噂の殺人犯
その日俺はいつものように居酒屋でカウンターの席に座り、酒は飲まずに頼んだ枝豆を1つずつ押し出して口に放り込んでいた。俺は枝豆が好きではないが枝豆を皮から押し出す感触をどことなく気に入っていた。その感触を体感するために枝豆を頼んでいると言っても過言ではない。時刻は既に夜中の12時を回っていたが居酒屋は酒の臭いと酔った客の声が入り混じり祭りのような状態にあった。俺は店主に烏龍茶を頼み、残り少なくなった枝豆に手を伸ばした。しばらくして運ばれてきた烏龍茶を喉に流し込む。茶葉の香りが口いっぱいに広がった。烏龍茶を飲み干し、会計をしようと席を立ったとき、右隣にいた男に呼び止められた。
「なあ、兄さん。ちょっと話さないかい?」
そう言って男は烏龍茶を2杯と若鶏の唐揚げを頼んだ。俺は無言でまた元居た席に座った。男は唐揚げを烏龍茶で流し込み、話し始めた。
「ここらで最近、殺人が頻繁してんのを知ってるかい?」
男の話す口からは酒の臭いはしなかった。
「ああ、知ってるとも。被害者は確か、刃物で腹部を何回か刺された状態で発見されているとかいうやつだろ?」
「その通りだ。なかなか詳しいじゃないか」
男は不敵な笑みを浮かべた。
俺は何故そんな話しをするのかという質問を投げかけるようと口を開きかけたとき、今度は左隣の男が話しかけてきた。
「それなら俺も知ってるぜ。あれだろ。ナイフかなんかで腹の当たりをグサリとやられてる」
そこまで言って左の男は急に笑い始めた。
左の男の顔は既に真っ赤になっていた。かなり酔ったいるようだ。
すると左の男は急に立ち上がり、
「次行くぞお~」
と腕をひらひらさせて俺の腕を掴んだ。
「お前に決まってんだろ~」
そう言って唐揚げを頼んだ男の腕まで掴んで店の外に引っ張りだした。
左の男は千鳥足で狭い路地に入っていった。俺は後を追い、ゆっくりと近づき後ろから持っていたナイフで背中を何度か指した。
悲鳴のような声をあげ、左の男は地面に崩れ落ち、動かなくなった。
だんだんと地面は赤黒く染まり俺はその光景を黙って見つめていた。
「これで何人目だ?」
不意に背後から声をかけられ、俺は振り返った。
そこには唐揚げを頼んだ男が立っている。
「4人目だ」
俺は短く答え、男と共に闇の深まった町へと消えた。
久々のショートショートです。
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ではまた次のお話で。