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たたかうもの

 アルムの投げた剣が空を疾る。風を切り、閃光の軌跡がただ一点へと書き結ばれる。


 剣尖はミリアマリンの頭を正確に捉え、しかし宙空に静止した。見えざる魔法の手が剣の突進を止めたのだ。


 ミリアマリンが振り向く。その眼光は剣尖を刺し返した。


「こんな手ぇ……ッ!!」


「ーーーーぃゃああああ!!!」


 そのミリアマリンの目の前に、アルムが突然出現した。


 見える位置であればアルムは魔法で瞬間移動できるのだ。ミリアマリンもまた他の魔法にかかり切っている状況で不意を突いたなら、先程のように呆気なく魔法を破壊できない。


 ーーーーいやいやいや。「不意を突けばミリアマリンは魔法破壊できない」。その確証は決してアルムにあったわけではない。


 もしそれでも破壊できるようなら、最早アルムに手段はない。この奇襲は最終手段だ。これがダメならアルムにはもう逃げるしかない。


 しかし賭けではあったが、分の悪い賭けだとアルムは思っていなかった。本来、ミリアマリンは訓練された戦いの経験が豊富な騎士でも兵士でもない。極めて優秀な魔法使いだが、一瞬の判断には遅れが出てきてしまう。


 案の定、ミリアマリンの表情が凍りつく。念願の隙。アルムは金色に輝く目を見開いた。


 乱れた呼吸を噛み殺し、熱と血を握りしめ、空で静止する剣の柄の底を、殴りつける。


 青白い雷光が迸る。握りしめた術式に魔力が走り、魔法の力が顕現する。それは推進力を点火する。


 アルムのロケット噴射とミリアマリンの静止の魔法の間で剣は震え、軋み、亀裂が走る。


 ミリアマリンの額に剣尖が刺さる。そこから青く、血が漏れ出して。


 ーーーーミリアマリンの足元が、砕け散った。


「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいゃやあああああああっ、はぁぁぁああああああああッッッッッ!!!」


 遠く響く熱狂。どこかからシュラの大槍が閃光を纏い、肥大し、拡大し、延長して、ミリアマリンの真下から吹き上がったのだ。


 この神通無比の閃熱は魔法樹の幹を縦一文字に切り上げられたものなのだろう。ミリアマリンが足場にしていた直径5メートルはあろうかという極太の木の枝ごと、魔法樹の半分を易々と蒸発させて焼き尽くした。


 アルムもミリアマリンも、木に繋がれていたディアエレナさえも吹き飛ばされて空に投げ出された。


 熱量の前に気化し、液状化し、焦げ付き、バラバラになる魔法樹。飛び散る木片。アルムは次の安全地帯より早く、ディアエレナの姿を探した。


 見つける。魔法樹から切り離され、空の底に沈んでいく。


 青白く唇が染まっている。瀕死の状態だ。さすがに魔法を使うことはできないーーーーが、それを判断するより早く、アルムは動いていた。


「あのッ……バカがぁあああああああああああ!!」


 ミリアマリンの怒号が木片の雨を吹き飛ばす。ミリアマリンの十指が閃光のように光り輝き、瞬間、魔法の弾丸が嵐のように発射された。


 標的は――――魔法樹の幹。シュラだ。閃光の嵐はシュラ暴れまわっている魔法樹の幹の大穴へと一斉に突っ込んでいく。とめどない光の弾丸はやがて一条の光となって、魔法樹の一か所を完全に切断し消し炭にする。


 シュラの絶叫と破壊音が、ぴたりと止んだ。ーーーー今ので、やられたのか? あの【帝国の盾】が? なすすべもなく?


 そして、ミリアマリンが踵を返す。シュラからディアエレナへ。


 しかしもう遅い。


 シュラを倒すのを優先させたのだ。その分、アルムのほうがディアエレナに向かうのは早い。


 アルムは空を落ちる木片の数々を蹴り飛ばし、ミリアマリンの頭上を抜け、ディアエレナに手を伸ばすーーーー。


「行かせるかぁ!」


 激情のミリアマリンの閃光の嵐がアルムに矛先を変えた。アルムはその串刺しになり、幻覚のように呆気なく蒸発ーーーー。


「いいえ!」


 ――――したように見せかけた。


 アルムの姿は消え、その手のひらは冷静さを失ったミリアマリンの目を覆い隠した。


「暗っ……?」


 口をあんぐりと開けるミリアマリン。その額にはアルムの剣が穿った傷がある。アルムの魔力を帯びた剣の傷だ。亀裂の入った剣刃が創った傷なのだ。


 ミリアマリンは振りほどこうとその手首に指をかけーーーーしかしそれは間に合わない。


 ずん、とミリアマリンの体が歪む。アルムの重力魔法がミリアマリンの骨格から内臓まで非常識な力をかける。


 ミリアマリンは肢体を動かすことも顎を閉じることも瞼を開くこともできず、鉛の棺桶に詰め込まれたような速度で地上へと落下した。


「…………ふぅッ」


 その姿を見送り、アルムもまた瞼が閉じる。


 全身が脱力する。意識が剥離する。ただ熱が導くまま、指先を宙空に泳がせる。


 ーーーーアルムは気を失った。










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