断罪
※残虐描写有り(苦手な方は御注意ください)
「シャーロット……貴様を聖剣ゼカリヤの名において、断罪する!」
アルヴェロは高らかに宣言した。
王家に伝わる聖剣『ゼカリヤ』。
それはこの国の始祖であり聖者、ゼカリヤが神から授けられたとされる剣。
王は神官も兼ね、信仰もまた王家のもの……特権階級はあれど、この国はどこまでも独裁国家なのだ。
伝承や文献の、何処までが事実かは定かではないにせよ……聖剣が不思議な力を持ち、それを使えるのは王のみであることは紛れもない事実である。
そして、カミラの予言が当たるのも。
カミラが来てからというもの、坂を転げ落ちるが如く国は荒れた。
あれだけ優秀と謳われたアルヴェロは、カミラの言うことにしか耳を貸さない。
──恋慕と言うよりも、崇拝に近い程。
苦言を呈す者をゼカリヤで容赦なく斬り落とし、いつしかそれは舞踏会の余興の様になっていた。
最初こそ阿鼻叫喚の有様だった貴族達も気付けばそれを興奮と快楽に変え、舞踏会は常に熱気で溢れている。
自らが不興を買わない限りは、こんな素晴らしいショーはない……とばかりに。
シャーロットも両親も、口をつぐむよりなかった。
だが、不敬を恐れた訳ではない。
つい先日のこと、シャーロットの成人の義は身内のみで密やかに行われた。
半年後の婚姻に……それから紡ぐふたりの、そしてこの国の未来への、一縷の希望。そのために。
しかし、今。
玉座の間より少し下……踊り場と言うよりも、中二階の様なスペース。謁見や舞踏会の挨拶の際、民はここまで進む事が許される。両側には甲冑を着けた近衛がずらりと並び、物々しい。
シャーロットと両親は、端の扉からここへ、引き摺るように乱暴に連れ出された。
余興は既に始まっている。
シャーロットの父と母……ヘザリントン公爵夫妻はこの日が来ることをある程度予測し、覚悟を決めていた。
願うは手塩にかけて育てた愛娘の幸福だけ。
『むしろ暴君と化したアルヴェロの妻になるよりは』と密かに財産を投じ、他国へと娘を逃がす算段を講じていた。
しかし時は既に遅く。しかも断罪の理由は想定外のモノであった。
「シャーロットはこの国に災いをもたらす魔女である!」
根拠はカミラの予言以外、何もない。
カミラが次々に予言を言い当てているとはいえ、長年共に歩んできた婚約者に対し、あまりにも酷い仕打ち……しかし最早それを覆す術などはない。
アルヴェロは常軌を逸しており、その眼はかつての彼のものではないのだから。
ヘザリントン公爵は静かに、重々しい声を発した。
「──この国への献身、そして王への忠義……私共は一片足りとも違えたことは御座いませぬ。 娘の責は親である私共へ。 ……どうか、娘の命だけは 」
──お父様!!
猿轡を噛ませられ身体を縛られたシャーロットには、叫ぶことすら許されない。
無言のまま、公爵婦人も恭しく跪く。
──お母様!!
「──ッ! ──ッ!!」
鈍い音を立て倒れたシャーロットは、這いずるように涙でグシャグシャな顔を上げてアルヴェロになにかを訴えた。
娘もまた、願うは両親の生。
それを可笑しそうに眺め、カミラはアルヴェロに耳打ちをする。
「──ふむ、良いだろう」
聖剣ゼカリヤの一閃。
離れた首が本来在るべきだった場所からは、大量の血飛沫が噴水の様に溢れた。
「────!!!!」
聖剣が落としたのは── ふたつの首。
ドスリドスリ、と重い音がふたつ。
転がったそれは……奇しくも仲睦まじかった生前の姿を揶揄するかのように、唇を重ねる様に向き合った。
両親から作られた血溜まりに身を浸すシャーロットの縛が解かれるや否や、アルヴェロはピチャリ、と音を立てて彼女の前に立つ。姿勢を変えることのないアルヴェロがシャーロットに向けたのは、美しい面立ちに映える碧の、冷たい視線。
そして、非情な言葉。
「命を助けるとしても、魔女をそのままにしておく訳にはいかぬ」
「──ッ?!」
抑揚なくそう言い放つと、無慈悲にもアルヴェロは聖剣を振り落とした。
狂乱の中、尚も宴は続く。
シャーロットの四肢を切断したあと、ホールにはアルヴェロの合図と共に音楽が鳴り響いた。