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ダンジョン経営物

何故か参加したら女の子と勝負する事になった

作者: 名嵐

 メルキュルリスから懇談会の詳細な日程のメールが届いてからその日までは特に今までと変わらない日々が続いた。

 まぁ、その間にもちょくちょくとマリーに会いに行ったり、ダンジョンを拡張したりと忙しく動いていたお陰か俺のダンジョンも茉莉奈さんのダンジョンも階層が増え、今は15階まである。

 ただ、恐らく他のダンジョンマスターたちに比べればまだまだな感じだろう。正直言って俺と茉莉奈さんのダンジョンには未だに人の侵入者は一人も来ていない。

 マリーにも聞いてみたが、このダンジョンの有る地域は徐々に開拓が始まった地域とは言え、辺境地帯でこの山と森の周りはまるで人の侵入を拒むかのようにモンスターや災害が訪れる事も有って近くには人の住むような村や町は無いらしい。

 話によると隣国への道が傍を通っている為、偶に森から離れたところを商人などの馬車が通る事は有るらしいが、余程の事が無い限りはわざわざ森の近くまで来る事は無いのでマリーみたいに逃げてくるのも稀な事だろう。

 まぁ、マリーも隣国に逃げても命の危機がずっと続くぐらいならと森まで逃げてきたぐらいなのでその稀な事態も今後も有るかと言われると微妙だろうな。


「九郎さん、そろそろですよね?」


 ふと考え込んでいた俺に声を掛けてきた茉莉奈さんはいつもよりも服装とかを気にしているのか、ちょいちょい目をそっちに向けて変なところが無いかを確認しているようだった。

 まぁ、それも仕方無いのだろう。この後はメルキュルリスから連絡の有った懇談会が行われるのだから。

 そんな事を思いながらも時計を確認してみるとメールに書かれていた時間があと数分まで迫っていた。

 傍に来たエリザとフォラスに声を掛けて留守の間の事をお願いしているとダンジョンコアから光が溢れ出し始める。


「えっ、何!?」


「大丈夫ですよ、マリナ様。メルキュルリス様が空間移動用のゲートを創ろうとしているだけですので」


 えっ、本当にそれ大丈夫なのか。変に空間が歪んで吸い込まれてお亡くなりとかないよな……。

 不安を覚える俺を無視するように溢れ出した光は集まり、球体になると壁まで飛んでいくとそのまま壁に飲み込まれるように消えていき、一瞬だけ眩しい光を放つ。

 うぉ、眩しい。


「きゃっ!!」


 驚きながらもその壁を見てみると今まで無かった扉が出来ていた。

 茉莉奈さんと顔を見合わせた後、その扉に近づく。恐らく、これがメルキュルリスの言っていたゲートなんだろう。

 特に見た目からは変わったところは無いようなので俺はフォラスやエリザに声を掛けて扉を開いた。




 扉の先は少し広く造られた広場だった。

 そのまま周りを見ながら進んだ俺に続くように出てくる茉莉奈さんが扉を閉めると扉が跡形もなく消えてしまう。


「嘘、消えちゃった……」


 これはメルキュリアが帰り道は別に用意してくれるって事なのかな。

 いつまでもそこにいる訳にはいかず、広場から伸びた一本の道を進んでいく。

 その道の先には大きな建物が見える。

 デパートかホテルを思わせるそれの入口には一枚の看板が立っていた。


『ダンジョンマスターの皆様は右手のエレベーターより4階多目的ホールへとお進みください』


「へぇー、なんかしっかりした風にやるんですかね、懇談会」


 そう話す茉莉奈さんとエレベーターに乗り、そのまま4階へと向かう。

 建物自体は特に変わった事が無い様に思えたがエレベーターが動くとその考えが変わる。今まで乗ったエレベーターで感じた動く時の不快感を感じず、本当に動いているか不思議に思うほど揺れや音が聞こえてこないのだ。


