたその瞬間―――
「ぎゃぶるるる~!!!」
―――また別の生き物の声がその場に響き渡った。
「……えっ?」
その声を聞いた途端、オークの動きが止まった。
オークの視線は河原の一点を見つめ、その身体は固まっている。
ユウリもカイも恐る恐るその視線の先へと自分達も目を向けると、そこには―――
「ぎゃぶるる!きゅるううっ!!」
―――大きな瞳に輝く黄色い色をした身体の小さな龍の様な生き物。
それを見た瞬間、スコーピオは―――
「ファンロン!?―――おいっ!サジテール!お前!!どういうことだっ!!!」
「ファンロン!?―――い、いや、さっきまで、すぐそこで遊んでいたんだ!まさかあんなところに飛び出すなんて!?」
―――面倒を見ていたサジテールを責めるが、ファンロンが姿を見せてしまった以上はすぐに取り戻すことも出来ない。
しかし―――
そのファンロンの姿を見たオークは、まるで恐ろしいものに出会ったかのようにして、後退りし始めている。
呆気に取られていたユウリだが、すぐに自分を立て直して息絶えたオークの喉笛に突き刺さった槍を冷静に引き抜き、後退りしていたオークの横から回り込んで、斜め下から槍をオークの顎下に突き刺す。
「―――ヤァアアアアッ!!!」
【GYUOAAAA―――ッ!!!】
顎を貫かれたオークは血の泡を吹きながら手足をバタバタと暴れさせて、やがては動くことを止めた……
「ハァハァ……ハァハァ……」
「ユ、ユウリ……」
オークの鮮血で血塗れになったユウリに、カイが心配そうにして近づく。
「ハァハァ……ハッ!?さっきのは?」
正気を取り戻したようにさっき途中から現れた謎の生物を探すユウリだったが、先ほど現れたばかりのそれはもう姿がない―――
「い、一体……何だったの?」
「わ、分かんないけど……助けて、くれたのかな?」
オークを鳴き声だけで竦ませる謎の生物の存在に、ユウリもカイも恐ろしさを感じていたが、今は食料を探すことを優先することにする。
「カイ……オークの肉って食べられるって聞いたことがあるわ」
「えっ!?……これ……た、食べるの?」
血塗れのオークを見て、カイはヒィッ!と思わず引いてしまう。
「これから冒険者になるのなら、このくらいのこと、経験しておかないとこれから食べ物に困ることなんて幾らでもあるわ。何も頭を食べようって訳じゃなくて、腕だけでも持って帰りましょう」
「う、うん……そう、だね……焼いたらいけるかな……」
ユウリは槍の穂先でオークの腕の解体を行っていく―――
―――両腕を切り取ったユウリは、返り血の咽返る鉄の様な匂いを落とすため、上着を脱いで川に足をつけると手で水を掬って顔や腕についた返り血を洗い流していく。
その間にカイは周囲の警戒をしつつ、自分の力不足を痛感しながらユウリが身体を洗い流していくのを見ていた。
そして、二日目の夜が近づいて来ていた―――




