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005 送ったもの、受け入れたもの

 

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 湯入を異世界送り出した和風美少女な女神は和室に寝転がり、右手を枕に左手でせんべいをバリボリたべながら白の襖をスクリーンに仕立て、映した映像を観る。

 ……日本のアニメだ。


「さぶすくとは便利な世になったのう。アニメ観放題じゃ」


 ぐふふふ、と上機嫌に自称ネコ型の耳のない青いタヌキのロボットの日常を描いたアニメをのんびりと楽しむ。


 しばらくして、廊下をドスドスと歩いてこちらに向かってくる足音が。


 スパン! と勢いよく女神の居る和室の障子戸が開けられた。


「なんじゃい、騒々しのう」


「なんだじゃないわよ! 異世界人の魂くれるって言ったの、あれ嘘じゃない!」


 現れたのは西洋風な顔立ちと格好の、こちらも美少女な女神。


 異世界の魂を引き渡して以降、ホクホク顔でホクホクしていたはずなのに、何故か今は激おこだ。

 何故(なにゆえ)


「んお? 嘘もなにも。ちゃーんとおぬしの世界の住人に合わせたスキルと、ついでにわしの権能の弱めたもの少々くれてやったのをおぬしも見とったじゃろうて」


 和風女神は本当に言われようの心当たりがなかった。

 最近ではあの不幸な事故で異世界に転生させることになったあの魂しか魂の扱いはしていないのであの魂の事を言われているのはわかっている。


「変よ!」


 といわれても和風女神にはどう変なのかさっぱりわからない。

 それよりはやくアニメの続きをのんびり観たい。

 こんな騒がしい状況じゃ落ち着いて観れやしない。


「何をそうカリカリしておる」


 イライラカリカリしたいのはこちらの方。

 お楽しみを邪魔されているのだから。


「するわ! それにあなた、スキルとかよくわからないで与えたでしょ!?」


「スキルくらいわかっとるわい!」


 これは本当のこと。

 嘘や勢いで答えたわけではない。


「じゃあなんであんなスキルをあの異世界の魂に与えたのよ!」


 特殊スキルとして風呂に関するスキルは与えたが、そこまでカリカリされるほどとは思えない。

 時空魔法にしても、珍しくはあるが使い手はそれなりにいるはずだ。


「風呂好きな魂じゃったようでの」


「そっちじゃないわ!」


 風呂のスキルの説明をしようとしたら言い終える前に否定された。


「う?」


 和風女神のマイペースな態度にさらにイラついたように西洋風女神が怒鳴るように言う。


「生活魔法よ!」


「異世界モノあるあるな標準魔法じゃろ?」


「そうだけど、あれは違うものよ!」


「ちがうったってのう……“異世界で生活するにあって必要な知識と魔法”じゃろ? 説明書つきの魔法にちょっとはアレンジしたが。急に異世界に放り出すことになってしまったしのう、せめてもの餞じゃよ」


 急に違う環境で生活しなければならない苦労を、和風女神は知っている。

 だから自分にしてやれる最低限のことはしてやることにした。……そんな記憶がなくもない。

 あの時は肉体づくりに難儀して変なテンションだったのは覚えている。


「~~っ! 何て余計なことしてくれたのよ! いえ、余計じゃないけど、うちとしてはありがたいけども、あれは一般的な生活魔法じゃないわよ!」


「そうなのけ」


 はあ、もうどうでもいいからアニメ観たい。

 ほのぼの系の青いタヌキのアニメの次はワクワク系の伸びる海賊のアニメを観るんだ。

 と、和風女神は心ここにあらず。


「そうよ! こちらとそちらの知識が詰まった“百科辞典”よ? 世界の心理が集約され、さらにそれをもつものがただの異世界の人間の魂を持った人間ではない、あれは半神よ! ああああ、どうしよう、私の世界が乗っ取られるううううう!」


 ビクッ!


 動揺を誤魔化すように起き上がり、西洋風女神と向き合う形で畳に座る。


 “半神”のワードに和風女神は現実にもどる。

 今では自分は創造神に救われ、歴とした女神となっている。

 そんな自分が神気でうっかり肉体を破壊してしまった人間の魂には、わずかでも自分の神気が入り込み、馴染んでしまっていた。

 それが女神が手ずからつくった肉体と知識が融合すれば……半神の出来上がりである。


 その事に今更ながら気付いた和風女神。

 なんだか急に饒舌に、積極的にしゃべりたくなった。


「心配いらんて。あやつは風呂に入れればそれでええようじゃし、そのための風呂のスキルじゃ。なんならほれ、あやつをテキトーにおぬしの使徒とか巫とかにでっち上げればええじゃろて。半分は手違いで神化したが、半分は人間なんじゃし……の?」


 自分で言ってて自信がなくなってきた。


「ほ、ほんと?」


「おう。神託でそれなりに便宜をはかればあやつをうまくつかえるんじゃないかの? おぬし、まえに食文化の向上がうまくいかんといっとったじゃろ」


「そうだけど、便宜って?」


「異世界の食文化広めてくれたら風呂に関わることで助言するとか、有用そうな神器や加護をあたえてやるとか、主導権を握りつつ、そのような便宜をはかればよかろうて。の?」


 問題のすり替え作戦。

 たのむ、効いてくれ!


「なるほど……やってみるわ!」


 作戦はうまくいった。

 しかし半神問題はなにも片付いてない。


 でもまあいいかと和風女神は開き直ることにした。

 和風女神は西洋風女神の「異世界の魂が欲しい! あわよくば文化を取り入れたい」という要望を叶えただけだ。

 ちょっとした手違いはあったが、きっと些細なことだ。そうにちがいない。


 そしてまたドタドタと出ていく西洋風の女神に和風女神はほっと一息。また寝そべる。


「なんとも騒がしいのう」


 ぽつりとこぼし、アニメの続きを楽しんだ。



 西洋風女神は奮起した。


「そうよね、いわれてみればあちらは半神、こちらは神。なにも怯えることはなかったのよ! 冷静に考えればわかることじゃない。私、あんなに騒いじゃって恥ずかしいわ」


 自分の部屋にもどり、盛大に独り言をこぼす西洋風女神。


「それにあの半神を中継として異世界の知識とこちらの生活に折り合いをつけて新しい文化が生まれるもの。悪いことばかりじゃないわ。私の世界の子たちにはもっと豊かになってもらいたい。ならこのくらいのリスク、なんてことないわ。それより現地の人間と問題を起こして殺す殺されたになる方が大変! これは早々になんとかした方が良いわね。……これにはなんとも都合のいい国があったわ。過去の私、いい仕事したわね!」


 その後、湯入が送り込まれた世界のとある国で神託が降された。


 〈お前たちの主が現れる。自由にさせよ。騒ぎ立てることなくそっと見守るべし。その者の名はユイリ・ユラ。ユラを冠する者なり〉

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