「えっ、今動いてるの?」


 どうやら茉莉奈さんも同じことを思ったようで動いている事を証明している液晶に表示された階層表示を驚いた表情で見ていた。

 しかし、こんな物が有るって事は他にも変わった物が有りそうだな。


「そうですね。なんか期待したくなっちゃいますし」


 そんな会話をしている内にエレベーターは4階に到着する。

 ドアが開いた先には左右に広がる通路と看板が立っていた。


「九郎さん、どうやら会場は左っぽいですよ。あと、トイレに行かれるなら右だそうです」


 ありがとう。特にトイレに行く予定も無いし、エレベーターも次に来る人たちが呼んだのか下に行っちゃったからさっさと俺たちも行こうか。


「そうですね。あぁ、楽しみだな〜。どんな人がいるんだろ」


 どうやら先に来ていた人たちは既に会場内にいるようで人影は一切ない。

 そして、辿り着いた扉の前。互いにどっちが先に入るかで少し揉めるも結局俺が先に入る事になった。


「さっ、入りましょう、九郎さん」


 茉莉奈さんの声を背中で聞きながら扉を押し開ける。

 奥に造られたステージ、ステージから少し距離を取るように部屋の中央に一列に並んだテーブルの上には見た目からも美味しさが伝わってくるような料理の数々、左右の壁沿いに休憩用と歓談用に用意されたテーブルとイスが有った。

 既にかなりの数のダンジョンマスターたちが集まっているようで壁沿いに一人立っているか知り合いを見つけたのか数人で話している姿が見えた。

 茉莉奈さんに急かされるように部屋の中に入った俺に集まる視線。ちょうど後ろから様子を見た茉莉奈さんにも何人かの視線がいったようで直ぐに怯えたように俺の後ろに隠れる。


「ど、どうします、九郎さん?」


 そんな不安そうな声で言われても……。取りあえず、ステージ傍に空いてるテーブルが有るからそこに行こう。

 知らないうちに俺の服の裾を掴んでいた茉莉奈さんを先導しながらテーブルに向かう間も何人かがこっちを見ているのが分かる。

 ほら、着いたから離してと茉莉奈さんの手を外す。


「なんかこっちを見ている人多くないですか?」


 不安そうにしながらもキョロキョロと周りを見始める茉莉奈さんの視線にこっちを見ていたと思われる視線が逸らされる。

 そして、そうしている内にどんどんと会場内に他のダンジョンマスターたちが増えていく。


「ダンジョンマスターの皆様全員が入室しましたのでこれより懇談会及び新機能発表会を始めたいと思います」


 唐突に響いた声にステージの方を見てみるといつの間に現れたのかメルキュルリスがステージ上でマイクを使って話していた。

 さっきの言葉からすると今この会場内にいるのが他のダンジョンマスター全員なのだろう。見た限りでは多過ぎず、少な過ぎずといったところだけど、なんか最初に送られる時に見た光の玉の数から変わっているような気もするな……。


「まず皆様方に今までダンジョンの経営をして頂きありがとうございました。また、それとは別に残念な事ですが既に16名ものマスターがこの場に来ることなく去ってしまいました」


「えっ、嘘……」


 茉莉奈さんから消えそうな小さい声が聞こえてきたが、俺からするとそれは仕方のないことだと思う。

 俺たちは最初から人里離れた所を選んでダンジョンを造ったからこそゆっくりと着実に余裕はそんなに無いとはいえ経営する事が出来ている。だが、ダンジョンマスターに選ばれた中には小説とかで見たような街中からの一発狙いや現代知識を持ち込んで俺強とかをやろうとした奴がいたんだろう。

 恐らく今回ここに来れなかった奴らの大半はそんなんだっただろう。


「その為、言い方は悪くなってしまいますが空きが出たマスター枠は10名分再度皆様と同じように手伝っていただける方を及び致します。また、今回このような事態になった事を重く受け止めた上で10名以上のマスターが亡くなられた場合はその都度同じようにさせていただきます」


