改装!天翔船
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―――カフェの店舗も立ち上げ、その衣装も色々と揃い出した頃
あっという間に学園祭まで後三日というところまで迫っていた―――
特別クラスの準備は皆が協力してきた結果、余裕のバッファを保ちながらこの三日前に辿り着いていた。
生徒会の面々はここまでに来る間に様々な申請や巡回、苦情の処理まで慌ただしく処理をして忙しい日々だった。
因みにその間もノワールとアリエス、白雪とダイヤモンドは幼年部で先生をしつつ子供達の笑顔に囲まれていた。
幼年部には催し物の出展はないが、当日はお客側として学園内を家族と回るのが恒例となっている。
そうして学生の誰もが迫っている学園祭を楽しみにしながら準備を進めている中、八雲は何処にいるのかというと―――
「こっちはこんなものだろう。シュティーア!!―――そっちの具合はどうだぁ?」
「ハァ~イッ!推進部の接続も問題無しですよぉ~!!」
―――ラーン天空基地の船渠にいた。
学園祭の準備の目途が立って、八雲は以前から考えていた天翔船の改装に取り掛かっていたのだ。
今回の改装は紺碧の歌姫で採用した三基設置の風属性魔術付与推進部を、黒の皇帝と朱色の女皇帝にも搭載すべくシュティーア、フロックと共に改装に着手していた。
「八雲様、朱色の女皇帝の外装改装の方も大体終わりが見えてきたよ♪」
「おおっ!速いなっ!?流石はフロックか。こっちも外装は大体終わったよ」
「流石なのは八雲様だろ。朱色の女皇帝の大掛かりな外部装甲変更は、ほぼ八雲様がやってくれたじゃない。その上で黒の皇帝の外装変更までこなしているんだから」
「アハハッ、まあ俺は改装に慣れているからな!リベルタスも手伝ってくれていたし」
リベルタスは既に三基推進部を搭載している紺碧の歌姫を扱っているので、即戦力で改装が捗った。
「これで二隻とも速度については問題ないだろうね♪」
ニヤリと笑みを浮かべたフロックがデッキから黒の皇帝と朱色の女皇帝の二隻を見上げながら言った。
「ああ、かなり速度も上がる。雪の女王は大型推進部にして、紺碧の歌姫の三基型と比較してみたが、大型の二基なら同じくらいの速度は出るし、雪の女王の改装は暫くいいだろうし、先に建造していたこっちの二隻の改装が先だ」
フロックと話しをしていると、シュティーアとリベルタスも同じデッキに集まって来た。
「他にやることはあるかい?」
作業の手が空いたことでリベルタスが次の作業を求めてくるが、
「いや、あとはディオネとアテネの内部点検と接続確認だけだから、もう大丈夫だ。ありがとうな!リベルタス」
「そうか。それじゃあ時間も出来たことだし、シュティーアの特訓でもやるか?」
「えっ!?アタイの特訓って、神龍様の鱗の加工のことかい?」
「それ以外に何があるんだ?これまでも特訓してきて、コツは大分掴めてきてるだろう?」
「そ、それはそうだけど……」
リベルタスの言葉にシュティーアはまだ自信が無さげだった。
そこで八雲が口を挟む―――
「ちょっといいか?シュティーア、今日はこれを使って試してみてくれ」
―――そう言って『収納』から取り出した物は、
「ええ?これって―――」
そこに並んだのは紅神龍、白神龍、蒼神龍の鱗三枚だった。
「以前に天翔船を建造する際に、外部装甲用に貰った神龍達の鱗だ。今まではノワールの鱗で特訓していたんだろう?今日はちょっと色を変えて試してみてくれ」
「それはいいけど、でも他の神龍様の鱗でも結果は同じだと思うんだけど……」
シュティーアは八雲の意図が分からずに困惑した表情を浮かべている。
「まぁ、物は試しって言うだろ?いいから試してみてくれよ」
「御子様からの御命令だ。今日はこれを試してみるとしよう。いいな?シュティーア」
「あ、ああ、分かったよ。リベルタス」
そう頷いて自分の『収納』へ三枚の鱗を仕舞い込むと、リベルタスと共に天空基地に造った鍛冶場に向かって行くシュティーア。
そのふたりの背中を見送りながら、
「あれで何かが変わるんですか?八雲様」
訝し気な表情でフロックが首を傾げながら八雲に問い掛ける。
「うん?いや、何も変わらないよ?」
「ええぇ?いや、だったら、どうしてまた態々あんなことを?」
「まあ、物は試しだって言っただろ」
「はぁ~……随分と適当なんだねぇ」
