ルドルフ=ケーニッヒの受難
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―――八雲は建設したターミナルの敷地を囲むように柵を『創造』して侵入者が出ないように対策する。
「何もないけど変な事件現場とかになって欲しくないからな」
「事件って……それって八雲君の言うところのフラグなんじゃ……」
「シッ!……マキシ……それ以上は言ってはいけない……さてと!それじゃあ皆で首都の散策でもやりますか!」
八雲の提案にマキシ、ウェンス、サジェッサは頷いて、改めてキャンピング馬車で外壁門を越えて首都に入場するのだった―――
―――八雲がアードラーに入った頃
首都アードラーの冒険者ギルドに暗い顔で佇む男がひとり、窓際に設置されたテーブルに座って溜め息を吐いていた。
「ハァ……八雲にはあんな悪態ついちまったけど、実際のところ言われた助言は尤もなんだよなぁ」
ルドルフがこうして冒険者ギルドに来ているのも、ティーグルの冒険者ギルドに登録している女性冒険者のことを見るためだ。
危険と隣り合わせの冒険者稼業ではあるが、女性冒険者も登録数は決して少ない訳ではない。
この世界では男女共通で十二歳から各ギルドに登録が可能となる。
かく言うルドルフも子供の頃に育ててくれたレベッカの力になりたいと、同じレベッカの孤児院で育ったラースとふたりで冒険者ギルドに飛び込み、そこからこうして今は英雄クラスと言われるLevel.60を超えた存在として一目置かれるようにまでなった。
しかしラースが皇国騎士団へと入団して進む道が別たれたものの、その後もルドルフは只管にクエストと練度で向上に努めていて、正直なところ女性については他の冒険者達に教えられた玄人の娼館に行って、その日のお世話になったことがあるくらいで真面な恋愛なんてした経験がなかった。
冒険者になる女は元々パーティーに加入しているケースが多く、単独の女冒険者というのは少ない。
いたとしてもそれはもう女を捨てたようなゴリゴリのマッチョな女が殆どで、美しさとは程遠い冒険者しかいないのだ。
「贅沢は言わねぇけど……グレイ・コングみたいな女は流石に勘弁して欲しいからな……」
―――グレイ・コング
密林地帯など森に生息する魔物であり、見た目は灰色のゴリラといった姿だが腕力も強く、且つ魔術まで繰り出してくるだけの知能もある厄介な魔物である。
そう呟きながらも今度は受付嬢の方へと視線を向けると―――
「ウフフッ♪ それでね―――」
「やっだぁ♡―――」
―――花のように可愛い笑顔を浮かべて雑談をしている受付嬢達が見える。
「やっぱ可愛いよなぁ~八雲のヤツもエディスを嫁にした訳だし、俺にもチャンスが―――」
「―――何がチャンスなんだ?」
背後から黒く大きな影に覆われて野太い男の声で話し掛けられたルドルフは、ギギギッとまるでブリキ人形の様に首を後ろに向ける。
「サ、サイモン?!―――ビックリするだろう!オーガかと思ったぞ!!」
顔をすぐ近くまで接近させる厳つい顔のギルド長に、ルドルフが思わず本音で叫ぶ。
「誰がオーガだっ!……お前こそ強姦魔のような眼でうちの娘達を見るんじゃねぇ!!」
そんなルドルフにサイモンも負けじと言い返す。
「誰が強姦魔だっ!……お前こそ魔物みたいな図体しやがって!!」
醜い男同士の怒鳴り合いに受付嬢のみならず男の冒険者ですら冷やかな目で見ていた……
そんなところに―――
「あ、あのっ!―――すみませんっ!!」
「あぁあっ?誰だ……よ……」
唸り声を上げながら、突然声をかけてきた相手に振り返ったルドルフの目の前には、まだ幼さの残るふたり組の少女が身体を竦ませて立っていたのだった―――
