古代龍王 討伐戦
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―――神龍と一心同体となる『騎乗龍化』となった八雲とイェンリン。
対するのは八雲に古代龍王と名づけられた、ダヴィデ=カノッサが一体化した古代龍の集合体―――
元々が巨大な古代龍の亡骸がニ十体集合して体型が変形した古代龍王は首がニ十本、羽根が両側合わせて十枚、尻尾も十本となりその巨体は黒神龍、紅神龍の十倍以上の大きさを有している。
「それじゃあ、最終戦といくかっ!―――ノワール!!」
「いくぞっ!紅蓮!―――八雲!抜かるなよっ!!」
黒いオーラを纏う紐のような物体で両手両足が繋がった八雲は、感覚も繋がってまるで自分の身体の様に黒神龍の巨体を動かして古代龍王の周囲を飛翔する―――
―――イェンリンは紅蓮の手にする黒炎剣=焔羅に装飾された魔法石の中で、光属性を付与された宝石に自身の魔力と紅蓮の魔力を注ぎ込む。
イェンリンの魔力は八雲と比較すれば低いが、常人と比較すれば十分な魔力量を有している―――
―――焔羅に込められた魔力がその刃に光属性の効果を発動する。
「いくぞォオオッ!!!」
イェンリンと紅神龍は、巨大な古代龍王の正面から突撃を開始した―――
―――光輝く巨大化した焔羅を振るう紅神龍。
巨大化した古代龍王の脇腹を高速で飛び抜けると、突き刺さった焔羅が横一直線に古代龍王の腹を引き裂く―――
【GYUOAAA―――ッ!!!!!】
―――本来アンデッド化した古代龍が痛みを感じることなどはない。
しかし、光属性魔術による肉体浄化は別だ―――
【おのれぇええっ!!―――この忌々しい小蠅共がぁああっ!!!】
―――中央の首からダヴィデの巨大な声が響き渡る。
「八雲!!―――やはり光属性は効果があるぞっ!!」
八雲に向かって効果を伝えると、イェンリンと紅蓮は旋回して空中から古代龍王に突撃を繰り返しては光属性が発動した焔羅で巨大な身体に傷を負わせていく―――
「おうっ!だったら俺は―――」
―――膨大な魔力を黒神龍に流し込み、その手に握られた夜叉と羅刹に光属性魔術を付与する八雲。
黒神龍の握る巨大化した蒼太刀夜叉と蒼太刀羅刹を、腕をクロスさせるようにして両脇に納刀したような体勢を取り―――
「九頭竜昂明流・八雲式騎乗龍術
―――『龍咆哮閃・光』!!!」
神速応変の出口は一瞬の間に在り、
敵気を感じない出口は間が抜けた死太刀となり、
武技にあらず。
居合の命は電瞬にあり。
変化自在の妙、剣禅一味の応無剣を至極とす。
―――龍の咆哮は千里を駆ける。
龍の咆哮と化した巨大な太刀で繰り出す居合いの一撃は空を切り裂き、真っ直ぐに古代龍王を目指していく―――
―――そして、その一撃は音もなく巨大な古代龍王の身体に吸い込まれていく。
次の瞬間―――
―――『龍咆哮閃・光』が吸い込まれた横腹が、✕の字状態でぐぱぁあっ!と身が開き、中にある臓物がドロリと勢いよく体外に飛び出してくる。
【GYUOOOO―――ッ!!!!!】
轟音の叫び声を上げる古代龍王―――
―――八雲の光属性魔術を付与した『龍咆哮閃』は、やはりアンデッドの身体に効果を発動して目に見えるダメージを与えた。
「よしっ!―――んん?……なんだ!!」
八雲が驚いたのも無理はなく、つい先ほど古代龍王に負わせた傷は見る間に塞がっていく―――
―――その前にイェンリンがつけた無数の傷も塞がっていた。
「なんだっ!?―――『回復』が使えるのか!?」
困惑した八雲だったが、イェンリンが接近して―――
「いや!アンデッドに『回復』は使えん!あれは魔物が使う『修復』だ!魔力が枯渇すれば『修復』は出来なくなるはずだが」
「いや、古代龍って死んでも腐らないくらい魔力の塊だったんだろ?いつ魔力切れるんだよ……」
―――古代龍王の溢れるくらいの魔力に八雲は軽く目眩がする。
無限地獄が思い浮かぶ中、古代龍王はニ十本の首がふたりに向いたかと思うと一斉に咆哮攻撃を発射した―――
「―――また咆哮かっ!!」
―――発射された白い咆哮攻撃を、左右に分かれて回避する八雲とイェンリン。