少し呆れた空気を出すフロックだったが八雲はニコリと笑みを浮かべながら、新たな姿に変わった黒の皇帝と朱色の女皇帝を見上げていた―――
―――それから作業は艦長であるディオネとアテネに暫く引継ぎをしていた。
外装の換装と推進部三基連結の作業は、ほぼ完了しているが三基になった推進部の制御については繊細なコントロールが必要となったので八雲はその点を重点的にふたりに教える。
そして八雲は引継ぎが終わるとシュティーアとリベルタスの様子を見に行こうと、シュティーアの鍛冶場に向かって天空基地の通路を歩いていく。
あれからかなり時間が経ってはいたが八雲の期待が叶うのであれば、シュティーアは大事なことに気がつけるはずだと。
すると―――
―――突然、通路の先からドカドカドカッ!と、もの凄い勢いで足音が地響きのように通路に響いてくる。
「ウオォオオ―――ッ!!!―――やぁくぅもぉ~さ~まァアアッ!!!」
「ま、待てって!!!―――おい!シュティーア!!!」
「ウオォッ!?―――何だ!?何があった!? 剣!? 狂気!? 狂戦士!?」
通路の向こうから土煙を上げそうな勢いで爆進して向かってくるのは、両手に剣を握って叫び声を上げて決死の表情を浮かべたシュティーアと、恐らくはそのシュティーアを止めようと追いかけてきているリベルタスだった。
しかし、その後ろのリベルタスの両手にも剣が握られており、パッと見で言えば何処かの戦場で襲ってくる狂人者と勘違いされそうな絵面だった……
そうして八雲の目の前までやってきたシュティーアとリベルタスが、急制動をかけて停止すると、
「で、で、出たっ!でで、出ましたよっ!!」
「はあ?出たって何が!? ガチャ?SSR?」
「ハァハァ……はぁ?がちゃ?何を言ってるんです?」
「おい、それは俺の台詞だ……それで何が出たって言うんだよ?」
「あっ!出たんです!!―――アタイの『鍛冶』スキルがっ!!!」
そう叫んで両手に握った剣を八雲の前に突き出すシュティーア。
右手には黒い剣、左手には赤い剣。
そしてシュティーアの後ろでニコリと笑みを浮かべるリベルタスの手には、白銀の剣と蒼い剣が握られている。
八雲はシュティーアの突き出した黒い剣を受け取り、その剣の出来を見回して確認する。
「うん、良い出来じゃないか。とうとうやったな♪ よかったな!おめでとうシュティーア」
「あ、あり、ありがとう、ございます……ウゥッ!ヒック……/////」
そう言って堰を切ったように瞳に涙を溜めていくシュティーア。
「でも八雲様、どうして他の神龍様の鱗で『鍛冶』スキルが発動すると分かったんだ?実は何か特別な素材だったとか?」
肩を震わせるシュティーアの後ろから、リベルタスが問い掛ける。
「いや、まったく何にも仕掛けてない正真正銘の神龍の鱗だったよ」
八雲の返答にリベルタスもシュティーアも首を傾げる。
「まあ、此処じゃ何だし、談話室に移動しようか。フロックも誘ってさ♪」
そうして三人は談話室へと移動するのだった―――
―――まだ外は明るく、陽射しが窓のカーテン越しに談話室を照らしていく。
フロックも呼び出されて、シュティーア、フロック、リベルタスを前に八雲が用意したテーブルの上に四本の剣を並べて置いた。
「さてと……まずはシュティーア、この剣を鍛える時どの鱗から『鍛冶』スキルを試したんだ?」
すると目を赤く腫らしたシュティーアが、スッと指差すのは赤い剣だった。
「なるほど。紅神龍の鱗から試したんだな」
「ああ、そうしたら神龍の鱗に対して発動が不安定だったシュティーアの『鍛冶』スキルが正常に発動を開始して、俺が発動させるのと変わらない勢いで剣を鍛え上げたんだ。それで続けて白神龍様、蒼神龍様の鱗で発動させて、最後に―――」
その場にいて見ていたリベルタスからの説明に頷く八雲。
「―――ノワールの黒神龍の鱗で発動したと。やっぱりな……」
「やっぱりって?こうなることを八雲様は分かっていたのか?」
「いや、俺も確証なんてなかったさ。だけど、ノワールの言葉がヒントなんじゃないかって思ってたから」
「ノワール様の?それは?」
リベルタスは首を傾げて八雲に問い掛けた。
「うん、『鱗は所詮ただの鱗。心はシュティーアにある』―――そう言っていたそうだ」
「心は……アタイに……」
噛みしめるようにシュティーアが呟く。
