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北条家の四代目  作者: 兜
第一章   幕開
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第二十三話 暗雲

西堂丸  北条家嫡男

藤衛門=宇野藤衛門定治(うのふじえもんさだはる)  相模の商人

武田太郎晴信(たけだたろうはるのぶ)  武田家当主

伊勢伊勢守貞孝(いせいせのかみさだたか)  政所執事

種子島弾正忠時堯(たねがしまだんじょうちゅうときたか)  島津家臣

曽御祖父様(ひいおじいさま)北条早雲(ほうじょうそううん)

足利権大納言義晴(あしかがけんだいなごんよしはる)  室町幕府将軍

義御祖母様(おばあさま)近衛時子(このえときこ)  氏綱の妻

御台所様(みだいどころさま)=慶寿院  義晴の妻

北条新九郎氏康(ほうじょうしんくろううじやす)  北条家当主

北条華(ほうじょうはな)  綱成の妻

北条孫九郎綱成(ほうじょうまごくろうつなしげ)  北条家臣

武千代  綱成の嫡男

北条彦九郎為昌(ほうじょうひこくろうためまさ)  北条家臣

里見刑部少輔義堯(さとみぎょうぶしょうゆうよしたか)  里見家当主






天文十一年(1542年) 十二月 相模国足柄下郡小田原城 東ノ間

西堂丸




 農具の試運転は大成功だった。内山村の百姓達に使わせてみたがどれも上手く使えていたし、かなりの高評価であった。大きな問題もなかったので、藤衛門には直ぐに量産できる様にと指示を出した。来年には領国の国衆の分も確保出来そうでなによりだ。…他国へ売り出すのはもう少し先になりそうではあるが。


 武田太郎晴信が甲斐国の釜無川(かまなしがわ)流域における堤防工事を開始したと報告があった。先代とは違い内政を重視している事が良く分かる。今の武田ならばこの農具の価値も十分に分かるだろう。もし同盟が成った時には土産に渡すのも良いかもしれないな。今はまだ国力も兵力も北条や今川とは対等とは呼べないが、兵の強さにおいては頭一つ抜きん出ている。友好であるに越したことはないだろう。


 来年になれば歴史にも残る出来事が起こる。大隈国の種子島に鉄砲が伝来するする事だ。これからの戦で有利に戦う為にも、鉄砲はいち早く手に入れたいところだし、量産もしたいところだ。手に入れるのは風魔衆に頼みたいところだが、これは少し難しいだろう。可能性があるとすれば、父上に頼んで政所執事の伊勢伊勢守貞孝殿に繋ぎをつけてもらう事だろう。政所執事の伊勢家は北条家にとっては本家にあたる。曽御祖父様の代から親交があり今でも北条家とは深い関係にある。伊勢家を頼れば鉄砲も手に入るかもしれない。


 史実では、鉄砲が伝来した種子島の領主・種子島弾正忠時堯は鉄砲の威力を目の当たりにして鉄砲を二挺購入した。一つは自領の鍛治職人に渡して国産化を命じ、もう一つは足利将軍家に献上したはずだ。狙うのは後者の鉄砲だ。


 今から種子島まで使者を送り領主の種子島家と友好な関係を築くのは流石に無理がある。距離の問題と時間の問題の両方で不可能に近いだろう。であれば、将軍家に多額の献金をして鉄砲を褒美に所望すれば良い。将軍家からしてもよく分からない鉄砲なんかよりお金の方が助かるだろう。この時代の将軍家は兎に角、お金も権威も無いからな。現将軍・足利権大納言義晴様の正室、つまり御台所様は御義祖母様の妹にあたる。つまり、北条家と将軍家は親戚同士になる。この事からも十分に交渉の余地も可能性もあるだろう。


 鉄砲の次は大砲も欲しいところだが、これはかなり先になりそうだな。石鹸や清酒で大分資金も集まったが、今は塩硝を作るのを優先させた方が良いだろうか。農具も作るまでに一年も掛かったが、鉄砲もかなりの時が掛かるだろう。そして、塩硝はそれよりも時を費やすやもしれぬ。…しかそ、土地はどうしものか。……うむ、父上に相談するか。詳細は伝えずに人目につかない土地が欲しいと言っても与えてくれるだろうか?もし聞かれれば、また新しい農具でも作ると言えば追求はされないだろう。




天文十二年(1543年) 一月 相模国足柄下郡小田原城 当ノ間

北条新九郎氏康




「兄上、本当に華姉上を河越へ帰らせて良かったのですか?」

「良いも悪いも、彼奴が私の言う事を聞かないのだ。…婿取りの時とて、父上と説き伏せて綱成と夫婦になった奴だぞ。父上でも出来ない事を今の私が出来る筈がない」

「…開き直らないで下さい」

 上杉との戦が近い。数日前に風魔から上杉の動向について報告があった。山内も扇ヶ谷も正月早々に軍備と兵糧を整え始めたらしい。その数も規模も尋常では無いとの事だった。正月の挨拶に来ていた綱成は、華と武千代を小田原に置いて先に河越城へ帰った。上杉と戦となれば河越城は真っ先に狙われるからな。一応ではあるが華に小田原へ残る様に説得したが武千代を残して河越へ帰ってしまった。


