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北条家の四代目  作者: 兜
第一章   幕開
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第十八話  駿府

今川雪(いまがわゆき)  氏康の妻 西堂丸の母

西堂丸(せいどうまる)  氏康の嫡男

殿(との)北条氏康(ほうじょううじやす)  北条家当主

三浦の叔父上=三浦左衛門尉氏員(みうらさえもんのじょううじかず)  今川家臣

多目周防守元忠(ためすおうのかみもとただ)  北条家臣

今川治部大夫義元(いまがわちぶたいふよしもと)  今川家当主

御祖母様(おばばさま)中御門寿(なかみかどとし)  義元と雪の母

太原雪斎(たいげんせっさい)  今川家臣

氏元叔父上(うじもとおじうえ)葛山氏元(かつらやまうじもと)  今川家臣

古河公方様(こがくぼうさま)足利晴氏(あしかがはるうじ)

藤林長門守正保(ふじばやしながとのかみまさやす)  今川家臣 元甲賀豪族






天文十一年(1542年) 四月 相模国足柄下郡小田原城 当ノ間

今川雪




「…西堂丸は無事に着いたでしょうか?」

「そう心配ばかりするな。…補佐役の四人の他に風魔も付けておる。駿河国に入れば今川家の護衛も付く」

 …そうではありますが。西堂丸は初めて他国へ赴くのですから、心配するなと言う方が無理な話です。…駿府には母上が居りますし、義元も丁重に迎えると言ってましたがやはり心配です。

「横山まで行けば三浦の叔父上も付き添って下さるそうだ。親戚付き合いが好きな西堂丸の事だ、叔父上とは初対面だからな。きっと喜んでおると思うぞ」 

 …確かにそうではありますが。


「御歓談中に失礼します。……御本城様、武田より使者が参りました」

 …ん?今、武田と聞こえましたが。上総国の真里谷家の事でしょか?

何方(どちら)の武田だ?」

 殿も疑問に思われたのでしょう。直ぐに小姓に尋ねられました。

「甲斐の武田に御座います」

 まさか、本当に甲斐の武田とは。そう言えば、昨年に当主が代わったのでしたね。大方、和睦の使者でしょうか?それとも食糧を寄越せとでも?

あの武田なら言いかねないですね。

「そうか。……直ぐに参る。周防(すおう)にも立ち会う様に伝えてくれ」

「はっ」

 当主が殿に代わり、その軍師も代わられました。多目周防守元忠(ためすおうのかみもとただ)殿。殿の補佐役であった方です。家臣の中では最も信頼する人ではないでしょうか?


「雪。身重であるお主を不安させてしまい、すまないと思っている。だが、西堂丸であれば心配はいらん。また帰国する頃には、また一段と成長した姿を見せてくれよう。今は心配するのではなく、信じる時ぞ」

 ……殿。

「…はい」

 



天文十一年(1542年) 四月 駿河国庵原郡駿府館 謁ノ間

西堂丸



「お初に御目にかかります。北条家当主・北条新九郎氏康が嫡男・西堂丸に御座います」

 駿府館に着き少し休むと謁ノ間へ案内された。謁見とは言うが、今川家の家臣達が同席するわけではない。部屋に入ると上座に男性が一人、右側に尼姿の女性が一人、左側に僧侶が一人座っていた。上座の男性は今川家の当主・今川治部大夫義元(いまがわちぶたいふよしもと)叔父上。右側の女性が御祖母様(おばばさま)だろう。目が合った瞬間に優しい笑顔を向けて下さった。そして、左の僧侶が義元叔父上の師にして軍師・太原雪斎(たいげんせっさい)殿だろう。


「うむ。良く参ったのう、西堂丸。私もお主に会うのを楽しみにしていたぞ」

 この方が義元叔父上か。聞いていた印象よりも優しそうな方だと思った。

「はい。私も叔父上と会うのを楽しみにしておりました」

 これは本当だ。母上の弟という事だけではなく、大国を治める大名として興味があった。私が知る大名と言うのは御祖父様と父上しかいない。このまま私が健康を保てれば、北条家の当主を継ぐ事になる。その時に御手本となる人は一人でも多ければ良い。御祖父様や父上は家族である為、身内贔屓や過大評価をしてしまう。と言っても、義元叔父上も身内になってしまうが。


「そうか。…道中は疲れなかったか?」

「はい。横山城で一休みしておりましたので、あまり疲れませんでした」

 駿河国に入ると葛山城主の氏元叔父上が護衛の為に迎えに来て下さった。そして、横山城まで着くと、今度は私の大叔父を名乗る三浦左衛門尉氏員(みうらさえもんだいふうじかず)殿が居城へ案内して下さった。そこで、休息と一つ目の役目を終えて駿府へと向かった。