 そのメルキュルリスの言葉に会場全体から騒めきが生まれるが、それを無視するように話を続けるメルキュルリスにそれも次第に治まっていく。

 どうやら後から来るマスターの世話とかする必要は無いようでそれは安心できる。ただでさえ茉莉奈さんと一緒に経営している上にもう一人なんて無理だしな。


「次に新機能の発表をしたいと思います」


 再び騒めきに包まれる会場。

 茉莉奈さんも興味が有るようでメルキュルリスに向けた目は興味津々なのが見てとれる。


「まず、一つ目として皆様から要望の有りましたリアルショッピングモールの実装です。皆様が薄々気が付いていると思われますが、この建物の1階から3階がその店舗の場所になります。また、要望が多いようでしたら建物の拡張やテナントの入れ替えなども活発に行っていきます」


 俺としてはそこまで気になる事では無かったが、横にいる茉莉奈さんも含めて会場にいる女性陣と一部の男性陣から嬉しそうな声が上がる。

 まぁ、実際に見てみないと大きさとか色合いとかが実物と違ったってことも有るから仕方ないのかな。


「次に二つ目としてこちらも要望が有りましたマスター同士で競い合う為の闘技場を実装いたします。これは自分が所有しているモンスター同士をリング上で戦わせる物になり、私の他にも皆様のサポートをしたいと言ってくださった神々(かたがた)が主催する大会なども開催する予定です」


 ふーん、定番のダンジョンを使ったダンジョンバトルとかは無さそうだな。

 まぁ、俺たちは互いのダンジョンを滅ぼす為に経営している訳でも無いし、ダンジョンが壊れるような事は最初からやる訳無いか。


「勿論、大会では通常では手に入らない物を賞品にする予定ですし、大会以外にもマスター同士が申請する事で親善試合も行えるようになっています。また、皆様の中にはモンスターの負傷を気にされる方もいらっしゃると思いますが、この闘技場内に限りそういった事は起きないようにさせていただきますので安心してご利用ください」


 へぇー、なら特に気にせずに利用は出来そうだな。流石にダンジョンの方にも影響が出なさそうだし。

 まぁ、実際に利用するのは先の話になるだろう。挑戦するならそれ用のモンスターを育成してみたいしな。


「最後に実装するのはカジノを含めた遊戯施設及びそこに併設されたオークション会場です。あっ、オークションと言っても既に実装している物よりも取り扱える品目が増えていますので全く同じでは有りません」


 メルキュルリスが言うにはこれもリアルでの競り合いが楽しみたいというのと他に捕らえた冒険者などもオークションに出したいという要望が有った為に実装を決めたそうだ。

 まぁ、本命は遊技施設の方でこっちはカジノは勿論の事、ゲームセンターに置かれている筐体やモンスターを使ったレースなども出来るらしい。そして、ゲームとレースに関してはマスターが開発したり、育成したりできるので有れば申請する事でそこに開発したゲームの筐体が置かれたり、実際にレースで走らせたりできるとの事だ。


「現在、闘技場については数日後に、遊戯施設に関してはその後に開放させて頂く予定となっています。また、闘技場に関しては記念として第一回の大会を行いますので興味のある方などはこの懇談会の後に登録を開始しますので奮って参加ください」