しかしニ十本の長い首となった古代龍の頭は、『龍眼』を用いて高速移動で飛翔する黒神龍と紅神龍を確実に追尾して、咆哮の光がふたりのすぐ背後まで接近して追いかける―――
―――ニ十本あるブレス攻撃が背中に迫る度に旋回を繰り返して回避する八雲とイェンリンだが、
「ぐぅうう―――!!!」
遂に八雲がその咆哮の一本から直撃を受ける―――
―――黒神龍の背中に直撃した咆哮は、黒神龍の鱗によって弾かれてはいるが、八雲はノワールのことを心配するあまり動きの切れが落ちた。
【しっかりしろっ八雲!!!―――我の身体はあの程度の咆哮など撫でられた程度だっ!!!】
動きの切れを失った八雲にノワールが喝を入れる。
「すまんっ!気合いを入れ直すっ!!しかし、あのデカブツをどう仕留めるかだな」
今もニ十本の首から次々にブレス攻撃を繰り出し、流れ弾と化したブレスの白い閃光が浮遊島や首都レッド方向にも飛来して、フレイアの防護障壁に直撃すると衝撃が首都を揺るがせた。
【イェンリンッ!―――レッドがっ!!】
「分かっている!!だが、この『修復』の能力、思った以上に厄介だぞ!」
紅蓮の声がイェンリンに焦りを募らせるが古代龍王の『修復』能力が続く今、先ほどから斬りつけるイェンリンと紅蓮の攻撃も瞬く間に『修復』されていく―――
【フハハハアッ!!―――この儂の新たな身体にはその様な攻撃、児戯に等しい!さあ、大人しく滅ぶがいいっ!!!死ね死ね死ねェエエ!!!】
―――すると古代龍王の咆哮攻撃が続く中で、古代龍王の巨体の周囲に大量の魔法陣が展開されていく。
「不味いっ!!―――イェンリン!魔術攻撃が来るぞ!!!」
「チィッ!!―――紅蓮!障壁を展開だっ!!!」
属性魔術・上位
《炎爆》
《嵐爆》
《大地爆》
《氷爆》
《黒爆》
古代龍王の周囲の魔法陣から同時展開された魔法陣から一斉に発動されると―――
「ウアァアア―――ッ!!!」
「グゥウウウ―――ッ!!!」
―――爆炎と竜巻、大岩に氷の嵐、そして漆黒の雷を振り撒く爆発が八雲と黒神龍、イェンリンと紅神龍に襲い掛かる。
重ねられた強力な魔力の奔流に飲み込まれ、障壁を張っていてもその衝撃によって木の葉の様に振り回されながら吹き飛ばされて、レッドから離れた郊外に落下していく八雲と黒神龍、イェンリンと紅神龍―――
―――巨大な黒神龍と紅神龍が大地に激突する。
爆発した様に大きな土煙が落下地点に舞い上がった……
「―――八雲殿っ!イェンリンッ!!」
北部の魔物暴走の侵攻を阻むため剣を振るっていたブリュンヒルデは、膨大な魔力と魔術の発動を感じて空を見上げると、強烈な魔術攻撃によって大地に落下していく八雲と黒神龍、イェンリンと紅神龍を目にする。
「クゥウッ!!―――おのれぇえ!死霊使い!!」
ふたりの元に駆け出そうとしたブリュンヒルデをクレーブスが止める。
「ブリュンヒルデ!―――貴方が今すべきことは魔物暴走を殲滅、魔物を討伐することです!」
「クレーブス!お前は八雲殿が気がかりではないのか!!」
立ち塞がるクレーブスにブリュンヒルデは今にも剣を向けそうなほどの勢いで問う。
「私は―――八雲様とノワール様を信じています」
「ウグゥ……」
ジッと見つめてきて告げられたクレーブスの言葉にブリュンヒルデの身体は硬直する。
「ブリュンヒルデ……貴方の気持ちは当然分かります。私も同じです」
「だったらっ!!私を―――」
「―――ですが!……あの八雲様ですよ?このまま、やられっ放しだと思いますか?」
「……えっ?」
クレーブスの言葉にブリュンヒルデは気の抜けた返事を返してしまう。
そんなブリュンヒルデから視線を外して、クレーブスは八雲達が墜落した方向の空を見つめていた―――
―――大地を削り斜めに向かって埋まるように落下した八雲と黒神龍、イェンリンと紅神龍……
「痛つつ……大丈夫か、ノワール?イェンリン、紅蓮?」
【我は大丈夫だが……こんな攻撃で大地に落とされるとは、屈辱だっ!】
「余もかなり頭に来たぞ……あの死霊使い……絶対殺すっ!!!」
【落ち着きなさいイェンリン……すぐに殺しては呆気なさ過ぎるわ、長く苦しめてやらないと……】
(えっ!?紅蓮って、そっち系?―――この中で一番怖いこと言ってますよっ!?)