「そうか。……腹は減ってないか?」

「義元殿。……質問ばかりになっておりますよ。(わたくし)にも喋らせて下さい」

 叔父上が続けて話そうとすると、御祖母様(おばばさま)がそれに待ったをかけた。

「いや、これは失礼致しました」

 叔父上も緊張されていたのだろうか。先程から話したそうにして落ち着きのない御祖母様が目に入らなかったのだろう。

 

「それでは、西堂丸。…改めて、貴方の祖母である中御門寿です。今は出家し寿桂尼を名乗っています。公の場では此方(こちら)で呼びなさい。それ以外では、今まで通り御祖母様(おばばさま)と呼んでくれると嬉しいです」

 叔父上との遣り取りが終わると、御祖母様が私の方へ向きを変えられた。短い挨拶の言葉の端々には聡明さと優しさを感じた。

「はい!勿論に御座います、御祖母様(おばばさま)

 早速、御祖母様と呼んでみると、とても嬉しそうに微笑まれた。なんだか私まで嬉しくなってくる。これ程までに優しい方だと言うのに前世では全く交流がなかったのが今からでも悔やまれる。最近は前世での後悔を思いだしてばかりだな。


「それでは、拙僧も名乗らせて頂きたく」

 今度は左側に座っていた雪斎殿が私の方へと向きを変えられた。

「恐れ多くも御屋形様の軍師を務めさせて頂いております。太原雪斎に御座います。以後御見知り置き下さい」

 太原雪斎。この僧侶は聞いていた通りの人だな。叔父上の学問の師にして今川家の軍師を務める。僧でありながら戦が得意とは、なんとも面白い男だと思った。

「宜しくお願いします」


「……では、挨拶はこれぐらいで良いだろうか?」

 叔父上の雰囲気が明らかに変わられた。此度の用向きが気になるのだろう。

「はい。……そろそろ使者としての役目を果たさねばなりません」

「聞かせてもらおうか」

 さて、何から話すべきか。

「まず、此度の使者として私が選ばれたのは他国を欺く為に御座います。…近頃、上杉の間者が小田原に多くなり北条の動きに敏感になっております」

 上杉の他にも武田や里見の者も紛れ込んでいると、風魔から報告があった。

「…相変わらず、北条の忍びは優秀よのう」

「はい。私も彼らの働きには感謝しております」

 私のお付きの忍び三人に、この事を伝えた時は泣かれてしまったものだ。


「…そして、その使者としての赴きは今川様にお願いしたき事があり、それを伝えに参りました」

「……援軍の話であれば、先代殿との約束でもあるゆえ念押しせずとも反故にはせぬぞ?」

 …あぁ、私が御祖父様に頼んだ事か。叔父上を疑っていたわけではないが、こうして言葉にして頂くと少し感じていた不安も無くなる様だ。

「はい。それにも関わる事に御座います」

「ふむ。……続きを頼む」

 ……誤解を与えそうで少し怖いが、此処はそのまま伝える事にするか。

「……今川家には北条家に対して挙兵して頂きたいのです!」

 叔父上も御祖母様も雪斎殿も唖然とされてしまった。無理も無いか。私も逆の立場であれば同じ反応をしていただろう。


「……いや、すまぬな。…話が見えてこないのだが?」

「そうですね。……一から説明させて頂きます」

 そうして、一刻を掛けて説明を始めた。北条家の今の立場、上杉の動き、古河公方様の真意、里見家の暗躍。最後には三人とも理解し納得して頂く事が出来た。

「……それで北条では、これからは連絡を今以上に密にしたいと思っておるのですが…」

 今川家には忍びがいない。完全にいないわけでは無いのだが、日雇いの様な状態になっている。これから連絡を小まめに取り合うのであれば、北条家では風魔がその役目を担う。身内贔屓ではないが、風魔衆と日雇いの忍びとでは力量に大きな差が出てしまうだろう。連絡を密にするどころか、両者の認識に差異が生じてしまうかもしれない。

「あぁ、その事でな。…私の方からも伝えておかねばならん事があった」

 今度は叔父上から待ったがかかった。


「何事に御座いますか?」

「今川も忍びを家臣に加える事になった。今までは要がある度に雇っていたが、北条の風魔を見ているとどうしても欲しくなってな」

 なんと、叔父上がその様な決断をされていたとは。

「義兄上にも伝えて欲しいのだが、今川が家臣として迎えた忍びの一族は甲賀の藤林家と言う。今代の当主は藤林長門守正保(ふじばやしながとのかみまさやす)と言う男だ。この謁見の後に合わせる予定だったが、今話すべきだと思ってな」

 …藤林?……あぁ!後世で三大上忍と呼ばれていた忍びか!…まさか、その様な大物を家臣に加えられるとは。今更ながら今川家の人脈と資金力には驚かされるな。


「驚かせられた様で何よりだ」

 私が驚愕していると、叔父上が悪戯が成功した子供の様に笑われていた。どうやら、狙っていた様だ。藤林長門守か、この謁見の後も楽しみだな。






遅くなりました。

明日は18時に上げます!

※すみません、仕事が入りました。

 19時半までには上げます!

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