 そう言われても今の状態だとそれに参加は出来ないよな……。

 同意を求めるように茉莉奈さんを見てみると同じような事を考えていたようでこっちを見ていた。


「では、これで新機能発表会を終ります。続いて懇談会に移りますので皆様お近くのスタッフより飲み物をお取りください」


 その声に姿を現したウエイターから茉莉奈さんと共にドリンクを貰いながら全員が受け取るのを待っていると妙にこっちを見ている集団が有る事に気が付く。

 よく見てみると全員が女性で周りを見る限りではこの場にいる女性の大半がそこに集まっているようだった。


「では、皆様のこれからを祈って、乾杯!!」


『乾杯!!』


 メルキュルリスが全員にドリンクが届いたことを確認すると手に持っていたグラスを前に押し出し告げる。そして、それに続くように俺たちも同じ様にした。

 まぁ、直ぐに茉莉奈さんとグラス同士をぶつけて乾杯して飲み始める。

 そして、それを合図に各自が料理を取りに行ったり、さっきの発表について話始めたりと懇談会がスタートした。


「じゃあ、私も食べ物取ってきますね」


 待ってくれ、俺も行くから。

 流石にこの場所に一人で置いてかれる方が辛いし、他の様子を見る限りじゃ、このテーブルが使われるって事も無さそうだし。


「なら、一緒に行きましょう!!」


 手を引っ張って料理の所まで連れて行こうとする茉莉奈さんに苦笑しながらもなされるがまま歩く。

 皿を手に取り、並んでいる料理に目を向けた。

 へぇー、結構色々と有るな。あっ、エビフライと焼売貰いっと……。


「九郎さん、九郎さん、サラダとか野菜も取った方が良いですよ」


 そう言ってサラダを掴んだトングを差し出してくる茉莉奈さんに少しで良いよと言いながら傍に有ったポテトサラダを多めに取って誤魔化す。

 ついでにとスライスオニオンをのせて胡麻ドレッシングをかけてその場から少しずれる事で追加をのせられない様にする。


「でも、色々有りますね〜」


 そう言いながら手に持った皿にフライドポテトをのせていく茉莉奈さんに頷きながら串カツを取る。

 うん、ドリンクにアルコール類が選べるからこういうツマミになりやすいのは結構早く無くなるんだよな。


「そうなんですか?」


 そうそう。あと、アルコールが入る事で騒ぎだす人たちもいるから茉莉奈さんは気を付けてね。


「そうした方が良さそうですね……」


 どうやら、周りの様子から警戒した方が良い事を理解したのか素直に頷く茉莉奈さん。

 まぁ、既に何杯もグラスを空けている連中がいるのは見えているので当たり前の反応だろう。

 その後、適当に数品の料理を皿の上にのせ、元のテーブルに戻って周りの様子を見ていると始まる前よりもグループがしっかりと出来ている事に気が付く。

 まぁ、仕方ないか。ただ、俺と茉莉奈さんに声を掛けてくる奴がいないってのも不思議だな。開催前に掲示板でなんかスレでも立ってたのか?


「にしても、こんなにマスターになった人いたんですね」


 確かに、結構な数いるな。これで16人も減ってるって話だからメルキュルリスも大変だったんじゃないのか。


「でも……、話しかけてくる人がいないって……」


 まぁ、まだ始まったばっかりだからもうちょっとすると皆動き出すよ。

 勿論、俺や茉莉奈さんも動かない事には始まらないけどね。


「そう、ですね。それにしてもこの料理、全部美味しいですね」


 手に持ったフォークでパスタを絡めながら口に運ぶ茉莉奈さん。

 確かに茉莉奈さんの言っている通りに取ってきた料理のすべてが美味しい。普通なら時間が経つにつれて味も落ちていくような物だが、何かしらの力が働いているのかそんな様子が見られない。

