氷魔法は嫌いだ
彼女とあいつと俺、三人でパーティー組んで冒険者稼業で暮らしてきた。
出会ったのは冒険者養成所、言ってみれば一緒に学んだ仲だ。
彼女は治癒魔法を覚えていたし、あいつは剣技に長けていた。
俺は俺で、氷魔法が使えたから養成所ではよく組んで実習を受けていた。
いや、言い過ぎだな。氷魔法が使えたんじゃない。それしかできなかった。
氷の礫による狙撃と、自分の周囲をドーナツ状に氷漬けにすることだけ。
あいつの死角に回り込もうとする敵を倒しつつ、彼女と自分に接近させない。
しかし、しばしばやり過ぎて自分や周りを氷漬けにしてしまっていた。
それでも二人は俺の狙撃の腕と魔力の高さを買ってくれていた。
矢を消費する弓手よりも、森で使えない炎魔法よりも、相性がいいと。
三人ともいいお家柄でもなければ長子でもなかったし、講師の推薦で冒険者になった。
冒険者になって町から離れるときも、三家族とも褒めこそすれ引き留めることはなかった。
彼女は明るくて笑顔が素敵で、他の冒険者からも大分お誘いがあったようだ。
でも彼女は人が多いのは苦手と、俺達を選んでくれた。
あいつは強くて頼りになって、町の娘達から大分お誘いがあったようだ。
でもあいつは留まるのはいやだと、俺達を選んでくれた。
俺は…… 俺は誰からも嫌われこそしなかったけど、誰からも誘われなかった。
勿論、彼女とあいつを除いてだけど。
彼女は明るくて笑顔が素敵だったから、俺達二人が惚れてしまうのも無理もなかった。
だけど彼女はそんな気持ちはまるでないかのようで、俺達は冒険者として旅を続けた。
そうしているうち、あいつと俺はお互いの気持ちが分かってしまった。
そりゃそうだ、二人とも彼女を見ているのだから。
「分かっているだろうな、冒険者を辞めるまでは手を出すなよ」
「勿論だ。逆に彼女が告って来たら、解散だ」
そんな約束とも言えない約束で、安心したのが良かったのか悪かったのか。
その後も三人の冒険稼業は順調だった。
だけど、気が付いてしまった……
森で俺達としては初めての大物を倒したので、森を抜けた村で祝杯を挙げた。
その席で、彼女の視線がいつもと違うことに。
俺は急に身体が冷えてくるのを感じた。酔いもどこかに吹き飛んで、酷く頭痛がしてきた。
「おい、どうした。顔が真っ青だぞ」「大丈夫? 怪我じゃないから治癒が利かないわ」
「あぁ、ちょっと無茶したから魔力が安定しないみたいだ。ちょっと寝てくるよ」
これ以上、こんな顔を二人に向けられるものか。
偶には贅沢に個室にしようぜ、なんて言って奮発してよかった。
実際体調が悪かったのか、暫く眠ってしまったようだ。
階段を上がってくる二組の足音が聞こえてきた。
その足音は、一つのドアの開く音の後、聞こえなくなった。
早朝、明るくなる前に俺は宿を後にした。
俺はまた、魔力を暴発させてしまった。
氷魔法は嫌いだ。
黙っていられない性分なんで一言。
ラストの暴発した氷魔法の効果についてはご想像にお任せします。
ちょっと氷漬けにしただけなのか、それとも……
自分の中ではこの三人は既にいろんな冒険をしています。
三人のこれまで、三人の行く末、気になる方は是非感想かメッセージを。
あ、勿論ダメ出しだろうと低評価だろうと歓迎します。