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三題噺もどき

最幸

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくはちじゅうはち。

 お題:猫・心待ちにする・罪



「……はぁ、」

 自分でも驚くほどの大きな溜息が漏れる。

 溜息をつくと幸せが逃げるとよく聞くけれど。もしかしたら、知らないうちにかなりの量の幸せをこうして、溜息として逃がしていたのかもしれない。

「……はぁ、」

 そうでなければ。そうでなくともだが。

 今日のこの不幸の連続は説明がつかない。というか、そういう事にしてほしい。

「……はぁ、」

 今日は厄日か何かかとでも思う程。今年は厄年だったかとつい確認したくなる程。……先ほどの溜息云々よりは、こっちの方が説明つきそうだ。まだ納得しうる。

 だってもう、こうなることが。今日が不幸になることが必然だったのだと言われたほうが。まだ、マシ。―必然的な不幸ってなんだろうな。

「……はぁ、」

 でも。

 そうだな。

 今日のあれこれが必然だったと思うのは案外いいのかもしれない。

 だって、そうだろ。

 こうなることがもう決まっていたのなら。変えられない運命とやらであったのなら。

 人間の1人でしかない。それでしかないやつに。むしろそれ以下ではないかと思う程のやつに。そんな必然を運命を、どうこうできるわけがないのだ。

 運命的な何かしらを変えられるほど。変えようと思う程。できた人間ではない。

「……はぁ、」

 それなら仕方ないと。

 そうであれと何かが決めたのであればと。諦めがつくかもしれない。

「……はぁ、」

 もう、そうでもしないと。ホントに。消えてしまいたくなりそうなレベルなのだ今日は。

 人生終わらせたいぐらいに、不幸が重なりに重なったのだ。

「……はぁ、」

 何なのだろう。

 いや、きっと今日以上の不幸だっていつか起こるかもしれないし、自分以上の不幸にあっている人だって――こんなの考えたくないな。今日が人生最大の不幸だと思わなきゃ、ホントに消えたくなる。1人の時ぐらい自分が最高に不幸だと思ってもいいだろう。

「……はぁ、」

 今日乗り切っただけ、良しとしよう。そうしよう。それが良い。

 これ以上とかもう。考えたくもない。全くもって望んでいない。

 神様とやらが居るのかは知らないが。これ以上を与えないで欲しいものだ。なんなら、お百度参りでも巡礼でも何でもするから。神頼みでどうにかならないだろうか。

「……」

 今こうして家にいるだけでよかった。

 無事でこうしていられるだけめっけもんだ。

 生きているだけで十分だろう。

「……はぁ、」

 たとえ今日が。

 不幸のどん底みたいな今日だったとしても。

「……はぁ、」

 休みだったのに。急遽仕事に呼ばれて。今日だけは何があっても無理だと言っていたのに。それなのに呼ばれて。ずっと心待ちにしていた初回に間に合わなくて。あえなくキャンセルになってしまったぐらい。

「……はぁ、」

 しかもその仕事が、後輩のしでかしのしりぬぐいで。当の本人はなぜかいなかったとしても。小耳に挟んだところ、自分と目的が同じだったとしても。ただの尻ぬぐいでしかない自分が行けなくて。当事者のアイツは当然のように行っていたとしても。何もかもがそいつのせいなのに、来ていなかったとしても。体調不良だとか言って断っていたとしても。

「……はぁ、」

 出勤中に鳥にふんを落とされて、お気に入りの洋服が汚れたとしても。めんどくさそうなやつにウザがらみされたとしても。黒猫が何度も横切ったとしても。その後に見るも無残な姿になってしまっている猫を見てしまったとしても。伝達ミスという罪を犯した奴が悪びれもせずにしていたって。上司がああだこうだと、何もしないくせに口だけ出してきたって。

「……はぁ、」

 帰路についた瞬間、雨に降られたからと言って。いつの間にかできていた水たまりが近くにあって、それを車が跳ね上げて思いきりかけられたからと言って。びしょびしょに濡れて、キモチワルイ事この上ないとしても。

「……はぁ、」

 今が。

 今日が。

 これまでが。

 これからが。

「……はぁ、」

 どれだけ不幸で。

 最低で。

 最悪だったとしても。

「……はぁ、」

 今を生きて。

 今日を生きて。

 これまでを生きてきて。

 これからを生きていければ。


 充分だろ。





「……めんどいなぁ……」



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