 その為か料理を何度も取りに行くマスターたちも多く、置いてある料理がどんどんと品切れになっていく。


「あっ、私、もう一回取りに行ってきますね」


 そう言って茉莉奈さんが食べ終えた皿を持って残っている料理を取りに行ってしまう。

 まぁ、仕方ないかな。いつも食べている物も悪くないけど、やっぱりこういう場で食べてるってだけで料理が美味しく感じれる事も有るしね。

 そんな事を俺が考えているとどうやら茉莉奈さんがいなくなった事で傍にいた他のマスターが話しかけてきた。




 話しかけてきたのは他の大陸でダンジョンを経営しているマスターだった。

 そのマスターは水の単一属性のダンジョンを造ったらしく、出来た場所も運よく海の傍で少し離れた所にそこそこの大きさの港街が有るらしい。


「で、こう思った訳よ。水中ダンジョンにすれば侵入者の数を少なくできるんじゃないかと」


 しかし、そんな彼の考えを嘲笑うかのように水中ダンジョンにするには莫大なDPを要求されるらしく、彼の試みは初日から失敗した訳だ。

 そんな事から彼は出来る限りの『ぼくのかんがえたさいきょいうのすいちゅうだんじょん』を造ろうと色々と試し続けているらしい。

 そして、その事も有って掲示板では検証班の一人として活躍中とか。


「まっ、今は自分のダンジョンの事で手一杯でそんなに調べれてないんだけどね」


「あっ、九郎さん、その方は?」


 どうやら料理を取り終えた茉莉奈さんが戻ってきたようだ。

 しかし、どう紹介したものだろうか。実はまだ名前を教えてもらっていないんだよね。


「あぁ、俺の名前は工藤昌福(くどうまさとみ)だ、よろしくな」


 どうやら俺の様子に気が付いていたようでそう言ってくれた工藤に俺も名前を言う。


「私は天野茉莉奈、よろしくね」


「あぁ、伊須田さんに天野さん」


 そこからは自然と会話が弾むもので地球にいた時の事から始まり、今の状況について三人で話す。

 結局はダンジョンの事についてが多くなってしまうが、それでも自分たちとは違ったアプロ―チをしている工藤さんの話はなかなかの収穫となった。

 特に同じ水属性のみを選んだだけ有って水を使ったギミックなどは未だにそういう事に手を出していない為にこれからマネをしていこうと思えた。


「目指すのとは違うけど、スライムを使った待ち伏せ戦法ならやっぱり水溜まりを利用したものが効率的だったよ」


 そこまで違うものなんだろう。

 また、話によると使うべきなのはシンプルなスライムをそのまま進化させえたラージスライムが水に紛れやすくておすすめらしい。

 まぁ、スライムは種類によって色が違ってくるから状況に合わせて罠替わりに使う事ができるから召喚できるようにしておきたいな。


「君たちの方は何か面白い事とかしてる?」


「うーん、特別何かしてるって事は無いですけど、ドールに色々覚えさせてますね」


 マリーを保護してからもドールを何体か召喚しては知識を覚えさせていた為に茉莉奈さんのダンジョンはなかなか面白い状態になっている。

 勿論、ダンジョンだけではなく、マリーの周りもだいぶ過ごしやすいように改良され続け、今では小規模ながらも農場などが出来ている。

 恐らく、俺たちのダンジョンが発見されたらそのまま村か町が出来上がるだろう。


「へぇー、ドールか。それは良いね」


「ですね。正直、ドールがいないと思うとってぐらいには良いですよ!」


 そう笑って言う茉莉奈さんは料理が無くなった事に気が付くとまた取りに行ってしまう。


「しかし、本当に君たちは仲が良さそうだ」


 何か探るように見てくる工藤さんの視線に気が付きながらも敢えて俺は茉莉奈さんと二人でダンジョン経営している事を誤魔化しながら話す。あんまり他の人たちには知られたくないしね。


