白昼夢の悪魔
ラスボス戦。オレの聞き間違いでないなら、この自称女神はそうのたまった。
どういうことだよ。オレが訝しむと、自称女神とやらはニカリと歯を剥き出しにした。
コイツ、ずっと笑っている気がする。気のせいか?
「これは純然たるゲーム。然して、そこに相当の困難と障害が待ち受けるのは当然であろう? つまり、ボスだ。
それも今度のは、この一連の因果を結ぶ、いわばラスボスというものだな」
この女神、ゲーム脳である。
オレのイライラを読み取ったように、女神が笑う。けらけらと。
どうやらヒトの怒りを逆撫でするのが大好きらしいな!
「あぁ、焦るな焦るな。貴様にひとつチャンスをやろうと思ってな? いやなに、このままラスボス戦に参加できないとなれば、貴様も不満であろう?」
「…………は?」
「いやな? いやぁ、まぁ、残念ながら、だーーーー貴様がそのラスボスだ」
「…………はぁ」
「なんじゃーそのテンションひっくいリアクションなんじゃー。マジ空気読めねーな貴様。だからモテなんじゃよー」
「うっせぇモテないのはカンケーねーだろうが! あとモテモテだし! 今昔一切モテモテだし! ってかなんでイキナリ語尾が『じゃ』とか付け出してんだぶっ飛ばすぞこのガキィッ!!」
「慌てすぎじゃよ貴様。落ち着いて私の話を聞けよ。バレるぞ? いんやぁ、私にはバレバレだがの? だって神だし」
「くっ」
にかにかとうざったい女神の態度にほどほどイラつきつつ、とりあえず閉口した。
女神は相変わらずニカニカだ。何がそんなに楽しいのか。
「貴様、魔法術式のど真ん中を吹っ飛ばしたな」
「そうだよ」ーーーー極力ぶっきらぼうに答えた。
「それだ。その瞬間、中心をぶっ壊したと同時に、『貴様が魔法の中心になった』。仕掛け人は壊されるところまで織り込み済みだったのだ。
然して、貴様は帝国の敵となった。天魔の中央に据えた樹海の降誕だ。即ちそれは天魔降伏。第六次元の神威をこの第四世界に幻出させる触媒となった」
「…………よくわからん」
「バーカ」
「んだとぅ!? テメーの説明が難しいんだよ下手くそが! お母さんにもわかるようにもっとわかりやすく言えバーカバーカ!」
「しゃーないのー。貴様にカレールーぶっ壊されたからお前の煮汁で豚汁作ってる感じじゃ。同じ食い物だし具材似てるし夕食にはなるしオールオッケーだと魔法術式を編んだ奴は思ってるっぽいぞ」
「なんだそれ。カレーと豚汁じゃ全然違うぞ」
「然り。故に『違うものが幻出する』。魔法使いが望んだ『帝国の救世主』ではなく、帝国をただ守るだけの『鬼』がな。
強いぞ。ああいう強念を糧にしたモノはな。ヒトの枠にいるもの全ての敵と言っていい。あれの幻出から1時間程度で帝都のヒトの九割は死滅する。
全てはあの魔法使いの願いを狭義的に守りきるためにな」
「……アルムは?」
「えー貴様アルムが無事ならそれでいいんかー? うーわーちょい最低じゃーん?」
「うるせーよ! 最低だってなんだって構いやしねぇっつーの!! それで!?」
「死ぬ。真っ先にな。たった一人で鬼と戦い、無様に死ぬ。酷い死に様だ。体をズタズタにされて。いっそ一撃であればまだ人道的だったのにな。手足を潰されて、目を奪われ、頭を砕かれ、そうしてやっと死ねる」
「嘘だ」
「嘘じゃない。そしてその中心はーーーー貴様だ」
「嘘だ」
「いいや、貴様が鬼となる」
「嘘をつくな」
「貴様が鬼の中心で」
「やめろ」
「貴様が」
「いやだ」
「アルムを殺す」
ーーーー。
堰を切った。
なにかが決壊するようだった。
自分の身を守っている様々な殻が一瞬にして引っぺがされたように感じた。
剥き出しのまま、感情が溢れた。
赤い熱がぼどぼどとタールか何かのように漏れ落ちていく。しかしそれは一点のシミにもならず、情けなく世の中に溶けていった。
「死に様……いや、殺す様、もっと細かく教えてやろうか? 得物や断末魔なんかを?」
「…………興味ない」
今にも崩れて塵になりそうだった。声が出るのが不思議なほどだ。
しかし不思議なことに。そうやって『オレ』自身が一度塵芥にまで破壊されて、ようやく見えてくるものがあった。
それはきっと、ヒトが【一縷の希望】と呼ぶものだ。
「あんた言ったな。チャンスをくれるんだよな? このオレに、戦うチャンスをくれるんだな?」
「ああ、そうだーーーーでは、ゲームを始めよう。
決戦の舞台に上がるための前哨戦だ。希望は心、怨讐は悪、そびえ立つのは己の陰影。
さぁ、これは純然たるゲーム。空間に巣食う怨念を殺し尽くせば貴様の勝ちだ。ねだるな、勝ち取れ」
歯を剥き出しにして笑う女神。
女神。女神。…………女神か。
ーーーーオレには、お前が悪魔に見えて仕方ない。




