新たな武器とソプラ・ゾット海戦
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チート×セックス アンソロジーコミック
■2023年7月27日■
只今発売中!!
漫画をご担当くださいました森あいり先生!本当にありがとうございました!!
商業案件はこれにて終了ですがこれからも、どうぞ宜しくお願い致します☆
※モチベーションに繋がります!※
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―――8月22日 早朝
ついにソプラ・ゾット海戦の戦端が開かれる日の朝を迎える―――
朝早くの海は風もなく波は穏やかな凪となり朝靄に包まれながらも、その中を進む軍船の大軍がソプラ諸島連合国の首都島であるイェダン島に迫っていた。
ゾット・イロンデル連合軍の軍勢を乗せた軍船は二百隻にも上り、大小と艦種はあるものの航行方法は客船と同じく帆船であるため、乗船している魔術師や風属性魔術の使い手達が風を発生させて航行する。
ゾットの軍船では普段から並行航行の訓練を行っているため、進軍する速度を一定に合わせることも当たり前のようにして綺麗な編隊を組みながら凪の海を静かに進んでいった。
「フフフッ♪―――この朝靄に紛れてイェダン島に上陸し、大軍をもって首都ミルを陥落する!ダンフル城に入城出来れば、最早我らの圧勝でこの戦は終わりますな」
ゾット列島国の王ゴルビア=ウノは鎧を纏って一際大きな軍船の旗艦に乗り、その隣に立つイロンデル公国公王ワインド=グラット・イロンデルに語りかける。
「ソプラはこの奇襲には勘づいていないでしょう。しかも此方は兵の数合わせて四万五千……ソプラの命運も今日限りですな」
ワインドも金と銀で飾られた鎧を纏いながらゴルビア王にニヤリと笑みを向けていた。
ゴルビア王の知っているソプラがもつ兵力は凡そ一万五千。
普段の兵力であれば五分のため、戦を仕掛けても損害を考えれば躊躇するところではあるが今は二倍以上の兵力差がある。
そう思い込んでこの度の戦に臨んだゴルビア王の元に見張りの兵から伝令が走ってきた―――
「―――申し上げます!!」
「何事だ?ソプラの岸辺でも見えたのか?」
ゴルビア王は慌てる伝令に訝しげな視線を送りながらも冷静に問い掛ける。
「はい!―――い、いえ?!あの、それが……」
「どうした?ハッキリと申せ!!」
困惑気味の伝令に、ゴルビア王は痺れを切らし怒鳴りつける。
「は、はい!!ただいまソプラのイェダン島の岸辺が見えましたが―――」
「そうか、見えるところまで来たのか」
「―――そこに壁が出来ております!」
「……は?」
伝令の言っていることがちょっと分からない……みたいな空気が一瞬流れたが、気を取り直したゴルビア王は再度問い掛ける。
「何?壁だと?ソプラが上陸阻止にでも建てたと言うのか?だが、そんな短期間で海岸線を覆うことなど―――」
「―――海岸線はすべて壁で覆われており、すぐに上陸は不可能かと思われます!」
「はぃ?……今、なんと申したのだ?」
すると、伝令の兵士は、
「イェダン島の海岸線は高く聳える城壁に覆われて―――上陸することが不可能となっております!!!」
旗艦中に響き渡るような大声で、ゴルビア王とワインド公王に告げるのだった―――
―――目の前に広がる、見渡す限りの黒い壁に覆われたイェダン島の南方海岸線。
高さは十mほどもあり、余程の攻城戦装備でも用意していなければ登り切るのも難しい。
「あ、あれは!?―――あれは一体何だぁ!!!」
取り乱すゴルビア王は伝令に怒鳴りつける。
「ハッ!物見の報告では昨日まではあの様な壁はなかったと報告がありました」