静かに告げる紅蓮の言葉に一番恐怖が走った八雲―――
―――だが、そんな八雲達の上空に、あの巨大な古代龍王の影が落ち込んで覆っていく。
【クックックッ!アァハハハッ!!!―――あれほど優位に立っていたお前達がこうして儂の足元にひれ伏していることが愉快でならない!!!だが……儂の受けた屈辱はまだまだこんなものではないぞォオオッ!!!】
興奮していくダヴィデとは逆に八雲はそれを見上げながら至って冷静だった―――
「はぁ……『カノッサの屈辱』か……中身は違っても歴史に残るエピソードが、この異世界でも生まれちまうなぁ」
ダヴィデにとっては意味の分からない八雲の元いた世界の話しに、
【なんだ?何を言っている?恐怖のあまり、頭がおかしくなったのか?】
馬鹿にしたように問い掛けるダヴィデだったが―――
「頭に気をつけるのは―――お前だ」
―――八雲は古代龍王の遥か上空を見上げていた。
その先には―――
「―――マスターより発射許可の『伝心』を確認」
ラーン天空基地の指令室にある管制官席に座る堕天使ラーンに報告するディオネ―――
「了解……アテネは照準を、アルテミスは『反射衛星』起動、ペルセポネは魔力充填開始」
「了解しました」
「了解です」
「了解だ!」
「タイミングは私が……トリガーはディオネに」
「了解しました」
―――その間にも、この異世界の惑星軌道上にある八雲が『創造』して打ち上げてあった『反射衛星』が、集束した膨大な魔力と太陽光を同時に変換された光線で衛星間を繋ぐ。
そうして運ばれてきた力をラーン天空基地の上部地表に八雲が設置した巨大な魔力集束部へと魔力と光を遥か上空の衛星から投下直撃させる―――
―――と、同時にラーン天空基地の浮遊島の最下部に八雲が新たに設置した魔術放射発射口が、駆動音を立てて地表に向けて伸びていき、その周囲も駆動して補助パーツが展開していく。
「ラーン様、『反射衛星』から魔力集束部への放射成功。基地中央最下層の魔術放射発射口まで魔力転送完了です!」
「魔力の充填モニター、充填率フルマックスを確認!―――いつでも撃てるぞっ!!」
アルテミスとペルセポネがラーンに勢いよく報告すると、
「照準!目標『古代龍王』に固定完了。外しません」
アテネが照準を『索敵』スキルで目標対象に固定したことを告げる。
「……《天空基地殲滅極煌》……発射」
「―――発射!!」
ラーンのタイミングに合わせて、ディオネが手元にあるレバーに取り付けられた発射トリガーを引いた―――
―――地上では天空基地の動きを察知して、
空を見上げていた八雲は―――
「おい―――ダヴィデ=カノッサ!!」
―――急にダヴィデに話し掛ける。
【なんだ?九頭竜八雲……今さら命乞いでもしたいのか?お前がその大地に跪き、額を大地に擦りつけて命乞いをするなら、心広い儂は考えてやらないことも―――】
「―――お前……敵としては、まあまあ頑張ったよ」
自分の言葉を遮って話す八雲に古代龍王の龍の首を傾げるダヴィデ。
【はぁ?貴様一体何を口走って―――】
「それじゃあ今度こそ―――お前を仕留める!!!」
【ハハハハッ!!!どうやら本当に頭が―――】
古代龍王の身体でダヴィデが高笑いを上げたその瞬間―――
―――そのダヴィデを中心に、頭上に細い光の粒子が降り立ったかと思うと次の瞬間、天空から強烈な閃光を伴って光の柱がズドン!と墜ちて古代龍王を包み込む。
【GYAAAAXAAOAAA―――ッ!!!!!】
言葉ではない叫びが古代龍王から発せられると、見る間に身体が崩壊をし始めて浄化されていく―――
―――古代龍王の内部では、
「な、なんだ!これはァアアッ!!!―――上空!?空から何故こんな強烈な光属性魔術がァアアッ!?」
ダヴィデが崩壊しては『修復』に魔力を消費する古代龍王の体内で半ばパニック状態に陥っていく―――
「これは……八雲、お前の仕業か?」
目の前で起こっている神の奇跡のような強烈な閃光による古代龍王の浄化に、イェンリンも驚きを隠せないでいる。
「ラーン天空基地をこの前少し改造しておいたんだ。俺の『反射衛星』と並列展開して、《殲滅極煌》や《殲滅極焔》を撃てるようにした」
【我も聞いていないぞ!そんな話!!】
八雲を乗せたノワールも不満気な声を上げる。
「イイ男っていうのは色々と秘密を持ってるもんさ♪ よかったな!俺がイイ男で!!」
イェンリンとノワールに、してやったりといった表情で笑顔を返す八雲にふたりして「ウゥウ……」と唸っている。
だがその時、光の中で藻掻く古代龍王は何とか光の柱から脱出しようと崩れる身体を引き摺って、その光の外へ這い出ようとしている―――
「おっと!逃がさないぞ!!
