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◆05「あんたチョロすぎでしょう!」

登場人物


 鈴木大悟:お父さん。

 鈴木陽子:お義母さん。大悟の現在の配偶者。

 鈴木太郎:息子。


ここまでのあらすじ


 美少女になって、変装用に“お父さんスーツ”という強化服を渡されたお父さん。

 さらに、お嬢様に変装して息子の同級生になることに……。


 太郎の学校への復帰に合わせて、大悟は女子高生として登校することになった。


 「受験には受かっていたが、病弱で今まで登校できなかった」

 ……という設定を、札束でひっぱたいて学校側に飲ませた。

 その結果、転校生でなく在校生として潜り込むことに成功した。

 これも「なるべく太郎を刺激しない」ためなのだそうだ。


 効果があるかどうかはさておき、細心の配慮が成されていることを大悟は評価していた。


 登校した大悟は教室へ向かうために一〇年以上ぶりに高校の廊下を歩いていた。

 ときおりガラス窓に自分が映る。

 そのたびに、大悟は違和感を覚えずにはいられない。


(……息子の通う学校に同級生としてやってくることになるとは)


 しかも女生徒として、である。

 気恥ずかしくて顔が上げられない。

 大悟はうつむいたまま廊下を進んだ。

 そのせいで、廊下の曲がり角で他の生徒とぶつかってしまった。


「きゃっ!」


 かわいらしい悲鳴とともに倒れそうになる大悟。

 バランスを取って転倒を避ける……。

 という動作をする前に抱きとめられた。

 抱きとめたのは大悟にぶつかった男子生徒で……息子の太郎だった。


 きゅーん!


 大悟の中にある何かのスイッチが入った。


 トゥンク!


 大悟の心臓が跳ね上がる。


「ごめんね。大丈夫だった?」


 そう太郎に訊かれたときには……。

 大悟は息子に恋していた。



    ◇  ◇  ◇



「どうしよぅ! 太郎のこと、好きになっちゃった」

「だから言ったでしょう……って言いたいけど。

 あんたチョロすぎでしょう!」


 初登校美の夜、自宅にある妻の書斎で大悟は妻に事の次第を相談した。

 鈴木家の場合、研究者である陽子用の書斎があるのだ」。

 なお、防音はしっかりしており、息子にこの会話を聞かれる心配はない。


「太郎のことが……頭から離れなくて」


 妻の叱責も頭に入らない模様。

 大悟は完全に恋する乙女と化していたのである。


「とりあえず、そのスーツを着てジタバタしないでくれる?

 今のあなたは常人の三倍の肉体的能力を有しているけど、

 スーツはそれを一〇倍にするんだから……」


 そう。

 今の大悟は身長一九〇センチのオッサンの格好で「乙女している」ところだ。 

 ある意味可愛らしいかもしれないが、鬱陶しさはそれに数倍する。


 さて、陽子の書斎に限らず、鈴木家の各部屋の防音は完璧だ。

 逆にいえば外の音が聞こえない。

 それだけだと色々問題があるので、外部カメラとマイクでカバーしていた。


 だから「トントン」というノックの音は廊下に仕掛けたマイクが拾ったものだ。

 書斎のドアをノックしたのは太郎。

 どうやら両親に話があるらしい。


 陽子はドアを開くと太郎を書斎に招き入れ、イスを勧めた。

 大悟は先ほどまでの振る舞いはなかったように父親らしい表情をしている。


 そんな両親を前にして、太郎はおずおずと「今日学校であったこと」を話し始めた。


「山本さんっていう、病気がちで今まで学校に来れなかった子が登校してきてさ……」


 太郎はその「とてもかわいい病弱の女の子」にぶつかってしまったこと。

 倒れそうになった彼女を思わず抱きとめたのだという。


 その可愛い女の子である大悟も、「そういえばお義母さんに似てるかも」と言われた陽子も大変上機嫌で話を聞いた。

 もちろん全て知ってはいるが、両親とも「へー、そうなんだ」という顔で話の先を促す。


「それで、さ……変、なんだ……」

「何が?」


 低いバリトンボイスで大悟が訊く。

 今の身体のかわいらしい声は“お父さんスーツ”のボイスチェンジャー機能で元の大悟の声に変換されるのだ。

 それはともかく……。


「山本さんのことが……頭から離れなくて……」


 太郎が「これって、好きってことなのかな?」と言うころには、大悟の精神は成層圏まで跳び上がっていた。


(太郎が! わたしのこと、好きってゆった!!)


 そんな喜びを押し殺しつつ、大悟は腕を組んで頷きながら話を聞く。

 義母も(ああ、ホントかわいいわー、この子)と微笑みつつ話をうながす。


 いい歳した高校生が親に恋愛沙汰を相談するか?

 などという常識的なツッコミをする者はこの場にはいなかった。


「とにかく、だな……」


 シブいと他人に評される低音ボイスで大悟が息子を諭す。


「いきなり好意を向けられても、彼女が困るかもしれないよ」


 本当は嬉しいくせに、格好を付けて父親らしいことを言う大悟。

 身体は恋する乙女でも、心は尊敬されたいお父さんなのだ。


「その子は病気でずっと登校できなかったんだろ?」

「うん」

「なら、まずはクラスに溶け込めるように協力してあげたらどうだ?」

「そうね。まずはお友達からはじめるのがいいんじゃないかしら」

「そうだね!

 ありがとう、お父さん! お義母さん!!」


 相談を終えて太郎が書斎を出た後。

 ふたりは、息子のあまりの可愛さに悶え続けた。


あとがき


 次回、最終回(短いです)。


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