第5話
ラスチスラフを治めた事によって、大陸は初めて一人の王が、支配する事になった、『エイステイン一世』初代統一王である。
彼は統一王国に自分の名を付けた。もともと西の小国ウーデゴール国の王であった彼は、わずかその在位15年で、他の国々を滅ぼした。
その息子マグヌスは、将軍として父を助け、父の死後は二代目の王として即位したが、わずか半年で、死の病にかかってしまった。
そしてホーヴァルはマグヌスの弟である。マグヌスには子供は居るが、まだ幼く王女の為、このままマグヌスが病に倒れる事になると、ホーヴァルが王となるのである。
エイステイン一世はホーヴァルの性格を憂いていた。王都から離れていたラスチスラフに送ったのも、マグヌスと違い将軍に就かせなかったのも、ホーヴァルのその歪んだ性格を考えた為である。
只、兄同様、愛していたのは間違いない。優秀なレグダルを側に付け、地方の小国をなんとか治めて欲しいと思っていた。
「レグダル、レグダル!」
部屋の中をうろうろしながら、大声を張り上げ、手には鞭を持ち、眼は、これからの彼の行動を表すかの様に鈍く光っている。
「ホーヴァル様、ここに。」
「小僧の召し使いはどうした!」
扉の奥に、両手を鎖で繋がれたアネタが、歩いてくるのが見えた。
「くくくっ、レグダル早く壁に繋げ!」
「はっ」
天井から延びたロープを、首輪に結び、両足を壁の鎖につないでいる。
「早くしろレグダル。」
そう言われながらも、レグダルはゆっくりと動いている様に見える。
もう一度、早くしろと命令しようとした時だった。
「ホーヴァル様、レグダル様。」
部屋の中に兵士が一人入ってきた。
「なんだ!うるさいぞ貴様!」
「はっ、失礼をお許し下さい。ラスチスラフからの早馬です。至急ホーヴァル様へと、テッティ様からの知らせです。」
「テッティから?レグダル!」
「はっ」
レグダルは兵士から手紙を受け取り、ホーヴァルへと広げて渡した。
「なにぃ?シュミツェルを追い詰めただと?」
ホーヴァルは手紙をレグダルに見せた。
「ネフランへ現れたのですね。」
「くくくっ シュミツェル!いい度胸だ。レグダル、出発だ!ネフランへいくぞ。」
「しかし、陛下の容態はよくありません、今王都を離れるのは。」
「レグダル、兄は後3~4日は大丈夫だ、3~4日はな…くくくっ貴様らネフランへいくぞ!」
ホーヴァルは不気味な笑いを押し殺し、目の前のアネタには、もう興味を無くしていた。
レグダルは、私兵を呼びにいく何人かと、ホーヴァルが部屋を出ていくのを見てから、アネタの手錠をはずした。
「ご主人の所へお戻り。」
「ありがとうございます、レグダル様」
アネタは一礼し、足早に部屋を出ていった。