地下牢①
※シャーロット視点
※合意を伴わない性的描写有り(苦手な方は御注意ください)
──ピチャッ……ピチャッ……
肌に触れる湿った床。
カビや不浄なモノ、そして血の臭いが鼻をつく。
落ちる滴は何処かに溜まって漏れた雨水か……それとも私の血か。
ボンヤリとした視界の中、妙に冷静にそんなことを絶えず考える、私の頭……あたま。頭──
お父様とお母様の頭。
(私には……ついている)
ついていないのは──
「─────!!!!」
燃えるように激痛が襲う。
投与された薬のせいか……意識が朦朧としていたうちは感じなかったそれが、堰を切ったように溢れだした。
ないわないわないわうでもあしも
うでもあしもないのよわたしのうでもあしも
あついあついイタイあつい
なんでなんでなんで
無理矢理血止めを行い包帯でグルグルにされた四肢に気付いた私は、激痛に苛まれながらその現実の恐怖にただ混乱するばかり──きっと、芋虫のようにただ蠢いていたに相違なかった。
おとうさまおかあさまおとうさまおかあさま
おとうさまおかあさまおとうさまおかあさま
幾度となく助けを呼べど、両親はもういない。そんな現実も呑めない程の現実。
私の口には未だ猿轡が噛まされ、蠢く度に包帯からは赤いものが滲んでゆく。
囚人の纏うボロ布のような服が床に擦れ、シャリシャリと音を立てた。
牢番と思われる二人の男。そのうちの一人が牢の鍵を開け、私に近寄った。
──だが、それは助けなどではない。
「……おい」
「良いだろ? どうせ死ぬんだ」
血と泥と、涙と鼻水にへばりついた私の髪を乱暴に引っ張り、男は無理矢理顔を上げさせる。
「あ~あ~小汚ぇ面になっちまいやがって。 折角の美女もこれじゃ台無しだな……まあ、穴がありゃ楽しめるか」
「ちっ……精々テメェの出したモンの処理はちゃんとやれよ?」
「わかってるって」
混乱した頭でも、これからなにが行われるかを察知し、私の身体は震えた。
服を脱がすのに手こずった男は、もう一人に声を掛ける。男は何もなかった事にしたいようだ。
「おい、やっぱりお前も手伝え。 服を破いちまう」
「ヘタクソが……手足のない女に興奮できるか」
「まあ見てみろ。 汚れちゃいるが拭けばお前の好みだろ」
「ふん……頭の方だけ寄越せよ。 脱がす必要ねぇだろ。 ぶっかけんなよ? 処理が面倒になる」
聞くに堪えない下卑たやり取りをしながら、妙に丁寧な手付きで顔を拭われ、胸の上辺りまで服が引き上げられた。
ヒュウ、と口笛の音。
「案外悪くねぇ……これなら楽しめそうだ」
下履きをゆるめながら、舐め回すような視線で男達は私の身体を眺め、その汚らしい指先が触れる。
恐怖にビクリ、と震える身体……それがまた男達の興奮を煽ったらしい。
ゆっくりと全身に、指や掌を這わせる感触──上がる、私の身体。
「────ッッ!!!!」
走る、激痛。
後ろ側の男が包帯の上から傷口に手をなぞらせたのだ。
「へへ……これだから傷のある女は堪らねぇ」
「変態め、壊すなよ」
どうやら嗜虐癖があるらしく、私が叫び、蠢く度に、傷を弄ぶように触れる。
いたいやめていたいいたいイタイいたいいたいイタイ
プツリ、となにかが切れた様に感情が不意に消え、私は抵抗を止めた。
──きっとそれは、絶望。
「両親に感謝しろよ? 最期に楽しませてやる」
リョウシンニカンシャシロ──
その言葉に、絶望の中からなにかどす黒い闇の様なモノが勢いよく迫り上がってくるのを感じ、私は再び蠢いた。
……許さない。
目を覚ますように、感じる激痛。
──許さない!
解き放たれたような、ハッキリとした意識。
許せないゆるせないユルサナイ!!
憎いにくいニクイ!!!!
コイツらも王子もあの女も、
あそこにいた全ての人間全て──!!
『魔女』だと言われたことを思い出す。
祈りではなく、呪いの言葉を胸に。
聖剣を打ち砕き、奴等に鉄槌を下す存在になれるのであれば、魔女で構わない。
四肢を無くし父を亡くし母を亡くした私にあるのは辛うじて残る肉体と、魂だけ。
その全てを捧げる。
だから、私に、力を……
全てを破壊する、力を!!
ゼカリヤが聖剣ならば、神などもう要らない。
欲しいのは、それを撃ち破る、力。
魔女でも、悪魔でも…………構わない!!
「殺してやる……!!」
犯される為に猿轡を取られた私の口が、なによりも先に紡いだ言葉。
叫びでも嗚咽でもなく、決意と呪いの言葉。
男達は一瞬怯んだが、それを打ち消すかのように舌打ちし、身体を掴む手に力を込め直した。
──カツン
突如響く、足音と……知らぬ男の声。
「……彼女を放せ」