「そう言えば、話は変わるけど伊須田君の貰った高位モンスターはどんなんだった? 俺はちょっと使い勝手に悩むクラーケンだったんだ」


 く、クラーケン……、だから水中ダンジョンが直ぐに候補になる訳ですね……。

 まぁ、大半のゲームでボス扱いされるクラーケンなら外れでは無いだろう。ただ、使い勝手が微妙に悪そうな気がするけど。


「そうなんだよ。今はまだDPの関係で召喚しても強くないっていうか、勿体ないからダンジョン領域を海側に少し拡張して海で暮らして貰ってるんだ」


 あぁ、ウチでマリーと一緒にアンナとミランダが暮らしているのと同じ感じか。

 俺の高位モンスターはヴァンパイア・クィーンだったよ。

 元々、洞窟型のダンジョンだからそこまで困る事は無かったからダンジョンを整えるって意味では楽だったかな。

 それを聞いて気になった事が有ったのか、面白そうな顔をしながら工藤さんが聞いてくる。


「へぇー、そうなのか。なぁ、配下とか作れるのか?」


 配下ねぇ……、そう言えばエリザに聞いた事無かった。

 確かにヴァンパイア若しくは吸血鬼と言えばグールとかの配下を作る事が出来てもいいよな。今度、確認しとくか。

 そんな考え込む俺の様子に工藤さんは何かマズい事を聞いたのかと心配そうな顔をし始めていたが、直ぐに俺が分からないと答えるとその表情を消した。


「なら、分かったら教えてくれ」


 まぁ、そうだな。特に今はマスター同士が直接揉めるような事は無いし、教えても問題は無いだろう。

 それにスレも建ってた筈だし、そっちにも書き込んでおくかな。


「しかし、こうやって見ると結構な人数がマスターになってるんだな」


 他のテーブルに視線を移した工藤さんに合わせるように俺も見てみるが確かに多いと感じる。

 まぁ、これから先はどうなるか分からないけど、補充も有るからそんなに人数は変動しないだろう。


「そうなんだけど、こんなに人数がいると厄介な奴が混じってそうじゃん」


 確かに。そう考えると何かしら分からないかと見始めたくなる。

 ただ、それで分かれば苦労しないというもの。取りあえず、気に掛けておくべきなのは一人で過ごしている奴と大規模で集まっている中でリーダーとして振る舞っている奴、他のマスターと揉めたり、顎で使っている奴か……。


「それより天野さん、大丈夫かな? 絡まれてるけど」


 えっ、それどこですか?

 工藤さんが指差した先では料理を盛った皿を持つ手とは反対の腕を掴まれ、話しかけられている茉莉奈さんの姿が有った。

 腕を掴んでいるのは茉莉奈さんよりも背も低く、遠目からはしっかりと分からないが恐らく童顔な事から良くて中学生、下手をすると小学生にも見える女の子。そして、その後ろには年齢や背丈は違えど女性の集団がいる事から恐らく一人でいる茉莉奈さんを見かけて良かれと思って声を掛けたんだろう。

