第2話
家の前で少女が花に水をやっている。
「エレナ様…」
「まぁ、ホルバト様。おはようございます。」
「おはようではありません、外に出るときは、お一人ではお控えください。」
「わかってはいるのだけれど…」
「ダヴィドは?」
「今朝届いた手紙に目を通されています。」
「そうですか、さぁ中に入りましょう。」
優しく諭すように話しかけ、扉を開けて中へうながす。
「ルツィエ、エレナ様がお一人で外に出ていたぞ。」
「あら、まぁ、エレナ様いつのまに。」
「ごめんなさいルツィエ。」
「いつのまに。では困るぞ、ルツィエ。」
「申し訳ございません。」
「ホルバト様、私が悪いの、こっそり抜け出したから…」
ため息を一つついてから、奥の部屋へ入っていく。
「ダヴィド」
「ああ、トーレ、良く来たな。」
「知らせが来たのだな。」
「うむ。」
ダヴィド=ロゼルナフは、手紙をトーレ=ホルバトへ渡し、台所の方へと立ち上がった。
「まあ、座って読んでいてくれ、ワシは茶を入れてこよう。」
「私も手伝います。」
エレナも台所へ、ダヴィド=ロゼルナフの後をついていった。
「ロゼルナフ様、あの手紙は…」
「ああ、主様からだよ。」
「お祖父様から…何と書いてあるのでしょう?」
茶をカップに注ぎながら、おそるおそる聞いてくる。
「エレナ様の事をとても気にしていらっしゃる。エレナ様にも届いていたでしょう?同じ様なものですよ。」
「そう…ですか。」
エレナは、少し前に届いた手紙の内容を思い出してみた。
とりとめのない、自分の事を心配した文章だったが、祖父の暖かい思いやりが伝わってきた。
「トーレ」
「ああ、すまんな。」
一口で飲み干して、トーレ=ホルバトは立ち上がる。
「もう、行かれるのですか?ホルバト様、ゆっくりしていって下さい。美味しい焼き菓子があるのですが。」
「いや、エレナ様。また今度にいたしましょう。では、ダヴィド。」
トーレ=ホルバトは、ダヴィド=ロゼルナフの肩に軽く手を置いて、扉をあけた。
「ロゼルナフ様。」
「エレナ様、心配はいりません。」
何時もと変わらぬ笑顔を向けられると、エレナは不安を胸に仕舞い込むしかないのだった。