悪魔の影
死神の鎌の先が光る。髑髏の奥の空洞がゆらゆらと輝き、鎌の先が真上に突きあがる。
オレは首を差し出した。
俯いた視線。死神の鎌の影が頭に落ちて。
地面に付けたオレの手の輪郭が、ハッキリと結ばれた。
白い手。この手はーーーーオレの手ーーーー?
いや、これはーーーー。
きっとーーーー。
「 」。
ーーーー息が止まった。
目の前が真っ赤に変わる。虹彩が小さく結ばれ、脳みそのシワの奥に指先の爪のすり減りまでの細部が浸透する。
あったのだ。ここには。
オレがどんなに削れても、引きずっても、すり減っても、それでも捨てるわけにはいかないものが。
今、確かに。ここには、ある。
「どうしてあんな娘にこだわる? 今の貴様と違い、アレは不滅ではない。不死ではない。万能でも無敵でもない。私のような女神でもない。
ーーーー何の意味がある? そんなにも、なにが良い? 既に終わった器、終わった肉、終わった魂、終わった世界…………それを呪い、己だけの希望を描いた貴様が? そんな矮小なものになぜ固執する?
愛玩ならば良い。理解できる。郷愁も良い。いささか程度に理解できる。ーーーー自ら死んだ身、自らを憂い、望み、願い、奇跡にすがったその魂。そんなものが、なぜ脆く儚いヒト1人に縋りたがる?」
ーーーーそれを掬い上げたこの私ではなく、なぜその指をすり抜ける。
そんな空耳。を。聞き流す。
どうでも良い。神様だろうと。そんなもの。
何の意味が? ーーーー決まっている。
アルムはオレを必要としている。その自信がある。
オレにもアルムが必要だ。そう確信している。
理由が必要か。ならば言ってやる。
オレが不滅で、無敵で、まさしくこれはオレが望んだ結末だ。
ヒトは欲深い。だからオレだって、ただそれだけで満足できるわけがない。
オレは活躍して、求められて、崇められて、ちやほやされて、全ての頂点に立つ。……いずれはそういうことも言い出すかもしれない。
だが今は、今の満足は、今の欲望は、たったのひとつ。
アルムと一緒にいることだ。日常を旅して、語り合って、生きていく。
なぜならオレは、みんなの希望を守るアルムの、希望になったのだから。
ーーーーなのに。
諦めるのか?
ゲームがクリアできない。たったそれだけの理由で?
「ーーーー論外、だな!!」
指を指す。投げ捨てた剣を魔法で無理やり動かした。剣は宙を浮き、風を切り、影を砕きーーーー。
このオレの頭を貫いた。
双眸の間に切れ目が入る。ずるりと重力に引かれていく。自意識が崩れていく。希望。願望。欲望。種々の想念に亀裂が入る。
この場にたったひとつの魂が砕け。
はじめから、この場所にはひとつきりだった。
このオレがーーーーこの欲望ーーーー『怨念』が、消え去った。




