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003 ご、誤解です!

 

 気が付いたらベッドに寝かされていて、ベッドのそばには西洋風な簡易鎧をつけたおっさんがいた。


「ここは?」


 うっかり目があってしまい、緊張しながらたずねてみる。


「起きたか坊主。なんでここにいるかわかるか?」


 坊主とは僕の事らしい。

 ああ、そう言えば6歳の子供になって異世界に来たんだっけ。

 あー、こんな事になるならちょっと奮発してでもいい入浴剤買っておくんだった。あのホテルの厚手で吸水性抜群の大判の高級バスタオルとかも。

 今となっては二度と手に入らないもの。


「おーい、坊主、聞こえてるかー?」


 ぼんやりと現状にガッカリしていると、再度おっさんから声がかかる。

 もういいからほっといてくれよ。

 ふて風呂したい気分なんだ。

 身も心もリフレッシュしたい。


 ああ、思いだしたら今すぐ風呂に入りたい。

 風呂に入らないでベッドに入っていたなんて最悪だ。しかも服のままだし。

 改めてがっくりとうなだれた。


「だ、大丈夫か? そうだよな、こわかったよな」


 何か勘違いしてるようだ。

 僕はいったになにに怖がっていると思われ……

 記憶を巡らせると、気を失う前の光景を思い出した。


「うっ、おえっ」


 転生してから何も飲食してないので吐くものもない。

 それなのに吐き気だけが出るので辛い。

 精神的にも、肉体的にも。

 涙と鼻水にまみれながら吐き気は数分続いた。


 その間、以外な事にベッド側にいたおっさんが背中をさすってくれたりして甲斐甲斐しくしてくれた。





「落ち着いたか」


 胃のひきつけがやっと落ち着くと、吐き気もおさまる。

 かわりに虚脱感に襲われる。


「……はい」


 ぐったりとした僕を、おっさんは優しくベッドに寝かせてくれた。


 それからまたちょっと眠ってしまって、起きたら水と塩気も具も少ないスープを食べさせてくれた。


「さて、話を聞かせてくれ。何があった?」


 何もないですが。

 あ、いや、転生してそのまま道端に放置されたのか。


 でもそれをどうやって説明したものか。

 転生って言っちゃっていいの?

 そもそも今どんな状況?

 不法入国とか疑われてるとか?

 それとも勝手に町から出た子供だとか疑われてる?


 いずれにしろ情報が無さ過ぎて返答に困る。

 ここでつかまったとしても自分にはどうする事も出来ないので、出来れば解放して欲しい。

 マジでそろそろ風呂に入りたい。

 風呂の事思いだしたら頭がかゆくなってきた。


「………」


「お、おい、大丈夫か?」


 無言で頭をかきむしっていたらおっさんが心配そうにこちらを見ている。

 話そうにもなにも話せない。

 そもそも頭の中は風呂に入りたい一心で何も考えられない。

 胃が満たされて、また眠くもなってしまってきている。


「大丈夫です。なんか、頭が」


 痒くて。


「……そうか。怪我は無いと確認してあるが、きっと心に傷を負ったんだろう。心配するな。……そうだな、しばらくは俺がお前の面倒見てやるから、な?」


 え……?

 すごく心配なこと言われた!

 なにこの急展開!?

 いやいやいや、ご心配なく!

 解放してくれたらその辺の宿に入って適当に生活するんで!


 生活も【鑑定】が使えればどこかしらで雇ってもらえるかもしれないって希望的観測あるし!

 当面は【収納】に入ってる何かを売って生活費にすればいいとかこっちだってちょっとは計画あったんだよ? 杜撰な計画が。


「そんな悪いです。大丈夫です」


「つってもなあ、あてはあるのか? ここに運ばれて来た時は何も持ってなかったようだが」


「っ!」


 しまった!

 それも疑われる要因だったか!

 てか、もしかして監視の意味もあって面倒見るとか言ったのか?

 スパイ的な。


 みたところおっさんは西洋顔だし。

 僕は和風な女神謹製なだけあって和風な顔をしている。

 それでもちょっとこの世界になじめるように美化させたり肌の色をかえたりはされているけど、出来る限り元の僕に近い顔でお願いしている。


 ん?

 そういえばあの女神さま、後ろから粉みじんにしたのに僕の顔知ってたのか?

 ……まさかテキトーな生返事して作ったとか……それこそまさかな。女神様なんだからきっと大丈夫なはずさ。ははは。


 今の自分、どんな顔してるんだろ。不安すぎる。


「そんなに落ち込むな。これでも子供ひとり養えるくらいは給金もらってるんだぜ。なにも遠慮する事ねえよ」


 全然全く遠慮でもなんでもないんだけど、言葉を探しているうちに、あれよあれよとおっさんちにやっかいになることに決まってしまった。


 なぜだ……。



 ◇



「おーい、ハロルドの旦那~」


 4年前に騎士となり、いつもは騎士団で職務についている。

 しかし今日はたまたま非番で、たまたま古巣の外周門警備兵団が手薄となり、「暇ならちぃっと手伝ってやってきてくれい」と団長に言われて、久しぶりに王都外周門当番に立つことになった。