―――ルドルフが少女達に声を掛けられていた頃
八雲はというと首都アードラーの内部壁門を越えて、高級なブティックやカフェが立ち並ぶ貴族御用達の店を見て回っていた。
「さっきの服屋、なかなか品揃えが多かったなぁ」
「うん!でも、あんなにお洋服買ってもらっても、ホントによかったの?」
歩きながらマキシが申し訳なさそうに八雲の顔を覗き込む。
「まあ、こんなタイミングなかなか無かったから、いいさ!ウェンスとサジェッサにも、もっと色んな服着てもらいたいって思ったし」
「ありがとうございます八雲様。わたくし達の分まで買って頂いてしまって」
「本当に申し訳ありません。本来なら『龍紋の乙女』の皆さんを優先して頂くところを」
マキシと一緒に洋服をプレゼントされたウェンスとサジェッサは、八雲の妻である『龍紋の乙女』達を差し置いていいのかと恐縮してしまっていたが、
「いいから、いいから。今度出掛ける時にでも着て見せてくれよ?」
「はい/////」
「ありがとうございます/////」
ふたりは赤くなって改めて八雲に感謝しながらも、また次があるのだと期待するのだった。
「それじゃあ、どこか店に入って飯でも食おうか?」
「うん!行こう♪」
八雲とマキシ達は近場で雰囲気の良さそうなオープンカフェを探して、丁度建物の角にある店を見つけて皆で席に着いた。
「俺は何にしようかな―――」
「―――だから!俺について来ても無駄だって言ってんだろっ!!」
―――八雲がメニューを広げて注文を考えようとしていた時、
そこに男の大声が響き渡る―――
「―――ンッ!?……今の声は……」
―――妙に聞き慣れた声だと思い其方を向いた八雲の目に入ったのは、自分が『創造』した黒いジャケットとパンツに身を包んだ冒険者英雄クラスのルドルフ=ケーニッヒとその後ろをまるで雛の様につき従う少女ふたりの姿だった。
「あれは……おお~いっ!―――ルドルフ~!!」
カフェの席から声を掛ける八雲に気がついたルドルフは、まるで救いの神にでも出会ったかの様な顔をして八雲の元に全速で駆け寄ってくる。
「八雲っ!お前、いいところにいた!!―――ちょっとコイツ等のこと何とかしてくれよっ!!!」
そう言って、後ろからついて来ていた少女達を指差して声を張り上げる。
「いや、そんなこといきなり言われても意味分からねぇよ……誘拐?」
「―――誘拐じゃねぇ!コイツ等、俺に弟子入りみたいな真似してきて、ダメだって言っても聴かねぇんだよ!!」
「……誘拐?」
「真面目に聴けっ!!」
「兎に角さ、初めから話してくれよ。じゃないと話が見えない」
「お、おう……今日、冒険者ギルドに行ったら―――」
―――少し前の冒険者ギルド
サイモンと言い合いをしているルドルフの元に近づいてきた少女ふたり組は神妙な面持ちで、
「あのっ!貴方が英雄クラスのルドルフ=ケーニッヒさんでしょうかっ?」
蒼色の長い髪をした少女が、意を決したように問い掛けてくる。
「……人に名を聞く時は自分から名乗れ。でないと相手に狙っているのかって勘違いされるぞ」
怒鳴り合っていた顔から真面目な顔つきに戻ったルドルフに諭されて、
「ごめんなさい。私達はティーグルの東にあるラングルトンから来ましたユウリ=ユーレシアと―――」
そこでもうひとりのピンク髪でセミロングの少女へ目配せするユウリに促されて、
「―――カイ=カーマインです!」
ペコリと頭を下げるカイ。
ユウリは顔つきも幼さがありながらも綺麗な顔をしていて、ボロボロの服を着ているが髪は大事にしているのか艶のある長い蒼色の髪をしている少女だ。
その隣にいるカイはその顔つきは可愛らしさ満点の少女で、ピンク色のセミロングの髪はサラサラとしている少女だった。
