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俺はカップラーメンさえ作れないのか

ギャグです。

 異世界に転生してはや10年。生活が困難。


 転生先がハズレだったとか、そういう話ではない。むしろ強すぎるのだ。

 というのも、10年前に転生の機会を得た、10才小学生の頃の俺が、らくがき帳にオリキャラを書き殴る感覚で後先考えず【スキル】をガン積みしたせいだ。



 そう、小学校の帰りに股間を野良犬に思い切り噛まれ、痛みのあまりショック死した俺は――なんて間抜けな死因だ――幼児性を司るション・ターコンというショタコン女神に気に入られ、異世界にチートスキル無制限積み状態で転生することになった。

 ――どういう状況か、(元の)現実世界で喩えてみよう。

 小学4年生に1億円やって、「今日中に使い切ってね」と言い渡すようなものだ。

 狂喜乱舞。

 何でもできる。何でも買える。

 しかも親の指図なく。

 きゃっほおおおおうう!!

 ゲームを買おう! おもちゃも! あとは……うーん、豪邸とか? あ、じゃあ秘密基地みたいなすごい豪邸にしよう!

 やったあ! 最高の人生!


 ……つまり、大人になった今思うと、勿体無さすぎる。どうせ年齢不相応な、しょ~~もなく、かつ基本的な生活に役に立たないものが内訳を占めるに決まっているのだから。



 そんなわけで10年前の俺は、幼い精神のまま狂ったスペックで異世界の20歳イケメン戦士として転生した。

 そして色々有難い助言と忠告をしてくれていた――と今になって思う――大人たちを、ウザいと一蹴し続け、あれよあれよという間に国を乗っ取り、今や敵うものなしの魔王になってしまった。

 言うなれば今の俺は、「ぼくのかんがえたさいきょうのまおう」といったところか。


 そして20歳の肉体に20歳の精神が追いついた現在は、魔王城の玉座に腰掛けている俺。

 何か食べたい気分だ。

 うん、カップラーメンがいいかな。

 俺はスキル【次元超越者】で元世界への簡易ゲートを開くため、お決まりの言葉を唱えた。


「魔王グロン・クロニクル=たけしの名において命ずる! 異次元の門よ開け!」


 俺の目の前で元世界につながる裂け穴が開く。俺はそこからある家の備蓄カップラーメンを眺めると、スキル【複製】により出てきたカップラーメンを手に取った。

 …。

 ……。

 いや、何だよ、俺の名前。

 グロン・クロニクル=たけし。

 ふざけんな。

 売れなさすぎて迷走してる芸人の名前か。

 ――これも10年前の俺のせいだ。

 グロン・クロニクルまでは、まあギリギリ格好いいで許されるところを、自分の設定をうっかり忘れた小学生俺が「たけし」と本名を口走ったせいで、そっちも名前に含まれると勘違いされてしまったのだ。

 幸いこの恥ずかしいキメ台詞は【次元超越者】を使うときだけのものだが、それにしても……なんでこんなダサい名前に……!


 ――パァン!


 刹那、手に持っていた○清製のカップラーメンが弾け飛ぶ。2メートル先くらいまで麺やら容器やらの破片が飛び散った。

 ああ、駄目だ……落ち着こう。

 少しでも怒りを覚えると、スキル【憤怒の波動】が炸裂して周囲のものを爆発四散させてしまう。


 俺は再び異次元の裂け穴を覗き、再びカップラーメンを【複製】した。

 ここから元の世界に帰れるなら良いのにな。

 ガキンチョたけしは「おかあさんに会いたいから」という可愛らしい理由でこのスキルを取ったが、異次元の相手とコンタクトは取れないし、もちろん裂け穴を通って帰ることもできない、ただ覗けるだけの微妙スキルだった。【複製】と合わせられるのはいいけど。



 さて、気を取り直して。

 まずはカップラーメンの蓋を開けよう。


 ――パァン!


 もういいよ。

 もういいよその音。2回目だよ。

 何で蓋を開けたいだけで爆散するんだよ。

 あ、そっか。わかった。

 スキル【怪力】がカンストしてるせいか。

 せめて人類最強クラスレベルで止めとけよ俺。ちゃんと鍛えてる戦士でも【怪力】レベル50とかなんだよ。何もレベル999のカンストまでさせる必要ないだろ。

 おかげで「よし、やるぞ」程度の意気込みでも物を爆散させるくらいの力が出ちまうんだよ。


 しかし、転生10年の時間を経て、こういう時の対処法は熟知している。

 全力で脱力だ。

 俺は玉座の上で、だらんと手足を投げ出し、背もたれに全体重を預ける。頭を潰されたゾンビのような格好だ。

 そして精神面のコントロール。

 少しでもこれから行う行動の対象へ意欲を示してしまうと、【怪力】が発動してしまう。

 俺はゆっくり10秒に1センチのスピードで手をカップラーメン3個目の蓋に近づけながら、こう唱え続ける。

 カップラーメンなんか興味ない……食べたくもない……ましてや蓋を開けるなんて絶対興味ない……知らん……知らん……。



 …。

 ……。

 よし、容器の変形もなく蓋を開けられたな。

 ていうか何なんだよこれ。

 なんでカップラーメンの蓋を開けるだけでこんな苦戦しなきゃなんねーんだ。

 はっ!

 いかんいかん。怒るな。また【憤怒の波動】が出てしまう。

 ともかく、次はお湯だ。

 まず水を出そう。

 水なら沢山出せるぞ。

 スキル【神の洪水】っと!


