第3話
「アル、アルはいるか?」
「はい、父上。」
裏庭で馬の世話をしていた手を止め、アルフレート=ホルバトは、家に入ってきた。
「今から手紙を書く、それをシュミツェル様の所へ持っていってくれ。」
「父上…それでは…」
「うむ。」
「わかりました、急いで支度をいたします。」
ボルフ島、大陸の南東、元ラスチスラフ王国の王妃の出身の島である。今は公国となったラスチスラフの公都からは遠く離れている。
夜遅く、ある屋敷の地下に10個の人影が、蝋燭の炎にゆれていた。
「皆の者聞いてくれ、今朝早く主様より、ダヴィド=ロゼルナフの所に知らせが来た。」
「おお、ついに。」
「ついにこの時が…」
小さく何人かが呟く、一段高くなった場所から一同を見渡し、ゆっくりと両手をひろげる。
「マグヌスの命は間もなく尽きよう、これを期に我は立ち上がるのだ。」
「シュミツェル様。」
「うむ、永く虐げられてきた、主様の誇りと土地を取り返す時が来た。」
全員フードを深くかぶり、表情は見えなかったが、わずかなすすり泣きや呟きを聞くことができる。
「ダヴィド、トーレ、ラドスラフ、パトリック、4人は残ってくれ、他の者は準備に取りかかってくれ。くれぐれも慎重にな。」
一人また一人と暗い部屋から消えていった。
「こちらへ来てくれ。」
シュミツェルを中心にテーブルを囲む、テーブルの上には地図が広げられている。
「さて主様は、マグヌスの葬儀の日にマルティン様を救出する。その手筈は整ったとおっしゃってる。我々はその時の追手を防ぐ役割を仰せつかった。後エレナ様を主様の所へお連れする事もだ。」
「では二手に。」
「うむ、パトリックとダヴィド、お前たちはエレナ様をお願いする。」
二人は頷く。
「トーレとラドスラフは、シメンと合流してマルティン様の方を頼む。」
「わかりました、」
「おまかせ下さい。」
「少数づつ公都へ向かい、奴等に気取られぬよう。」
「後パトリック、島内に怪しい者がいないかも頼む。向こうもこの機に我々が動くと思っていても不思議ではない。」
「わかりました、それでシュミツェル様は?」
「私はわざと目立つようにして、奴等を迷わせる為に明日ネフランへ向かう。これで少しは皆が動きやすくなるはずだ。」
「ネフランへ…危険では?」
「トーレ大丈夫だ、危険でないと目がこちらに向かないだろう?」
「しかし…」
「エイステインに攻めこまれてより8年…ようやく巡ってきた好機、いまこそ、王と王妃の敵を打つのだ。」
「シュミツェル様…」
「王や王妃だけではない、ストーレ、ロアール、数々の同志が先の戦で倒れた。多くの無念を晴らすのだ、その為にはこの躰一つの危険、なんのことがあろう。」
暗さと静けさの中で、5人は8年前の事を思い出していた。
大国からの侵略、王と王妃の死、王子の捕虜、幼き王女を連れ出すのが精一杯で、それまでの王都を奪われ、属国としての扱いを受ける。
言葉、宗教、慣習の強要は、耐え難いものであった。
「我らが王 テオドール様の為に。」
「我らが王 テオドール様の為に。」