「やはり、戦になるでしょうか?」

「あぁ。間違いなくな」

 分かってはいると思うが、綱成が河越へ向かった翌日には籠城の備えをする様に文を送っておいた。武千代の事も置いて行ったとは言え、元々西堂丸と共に学問を学ばせる為に、小田原で過ごさせていたから特に何か変わる事もない。

「まだ兵は挙げないだろうが、今から備えねばまともに戦うことは出来ん。衰退したとは言え、関東管領の名も飾りではないからな」

 父上も仰っていた。扇ヶ谷が抱く我ら北条家への憎しみと、山内が有する兵力を甘く見てはならぬと。未だに関東では上杉の名は簡単に無視出来るものでは無いと。


「里見からも目を離すな」

「新年の挨拶にも来ませんでしたね」

「あぁ」

 昨年は里見の嫡男が態々挨拶に参ったが、今年は誰も来なかった。文だけが送られて来た。文には当主と嫡男が病を患い挨拶には行けぬと書かれていたが、間違いなく嘘であろう。近頃の里見は我らへの敵意を隠そうとしなくなった。真里谷家への離反工作もあからさまなものになりはじめた。時期を見ても上杉と繋がっているのは明白だろう。ここまで来ると流石としか言えんな。里見刑部少輔義堯、面従腹背とは(まさ)にこの男の事だな。


「駿河から何か連絡はあったか?」

「はい。…いつでも出陣出来ると」

「そうか。……為昌、私は勝てると思うか?」

 上杉との決戦の為にニ年も前から準備はして来たが、やはり不安に感じてしまう。普段であれば決して口にはしなかっただろう。しかし、ふと父上が仰っていた事を思い出した。家族の前では弱さを見せても良いと。それでだろうか、つい弱音を吐いてしまった。自分でも口にした事に内心驚き、恐る恐る為昌の方を見た。

「勝てます!必ず勝てます!兄上ならば……いえ、我ら北条ならば必ずや勝てましょう!」

「ふ、ふふ、ふははは!そうであったな!私は一人ではない、頼りになる弟達も私に忠義を捧げてくれる家臣達もいる。私の事を誰よりも信じてくれる妻と子供達がいる。守るべき民の為にも私は、北条は勝たねばならん!為昌!軍議を開く、皆に召集をかけよ!」

「い、今からに御座いますか!?…まだ戦も起こっておりませんが?」


「今から起こる戦の殆どは我らが仕組んだ事よ。今のところも想定通りだ。上杉の考える事など手に取るように分かる」

「…そうで御座いましたね。承知致しました!直ぐに集めてきましょう」

 為昌はそう言うと、直ぐに部屋を出て行った。…先の河越での戦は綱成の武功があって勝つ事が出来た。しかし、此度の戦では綱成は城に籠らねばならない。主力は私の率いる部隊となろう。勝つ為の工作も作戦も時間も十分に行なって来た。……後は勝つだけだ。




天文十二年(1543年) 一月 ??国??郡??城

客ノ間

???




「義兄上、今日は随分と御機嫌が宜しい様ですね」

「そう見えるか?」

「はい。それはもう、ここに来てからでは一番ではないでしょうか?」

「うむ。…そうかもしれんな」

「して、何がありましたかな?」

「うむ。…上杉がやっと動いた様だ」

「……ほう、では戦に御座いますか?」

「うむ」

 …やっとだ。この報告を二年も待った。日の本全土が飢饉に見舞われたのは誤算であった。本来であればもっと早くに戦が起こる筈であった。そのお陰で二年もの間、此処に身を潜めねばならなくなったが。…此処での生活も悪くはなかったが。


「戦はいつになりそうですか?」

「そうだな。…まずは義元殿が挙兵してからだろう。臆病な上杉共が挙兵するのはその後よ」

 上杉を潰すには領内へ招き入れねばならない。没落したとは言え、今でも三万を超える兵力を有しておる。自国に籠られてはどうしようも出来んからな。

「…そうでしたな」

「お主には二年もの間、世話になったな」

「いえ、義兄上を助ける事が出来て本望に御座います。…それにまだ終わりではありません。今川からの援軍には私も出ましょう。この三浦左衛門尉氏員、微力ながらも共に戦わせて頂きたく!」

「うむ!頼りにしておるぞ氏員!」


 …上杉共よ首を洗って待っておれ。黄泉の国より参ろうぞ。関東の古き者達よ、終わりの時は直ぐそこだ。






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