「ラングルトン?それって確か―――」
「―――亡くなったダニエーレ=エンリーチ侯爵の領地にある街だ」
サイモンがルドルフの言葉に続けて応える。
「ああ、あのヒキガエルの領地か……それは色々と苦労しそうなところだな」
シュヴァルツ包囲網で暗躍していたダニエーレ=エンリーチは、当時のイロンデル公王ワインドの疑心暗鬼により斬り殺されて海中に沈んでいった。
その後、謀反同様の行動を行っていたダニエーレの領地は一旦この国の公王エドワードが預かり、行く行くは別貴族に下賜される予定だ。
「おい、ルドルフ。亡くなったとはいえ、滅多な事を口にするもんじゃないぞっ!どこで誰に聞かれているか分からん」
「ハンッ!あのヒキガエルが変態のクズだったことはティーグルじゃ、その辺の街娘だって知っていることだぜ!敵だったとはいえワインド公王の剣で斬られて死ぬなんて、ヒキガエルには勿体ないくらいの死に様だぞ!」
悪口の止まらないルドルフに、サイモンは顔を右の掌で覆いながら、やれやれと首を振っていた。
孤児院で育ったルドルフは貧困層の子供や女達がどんな扱いを受けるのか、またその鬼畜な所業の大半が腐敗した貴族だということを嫌というほど見てきて知っていた。
その中でもダニエーレと第二王子であるゲオルクは誰もが忌み嫌い、恐れるほど悪い噂しかない。
「ゲオルク王子は八雲に恐れをなして領地に引き籠ってるらしいけど、また何かやらかすかも知れないからな」
「―――いい加減にしろ!ルドルフ!それ以上は不敬罪で捕まるぞっ!」
また言い合いを始めそうなふたりを前にして、
「―――あのっ!すみません。話しを聴いて頂いても?」
ユウリが真剣な顔でルドルフとサイモンに告げた。
「あっ?ああ、悪かったな。それで俺に何の用事だ?依頼か?」
と問い掛けたもののユウリもカイも麻布のボロボロの服装で、路上に転がるストリート・チルドレンだと言われてもおかしくはない姿だ。
そんな女の子ふたりが英雄クラスのルドルフに支払えるだけの報酬を用意出来るようにも見えない。
そして何より、そんな姿が自分の子供の頃の姿に重なって見えるルドルフは少し瞳を細めてラースのことを思い浮かべていた。
「いいえ……依頼ではありません。あの、私達を―――ルドルフさんのパーティーに入れてください!」
「―――お願いしますっ!」
そう言ってガバッ!と頭を深く下げるユウリとカイを見て口をあんぐりと空け、呆気に取られるルドルフだった……
―――現在に戻って、
首都アードラーのカフェの八雲達。
「―――てな訳で、それからずっとついてきやがるんだよ」
カフェの同じテーブルに座ったルドルフが、頭を抱えるようにして八雲に説明した。
「ルドルフと……パーティーって……プフッ!!」
八雲は思わずバルバール迷宮に一緒に潜った時のことを思い出して噴き出してしまった。
「テメェ!他人事だと思って楽しんでるだろっ!!」
「いや、悪いっ!パーティーと聞いて、ついバルバール迷宮のことを思い出してさ♪」
「うるせぇ!あの時のことは忘れろっ!」
「分かった!分かった!それで……君達はどうしてルドルフとパーティーなんて組もうと思ったの?」
隣のテーブルに座らせて、八雲が注文してくれた飲み物と食事をユウリは行儀よく食べながら、カイはよっぽどお腹が空いていたのか、必死な様子でパクパクと食べていた。
八雲に突然話しを振られて、落ち着いているユウリが答える。
「強くなるためです」
ハッキリとした口調で答えるユウリに、八雲もマキシ達も鬼気迫る想いを感じて真剣な顔つきに変わる。
「強く、とは?ルドルフとパーティーを組めば、君が強くなれるのか?」
八雲は先ほどまでの優しい雰囲気から、ユウリの真剣な気持ちに応えるように表情を引き締めて問い掛けた。
