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異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!  作者: 水野酒魚。
異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています。

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第48話 何が起こってるんだ?

 イリスの姿が、再び変わっていく。白い鱗、巨大な手脚、コウモリのような羽。頭にいただいた角は遊色。完全に変わっていく。天をつく巨大なドラゴンの姿へと。

『シーモス、レオノくんの手当をして』

 すでに人の発声器官を持たないイリスは、テレパシーでシーモスに命じる。

「はい。かしこまりました。イリス様」

 喜色が隠せないシーモスが、一礼してレオノにかけよる。

 イリスはそれを見届けて、『苛烈公(かれつこう)』に向き直った。

『君の魔人がシャルに嘘を言ったことも、昔、君がレーキにしたことも、レオノくんを馬鹿にしたことも、全部許さないからな!』

 イリスの巨大な腕が、『苛烈公』に伸ばされる。彼の周りの魔人たちは抵抗するが、『苛烈公』はやすやすとイリスの手の中に収まった。

「クソっ!! 放せ! 放せ、化け物おおおお!!」

『苛烈公』はイリスの手の中で暴れるが、指の一本も振りほどくことは出来ない。

 イリスが軽く力を込めて『苛烈公』を握りしめると、メリメリとイヤな音がして『苛烈公』の身体が(ゆが)む。

『さあ、僕は良いからシャルとレオノくんに謝って! 負けを認めると良い! そうしたら命だけは助けてあげる!』

「……だ、誰がっ!!」

『ああ、そう?!』

「ひっあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁあ……!!!!」

『苛烈公』がイリスの手の中で、絶叫を上げる。この様子では、全身の骨があちこち折れていることだろう。観客は固唾(かたず)を飲んで、イリスの言動を見守った。

「あ、ああ……だれ、が、きさまの……よう、な……ばけもの……にぃ……!!」

『……そんなに死にたいの!!』

 イリスの手のひらに力がこもる。その時。

「『慈愛公』。そやつの『能力』は『再生(リ・バース)』。死からも蘇る、再生能力だ」

 静かに。今まで成り行きを見守っていたナティエが、静かに告げる。その遊色の唇は、はっきりと笑いの形に歪んでいた。

『……そっか。だからワザと僕を怒らせたいんだね? 一度死ねば僕が君を放すと思ったんだね? そうやって逃げようって言うんだ!』

「や、やめろ! 『慈愛公』!! 解った! 謝る……あやまる、から……!!」

『苛烈公』の顔から血の気が失せる。その顔は、全身の痛みと恐怖で引きつっていた。

『……もう、だめ。謝ってもだめ。……レオノくん』

 イリスはレオノを振り返り、その目の前に、『苛烈公』の身体をぽとりと落とした。

『イリス・ラ・スルスの名をもって命じる。レオノくん、こいつを君の『夢幻収納インフィニティー・ストレージ』に放り込んで。君の気が済むまで『収納』するがいい』

 シーモスの治癒魔法によって、回復中だったレオノは、にっと牙をむきだした。

「ああ。オレは、あんたに従うぜぇ。オレをあんたの仲間にしてくれぇ、『慈愛公』ぅ」

「……やめ、やめろっ! 『暴食公』!! 私の恩を忘れたか?!」

「恩なんかねえよぉ。あんたの派閥がデカくて居心地が良かったから、いただけさぁ。イリスは強いなぁ。オレは強いヤツと美味そうなヤツが好きだぁ」

 よろりと立ち上がったレオノは、ゆっくりと身動き出来ない『苛烈公』に近寄った。

「やめろ! やめろ!! 私に、近寄るなぁああぁぁ!!!!」

 悲鳴を上げる『苛烈公』を、レオノはひょいと持ち上げた。そのまま、『苛烈公』の姿がかき消える。『苛烈公』は、『夢幻収納』に吸い込まれてしまった。

「……さあ! これにてこたびの『決闘裁判』は決着とする! 原告、『慈愛公』イリス・ラ・スルスの主張を全面的に認め、被告、『苛烈公』ラルカ・ラケフィナを『夢幻収納』の刑と処す! ……もっとも、もう刑は執行されてしまったが、な」

 観客に向かって、ナティエが高らかに宣言する。観客は口々に歓声を上げて、手を打ち鳴らした。ナティエはその歓声が一段落するのを待って、先を続けた。

「……諸君! その上で諸君らに提案がある! この場には全ての幻魔議員が揃っている。良い機会だ。私『冷淡公』ナティエ・フィレスは『慈愛公』イリス・ラ・スルスを魔の王に推挙する!」

『……え?』

 唐突なナティエの提案に、イリスは驚いてキョトンと首をかしげている。

「その名の通り慈愛に満ちているだけで無く、比類無き強大な力と己の敵に対する非情な気概。私は感服した。『慈愛公』ならば、我らをさらに高みへ、さらに遠くへ導いてくれることだろう!」

『な、ナティエ、ちゃん……?!』

「諸君らに決を採ろう。賛成の者は拍手で新魔の王陛下を迎えよ! 従えぬものは眼を伏せてこの場を去るが良い!!」

 割れんばかりの拍手が巻き起こる。会場は、完全にナティエの煽動(せんどう)に飲まれていた。ナティエの派閥のものはもちろん、主を失ったラルカの派閥の者、中立派の者たちも。会場にいた、大半の幻魔議員が手を叩いていた。それに釣られるように、魔人や人間の観客たちも盛り上がる。

『ぼ、僕……僕は……』

 戸惑っているのは、当人のイリスと観客席の泰樹(たいき)たちくらい。『決闘裁判』の会場は異様な熱気に包まれている。

「……お受けくださいませ! イリス様! 良い機会でございます!」

 イリスの足元で、シーモスが叫んでいる。どうやら、シーモスは賛成らしい。

 イリスは静かにいつもの姿に戻った。その前に『跳躍(ジヤンプ)』でナティエが現れて、ひざまずく。

「さあ。魔の王陛下がいらっしゃらない空白を埋めてください。『慈愛公』。ただ一言、『引き受ける』と!」

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