 そろそろ交代の時間となったとき、街道の先から俺を呼ぶ聞き覚えのある声がした。


 既に辺りは薄暗く、人の形は見えるが顔の判別はつかない。

 その人影がこちらに手を振って掛け寄ってくるのがわかる。


「はー、やっと着いたぜ」


 近くまできてやっと顔がわかる。

 といっても声でうすうすはわかっていたが。


「ブランか。久しぶりだな。どうした?」


 ブランはスキルに【暗視】と【視力強化】があり、それで門番をしていた俺に気付いたようだ。

 それでも何故俺が門番しているかはとくに疑問にも思ってない様子には少し頭痛がする。


 ブランとは昔からの知り合いで、家同士の付き合いがある。

 数年前に家を出て冒険者となり、幼馴染達とパーティーを組んでいると話を聞いている。

 今も冒険者として活動をしているようだが、荷物がない。

 今日はうまくいかなかったのかはたまた護衛の帰りか。


「聞いてくれよ! 子供がゴブリンに襲われててさ、助けたら気絶しちまったんだ! 見てくれよ!」


 相変わらず子供っぽい。

 図体ばかりでかくなって。


 ブランに続き、ライオ、チェルシー、リゼも追いついた。


「ちょっと、勝手に走って行かないでよ!」


「別にいいだろ、ここまでくればなんの危険もねーよ!」


 相変わらずのやり取りだが、リゼの言っている事は正しい。

 俺は黙ってブランの頭にゲンコツをかましておく。


「いって!」


「それで? なんだって?」


「このこをひろった。怪我はしてないけど、ゴブリンの死体見て倒れた。もしかしたら何かの死体を見るの初めてだったのかも。ちなみにゴブリンの頭を切り落として倒したのはブラン」


 チェルシーが背負っている子供を俺の方に差し出すように背を向け、淡々と説明する。


「なるほど。冒険者見習いの子か? 仲間とはぐれたのか」


「いや、そうでもないようだ」


 俺がよくある話に算段をつけようとすると、ライオが困惑気に否定する。


 聞けば子供は装備品らしいものは何もなく、上等な服や靴を身に付け、荷物すら持っていなかったとか。


 説明されているうちに辺りはすっかり暗くなってしまい、門が閉まる時間となり、急いでブラン達を門の中に入れ、俺も丁度仕事が上がるので、ついでに子供を外周門内の施設として二階にある医務室にそのまま運ばせ、俺は念の為【鑑定】の魔道具を取りに行く。


 名前がわからないことにはどこにも問い合わせが出来ないし、無いとは思うが犯罪歴があったら相応の処置をしなければならない。



 鑑定の魔道具を持って医務室に行く。

 医務室と応接室だけは蝋燭ではなく照明の魔道具が使われている。

 暗くてわからなかったが、ここでやっと子供の顔が――


「ユイリー……」


 そんな、まさか……。


 その子供は十数年前に死んだ弟に似ていた。


 いや、寝顔がたまたま似ているだけだ。

 照明の具合でそう見えるだけだ。


 そう思うことにした。

 動揺が激しく、頭が回らない。


「ハロルドさん、俺達もう行っていいか?」


「あ、ああ。下で書類を提出したらな」


「うげえ」


「人さらい扱いされてもいいならすぐ帰っていいぞ」


 子供をここまで運んだ経緯を書類に起こさなければならない。

 万が一子供の親がいた場合、報奨金が出るか、それとも人さらいと訴えられるか、どちらの場合でも書類と残しておけば、一応証拠扱いにはなる。


「やりまーす! おつかっしたー!」


 わかっているのかどうか。

 ブラン達は賑やかに医務室を去って行った。


 しばし呆然とし、それから意を決し子供に鑑定の魔道具を使う。

 手を取り、魔道具に触れさせれば簡易ステータスを見ることが出来る。



 ―――――――――

 ユイリ・ユラ 6歳

 レベル 3

 スキル【生活魔法】【※※※※】【※※※※】【鑑定】【農業】【※※】

 犯罪歴 なし

 ――――――――――


 この歳の子供としては微妙なレベルだが、スキルが異様。

 こんなに文字化けが多くあるのは初めて見る。普通はあって一つ。使えもしないのにステータスに不気味にただ存在し続けるスキル。

 ある日突然暴発する可能性もあり気味悪がられ、不名誉なスキルとして一般的には知られている。他人に知られれば必然的に距離を置かれる。

 家族も本人もさぞやがっかりしただろう。

 しかしレアスキルの【鑑定】があるのは救いか。


 犯罪歴はやはり無かったことにほっと胸をなでおろす。


 それにしても「ユイリ」か。それにユラとは。

 身なりからしてやはり平民ではなかったのか。だとしたら人さらいにあったというのが妥当だろう。

 この子のスキルを利用しようと思うものは多いだろうな。

 それとも捨てられたか。【鑑定】があったとしても、三つの文字化けスキルに【農業】では貴族としてはあまりにも微妙過ぎる。


 しかし「ユラ」という貴族家には覚えが無い。

 他国からの捜索願いにも無かった気がする。

 明日騎士団で再度調べてみる必要があるな。


 苗字があるとわかった以上、ぞんざいな扱いは出来ない。

 まずは話を聞いて、それから……



 ふと、子供が目を覚ます。

 そしてこちらに目を向け、目があった瞬間、涙が出そうになった。


 その子供は、6歳で死んでしまった弟のユイリーの生き写しのようだった。

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