第7話
シェルグレット城のはなれ、トマーシュ=ハインツは、部屋の前にいる見張りの兵士の手に、何かを握らせ耳元で囁くと、軽く伸びをして兵士はその場を離れた。
「マルティン様、お食事をお持ちしました。」
「ああ、ありがとうトマーシュ。」
「アネタも、」
「はい、マルティン様。」
「トマーシュ、外の様子は?」
「はい、見張りは少し離れた所におります、しばらくは大丈夫です。」
「それで、お祖父様は何と?」
「はい、当日イヴェルセン様が迎えに来ると、今日、街の例の場所で、使者の方から…」
「そうか、イヴェルセン様が…」
「トマーシュ様、脱出経路の方は?」
「アネタ、心配するな抜かりはない。」
「よし、二人とももう少しの辛抱だ、何としても我らの国へ戻ろう。」
「はい。」
「トマーシュ、シュミツェル様の情報は入ったか?」
「それが、見つかってしまったのは、判ったのですがその後は…」
「シュミツェル様…」
マルティンは目を閉じシュミツェルの顔を思い浮かべた。
8年前、マルティンの世話係りであったシュミツェルは、国境近くに攻めてきた、ホーヴァルの部隊にあたる為、出撃する事となった。
ホーヴァルの部隊とシュミツェルの部隊は、南の方面ネフランで対峙した。
シュミツェル隊の5倍以上の兵数を擁していたにもかかわらず、ホーヴァル隊は苦戦し国境を越えられなかった。
その間にマグヌス本隊は、テオドール二世を破りラスチスラフの王都を落としたのである。
性格の歪んだホーヴァルのシュミツェルに対する憎悪は、想像にかたくない。もし捕まれば間違えなく殺されるだろう。
「シュミツェル様…」
マルティンは祈るように呟いた。