大百足『災禍』討伐戦
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―――戦場に轟く凛々しい声
「剣聖技―――真空刃!!」
真っ先に飛び出していったイェンリンが手にするのは、新たな皇帝剣となった黒炎剣=『焔羅』だ―――
その焔羅から真空の刃を繰り出して巨大な百足の『災禍』に放っていく。
十数個の真空波が一瞬で同時に生み出されて、黒い鎧のような大百足の胴体に吸い込まれたかと思うと、そこに生じた斬撃の痕から大量の紫色をした体液を噴き出していく。
【GYASYAAHAAAA―――!!!】
頭についている巨大なハサミ型の牙をガチガチと鳴らしながら、擬音のような声を発する大百足―――
「ほう……流石は八雲の剣。斬れも使い勝手も最高だ。余のために生まれてきたと言ってもよい剣だな♪」
―――真紅の刀身に漆黒の刃が重なっている皇帝の剣。
以前よりも一回り長くなった新たな剣にイェンリンは見惚れていた―――
―――その横を飛び出してきた人物
ブリュンヒルデが構えた紅蓮剣=『紅明』を上段に持ち上げると―――
「我が勝利の剣を受けて滅びよっ!!!」
―――目の前に迫る大百足の胴体に斬りつけると同時に、斬りつけた刃の長さ以上に大百足の図太い胴体を斬り裂いていく。
胴回りだけでも三十mはある胴体の半ばまでを斬り裂いたブリュンヒルデの一撃は確実なダメージを『災禍』に与える―――
―――深く傷ついたことで、見悶えて暴れる巨大な百足は、傷口から紫色の血を噴き出して身体を捻じって身を護る様に動く。
だがブリュンヒルデは容赦なく次の剣を振り下ろしていくのだった―――
「―――僕も、強くなったことを証明する!そして、これからも八雲君と一緒に生きていくために!目の前の敵を討つ!!!」
力強く叫んだマキシは、手にした蒼龍剣=『蒼夜』を握り―――
―――大百足の胴体の上に飛び乗ったかと思うと、
「ウオオオオ―――ッ!!!」
その場で足元の胴体に蒼夜を深く吐き刺して―――
「―――【呪術・防御破壊】!!!」
―――詠唱と同時に呪印を浮かばせて大百足に行使すると、対象の全身に茨のような紋様が走って全身を駆け巡る。
対象の防御力が一気に低下する集団戦闘支援呪術のはずだったが―――
「な、なに!?―――なにが起こったの!?」
―――マキシの【呪術】は発動せずに、大百足に弾かれてしまう。
「ま、まさか―――【呪印返し】まで、この紋様に編み込んで!?」
マキシは足元の大百足の胴体を巻き付くように走る【呪術】の紋様に、他の【呪術】を弾き返すための【呪印返し】が施されていることに気がつく。
そんなマキシに向かって後方から大百足の巨大な尻尾が襲い掛かる―――
「しまっ―――」
―――その対応に遅れてしまったマキシが、蒼夜を前に構えて受けの姿勢を取っていると、
「危ないですわっ!!!」
そこに蒼龍鎧=『蒼壁』を身に纏ったウェンスが立ちはだかった―――
「―――ウェンスッ!!」
マキシが叫んだ先には蒼龍鎧=『蒼壁』を纏うウェンスが立ち塞がって主を護る―――
―――『蒼壁』は喉を守るゴージット、スポールダと呼ばれる肩当て、
そしてそれを補強するガルドブラ、肘を守るコーター、前腕を守るヴァンブレイス、下腕部を防護するリアブレイス―――
―――手首を守るゴーントリット、脇をまもるベサギューとあり胸部と背部を守るブレストプレートは強調するかのように胸の形を施し、バックプレートから構成される。
更に腰部を守るフォールド、フォールドから吊り下げられた二枚一組の小板金のタセット―――
―――胸部のブレストプレートと対になったバックプレートから吊り下げられ臀部を守るキューリット、
チェインメイルスカートの下には純白の布スカートが纏われ、その姿はまるで戦乙女のような装いだった―――
―――大腿部を守るクウィス、膝を守るパウレイン、脛を守るグリーヴ、足を守る鉄靴ソルレットからなり、その鎧の表面はすべて鏡面に仕上げられている。
一角獣のような角が付けられた頭部を保護するヘルムはフェイスオフ状態で美しいウェンスの顔が覗いていてヘルメットの間からは金髪の巻き毛が風に靡いているという美しさと強さを象徴するような見事な鎧である―――
―――その防御力は蒼神龍の鱗で出来ているというだけで最硬度の防御力を誇り、それに加えて蒼神龍の眷属であるウェンスの力が合わされば、迫りくる大百足の山のような尻尾も、その二本の腕だけで受け止めることが出来る。