 ――ザッッッバ!! バッシャア!!


 ……うん。

 今のは俺が悪かったな。現在の俺が。

 どうすんだよ。周囲一帯水浸しで足まで浸かってるぞ。奇跡的にカップラーメンは濡れずに済んでるけど。

 まあぶっちゃけ、スキル【水清製】もカンストしてるから、そっちも加減しないと同じ結果になるんだけどな。



 ま、状態はどうあれ水は出たし、よしとしよう。

 この水をスキル【サイコキネシス】で浮かせて――これはわりと扱いが楽な優良スキルだ――熱してお湯に変える。

 スキル【熱暴走】発動ッ!


 ――ジュワアアァァ……。


 うん。わかってた。蒸発した。

 スキル名からしておかしいもんな。でも熱する系のスキルこれしか取らなかったんだよ。

 なんでこんな極端なんだよ全てが。子どもが考えたのか?

 ……そうだよ。その通りだよ。はあ。



 いや、待て。いいこと思いついた。


「魔王グロン・クロニクル=たけしの名において命ずる! 異次元の門よ開け!」


 俺は恥ずかしい文句を再び口にし、元世界の映像から必死に日本家庭の台所を探し回る。

 あった。

 コンロの上のやかん。

 俺は【複製】でやかんを作り出す。

 ちゃんと沸騰後っぽい湯気が出てる。よかった。

 カップラーメンにお湯を注ぐために、テーブル的なところが欲しいが、あいにくこの部屋は【神の洪水】発動のせいで水没している。

 水をどけて、床に容器を置くか。

 スキル【水分除去】を部屋全体にかける。

 これは、「シャンプーのあとすぐに髪が乾いたらいいのに」という小学生俺の要望によって、実装されたスキルです。かわいいですね。使い所限定的すぎる。



 オッケー、部屋全域元どおりだ。

 カップラーメンにお湯を注ごう。

 ……。

 あれ、お湯が出ない。

 首をひねりながらやかんの蓋を開けると、なんと中には一滴の水もなかった。

 …。

 ……。

 あれか。

【水分除去】か。

 部屋全体に作用させたから、やかんの中のお湯まで除去したってわけか。

 ふ、ふふふ……。


「床面に対してだけやらなきゃ駄目ってか!?!? 融通きかせろ!!」


 ――周囲のやかんとカップラーメンが【憤怒の波動】で弾け飛んだ。





 もう認めよう。

 俺はカップラーメンさえ作れない。

 俺はカップラーメンさえ作れない男だ。

 力がありすぎて、カップラーメンさえ作れない。

「力が欲しいか」? いらないです。返却したいです。

 ……はあ、自力で作るのは諦めよう。


「魔王グロン・クロニクル……ハア、カップラーメン作れないたけしの名において命ずる。異次元の門よ開け」


 異次元の裂け穴が開く。つか、これでも開くのかよ。

 俺はカップラーメンを作っている人間を探した。

 あ、おっさん。食べる直前だ。

 俺は出来上がったカップラーメンと、ついでに箸を手に入れる。



「いただきます……」


 できれば自分で作りたかったけどな。俺には過ぎた望みだ。

 半開きの蓋から立ち昇る湯気を嗅ぐ。慣れ親しんだ香り。子どもの頃はよく食べていた。

 箸を掴み、容器の中へ突っ込むと――スキル【風神】による呼気嵐の発生を防ぐため――ふーふーはせず、食らいついた。

 ああ、カップラーメン……。

 おいし……。


「ぶへええぇぇ!!」


 おいし、くない!

 不味い!

 ちくしょう、これも駄目か!


 ……話の序盤で「異世界に転生してはや10年」の俺が、「10年前に20歳イケメン戦士」に転生し、「現在20歳の肉体」を持っていると言ったのを覚えているだろうか。

 そう、俺は肉体年齢を重ねていない。

 かつての俺が選んだ中でもっとも最悪なスキル【不老不死】のせいだ。

 このスキルのせいで俺は歳を重ねられないし、しかも食事がいらなくなるオマケ要素のせいか、味覚が徐々に退化し、ここのところ何を食っても不味く感じる。

 あれこれ試しているが、小さい頃の好物、濃い味ジャンクフードのカップラーメンも駄目だった。

 くそっ! 食事だけが唯一の楽しみだったのに!


 ――パァン!


 もう飽きてしまった効果音とともに、完成済みのカップラーメンが弾け散る。中の熱湯スープと麺が顔に飛び散ってきた。

 しかしそれもスキル【熱耐性】が高水準なせいでほとんど熱さを感じない。




 正直言って、生活どころか、人生が辛い。

 スキル【不老不死】のせいで老いないから、寿命で死ぬことは期待できない。

 致命的なダメージを受ければ死ねるかもしれないが、チートスキルチート耐性におそらく邪魔されるだろう。

 そもそも、昔に強い奴を全員蹴散らしたせいで、俺を殺そうという気概のある奴は誰もいなくなってしまった。




「だれか……誰か助けてくれえええええええぇぇぇぇ!!!!!」



 そんな俺の悲痛な叫びは、スキル【魔王の咆哮】で爆音波となり、大陸じゅうに響いて世界中を震え上がらせた。

夜中にふと思いついて書いた短編です。

どっかとネタ被りしてたらすいません。


普段はミッドナイトにて同名義で活動しています。探してみてね。

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