ヴァーミリオン攻防戦
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2023.07.27
アンソロコミック発売開始!
チート×セックス アンソロジーコミック
■2023年7月27日■
■2023年7月27日■
只今発売中!!
漫画をご担当くださいました森あいり先生!本当にありがとうございました!!
商業案件はこれにて終了ですがこれからも、どうぞ宜しくお願い致します☆
※モチベーションに繋がります!※
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―――首都レッドを包む状態異常の結界陣の中、黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を握った八雲と、魔剣=業炎を握ったイェンリンが空中で何度も衝突を繰り返す。
―――『身体強化』
―――『身体加速』
―――『思考加速』
―――『限界突破』
と、フルラインナップの身体能力向上を発動した八雲だったが、それでもなお感情も意識も失って容赦ないイェンリンの神速の猛攻で見る間に八雲の身体は傷だらけになり鮮血が流れていく―――
紙一重の剣捌きを繰り出して致命的な斬撃を避けられているのは、イェンリンと初めて会った時の八雲と今の八雲ではやはりLevelが向上した賜物だろう。
だが、それとは別の理由から八雲が致命傷を逃れている幸運を謀らずも招いていた。
それは―――『対魔法防御』の差だった。
魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力上昇……八雲のオーバー・ステータスの中で唯一イェンリンを凌ぐ数値を持っている魔力量によって、蒼神龍の状態異常の結界陣による効果の影響が少ないことに対して、常人と比べれば魔力は多いものの剣に生きていきたイェンリンには生まれつき魔力が少なかったのだ。
魔術を扱えるすべての者が身につく『対魔法防御』魔術も会得しているものの、この自動効果魔術は魔力量が少なければその効果が薄い。
―――つまり今のイェンリンは無意識下の全力を出しているが全力が出せない環境にあり、その実力が発揮されていない状況なのだ。
だが、それでもまだ互角とはいえない劣勢の立場にいる八雲。
一瞬で無数に繰り出される業炎の突きに八雲は新たな斬り傷を作りながら、こちらも夜叉と羅刹によって繰り出す斬撃で応戦するが刃は一振りも彼女の身に届かない。
―――ふたりが激突して繰り出した剣圧により生じた真空波がお互いの後方にある建物に衝突して崩壊させていく。
そんな建物の崩壊に目もくれず空中で流星のように蒼白い闘気の尾を引きながら衝突しては離れ、そしてまた衝突を繰り返すふたりの間には剣閃の火花が光り輝き、激しい金属の衝突音が大空に響き渡っていく―――
(状態異常の効果を受けているとはいえ、それでもまだこの強さ!分かってはいたが―――やはり強い!!!)
―――八雲は二刀、イェンリンは業炎一本でそれに対しているというだけでも脅威の剣技だった。
そうして激突を繰り返していたふたりだが、イェンリンの攻撃が徐々に押し込むような攻め方に変わり始める―――
―――上段から斬り込まれる業炎を夜叉で受け止めると同時に、
下からも斬り上げる業炎が迫り、それを羅刹で受け止める八雲―――
「クッ!―――剣は一本しかないのに、なんで上下同時に来るんだよ!!」
―――残像を生み出しながら迫り来る突きの連撃。
その連撃を二刀で捌くが受け止め切れずに腕や脚に斬り傷を負う八雲―――
―――さらに左右から迫る業炎に腕をクロスさせて二刀で受け止める。
だが、左の業炎は掻き消えて、『思考加速』による超高速の世界でスローモーションのように首元に接近してくる業炎を、ギリギリ頭を反らして躱す―――
―――更に攻撃は苛烈になって上段、下段、袈裟斬り、中段突きと次から次に繰り出されてきては八雲としては防戦を余儀なくされる。
夜叉で業炎を振り払い、羅刹で下から繰り出された業炎を受け止め、振り抜いた夜叉を返す刀で八雲の胴を横薙ぎする業炎を受け止め、頭に向かって振り下ろされる業炎を羅刹で顔面近くにて受け止め、夜叉で次の攻撃を振り払えば、その業炎は残像で次の瞬間現れた業炎は八雲の首を狙うも回避すると八雲も羅刹でイェンリンの脇腹を横薙ぎに裂こうと狙って振り払うも躱される―――
以前であれば同じ攻防の中で頬を切り裂かれ、太腿を突き刺され、右腕を切り裂かれていた八雲だったが、今はそれをどうにか凌ぎ切って致命傷は受けていない。
(―――だが、このままだとやっぱりこっちが押し負ける!イェンリンが状態異常の影響を受けている今でなければ、抑えられなくなる)
イェンリンはまるで人形のように無表情のまま剣を振るう……だが、その瞳から溢れた血の涙は未だに止まってはいない。