「戯け!!!―――たった一晩であのような城壁が出来てたまるかっ!!!」
そんな取り乱すゴルビア王の後ろでワインドもまた内心穏やかとはいかない……
「まさか……」
ワインドがひとり呟いたとき―――
「申し上げます!城壁に沿って―――旗が掲げられております!!」
「なにぃい!!―――何の旗だ!!!」
顔を真っ赤にして怒りに満ちたゴルビア王の紋章官が、遠見の筒を使って城壁の上にはためく旗を確認していくと……
「あ、あれは……ソプラ諸島連合国の旗の横にはリオン、レオパールの旗が並んでおります!そ、そして……く、黒地に黄金のりゅ、龍旗!あれは黒神龍様の龍旗でございます!!!」
「なぁあっ?!りゅ、龍旗だとっ!?それにリオンにレオパールの旗まで……ソ、ソプラにそれだけの援軍がついたというのか!?何故だぁああ!!!」
ゴルビア王が船上でそう叫び声を上げた時―――
黒い城壁の上に兵士達が立ち並び、一斉に雄叫びを上げだした。
「オオオオオオ―――ッ!!!」
風のない静かな凪の海に、大勢の兵達の雄叫びが響き渡っていく。
そして、次の瞬間―――
ドゴォオオ―――ッ!!!という爆発音と共にゾット・イロンデル連合軍の先頭にあった軍船が、巨大な炎を上げて炎上すると爆発して海に散っていく。
「―――な、なんだ!?魔術攻撃か!?」
ゴルビア王は突然、自軍の軍船が炎上轟沈した状況に叫ぶが、
「い、いえ!まだ魔術攻撃の射程内には入ってはおりません!!」
慌てふためくゴルビア王に兵のひとりが報告する。
「―――では何故あの軍船は沈んだのだ!?」
そう問い掛けている間に、またも船団の先頭付近の軍船がドゴォオオ―――ッ!!!と爆散して海に散っていく。
―――そうして次々と海に消えていく軍船が周囲に増えだしてくると、ゴルビア王のみならず軍船に乗った兵達も浮足立ち始め、彼方此方でパニックが巻き起こっていた。
「い、一体、何が起こっておるというのだぁあ!!!」
次々と軍船が沈んでいく中で、ゴルビア王の悲痛な叫び声が海に響いていった―――
―――その頃、海岸線の黒い城壁の上では、
三脚架の上に乗せられ、照星が付いた砲身を、照門と合わせてゾット・イロンデル連合軍の軍船に狙いを定め―――
―――発射用に用意した発射台の上に寝転がりショルダーレストを肩に乗せながらチャージングハンドルをグイッと引いてガチャリと次の弾丸を込める九頭竜八雲がいた。
その握ったグリップと指をかけたトリガーのある武器は―――
「―――次弾装填」
―――八雲の世界にある対戦車ライフル級の大型ライフルの形状をしている漆黒の銃そのものだった。
―――漆黒の対物・対軍艦用大筒、銘を影椿
この世界にはなかった銃器として初めての武器。
ただ発射原理は銃とは大きく違い、弾が装填されたマガジンが本体上部に装着されており、チャージングハンドルを引く度に次の弾が装填される。
そして弾薬が装填された場所にあるハンマーの表面には風属性魔術の魔法陣が刻まれており、そして弾薬自体には火属性魔術の付与がなされている。
つまりトリガーを引いた瞬間ハンマーの風属性魔術が発動して弾を射出し、その射程距離は魔術射程を余裕で飛び越え、そして対象に命中すると同時に弾に付与された火属性魔術が発動し対象を貫通、爆破するという武器。
魔術系統の操作が難しく、また弾の魔術付与も八雲が行っているため、他の者がトリガーを引いても発射することは出来ない。
弾には薬莢は無く、弾そのものが射出されて命中し爆発するという仕組みになっている。
八雲の照準は『遠見』スキルを発動しているためスコープ要らずで、敵の軍船の中心部に狙いを定めて装填し、まだ数km先の凪で動きも少ない敵の軍船を、まるで紙の船のように吹き飛ばして一隻ずつ血祭りに上げていく。