「私とカイは今年で十六になります。私達が住んでいたラングルトンは、侯爵のせいで皆が重い税に娘を売ることも普通にあるところです……それは侯爵が亡くなってもすぐには変わりません。私とカイも、親に売られそうになったところを逃げ出してきました」
突然ユウリが語りだした話しを八雲は黙って聴いていたが、
「……ダニエーレ=エンリーチ侯爵の領地だ」
と、ルドルフが八雲に告げると途端に八雲の顔つきが曇った。
「そんな私達が生きていくには強くなって自分の身は自分で護らないといけないと思って、ティーグルで下働きをしながらお金を貯めて、冒険者ギルドに登録したんです」
「何故、冒険者ギルドなんだ?商人ギルドでも生産ギルドでも生活するのに困らないくらいの働き先は見つけることも出来ただろう?」
八雲が疑問に思ったことを口にすると、
「私達は強くなりたいんです。たとえ親であっても売られたりしない、誰の力にも屈しない、自分達だけでも生きていける強さが!」
ユウリはカイの手を握りながら、語気を強めて答えた。
「―――強さとはなんだ?」
「えっ?」
「君の言う強さとは何だ?」
八雲の質問に一瞬驚いたユウリだったが―――
「誰にも―――誰にも大切なものを奪われないための強さ。そのための力です」
―――真っ直ぐに八雲達を見つめて答えるユウリの瞳には一切の迷いも躊躇いもなかった。
「君はどうなんだ?」
ユウリの横にいて心配そうな顔をしているカイに問い掛ける八雲。
「えっと……私は……ユウリと一緒にいられるように……強くなりたい……です」
そう言ってユウリを見つめるカイと、そのカイに微笑みを向けるユウリ。
「なるほど……ふたりの想いは分かった。だけど冒険者ギルドに登録したばかりってことは、君達のカードは何色なんだ?」
するとユウリとカイは、麻布のボロボロの服から自分のギルドカードを差し出すと、八雲の想像通りホワイトカードだった。
「ルドルフが英雄クラスのブラックカードだってことは知っているんだよな?こう言うとキツイかも知れないけど、最高クラスの冒険者がホワイトカードの君達とパーティーを組んで、一体何のメリットがあるんだ?」
「それは、お家の掃除でも洗濯でも、食事の用意でも何でもします!」
「ルドルフが夜の相手をしろって言ったら?」
「―――おいっ!八雲!!」
流石にその問い掛けには黙っていられないルドルフが、八雲に掴み掛かる勢いで声を張り上げる。
「その時は、私が―――」
「―――馬鹿野郎っ!!!」
自分が相手をすると言い掛けたユウリに、ルドルフが怒鳴りつけた。
「誰がお前みたいなガキの身体なんかで喜ぶかっ!俺をそこいらの変態貴族と一緒にすんなっ!!」
今まで何度も貴族の慰み者にされた貧困層の子供達を見てきたルドルフの逆鱗に触れたのだ。
「それでも!!―――」
ユウリはルドルフの足元にしゃがみ込んで、ゆっくりと地面に両手をつくと土下座する。
「―――私達を強くしてくださいっ!!お願いしますっ!!!」
慌ててカイもユウリの隣で土下座して頭を地面に擦り付ける。
「お、おい!やめろっ!!おいっ!―――や、八雲!何とか言ってくれよっ!」
「自分のことだろう?本当に嫌なら両脚でも圧し折って置いて行けばいい」
「容赦ねぇなっ!―――鬼かっ!!お前はっ!!!」
「―――それが嫌なら、試してみるしかないな」
静かに告げる八雲に、ルドルフも落ち着きを取り戻して、
「試す?一体何を?」
と問い掛けると、八雲はニヤリとした悪い笑みを浮かべてユウリとカイを見る。
「勿論それは―――英雄とパーティーを組んで生き残る力があるかどうかをだ」
その悪い笑みにユウリとカイのみならず、ルドルフまでが不安に駆られていた―――