 しかし、茉莉奈さんにとっては急に見知らぬ同姓の集団に話しかけられた事で驚きと何かしらの嫌な予感が過ぎったのか話もそこそこにこっちに帰ろうとしたんだろうね。

 どう見てもこっちに助けを求めるようにチラチラと見ているし。


「たぶん、あの様子を見る限りだと女性だけで固まりたかったんじゃないかな? この状況からするとその方が色々と安心だろうしね」


 工藤さんの言いたい事が分かる俺からすると茉莉奈さんにはしっかりとそういう事について考えて欲しいとは思う。

 まぁ、いつもキューちゃんと戯れてる様子からするとそんな事を考えつかないのは容易に分かるけど。

 しかし、今の状況はどう考えてもマズそうだし、助けに行くか……。


「そう、頑張ってね。俺はその間に君たちに紹介出来そうな他のマスターたちがいないか探してみるから」


 歩き出そうとした俺を見送るようにそんな事を言った工藤さんの気持ちは凄く分かる。

 正直、茉莉奈さんが知り合いでなければ近寄りたいと思えない状況だけにその立場を変わって欲しいとすら思ってしまう。

 まぁ、そんな事を考えながらも覚悟するようにため息を一つすると俺は茉莉奈さんに近づいて行った。




「そう、なら勝負を付けましょう。ちょうど良い事に闘技場のオープン記念にエキシビションマッチを募集しているみたいだから」


 どうしてこうなった……。

 穏便に収めようと近寄ったはずなのに気が付けば俺と茉莉奈さん、そして原因となった女の子の三人を囲むように遠目から見ている他のマスター。

 既に取り残されたような状況で告げられた言葉に思わず何を言われたのか理解するのに少し掛かった。


「なっ、なんで九郎さんが戦わないといけないんですか!!」


「あら、そんなの決まってるでしょ?」


 噛みつくように言う茉莉奈さんに対して女の子はそんな事も分からないかと言いたげな表情で言い返す。

 そして、意味あり気に俺を見つめる視線には断ることは許さないと言っているのがよく分かるほど鋭いものだった。

 その様子に俺はため息をつきながらも仕方ないと思って頷く。


「そう、意外と貴方は分かりがいいのね」


 驚いた顔の二人と周りで騒ぐ連中に顔を顰めながらもどうせ女の子の考えが変わる訳無いと話を進める。


「そうね、どうせ二人ともにそんなに多くのモンスターを戦わせるほど余裕は無いだろうし、1対1を一戦のみで良いわよね?」


 確かに。俺としても未だに侵入者がいないとはいえ、いつ来るかも分からないしもうちょっと各フロアに手を入れたいからそれで構わない。

 何より連れてくるのは決まっているようなものだからな。


「では、そういう事で準備させてもらいますね」


 いつの間に来ていたのかメルキュルリスがそう言って確認を取るように俺たちを見る。

 勿論、言い出した女の子は力強く頷き、俺も特に気になる事が有る訳でもないので頷いた。

 





 【見て】ダンジョンを造ろう! スレ11【しまいました!】


 82:とあるダンジョンマスターさん

 やっぱり開幕戦はあの2人の戦いで確定なのか?


 83:とあるダンジョンマスターさん

 ≫76

 わかるわ〜


 84:とあるダンジョンマスターさん

 たぶんだけどな


 85:とあるダンジョンマスターさん

 面白い試合になると良いんだけど、実際どうなの?


 86:とあるダンジョンマスターさん

 ≫76

 わかるわ〜


 87:とあるダンジョンマスターさん

 どうだろうな?


 88:とあるダンジョンマスターさん

 というか、俺たち見に行ってる暇が有るのか?


 89:とあるダンジョンマスターさん

 ≫88

 それだよ!


 90:とあるダンジョンマスターさん

 見たいけど、ダンジョンも気になるし……


 91:とあるダンジョンマスターさん

 俺は見に行くつもり

 ダンジョン? よゆうだよ……


 92:創生と破滅の女神様

 今回のバトルについては試験的にダンジョンでも見れるようにしています

 なので、無理に闘技場にお越しいただかなくても大丈夫です


 94:とあるダンジョンマスターさん

 あっ、女神様チィース!!


 95:とあるダンジョンマスターさん

 女神様、お疲れ様です


 96:とあるダンジョンマスターさん

 女神様がいらっしゃったぞ!!

 囲め!囲め!!


 97:とあるダンジョンマスターさん

 女神様、ありがとうございます!!


 98:とあるダンジョンマスターさん

 ラッキー!!


 99:とあるダンジョンマスターさん

 となると今まで置物になってた俺のテレビが活躍するな!


 100:とあるダンジョンマスターさん

 マジか!?


 101:とあるダンジョンマスターさん

 やべぇ、テレビ持ってない……


 102:とあるダンジョンマスターさん

 はっはぁーん、こんな事も有ろうかとテレビの準備はバッチリだぜ!


 103:創生と破滅の女神様

 今回は無理にテレビをご用意していなくてもタブレット等で見れるように

 してあります


 104:とあるダンジョンマスターさん

 さすめが!


 105:とあるダンジョンマスターさん

 さすめが!


 106:とあるダンジョンマスターさん

 流石、女神様!


 107:とあるダンジョンマスターさん

 さす女!


 108:とあるダンジョンマスターさん

 さすめが!


 109:とあるダンジョンマスターさん

 良かった……

 DPの手持ち少なかったから安心した


 110:とあるダンジョンマスターさん

 諦めるところだったから良かった


 111:とあるダンジョンマスターさん

 さす女!


 112:とあるダンジョンマスターさん

 ダンジョン、諦めて見に行く気だったから……


 113:とあるダンジョンマスターさん

 さすめが!


 114:とあるダンジョンマスターさん

 ≫112

 流石にそれはマズイって


 115:とあるダンジョンマスターさん

 ≫112

 諦めるって……


 以降、続く

キャラ紹介

工藤昌福

 懇談会で九郎たちと出会ったマスターで先祖には有名な海軍将校がいるとかいないとか。

 カイゼル髭がトレードマークでおおらかで温和な性格と常に微笑みを絶やさない姿に配下のモンスターたちどころか知り合いのマスターたちから好かれている。

 後に海運業をしている者たちから守り神と崇められるようになるが、実際はその逆の行為を行っていた為に不思議がる事になる。

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