「へ、陛下……その武器は一体……」
横で見ていたラースが、八雲の射撃を見つめながら問い掛けると、
「ああ、これ?銘は黒大筒=影椿だ。ちょっとばかり威力がありすぎるから誰かに預けることは出来ないが、その威力は見ての通りってやつだ!」
そう言ってまた一隻、対物ライフルをぶっ放して軍船を一隻沈めていく八雲をラースもナディアも、デカダン王ですら唖然として見つめている。
「ほらほら♪ 何してんの?もっと雄叫び上げて、相手のこと煽って!煽って!馬鹿にしてると見えるようにドンドンやってくれよ!」
黒大筒=影椿を発射しながらラース達に指示を出す八雲。
「ひとりも失うつもりはないとおっしゃっていたのは、こういうことだったのですね……よし!―――陛下の御手を煩わせて敵を返り討ちにしてくださっているのだ!!!―――我等も声を上げよ!!!近づき上陸する者あれば殲滅せよっ!!!」
ラースの声を聴き、影椿の威力に圧倒されて鳴り止んでいた雄叫びが再び巻き起こる―――
―――本来、八雲の実力であれば数万の敵であろうと殲滅することは容易いことだった。
だが敢えてその方法を取らないのは、この戦におけるシュヴァルツの立場を明確にこの世界に示すためでもある。
八雲自身の能力で敵を殲滅しても、それは八雲の力としてしか世に伝わらない。
しかしリオンとレオパールの連合軍を率いてソプラに入り、迫りくるゾットとイロンデルの連合軍を返り討ちにしたという既成事実が出来れば、それはシュヴァルツ皇国という国としての功績であり実績となるのだ。
個人ではなく国の実績を積むことでシュヴァルツに対する他国の見方を変えるために、八雲は回りくどいがこういった方法を選んだのだった。
そうして次々と軍船を沈められていくゾット・イロンデル連合軍は、それから十分もしないうちに当初の二百隻から既に三十隻は沈められていった―――
「おのれぇええ!!!―――これは一体、何がどうなっておるのだぁああ!!!」
―――旗艦である軍船の上ではゴルビア王の叫び声が上がっていた。
ゴルビア王もそうだがワインドもまた目の前に広がっていく軍船の炎上シーンを、まるで夢でも見ているかのような気分で呆然と眺めている。
「……陛下、このままでは―――」
そんなワインドに宰相デビロが小声で語りかけて形勢が不利なことを伝える。
「これが、黒帝の力だと言うのか……」
デビロに声を掛けられて我を取り戻したワインドは、歯を食いしばって沈みゆく軍船を見つめていた。
そんな時に、遠くからでもハッキリと聞こえる声が此方側の軍船に届けられるのだった―――
「―――そろそろ頃合いかな」
ショルダーレストを肩から外して寝転がっていた発射台から立ち上がると、八雲は目の前に風属性魔術の魔法陣を展開させて自分の声を大きくする拡声器の原理でゾット・イロンデル連合軍の軍船に向けて語りかける。
【ああ~!マイクテスッ!マイクテスッ!―――ゾット並びにイロンデル軍の者達に告げる!!君達は完全に此方の攻撃の射程に入っている!!無駄な抵抗は止めて、とっとと国に帰れ!!】
凪の海に響き渡る巨大な八雲の警告の声にゾットとイロンデルの兵達は目の前で沈んだ軍船のこともあり、完全に恐慌状態に陥っていった。
「あの声は―――黒帝!九頭竜八雲か!!」
ワインドは海に響き渡る八雲の声に怒りが込み上げてきて、顔が真っ赤になり頭に血が上っていく―――
そんな時にも再び八雲の声が響く。
【オオッ!その軍船に乗っている金と銀の派手な鎧の貴方はイロンデル公国のワインド公王ですか?随分とまた手の込んだ嫌がらせをしてくれているみたいで!おかげで海まで渡って、お前の野望を撃ち砕きに来ることになったぞ!!―――ホント迷惑な奴だな!!!】
