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剣、魔性、力、集い

 当然現れたディアエレナことクソ姫。


 ツラツラとオレをディスり続け、吹き抜けの下で抱き合うイゾルデとアルムに目を下ろしていた。


 腕を組み、薄く笑うその表情はーーーー実に、楽しそうだ。


「美しいものと美しいものがかけ合わさって、とても素敵なものになっているとは思わないのか?


 まったく、美をわきまえないとは無粋なやつ。教養と感性が貧困な人格はこれだからつまらぬ」


[…………クソ姫、お前そういう趣味か……]


「なんであれ、美しいものを認め愛でるのは皇帝の度量。義務といっていい。


 ……ああ、いや、でも、アルムは気づいたようね。流石は私のアルム」


[あ?]


「いいからちゃんと観ていなさい、童貞剣」


[…………………あ?]


 ディアエレナが指差し、その先で。


 イゾルデは不快そうに顔をしかめた。ぞわぞわと鳥肌をたたせ、苛立ちを隠そうともせずに汚らしく暴言を吐き、振りほどこうともがいている。


 しかし、イゾルデよりもアルムの方が体術には優れていた。簡単にイゾルデの我武者羅な抵抗を殺した。


 アルムはイゾルデの頭を抱く手と指を絡め、頭をなでてやり、肩に顎を乗せさせていた。


[んほぉおおおっ!? あれって恋人つなぎじゃね!? やばくね!? んはーつ!!]


「……………想像以上だわ」


 口元を押さえ呆けた調子のディアエレナをよそに、アルムはイゾルデを抱きとめたまま、片手を指で絡み合わせたまま。


 視線だけで宙空に紋様を描き、魔法の弾丸を撃ち出した。


 弾丸は無軌道に走る。急上昇し、ジグザグに曲がり、その場でホバリングして。


 瞬間、全速力で突っ切った。


 魔法の弾丸が捉えたそれは、大きな雫状の宝石を拵えたイヤリングだった。


 その宝石が砕け散る。頰は焼け、耳たぶは裂け、血が滴る。


 アルムの頭を覆い隠しかけていた青い靄が、消えていく。


「あなたがこの魔法の支配者。そうだな」


 ーーーーアルムは正気のまま、上を睨みつけた。


 ディアエレナは目を細めた。


「…………どうして私だと?」


「私にはその理由はわからない。けれど、イゾルデが教えてくれた。あなたに操られたイゾルデが」


「操られたヒトの言葉があてになって?」


「なる。ーーーーこれは、正しい怒りだから」


「正しい? 怒りが?」


「踏みにじられて、虐げられて、痛めつけられて、もがき苦しんで、それに憤らない心なんて心じゃない。


 いいか、あなたはそれをしたんだ。あなただ。あなたがこの怒りを育てたんだ。


 私は彼女たちの怒りを守る。彼女たちの憎しみを背負って、あなたを倒す」


「ーーーーああ、素晴らしい。素晴らしいわ、私のアルム。ヒトとしてヒトの在り方を愛している。故に、あなたは剣を取る。


 利己に塗れた貴族主義にはあまりに反する。あなたはきっと、故さえあれば、こうして皇族にも、この私にさえも反逆するでしょう。


 …………ああ、なんてこと。マジで手に入れたくなってきた」


 手すりを握りしめ、笑みをこぼしながらもギリギリと歯をきつく噛み合わせるディアエレナ。迂闊に声を上げることさえ躊躇ってしまう。


 ディアエレナの眼光がギラリと光る。金色のそれは。


 ホールの吹き抜けを挟んで、向かい側に立っているものーーーー頰が焼け、耳から血を流し、アルムの睨む【魔法の支配者】に差し向けられた。


「その意味で、あなた少しばかり贅沢よ、ミリアマリン。私がこれ以上本気でキレる前に教えてくれる?


 いったい、どうして、こんな、邪念と魔法を暴走させるような魔法を仕込んだのかしら?」


「あら、お姉様。そんなことを言っては。帝国最強の魔法使いの名前が廃りますわよ?」


 ディアエレナの眼光の先でにたにたと笑う女がひとり。


 射程範囲外なのだろう。ディアエレナの目線の弾丸があの笑う女を襲わない理由は。


「そんなにお怒りにならないで、私の愛しいお姉様。ーーーーまもなく、この世界には魔王が現れます」


「………………またそれか」


「私は魔王を倒しうるものを召喚しようとしているのです。第六次元を打ち破るほどに強大、かつ美しき神霊を。私たちの愛する帝国を千年王国に昇華する調和と祝福の神を!」


[おい、クソ姫。あの子……]


「言うな、なにも」


 ディアエレナが目を伏せた。目尻が光る。指先が震えていた。


 ミリアマリンというディアエレナ妹は天を指差す。


「あぁ、いまこそ。愛しい全てを包み込もう。我が博愛の炎を炉に焚べよ。その腕は抱くもの。その瞳は照らすもの。


 汝は我が魂の現し身。第六世界より神威を帯びて、今こそ響け、天使の歌声」


 瞬間、ホールの天井が吹き飛んだ。


 張り詰めた糸は切れたはずだった。歪みは潮のように引いていった。


 そして/なのに/だからこそ。


 波打つように、振り子のように、世界の歪みが『戻ってくる』。


 反動だ。思い切り伸ばしたゴムのように、ただ手を離せば返りが生まれる。エネルギーはゼロにはならない。


 元に戻ろうとするエネルギーは、歪みの分だけ膨大だ。


 そしてそのエネルギー、『歪みの返り』が最も強い場所ーーーー中心は、もちろん歪めていたものの中心、最大の歪みが集中することになる。


 つまり、ここ。


 このオレだ。


[ッッッーーーーーーーーーーーー!?!?!?]


 突然、目の前が真っ白になった。


 頭の中がノイズで押し詰められる。耳が潰れ、触覚が麻痺する。


 視界とは別に三原色のモザイクアートが脳みそを覆っていく感覚。それを白が切り、黒が潰し、モザイクが壊れる。


 白と黒とモザイクがデタラメに圧し潰す。


 理解ができなかった。目は反らせなかった。


 不快感が行になり、列になり、層になり、敷き詰められる。


 ーーーー遠い昔、幼い日、酷い熱に浮かされた夜を思い出した。


「はじまるぞ、小僧」


 ぐちゃぐちゃで暴力的な暗いコントラストを背景に、和服の幼女が笑っていた。


 誰がに似ている気がする。


 誰かーーーーなんて、頭の後ろが抉られてしまったのか、まるで思考できない。思い出せない。もしかしたら記憶を破壊されたのかも。


 どうしても、これは、最悪だった。


「いよいよボス戦だ。貴様に果たして倒せるかな?」

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