―――八雲はその痛々しい血の涙がイェンリンの心だと信じたかった……
イェンリンと八雲の繰り出す剣戟は真空波を生み出し、戦闘で衝突する度に周辺の建物にまでその剣圧が飛び、彼方此方で亀裂や破壊された建物の数が増えていく―――
―――この首都レッドはイェンリンの築き上げてきたもの、そのすべてなのだ。
「これ以上、お前にレッドを傷つけさせはしない!―――だから、お前をここで止める!!!」
八雲はイェンリンと一旦間合いを取り直し、自らの『空間創造』の加護を発動するとイェンリンを倒すために命を賭ける覚悟を決めたのだった―――
―――八雲がイェンリンと激突している頃、紅蓮は紅龍城を飛び立っていた。
「どうしてこんなことに……セレストは一体何を考えているの?」
呟きながら目的地である浮遊島を目指し、神速で向かって行くと―――
【―――遅いぞ!紅蓮!!!】
―――浮遊島が認識阻害も解除され、今でも首都レッドに向かって落下を続けていることに動揺した紅蓮だったが、既に巨大な本体の神龍の姿になって浮遊島を底から持ち上げるようにして支える黒神龍ノワールの姿が見えた。
紅蓮はそれに続くため、すぐに本体である巨大な神龍の姿へと変わり―――
―――その身は真紅の鱗に包まれ、
―――額には二本の立派な角を生やし、
巨大な翼を生やした真紅の鱗に覆われし神龍―――紅神龍がその場に現れた。
【遅れてごめんなさい。私も手伝うわ!ノワール!】
そう叫んだ紅神龍は漆黒の鱗に身を包んだ巨大な黒神龍の横に並び、同じく浮遊島の最下部にある金属部分に爪を立てながら空中で下から支える。
【いくぞぉおお―――ッ!!!!!】
【ハアァアアア―――ッ!!!!!】
赤と黒の巨大な二体の神龍は、その超越した生物としての全力をもって全長二十kmの浮遊島をゆっくりと再浮上させていく……
【オオオオ―――ッ!!!!!このまま状態異常の結界の外まで持って行くぞぉおお!!!!!】
【ハアアア―――ッ!!!!!北に向かって運んで!ノワール!!!】
最短で首都の郊外へと向かうルートを導き出した紅神龍の掛け声に黒神龍は北を向き、そして上昇させながら言われた方向へと移動を開始したまさにその時―――
巨大な蒼白い炎が黒神龍を包み込み、大爆発を起こした。
【グアァアア―――ッ!!!!】
【ノワールゥ―――ッ!!これは、まさか!?】
浮遊島を支えている中で強力な攻撃の直撃を受けた黒神龍は巨大な身体から煙を幾筋も上げながら、それでも浮遊島から手を離すことはない。
そして紅神龍はその攻撃を繰り出した相手を見た―――
その方向に存在したのは―――
―――輝くほど美しい蒼い鱗に全身が包まれ、
―――大空に屈強な蒼い翼を広げ、
―――その額には四本の角を携えた巨大な存在、
【セレスト……貴女が……】
呟くように言った紅神龍の目に写ったのは蒼神龍セレスト=ブルースカイ・ドラゴンの雄姿だった……
【グルルルゥ―――ッ!!!今の咆哮は、お前だな!―――セレスト!!!】
【なんとか言ったらどうなの?セレスト!】
【……】
だが、蒼神龍は何も答えない。
むしろその巨大な顎の中では、次の攻撃のための咆哮が準備され輝きを放っている―――
―――だが、このままやられっ放しも気に入らない黒神龍も、その口内に炎を収束し始める。
【ウガアアア―――ッ!!!】
【―――何度も喰らうかぁああ!!!】
再び放たれた蒼神龍の巨大な蒼白い炎に対して、黒神龍の巨大な漆黒の炎が直線を描くように突き進み、お互いの中間点でそれらは激突した。
蒼白い炎と漆黒の炎が激突しながら、まるで押し合うように拮抗すると、その中間地点で大きく膨らみ、蒼白い炎と漆黒の炎が二匹の蛇のようにうねり合っていくと―――やがて大爆発を起こして対消滅していった。
その大爆発で飛散した炎はそのまま地上の首都へと降り注ぎ、みるみるうちにその周辺の建物に燃え移り周囲に延焼を始める。
神龍の咆哮の激突ひとつでも首都には甚大な被害が及んでいる。
空から降り注ぐ神龍の炎で地上の国民達は大パニックを起こしているのがノワールの目に写る。
【クソッ!!―――これでは反撃も出来んぞ!】
【―――今は浮遊島を避難させないと、私達もセレストを止められないわ!】
黒神龍も紅神龍も両手を浮遊島に向けて支えながら落下を止めているが、この場から離れてしまうと間違いなく浮遊島は墜落、下の首都は被害甚大で完全に崩壊の危機となる。
地上だけではなく浮遊島の上で生活する国民達もまた、落下の衝撃には耐えられずにその時の振動で投げ出されて命を落とすことになるのは想像に難くない。
だが、そんな悪夢を想像する黒神龍と紅神龍に向かって蒼神龍は次の咆哮攻撃を準備し、そして無慈悲に発射する―――
【セレストぉおお―――ッ!!!】
―――浮遊島の底から大気を震わせるノワールの叫びが、その無情な蒼白い炎の前で轟いていた……