「さっきも言った通り、渡した神龍の鱗は何も仕掛けなんてしていない本物の神龍の鱗だ。だったら何が違って、何が起こったのか……それは、シュティーアの黒神龍の鱗に対して無意識に働いてしまっていた畏怖の感情が、『鍛冶』スキルを阻害していたんじゃないか、と俺は思ってる」
「つまり、シュティーアが抱いている、ノワール様に対する畏敬と忠誠の心がスキルの邪魔をしていたってことかい?」
フロックの問い掛けに八雲は頷いた。
「誤解しないで欲しいけど、シュティーアは別に他の神龍達のことを蔑ろにしている訳じゃない」
「それくらいは俺達でも分かる。しかし、主の鱗と他の神龍様の鱗ではやはり想い入れは変わってくる」
「そうなんだ。無意識の中で遠慮している黒神龍の鱗とは違う、別の神龍の鱗を相手にしてスキルが発動した時にノワールに対する無意識の想いが働かない、別の鱗には正常に『鍛冶』が発動したってことさ」
「鱗は所詮、鱗……か。流石はノワール様。シュティーアがそのことに、いつか気づくことを願っておられたのだろう」
「それで、他の鱗を試して三枚とも『鍛冶』スキルが出来たなら、神龍の鱗を鍛えられないっていうシュティーアの固定概念は自然と崩れ去るだろう?だったら黒神龍の鱗が扱えないなんて矛盾な道理は成り立たない。そうなればシュティーアの中の無意識の阻害も、鍛えられたという事実によって消失した。他の鱗に対してのスキルの発動が上手くいったことで問題が解決したってことだ」
「八雲様……アタイ、アタイは……」
何かを言い掛けていたシュティーアの頭をそっと撫でて、そして抱き締める八雲。
「よしよし♪ よくやったな!改めて、おめでとうシュティーア!!」
その言葉にシュティーアも八雲に抱き着いて強く抱きしめて、また涙を浮かべる。
「おいおい♪ 随分とここはお熱いじゃないか♪ なぁ、リベルタス?」
「……いいなぁ/////」
「へっ!?……アンタ、今なんて言った?」
「へっ?―――い、いや、別に何も?!/////」
顔を赤くして戸惑うリベルタスにフロックは首を傾げながら、それでも八雲とシュティーアを見て微笑みを浮かべていたのだった―――
―――それから、
「さあっ!!それじゃあ、改装した天翔船のお披露目と行こうじゃないかっ!!!」
八雲の声にシュティーア、フロック、リベルタスが―――
「オオオ―――ッ!!!」
―――と大きく声を上げる。
「よしっ!!まずは地上の紅龍城を旋回してイェンリンに見せつけた後に、浮遊島に戻ってノワールに見せてやろう!!」
そうして改装の終わった黒の皇帝と朱色の女皇帝にそれぞれ乗り込む四人。
黒の皇帝には八雲とシュティーアが、朱色の女皇帝にはフロックとリベルタスが乗り込んだ。
二隻の天翔船から艦体に掛かっていたクレーンや配線が次々に離れていく―――
「ディオネ!!―――黒の皇帝、出航だっ!!!」
「了解しました。重力制御部、風属性付与推進部に魔力注入―――微速前進」
―――重力制御でデッキから離れて船渠内で浮上した二隻の天翔船は、新たに搭載した三基型の推進部に魔力を注入して微速前進を開始し始めた。
外へと繋がる港口へと通じる通路を進む天翔船―――
―――専用の港口を進んで行く黒の皇帝と朱色の女皇帝の先に見える港口に設置した、分厚い防護ゲートが静かに左右へ開いていく。
そして、そのゲートを越えて改装された二隻の天翔船が大空へと飛び出してきた―――
―――推進部を新たに三基搭載し、更に全体の外装も速度重視と装甲強化を並行して行い改装終了した雄姿が大空に栄える。
「よしっ!三基推進部は正常に稼働してるなっ!いいぞっ!それじゃあ―――まずは紅龍城に向かうぞっ!!!」
飛び立った二隻の天翔船は並んで空を滑走していく―――
―――そして、
その雄姿を目の当りにしたイェンリンとノワールは当然だが大声を上げるほど驚き、そしてふたり共が―――
「余も乗せろォオオ―――ッ!!!」
「我も乗りたいィイイ―――ッ!!!」
―――と、同じリアクションをキメてくれた。
それを見た八雲は―――
「ああっ!―――その顔が見たかった!!!」
―――ふたりの驚き叫ぶ顔を見て心から満足するのだった。
改装された黒の皇帝と朱色の女皇帝に乗り込んだノワールとイェンリンは三基型推進部によるブーストが叩き出す加速に興奮が止まず、その日はふたりで八雲をベッドに連れ込んだのは言うまでもない結末だった―――




