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加速


 旅装束の男はオイルライターを突き出した。指先をはじき、蓋を開く。


 そうしただけで、それは温風を排水口さながらに渦を巻いて吸い込み出した。じりじりと太陽光程度の熱をもらしつつ、赤色のビームは熱量を失っていく。


「それは……?」


「ただの魔法アイテムだ」


 相変わらず、答えをはぐらかす。その態度に苛立ちを覚え、私は腰を浮かしーーーー見えてしまった。見つけてしまった。


 旅装束の男の半身は焼けただれていた。


 顔半分は肌が黒く焼け焦げ、右腕に至っては既に輪郭さえ焼失していた。肉はもちろん、骨さえも残っていない。オイルライターが呑み込みきれなかった熱量にやられたのだ。


 私を守るため。動くこともできず。受けた傷だ。


「断っておくがーーーー片腕がないのは元々だ。今までそこそこ気を使ったんだぞ? 気づかれて、妙にかまわれて情を湧かれても困るからな。


 さっきも言っただろう。俺のことだけなら、どうとでもできるんだ。この腕一本でな。それにこの程度のやけどなら、放っておけばそのうち治る」


 体の半分が炭になっていて、放っておいて治るわけがない。常識的にあり得ない回答を平然として言い放ち、男は焼け焦げた旅装束だったものを脱ぎ捨てた。じっとりと眼前の怪物を睨みつける。


 その目に私は、本気を見た。


「それよりアレだ。この俺の不手際、この手でぶっ潰してやりたいが……生憎、手が足りない。ああ、この俺では攻め手に欠けるということだ。アルム、悪いが手伝ってくれ」


「…………言いたいことも聞きたいこともたくさんあるけれど……そう言ってられないみたいだし、呑み込むことにする。やってあげる」


「本当、好きになるよ、お前のことは」


「あなたも呑み込んで。作戦はある?」


「奴の魔法は俺が対策する。援護するから魔法術式をえぐり取れ。武器はあるな?」


「ここに」


 私は白銀の剣を掲げる。男は実に不満そうに顔をしかめた。


「おい、ふざけるなよお嬢さん。例の【星竜】は?」


「失くした」


「………………なん……だと……? お前あの剣がどれだけ貴重なものかわかってんだろうなぁ、おい!」


「いや、わかってるけれど」ーーーー私にとってはかけがえのない相棒だ。


「この馬鹿め! アレは不滅の属性を持った神代からの宝剣だぞ!? そこらの凡剣と一緒にするんじゃあない!


 ーーーーぁあ、クソ。あの不滅性なら、魔法術式の不自然性を破壊することもできたというのに。なあにやってんだぁこの田舎娘!」


 表情には表さないが、見るからに怒気を孕んだ言葉を突き刺す男。怪物はその間に再び発光した。二度目の赤色の熱線。


 男は再びオイルライターの蓋を跳ね開ける。赤熱の突進がライターに吸い込まれていく。今度は余熱もほとんどない。むしろ、黒ずんでしまった男の肌が血色の良いものに戻っていきさえしている。


「ぐぬっ……でもね、場所はわかってるよ」


「ほう。どこだ?」


「アイツの中」


「なぜわかる?」


「さっき殴りつけた時に感触があった。あそこにいる。必ず」


 私は赤熱の先を指差す。男は無感情に目を向けた。仏頂面のまま、舌打ちだけをする。


「であれば最悪だ。奴は【星竜】の不滅の属性を取り込んで、魔法術式の不安定さをカバーしたんだ。俺の保険を逆に利用してくれるとは。恐れ入った。箱入りにしては目ざといじゃないかミリアマリン。それとも魔女と同化して知恵がついたのか。面倒なことを。


 …………まぁ、いい。アルム。まずはアレを取り戻せ。そうでもしないと、あいつは何度でも復活するぞ」


「言われるまでもない」


「なら、はじめの手筈通りだ。ーーーー援護する。走れ!」


「はい!」


 赤熱の波が止む。男の影から私は飛び出した。


 ミリアマリン=マクミクシアーーーーその奥にいるサヤを取り返すために。


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