―――《光縛鎖》!!!」
―――光属性魔術の《光縛鎖》を発動して空中に展開した巨大な白い魔法陣から無数の光の鎖が、古代龍王の身体に巻きついてラーン天空基地から照射される《天空基地殲滅極煌》の中心に引き摺り戻して固定した。
【おのれぇええ!―――くずりゅう、やくもォオオオ―――ッ!!!】
《光縛鎖》を引き千切ろうとするダヴィデだが、極煌から光属性魔術の共有化を接続した《光縛鎖》は魔力を供給されて、その強靭さを増していくと崩れゆく古代龍王にはもう引き千切る力は残っていない―――
【おのれェエエッ!!―――ふざけるなァアアッ!!!どこまでも!どこまでも追ってやる!!貴様を、キサマを殺すまではァアアッ!!!】
ボロボロの石像の様に浄化されるアンデッドの身体が崩れていく中で、ダヴィデが怨嗟の声を響かせる。
「ああ、そうかい。でも、これを受けて生き残ってから―――言ってもらおうかっ!!!」
―――黒神龍に乗る八雲。
―――紅神龍に乗るイェンリン。
大地に並び立ったニ柱の神龍の巨大な顎がゆっくりと開かれる―――
黒神龍の口内には、黒い稲妻を発して膨らんでいく魔力が―――
紅神龍の口内には、紅い稲妻を発して膨らんでいく魔力が―――
それらが臨界点まで増幅されたところで―――
「消滅しろっ!ダヴィデ=カノッサ!!!
―――『双龍崩壊撃砲』ォオオッ!!!」
―――ニ柱の神龍から巨大な黒い咆哮砲と紅い咆哮砲が発射され、膨大な神龍の魔力が黒い稲妻と紅の稲妻の光となって空を翔けていく。
そして巨大なボロボロの肉塊となり果てた古代龍王の全体を覆うように神龍達の《龍崩壊撃砲》が直撃して、上空から降り注ぐ《殲滅極煌》とクロス状態の激しい熱線で、蒸発する勢いで巨体を瞬く間に吹き飛ばしていく―――
―――それが絶望的な状況だと漸く理解したダヴィデ。
【―――や、やめろォオオオッ!!!!!もう、やめ―――】
最後にダヴィデの断末魔が辺りに響き渡り、それが途切れると―――
―――そこには、燻った黒い塊だけが残った古代龍王の成れの果てが、大地の上に山となっている……
天空から降り注いだ極煌も次第に細くなり、やがて途切れていった―――
―――黒神龍と紅神龍も『双龍崩壊撃砲』を放った顎をゆっくりと閉じる。
「終わったな……」
イェンリンが静かに告げるが―――
「いや……まだだ」
【あの男……なかなかしぶといな】
―――八雲とノワールだけはまだ警戒を解いていなかった。
「なに?あの中でまだ生きているというのか!?」
イェンリンは驚いているが、目の前には消し炭となった古代龍王の残骸しか見えない。
「隠れても無駄だ!―――お前が古代龍の体内に逃げ込む前に負わせた『地獄の業火』が消えていないのは分かっている!!」
ダヴィデが古代龍に逃げ込む際に八雲が貫いた胸に着火させた『地獄の業火』が今も八雲にダヴィデが生きていることを伝えてきていたのだ。
残骸となった古代龍の骸の中から、盛り上がってきて姿を現すダヴィデ……
既に鎧は崩壊して、元々着ていた黒い服もボロボロになり、辛うじて焼け残った布が火傷と血みどろになった皮膚に貼り付いている程度という満身創痍の姿に変貌している。
そしてその胸には、まだ八雲の『地獄の業火』がメラメラと崩れかけたダヴィデの身を焼いていた。
「ウゥウゥ……く、くずりゅう、やくもォオオッ!!ゴボッ!ゲボッ!……ハァハァ、お、お前を、お~ま~え~をォオオ……コ、ロス……殺して、やるぅうう!!!」
振らつきながらも、ゆっくりと八雲達に近づくダヴィデ。
八雲も『騎乗龍化』を解除して、蒼太刀夜叉と蒼太刀羅刹をその手に戻すと、
「しぶといな……上等だ、ダヴィデ=カノッサ。やれるものなら、やってみろ!」
ダヴィデと対峙した。
だが、まさにその時―――
―――ダヴィデを中心にして濃紫の巨大な魔法陣が大地に浮かびあがり、