その八雲の言葉にワインドの怒りは限界を突破した―――
「黙れぇええ!!!この下郎がぁああ!!!―――貴様のような小僧に揶揄われるほど、儂は落ちぶれてなどおらんわ!!!」
―――と、激しく怒鳴り散らすも、八雲の声が再び響き渡る。
【はああ?何言ってんの?―――声が小さくてこっちには聞こえないぞ?言いたいことがあるなら小さな声じゃなくて、しっかり大きな声でしゃべれよ?それとも此処まで来る?怖がってる?】
「―――貴様ぁあああ!!!!!」
八雲とワインド達の乗っている軍船までは、まだ数kmの距離が開いている。
八雲は風属性基礎の応用で正面のゾット・イロンデル連合艦隊に向けて方向を定め、声を届けることが出来るがワインド達の声はそんな離れた海岸にいる八雲達に届くはずもない。
八雲は『遠見』スキルで顔を真っ赤にしながら何かを叫んでいるワインドの姿は見えるが、普通の人族では何を言っているのかまでは聞こえない。
だが八雲には本当は彼が何を言っているのか、風属性基礎で収音マイクの様に魔術を展開・発動していて、しっかりと声は聞こえているのだが敢えて聞こえない振りをしていた。
そんな怒り狂うワインドの後ろに怒鳴り声を聴きつけて姿を現した男がいた。
―――ダニエーレ=エンリーチだ。
『遠見』スキルでダニエーレを見つけた八雲は―――
【おや!―――そこにいるのは我らが英雄!ダニエーレ=エンリーチ卿ではありませんか!!!】
―――と、突然ダニエーレを英雄とまで言って親しそうに大声で呼びかける。
「……えっ?はぁあ?」
そんな声に何が起こったのか、八雲の発する言葉の意味が分からないダニエーレ―――
【―――我が身を顧みずに敵軍の中へと溶け込み、卿自らが頭の残念なイロンデル公王を必ずこの場に引き摺り出すとまで豪語して、そして見事に今回のおびき出し作戦を成功させてくれたエンリーチ卿!其方の英雄的行動!このシュヴァルツ皇帝である九頭竜八雲!末代まで語っていきましょう!!!】
―――八雲が芝居掛かった言葉でワインドを貶しながら語った声に、旗艦の船上に立つ者達全員の視線はダニエーレへと集中する。
「いや、これは、あの男は一体、何を―――」
【エンリーチ卿!―――貴方が黒龍城の玉座で俺に豪語した通り、確かにイロンデル公は頭が残念で可哀想な男だったな!!こんな子供でも気がつきそうな作戦に気づかずに獅子身中の虫を信じ込み、のこのこ戦場の最前線にまで顔を出してきたのだから!!!あの時そこにいる頭の可哀想な男を馬鹿にしていた卿の言葉は正しかった!!!】
―――もちろん真っ赤な嘘である。
「ダニエーレ……き、貴様ぁああ」
それまでも放たれた八雲の煽り文句に怒髪天となっていたワインドは前後の判断もつかなくなるほど、まるで鬼のような真っ赤な形相でダニエーレを睨みつけている。
「お、お待ちくださいワインド公王?!こ、これはあの男の汚い策略で―――」
【さあ!エンリーチ卿!―――貴方がその頭の可哀想な男と差し違えてでも!と、その懐に忍ばせた毒を塗った短剣を今こそ抜く時です!!その頭の残念な男を卿の正義の刃で今こそ冥府に送ってやる時です!!!】
―――これも当然嘘である。
しかし―――
「ダニエーレ!!―――貴様、毒の短剣だとぉおお!!!」
腰の剣に手を伸ばし、スラリと抜いてダニエーレに構えるワインド。
響き渡った八雲の声に烈火の如く激怒したワインドを見てダニエーレは、これは最早弁解が通る状況ではないと場の空気を感じ取り思わず振り返って甲板から海に向かって駆け出そうとするが―――
「逃がすかぁあ!!!―――この蛆虫がぁああ!!!!!」