―――黒神龍と紅神龍が蒼神龍に攻撃を受けている頃。
南の爪型塔に到着したのはフレイアだった―――
ブリュンヒルデの一報からフレイアを筆頭に紅の戦乙女達それぞれが八つの塔の破壊を目的として向かっている。
アリエス達も八雲の指示でそれぞれ塔の破壊に向かっていた。
この塔は大規模展開する際に蒼神龍の状態異常の結界陣を補佐するために、その配下たる蒼天の精霊達が魔力によって形成している。
つまり逆を言えば、この爪型塔を破壊することで結界を構成する効力が弱体し、結界の中の状態異常も改善・消滅させられることになる。
「いい加減、出てきたらどうなんです?―――蒼天の精霊!!」
気配のない塔の前でフレイアは大声で叫んだ。
すると、その魔力で構成された塔の壁から人影が浮き出て現れる―――
「まさか、こんな形で貴女にお会いすると思ってもいませんでした……紅の戦乙女第一位……『女神』フレイア」
―――金髪の長い髪を編み後ろに纏めた緑の瞳を向ける女……そこには蒼いバトラーの上着に蒼いベスト、白のブラウスに首元には蒼い大きなリボン、そして蒼いスラックスを纏っている男装風の美女がフレイアの前に姿を現した。
「こちらも、こんなところで蒼天の精霊の副官、セカンドである貴女に再会するとは思っていませんでしたよ……サジェッサ」
―――紅の鎧に身を包むフレイアは無表情で目の前の彼女に告げる。
―――蒼天の精霊
蒼神龍セレスト=ブルースカイ・ドラゴンの牙を元に生み出された忠実な配下達。
ノワールにとっての龍の牙、紅蓮にとっての紅の戦乙女、白雪にとっての白い妖精に相当する存在であり、実力もまた拮抗するほどの能力を持ち合わせている。
その蒼天の精霊の中でセカンドの地位にいるサジェッサ。
彼女の立場はノワールのサジテール、紅蓮のブリュンヒルデに相対する能力を持つと考えられる。
だが、各々の組織での序列は入れ替わることもあり、またその序列が実力のすべてという訳ではない。
なので、サジェッサがセカンドだからといってフレイアよりも弱いという判断は安易には出来ないのだ。
「何故このような暴挙に加担しているのですか?主の行いを諫めるのもまた忠実な臣の務めではありませんか?」
静かにサジェッサへと語り掛けるフレイア。
―――だが、サジェッサは表情ひとつ動かさずに告げる。
「フレイア、貴女は……涙を流して悲願を訴える主の声を聞き届けてそれでも、お諫めすると?」
「それが間違っているのだとしたら―――この一命を賭しても」
その返答にサジェッサはフッと笑みを漏らす。
「であれば―――やはり私達は間違っていない!!!」
「ッ?!」
そう声を上げると突撃してくるサジェッサ―――
―――白い手袋をしたサジェッサの両手から次々と繰り出される手刀の乱舞を、フレイアは紙一重で躱す。
いや、紙一重で躱すのがやっとではなく、見切っていることでそれ以上の無駄な動きを必要としていないのだ―――
「ああ!―――やはり貴女は凄い!だからこそ!!貴女を倒してセレスト様の悲願を成就させてもらうぅう!!!」
―――両手から繰り出される手刀は空を切り、躱したフレイアの背後に衝撃波で大地を抉る爪痕を次々と残していく。
それを紙一重で華麗に躱していくフレイアだが、サジェッサの様子がどこか異様に見える―――
(昔はこんな感情的でもなければ非情な行いも許さない性格だったはずなのに……サジェッサ……)
―――フレイアのそんな僅かコンマ秒の一瞬の隙をサジェッサは見逃さず、繰り出した手刀からいきなり軌道修正を噛ましてフレイアの肩を掴み取ると、そのまま反対の手で腕を掴み重装の鎧を着たフレイアを軽々と空中に持ち上げた。
掴んだ腕を振り子のように力一杯振り抜いたかと思うと、そのまま背中からフレイアを大地に叩き衝ける―――
「クゥ―――ッ!!!」
―――フレイアの叩きつけられた大地がクレーターのように陥没し、幾つもの亀裂を遠くまで走らせていく。
透かさず上から踵を叩き落とそうとするサジェッサに、フレイアは『身体加速』で地面から掻き消え、その場から離脱する―――
―――僅か一瞬の差でその場から消えたフレイアだったが、サジェッサはかまわず踵を大地に叩き衝けると、クレーターが更にもう一段割れ大地は沈み、周囲の亀裂を広げていく。
(サジェッサの攻撃には一欠けらの戸惑いも見えない。このまま長引くとレッドの民達が……)
もはや言葉では止められないことは当に分かっているフレイアだったが、それでも悠久の時の中で何度も語り合った龍の牙から生まれた同胞と命のやりとりをすることに戸惑いを感じていたのだ―――
―――しかし、サジェッサの戦いを見て、フレイアは考えを改め覚悟を決める。
「この爪型塔を……貴女の墓標としましょう」
そう言い放ったフレイアの全身は、真紅の闘気に包まれていくのだった―――