「な、なんだ!?こ、これは―――ギャアアアアッ!!!」
その魔法陣から突然現れたその腕は、女の腕に見えるが途轍もなく巨大な腕で、魔法陣から生えてきた様に飛び出すと、ボロボロだったダヴィデを握りしめバキバキと骨が砕ける音を響かせる―――
「まさかっ?!―――冥聖神!?」
―――巨大な腕によりダヴィデは魔法陣に向かってズルズルと引き寄せられていく。
その時、魔法陣からまた別の影が飛び出して現れる―――
「ッ!!―――死神!!!どうして此処にっ!?」
【……久しいな……黒神龍の御子……九頭竜八雲……】
―――死神
生命の死を司るとされる神で世界各地に伝説が存在する。
冥府においては魂の管理者とされ、大鎌を持ち、黒を基調にした傷んだローブを身にまとった人間の白骨の姿で現れ、完全に白骨化した馬に乗っている。
その大鎌を一度振り上げると、振り下ろされた鎌は必ず何者かの魂を獲ると言われ、死神の鎌から逃れるためには他の者の魂を捧げなければならないと言い伝えられている。
「あ、ああ、どうも、お久しぶりです……ところで、どうして此処に?それにあれって……冥聖神なんだよな?」
【……我が主は……あの男……ダヴィデ=カノッサの所業にお怒りである……現世で本来、弔われるはずの……数々の魂の器を弄び、主の楽園『冥府』に辿り着いた多くの民を……悲しませ続けるあの男を……こうして迎えにきたのだ……】
「それは、エルフの娘達か?それとも古代龍達か?」
【それら……すべて……】
―――死神の言葉に、八雲の脳裏には『自業自得』という言葉が浮かぶ。
「だけど、神が現世に直接干渉して、いいものなのか?」
神が直接この現世に干渉することは、この世界にとっていいことには思えない八雲は緊張した口調で死神に問い掛ける。
【あの男はこの後……汝に命を奪われる運命だった……それを少し早めたに過ぎぬ……】
「いいのそれで!?……なんか強引な気はするけどダヴィデを葬ってくれるなら、もうそれでいいか……」
【汝が寿命を迎える時は……我が直接この鎌で狩りにきてやろう……】
「―――全力で遠慮します!」
御免被ると全身で表現する八雲を見ながら、死神が山になった古代龍の残骸を指差す―――
【現世の神龍達よ……我が主から汝らに託す魂が、今そこに誕生した……それを汝等は離さずに、その身の傍に置いておくようにと、主が仰せだ……】
「なに?冥聖神から?それは―――」
既に人の姿に戻っていたノワールと紅蓮が困惑していると、再び古代龍の残骸の山の一部がゴロリと転がり落ちると、
「―――ギャウッ!?」
そこから、可愛らしい大きな瞳で、鳴き声を上げる小さな龍の様な姿をしたモノが現れた。
「こ、これはっ!?―――古代龍の幼生体だ!!」
「そんな……あの子達はすべて絶えたはずなのに……」
その黄色の身体に小さな角と背中に羽根を生やした龍の幼生体が現れたことにノワールは叫び、紅蓮は驚愕する。
【確かに渡したぞ……では……】
そう言って巨大な腕に握られたダヴィデは、やがて魔法陣の中へと巨大な手に握り締められながら沈み込んでいく。
「イ、イヤだァアアア!!!―――死にたくないっ!!!イヤァアア!!!た、助けてくれェエエッ!!!いやだぁアアァアア!!!」
醜く歪んだ顔と聞くに堪えない断末魔の叫び声と共に、ダヴィデの身体はすべて魔法陣に消えていった……
死神もまた魔法陣に飛び込むように沈んで、そして最後にその魔法陣も消えていき周囲は静寂を取り戻す……
最後に残ったのは―――
「きゅぴぃ?」
―――可愛く首を傾げて八雲達に近づいてきた古代龍の幼生体だけだ。
「ハハハッ……ホント、もう、何がどうなってんだ?」
首を傾げた八雲の真似をするように、古代龍の幼生体も可愛く首を傾げて八雲達を見つめているのだった―――




