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美しく星の瞬く夜に  作者: まさたま
7/8

 

  「──くっ……!!」


 シャーロットは押されていた。

 男のアルヴェロと、女のシャーロットでは体躯に差がありすぎるのだ。またアルヴェロはミカエラと出会う以前から、剣技にも秀でていた。


 ただ力を貰っただけの、元公爵家令嬢シャーロットではそもそもの役者が違う。



 ──でも、引かない……!



 いつからかはわからない……おそらく早い段階で、アルヴェロは自我を失っている。彼はあくまでもミカエラの美しい傀儡。


 アルヴェロになくシャーロットにあるのは、強い憤怒と自分の意識だけ。


 もっとも、それが勝機に繋がるかは別の問題だが。



 幾度となく倒れては立ち上がる、シャーロットの脳裏に過るのは自身の記憶──


 父はシャーロットへ大変に期待を掛けていた。娘の重責を知りつつも、時に厳しくあたった。全てはシャーロットの未来の為。

 国や民への大義すら捨て、財を投じて彼女をここから逃がそうとした彼は……それが失敗すると、娘の為に容易く首を差し出した。


 寡黙で不器用な父の代わりに、優しく甘やかすのが母の役目。

 シャーロットが辛いとき、苦しいときは必ず側に居て、話を聞いてあげては優しく諭した。

 そんな彼女もやはり、夫と同じ様な選択をした。



 二歳年上の麗しく優秀な王子・アルヴェロは、シャーロットにとても優しかった。それはあまりに初々しく、男女としては至らぬ点もあったかもしれない。だが重責しかない政略結婚でも、シャーロットはアルヴェロとなら……穏やかで、優しい日々が送れるような気がしていた。




  「ああぁぁぁあぁぁぁッ!!」


 身体が傷付いても、シャーロットの気持ちが折れることはない。何度だって、立ち上がれる。


 もう逢うことのできない彼等を。

 培ってきたその日々を。

 シャーロットは覚えているから。




 気が付けばラースも押されていた。


 シャーロットの幸福を祈り、密かに見守っていたラースではあったが……地に堕ちた事により天上人の力の大半を失っていた。

 天上人と(おぼし)き人物が現れた事で、危機感を覚えたラースが今になって現れたのも……全ては力を取り戻すのに時間を要したからである。


 天上人であることを捨てた彼は、その力を不必要に欲することはなかったが……間に合わずにシャーロットが傷付けられてしまったことで、初めてそれを悔やんだ。



 そして今、この時も。



 ──相手がミカエラでは、分が悪過ぎる……!



 背中合わせになったシャーロットをチラリと見ると、深紅の瞳も、青い炎の剣も、激しく燃えている。

 むしろ、その炎は激しさを増していた。



 ──だが、このままでは……二人とも、死ぬ。



 ラースは懇願した。


  「頼む……逃げてくれ」


  (……死ぬのね)


 敵わない──


 もとより既に死んだような身だ。死は恐ろしくなかったが、一矢報いることなく死ぬことには抵抗が無いでもない。

 逃げれば……或いは報復の機会が、訪れるかもしれなかった。


 だが、そんな選択をする気など、シャーロットには無い。



 ──君を失いたくない。



 彼の目が、そう告げている。

 そして、それを受けて溢れる温かなモノ。


 それをなんと言うのか、シャーロットは知っていた。



  「ラーシフェル──どこまでも、貴方と共に」



 ──どこまでも……死すらも二人を別つことなどできない。

 貴方がくれた身体の代わりに、捧げるのは──心。



  「私の貴方」



 ──そして、貴方の私。



 シャーロットはラースの首に腕を回し、強引に唇を奪った。


  「…………!!」


 その刹那、ラースの身体に溢れ出る力。



 天上人が人間を厭わしく思うのには理由がある。

 ヒトは愚かで醜く、自分達より遥かに劣った『天上人のなり損ね』──だが自分達を模した様な、その姿が疎ましいだけではない。


 天上人は天上人で在るが故に、手に入れることのできない強い力があった。



 それは欲望と……ただひとりへの、愛。

 強い感情と、絆。



 青い怒りの炎は絶えずその色を変化させる。青から紫、紫から赤へ。やがてそれは全ての感情の入り交じった……だが純粋な、光る黒色へ。

 澄みきった夜空よりも美しい黒色の炎は、流星のように光を放ちながら、大きく燃え盛る。



  「馬鹿な……」



 それは一気に全てを呑み込んだ。



 ミカエラも、アルヴェロも……王城にある全てを。





挿絵(By みてみん)


※イラストは汐の音様より頂きました!

素敵なイラストありがとうございます!!(p*'v`*q)


↓汐の音様、マイページはこちら。↓

https://mypage.syosetu.com/1476257/

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― 新着の感想 ―
[良い点] うんうん。凄い盛り上がりですよ。 これは感涙ものです。
[良い点] うおおおーーー! 愛の力! もう何言うことはありません! 続きを待ちます!
[良い点] 漆黒の炎! これは中二心をくすぐられます! またそれが愛から発生したっていうのが、皮肉めいた感じがしてイイです。
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