表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/81

剣がとぶ

 魔力が棚上げされたホール。


 障害はない。翳りはない。ならば、見通せる。


 オレの目。ディアエレナのパシリのおかげで養われた魔力素の流れーーーー魔法のサーキットを看破する。


 探す。探す。探す。探す。


 この皇城を覆う謎の魔法。魔力素で皇城を満たし、怨霊を実体化させる傍迷惑な魔法。その中心を見切り、破壊するために。


 探す。探す。探す。探す。


 目を皿にして。五感を拡張させて。


 オレは今、剣だ。


 剣には目はない。鼻もない。耳ももちろん。触覚も味覚も当たり前に。


 そのオレが「五感」などというのはいささかおかしいが、事実としてオレには確かに情景が見えるし、アルムもみんなの声も聞こえている。


 五感はある。剣なのに。本当に、おかしなことに。


 思うに、オレの体は剣だが、剣そのものはオレじゃない。


 言うなればオレはこの剣に取り憑いている幽霊のようなもの。この剣はオレの実体ではない。オレそのものは剣ではないのだ。


 だからこそ、認識一つで知らなかったもの、見えていなかったものが見えるようになる。


 であればオレは、『思い込めればなんでもできる』。


 たとえこのホールが広大な砂漠になっていようと。


 オレはその中の砂になると「思い付き」さえすれば、自分の体を感じるように砂漠のすべてを見渡せる。


 ーーーーああ。


 止めさせろ、と誰かが悲鳴をあげている。テロリストに帝国の守りをいじり回そうなど正気ではない。なぜそれを許すのだ、【帝国の盾】ともあろうものが。


 任せてはどうかという声もある。【帝国の盾】が信じたヒトを信じられぬのかと糾弾する。常識で考えろと感情が膨れあがり。現在の事実を見ろと指が伸びる。


 騎士を探す声がある。金属が砕ける。肉が弾ける。怒号が飛び散り、血と涙が流れ、尊厳がめくれ上がる。遠く、そんな景色がある。


 シュラは黙々と獣魔人をを蹴散らしている。貴族の悲鳴を背中に受けて、正面に獣魔人を悪意を晒して。揺らぎがない。矛先。


 獣魔人が吠え、しきりに振り返っている。気にしている。呼ばれている。


 すべて、見えている。


[ーーーー見つけたぞ、アルム]


「愛してる」


 アルムの行動は早かった。水晶玉を宙空に固定したまま、身を翻した。


 真上を見据え、白刃をなぞり。


 オレを、投げた。


 ふいに、ひとりが飛び出した。マシンガンのように魔力の弾丸が乱れ飛ぶ。オレを目掛けて。


[ぐぬっ……!]


 ぎょっとする間も惜しい。オレはあんなものではビクともしないが、当たれば飛んでいく軌道が外れてしまう。魔法を砕けない。それは困る。


 ーーーー避けるしかねぇ。


 無理だろという言葉は呑み込んだ。


 『案外やったらできるかもしれない』。今はそれだけ考える。今のオレならなんにでもなれる。一瞬でも疑えば即アウト。


 呼吸を止め、思考を止め、ただ一点だけを追い求めるように、走り抜けるのだ。


 翼を広げるイメージ。フラップのようなものをーーーー『認識』する。それさえできれば。


 アルムから預かった魔力が、今、形をなす。


 手のひらを広げるように。指先を曲げるように。


 羽金に雷光が巻き、熱量が迸る。魔的な力に身を委ね、そのベクトルの舵を取る。


 鍔が伸びた。青い放射状の翼が輝く。


 翼が風を掴み、魔弾の雨の間を縫う。


 旋回。上昇。加速。反転。急降下。


 幽霊のような無軌道さで魔弾の指先を滑り抜け。


 羽金は貫く。


 剣尖が捉え、急降下のスピードに乗って。


 ーーーーアルムの頭上。壁に象られたレリーフを撃ち貫いた。


 ギリギリまで水晶玉の魔力の波に紛れて見えなかった位置だ。だがそれ故に、自信を持ってここだと言い切れる。


[やったか!?]


 ーーーーふいに、場を張り巡らせていた弦が切れるのを感じた。


 緊張の糸、魔法の連結、野望の鎖。複雑に入り組んだそれらが音も立てず、潮のように引いていくのを感じ取る。


 水晶玉が黒いレンズを溶かし、徐々に重力を取り戻す。ほどなく、もとの位置に鎮座した。


 獣魔人の怨念の実像が色素を失っていく。


 未練がましい彼らの咆哮を、シュラは容赦なく切って捨てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