ドォオ―――ンッ!!!という衝撃音と共に尻尾に体当たりされたウェンスだが、マキシの心配を余所にキリッとした顔でその巨大な尻尾を押し返して止めている―――
「マキシ様!!今のうちですわ!!!」
「―――ありがとう!ウェンス!!」
―――ウェンスの援護で一旦大百足の胴体から飛び降りて地上に戻ったマキシを確認してから、ウェンスはその尻尾を押し返して自身の蒼壁に備えられている二本の大剣を両手に持つと、目の前の尻尾に攻撃を仕掛けていく。
「―――食らいなさいなっ!!!」
その斬撃は剣を扱う他の眷属達に負けず劣らず鋭い切れ味で、連続して剣を振る度に深く斬りつけていくと大百足は傷の痛みで巨体を震わせていくのだった―――
―――その蒼い勇者の攻撃の傍では、サファイアが白龍槍=『初雪』を振り回しては大百足の胴体に次から次へと手傷を負わせていた。
「―――雪菜様を怖がらせるなどと!!魔物が少し強くなった程度の分際で、調子にのるんじゃありませんわ!!!」
子供の頃に百足に噛まれて大泣きした雪菜はトラウマとなっていて、この大百足を見た瞬間から竦み上がっていた―――
―――そんな雪菜の姿に内心では、
(超お可愛らしいですわ~♡♡♡)
などと舞い上がっていたサファイアだったが、今はそのトラウマの対象であるこの大百足を退治することで、
『―――ありがとうサファイア♡ やっぱりサファイアが一番頼りになるね♡♡♡ これはお礼だよ♪ チュッ♡/////』
と、雪菜に熱いキスをしてもらうという妄想に励んでいた―――
―――だが、当の本人である雪菜はというと、
「―――やくもぉお~!百足だよおぉ!!怖いよぉ~!!!」
と、八雲に泣きついて離れないといった状況に陥っていた……
「お、おい!ゆ、雪菜?!わ、分かったから!無理しなくていいから、向こうで離れて見てなさい。いい子だから!コラッ!ズボンを引っ張るな!!やめなさい!」
抱き着かれた八雲は雪菜を抱えて大百足への攻撃も出来ずにあたふたと泣きつく雪菜を子供にするかの様に宥めることしか出来ない。
だが、そこに現れたのは―――
「雪菜よっ!八雲の妻として、その情けない姿は何だ!!今のお前は百足にやられた時と比べてどうなのだ?―――強くなったのではないのか!!!」
―――八雲の正妻にして黒神龍であるノワール=ミッドナイト・ドラゴンが、泣きじゃくる雪菜を諭すように叱咤激励を放つ。
「ノワール……うん、そう、だよね……このままじゃ……ダメ、だよね……うん、なんかゴメンねっ!八雲!―――私も強くなったんだもんね!うん!頑張るよ!!こんな化物になんか負けないんだから♪」
先ほどまでの泣きっ面から涙を拭って顔を両掌でパンと叩き、気合いを入れて八雲に笑顔を向ける雪菜―――
「ああ、ホントに強くなったよ、雪菜。だから一緒に倒そう。お前はひとりじゃないんだから!」
―――そう言って雪菜の頭をポンポンと軽く掌で叩いて、優しい瞳を向ける八雲。
「八雲……/////」
「雪菜……」
放っておけばこのままキスでもしてしまいそうなピンクの背景色を醸し出すふたりの前に―――
「もし?おふたりとも……今は戦闘中ですわよ……」
―――と、眉間に皺を寄せながら八雲には破格の『殺気』を飛ばしているサファイアが現れる……
「あれ?サファイアいたの?それじゃあ雪菜のことはサファイアに任せるから、しっかりと護っておいてくれよ!」
「―――言われずとも雪菜様はわたくしが護り切って見せますわ!!!貴方は早くあの百足を何とかしてきなさいな!!!」
ぷりぷりとお怒りのサファイアに八雲は、
「お前、ホントに可愛いなぁ~♪ ヤキモチなんか妬いて」
と、余計な言葉をぶっ込んでしまったことで―――
「―――ハァ?」
途端にサファイアの周囲を取り囲む『殺気』の量が桁違いに増加する……
「怖い怖い!マジの『殺気』を飛ばすな!―――って、雪菜!!!」
―――遊んでいるふたりを置いて、白龍剣=『吹雪』を手にした雪菜はトラウマ克服のためにも大百足に突撃していった。
「―――ハァアアッ!!!」
大ジャンプで大百足の胴体に飛び乗った雪菜は、その胴体に吹雪を思い切り突き刺すと同時に―――
「―――《氷爆》!!!」