―――よろよろとした足取りで手摺りまで辿り着いたダニエーレは、次の瞬間その背中をワインドの手にした剣の一閃で深く斬りつけられた。
「ギィヤァアアアア―――ッ!!!」
醜い悲鳴を上げて斬り裂かれた背中から鮮血を噴き出しながら、手摺りから血塗れになってゆっくりと海に落ちていくダニエーレ。
海面にドボォン!と大きな物体が落下した音が響き渡ると―――
「ハァ、ハァ、このダニめ……よくも儂を謀ってくれたな」
―――夥しい返り血のついた剣を握りしめ、息を荒くするワインドのことをゴルビア王もデビロも息を呑んで見つめていた。
だが、そんな状況でも八雲の海に響き渡る声は止まない―――
【一国の王ともあろう者が!シュヴァルツの使者を背中から斬りつけて海に落とすとは!!!―――恥ずかしくないのか!!!イロンデル公国公王ワインド!!!!!】
―――あくまでダニエーレがシュヴァルツの使者だったという前提で話を進める八雲は大声で今起こったことを煽り立て、公王が使者を背中から切り捨てたという事実を敵味方双方に轟かせる。
「黙れぇえええ!!!この小僧がぁああ!!!」
怒り狂うワインドだったが当然、その声は八雲までは届かない……
【あ?何言ってんの?聞こえねぇからこっちまで来て、もっと大きな声でしゃべれよ……】
「ウゴオオオオ―――ッ!!!!!」
言葉にもならない獣のようなワインドの怒りの声が海に響く。
そんなゾット・イロンデル連合軍の軍船に再び八雲が発射台で横になり、黒大筒=影椿の照準を合わせチャージングハンドルを引いて弾丸を込める―――
トリガーを引き搾り、ドバァアア―――ンッ!!!と発射された弾丸は軍船の甲板に立っていたワインドの耳元を掠めて、遥か彼方の水平線へと消えていく。
「これはほんの挨拶代わりだ、イロンデル公……」
静かにひとり呟いた八雲と、頬を掠めていった大口径の弾丸の風圧と耳に残った風切り音に、熱くなった頭が急激に冷めていくワインド―――
そうしてまた連続して射撃され、命中した軍船が炎に包まれて兵達も燃え盛る船の上で崩れ落ちていく状況が続いていった。
混乱状態に陥ったゾット・イロンデル連合軍の軍船を、八雲がまるで祭りの夜店にある射的の的当ての様に次々と沈めていき、海上は炎上する船の墓場へと変わっていく。
そこからどのくらいの時間が過ぎただろうか……
―――いつの間にか撤退した旗艦を含め、残った軍船は五十隻も残っていない。
ゾットは所有していた軍船の実に四分の三を喪失する結果となっていた―――
―――そしてゾットの領地に戻ったワインドの運命は更に過酷なものとなる。
ゾット列島国のトレス島に辿り着いたゴルビア王とワインド達だったが無駄に軍船と兵を失ったゴルビア王の激しい怒りを買い、昨日までの友好的な態度から一変して、まるで親の仇のように糾弾されたのだ。
そうしてトレス島からも、命からがら逃げ伸びたワインド達の兵は海を渡った三万の軍勢から、最後にはゴルビア王からの執拗な追撃を受けて、ワインドの周囲に従っていたのは僅か五百へと数を減らして何とか海を渡り、ようやくウィット聖法国の国境へと辿り着くのだった。
こうして八雲はひとりの兵も失わずにシュヴァルツ、リオン、レオパールの連合軍がソプラ諸島連合国の窮地を救ったという、後世の伝説となる歴史的事実を残した。
しかし、その戦争の記録には身を呈して海に散った英雄(笑)、ダニエーレ=エンリーチの名は刻まれることはなかった……
―――ジェーヴァが予言した通り、ダニエーレは終焉と共に歴史からも、その名を忘れ去られていくことになる。
そして、戦場は再びフロンテ大陸西部オーヴェストへと舞台を移すことになるのだった―――




