剣がとぶ
魔力が棚上げされたホール。
障害はない。翳りはない。ならば、見通せる。
オレの目。ディアエレナのパシリのおかげで養われた魔力素の流れーーーー魔法のサーキットを看破する。
探す。探す。探す。探す。
この皇城を覆う謎の魔法。魔力素で皇城を満たし、怨霊を実体化させる傍迷惑な魔法。その中心を見切り、破壊するために。
探す。探す。探す。探す。
目を皿にして。五感を拡張させて。
オレは今、剣だ。
剣には目はない。鼻もない。耳ももちろん。触覚も味覚も当たり前に。
そのオレが「五感」などというのはいささかおかしいが、事実としてオレには確かに情景が見えるし、アルムもみんなの声も聞こえている。
五感はある。剣なのに。本当に、おかしなことに。
思うに、オレの体は剣だが、剣そのものはオレじゃない。
言うなればオレはこの剣に取り憑いている幽霊のようなもの。この剣はオレの実体ではない。オレそのものは剣ではないのだ。
だからこそ、認識一つで知らなかったもの、見えていなかったものが見えるようになる。
であればオレは、『思い込めればなんでもできる』。
たとえこのホールが広大な砂漠になっていようと。
オレはその中の砂になると「思い付き」さえすれば、自分の体を感じるように砂漠のすべてを見渡せる。
ーーーーああ。
止めさせろ、と誰かが悲鳴をあげている。テロリストに帝国の守りをいじり回そうなど正気ではない。なぜそれを許すのだ、【帝国の盾】ともあろうものが。
任せてはどうかという声もある。【帝国の盾】が信じたヒトを信じられぬのかと糾弾する。常識で考えろと感情が膨れあがり。現在の事実を見ろと指が伸びる。
騎士を探す声がある。金属が砕ける。肉が弾ける。怒号が飛び散り、血と涙が流れ、尊厳がめくれ上がる。遠く、そんな景色がある。
シュラは黙々と獣魔人をを蹴散らしている。貴族の悲鳴を背中に受けて、正面に獣魔人を悪意を晒して。揺らぎがない。矛先。
獣魔人が吠え、しきりに振り返っている。気にしている。呼ばれている。
すべて、見えている。
[ーーーー見つけたぞ、アルム]
「愛してる」
アルムの行動は早かった。水晶玉を宙空に固定したまま、身を翻した。
真上を見据え、白刃をなぞり。
オレを、投げた。
ふいに、ひとりが飛び出した。マシンガンのように魔力の弾丸が乱れ飛ぶ。オレを目掛けて。
[ぐぬっ……!]
ぎょっとする間も惜しい。オレはあんなものではビクともしないが、当たれば飛んでいく軌道が外れてしまう。魔法を砕けない。それは困る。
ーーーー避けるしかねぇ。
無理だろという言葉は呑み込んだ。
『案外やったらできるかもしれない』。今はそれだけ考える。今のオレならなんにでもなれる。一瞬でも疑えば即アウト。
呼吸を止め、思考を止め、ただ一点だけを追い求めるように、走り抜けるのだ。
翼を広げるイメージ。フラップのようなものをーーーー『認識』する。それさえできれば。
アルムから預かった魔力が、今、形をなす。
手のひらを広げるように。指先を曲げるように。
羽金に雷光が巻き、熱量が迸る。魔的な力に身を委ね、そのベクトルの舵を取る。
鍔が伸びた。青い放射状の翼が輝く。
翼が風を掴み、魔弾の雨の間を縫う。
旋回。上昇。加速。反転。急降下。
幽霊のような無軌道さで魔弾の指先を滑り抜け。
羽金は貫く。
剣尖が捉え、急降下のスピードに乗って。
ーーーーアルムの頭上。壁に象られたレリーフを撃ち貫いた。
ギリギリまで水晶玉の魔力の波に紛れて見えなかった位置だ。だがそれ故に、自信を持ってここだと言い切れる。
[やったか!?]
ーーーーふいに、場を張り巡らせていた弦が切れるのを感じた。
緊張の糸、魔法の連結、野望の鎖。複雑に入り組んだそれらが音も立てず、潮のように引いていくのを感じ取る。
水晶玉が黒いレンズを溶かし、徐々に重力を取り戻す。ほどなく、もとの位置に鎮座した。
獣魔人の怨念の実像が色素を失っていく。
未練がましい彼らの咆哮を、シュラは容赦なく切って捨てた。