水属性魔術上位の《氷爆》を大百足の体内で爆発させ、幾つもの尖った氷柱のような氷の棘が百足の体内から突き出てきて大ダメージを与えた―――
「やった!やったよ!私!!!―――もうこんなヤツなんて怖くないっ!!!」
―――自ら立ち向かっていったことで、幼い日のトラウマを乗り越えた雪菜。
そのまま大百足に続けて攻撃を繰り出すのだった―――
―――ゆっくりと前に出るのは、
「やれやれ……どうにも八雲の『龍紋の乙女達』は緊張感があるのかないのか分からんな……さて、そろそろ我も出るとするか―――アリエス、サジテール、お前達はどうする?」
黒神龍ノワールは肩に鞘から抜いた黒大太刀=因陀羅を乗せて後ろに従う龍の牙序列01位と序列02位にニヤリとしながら問い掛ける―――
「―――では私は尻尾の方へと向かわせて頂きます」
―――アリエスが静かにそう答えると続けてサジテールが、
「―――では俺は真ん中の胴体に向かいます」
そう答える―――
するとノワールが最後に、
「では―――我は頭を貰うとしよう!」
それぞれの目的の攻撃ポイントへと向かっていく。
空中へ舞い上がり、《空中浮揚》で位置を取ると手には黒弓=『暗影』を握り構えて、『収納』から八雲にもらった漆黒の弓に矢を番える―――
―――空中から巨大な百足の丁度中央辺りの胴体に狙いを定めるサジテール。
そして―――
「九頭竜昂明流・八雲式弓術
―――『連弩・爆』!!!」
―――その次の瞬間、『身体加速』と『思考加速』を発動したサジテールから、残像だけしか見えない手の動きで、まるでマシンガンのように矢が次々と放たれて百足の胴体に突き刺さったかと思うと、その突き刺さった矢が胴体にメリ込み爆発を引き起こしていく。
その連射速度は実に1秒間に10本の矢を飛ばしており、100秒放てば千本の矢が放たれて《火属性魔術》を予め付与された矢が千本のミサイルのように突き刺さった対象の身体で爆発を起こすという八雲オリジナルの弓術だった―――
―――その威力は本物のミサイル張りの攻撃力と火力である。
その技は硬い外殻で覆われた胴体を次々と破壊していくほどの威力を見せつけていくのだった―――
そして次に―――
―――大百足の『災禍』の胴体の上を尻尾に向かって疾走するアリエス。
後方から響く爆発音に振り返ると―――
「なかなかやりますね、サジテール」
―――双子の姉妹の様にそっくりな顔をしているサジテールの活躍に、ひとり賞賛を贈っていた。
そうして最後尾に辿り着いたアリエスの前に二本の太い触手を揺らす尻尾が、まるで見えているかのようにアリエスに向かって立ち上がってくると臨戦態勢に入っている―――
―――アリエスは八雲と同じ黒いコートを纏い八雲から貰った大切な黒脇差=『金剛』を差して、腰を落とすと呼吸を整えていく。
「スゥー、ハァー……」
柄に手を掛けたまま静かに呼吸を整えたアリエスに、お構いなしに攻撃を仕掛けようと迫る尻尾だったが―――
「九頭竜昂明流・八雲式抜刀術
―――『咆哮閃』!!!」
―――集中して研ぎ澄まされた龍の牙序列01位の神速の剣閃が迫りくる尻尾を支える胴に斬りつけられた。
その瞬間、尻尾は動きを止めており、そして八雲に手解きを受けた技と金剛でアリエスに斬れないものは最早ない―――
「……つまらないモノを斬ってしまいました」
―――そう言って金剛を一振りし鞘に納めた瞬間、
ズル……ズル、ズル……と持ち上がった尻尾を支えていた胴体の部分が斜めに滑り、切断面が傾斜に合わせて尻尾の部分だけズレて滑り落ち、砂煙を舞い上げて大地に落下したのだった―――
―――斬り口からは大量の紫色をした体液が振り撒かれていく。
その辺りの大地を一面紫色に染めていったのだった―――
「流石は我の愛しき龍の牙達よ。さて、それじゃあ我もいくとしようか―――」
既に遥か上空に飛び上がっていたノワールは肩に乗せていた黒大太刀=『因陀羅』を両手に握り締めて、上段に構えたまま重力に任せて自然落下していく―――
―――その狙いは大百足『災禍』の頭部、
二本のハサミのような牙を持つ醜悪で無感情な目をした百足の頭頂部だった―――
「これでぇええ!!!―――トドメだぁああ!!!」
―――気迫の籠った一撃
神龍固有の《龍気》が込められて、何人たりともこの一撃を受けることなど出来はしない―――
「くたばれぇえええ―――!!!」
―――振り下ろされた因陀羅が大百足の頭頂部に斬り込まれる。
同時にその刃から放たれた《龍気》により真二つに斬り裂かれていく『災禍』を見ていた他の乙女達からもオオッ!と声が上がった―――
―――頭頂部から数十mに渡って斬り裂かれた頭から首は、
牙をビクビクと動かしながらも、まだ息をしていた―――
「チッ!―――やはり『災禍』……なかなかにしぶといか」
―――頭頂部を縦に真二つにされても動き続ける大百足。
ノワールも思わず舌打ちをして鬱陶しいモノを見る視線を向けるのだった―――
―――そして、
蒼白く輝く刀がそこにあった―――
―――九頭竜八雲は手にした黒刀=『夜叉』に魔力と共に、水の精霊の能力を注ぎ込んでいた。
「……リヴァー、この一撃で決めるぞ」
肩に乗った水の妖精リヴァーにそう宣言する八雲―――
「了解!―――やっちゃって!!マスター♪」
―――夜叉に水の精霊の能力を注ぎ込んだリヴァーは、リズミカルに八雲を応援する。
両手で柄を握りしめた八雲は、目の前にある『災禍』の太い胴体に向かって上段に構えたまま意識を集中する―――
―――『身体強化』
―――『身体加速』
―――『思考加速』
―――『限界突破』
強化系能力を発動してオーバー・ステータスを発動することで全身を蒼白いオーラが包み込んでいく―――
「参る!!九頭竜昂明流・八雲式剣術
―――『殻断・極凍』!!!」
上段に構えた刃へ流れるように注ぎ込まれる魔力が黄金の魔術回線となって浮かび上がる―――
―――漆黒の刃に黄金の魔術回線が浮かび、それを輝かせて目の前の大百足の胴体にまるでスウッと吸い込まれるようにその刃が振り下ろされた。
すると一線を引きながら亀裂すら入れずに刀身から放たれた斬撃が吸い込まれて八雲は舞い降りていった―――
―――夜叉につけられた縦の切れ込みが大百足の胴体を真二つに切断したかと思うと斬り口が黄金の光を放ち出し、次の瞬間その切れ込みから左右へと黄金の亀裂が次々に走り出していく。
更に―――
―――走り出した黄金の亀裂から今度はリヴァーの補助を受けて強化された水属性魔術極位の『極凍』が発動する。
大百足の『災禍』を真二つにした位置から左右に氷が広がっていくと、その両側を氷漬けにしていくのだった―――
「フゥ……なんとかなったか」
絶対零度の氷の中に閉じ込めた『災禍』は、そのまま生命活動を停止して永遠の眠りに就いた……はずだったが、
ピキッ……ピシッ……
「は?……おい、嘘だろ……」
真二つにされて絶対零度で氷結されても、まだ動きを止めずに覆っていた氷に亀裂を入れていく大百足の『災禍』に八雲は驚愕した。
しかも切断された箇所からなんと新たな頭が生え出してきて、二匹の大百足『災禍』へと分裂までしたのだ。
アリエスに斬り落とされた方の尻尾はどうやら三匹目にはならないようだが、自己再生能力が高いのか斬り落とされた本体側の切り口に新たな尻尾が再生されていた……
「ねぇねぇ!どうするのマスター!!アイツもう一匹増えちゃったよぉ!!!」
肩に乗り、耳元で騒ぐリヴァーの声に普段なら怒るところだが―――
「しつこすぎて、笑えない……」
―――雪菜ではないが、八雲も百足に対してトラウマになりそうな顔をしていた。
だが、更に混乱は続く……
【―――御子!俺だっ!!スコーピオだっ!!!】
突然八雲の元にスコーピオからの『伝心』が届いた―――
【どうした?―――今こっちはしつこい百足退治の真最中なんだけど?】
―――と、投げやり気味な返事をしていると、
【―――北東の丘の上を見てくれ!今すぐに!!】
焦った様子のスコーピオに只事ではないと、北東に視線を向ける。
「は?……なんだ?、あれ?……このタイミングかよ……」
予想外のものがそこにはあった―――
―――八雲が視線を向けたその丘の上には、
「―――陛下。あそこにいる黒いコートの男が黒帝、九頭竜八雲ですよ」
真紅の馬に跨り、そう告げるダルタニアン―――
―――同じく真紅の体躯に銀の装飾と馬具を纏った馬に跨った銀の甲冑を身に着けた美しき吸血鬼の女王、
レーツェル=ブルート・フォーコンがダルタニアンの指差す先にいる八雲を無表情のまま見つめていた。
そして―――
その横には真紅の馬に跨ったアトス、アラミス、ポルトスの姿もある。
「あれが……黒帝……九頭竜八雲……」
静かにそう呟くレーツェルの後ろには、その数にして十万はいるだろう真紅の兵隊達が隊列を組んで丘を埋め尽くしていたのだった……




