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盾と剣


 認識上、オレははじめてアルムが呼吸を乱しているのを確認した。


 壁を背に剣を構える。その前で、獣魔人が増える。


 その姿は陽炎のように揺らぎ、折り重なった虚像が新たな実を結ぶ。


 ーーーー総勢、16体。


 アルムは奥歯を噛みしめる。恐怖が胸の奥まで爪を伸ばし、心臓に突き刺さり、そのまま引きずり出していきそうだ。


「一か八か……手段を選んでられないッ……!!」


 アルムは瞳を金色に輝かせた。


 瞬間。


「ほう……おれを呼んだか!?」


 頭上から降ってくる。


 声と鉄。熱と質量。破壊とマッスル。


「ーーーーそう、我こそは! 【帝国の盾】! シュラ・シンクレイス!」


 頭上から【着弾】したそれは、周囲を情け容赦なく吹き飛ばした。瓦礫が飛び散り、陽炎は搔き消え、無辜の

人々すらきりもみに宙を舞う。


 【着弾】し、床にクレーターを穿ったのは、3mはあろうかという大槍だった。


 おもむろにそれを片手で引き抜きーーーーシュラは軽々と振り回す。


 また徐々に像を結び出す獣魔人の軍団。それにシュラは矛先を向け、視線はじろりとアルムに向けた。


「タダのアルム殿。…………いや、テロリスト。貴様、ここでなにをしている? ボスが拘束したはずだが?」


[こんなになるまで出てこなかったくせになにエラぶってんだこいつ]


 ーーーー適当にボスって呼んでるあたり、こいつもあのディアエレナの肩書きが複数あって面倒臭がってるんだろうなぁ。


 呆れつつも強い親近感を覚えるオレだが、話しかけられたアルムはそう穏やかではなかった。


 息も絶え絶えなのを堪え、剣を下ろして佇まいを正す。胸に手を当て、宣誓のように返答した。


「【帝国の盾】殿に答える。ここには危険な魔法が展開されているのだ。これは帝都を覆う守護魔法の裏に巧妙に隠されていて、発見が極めて難しい。


 そして、この魔法は悪意的なものだ。膨大な魔力を垂れ流し、ヒトに取り付き、【因果】を吸い、現実を歪めている。あんな怨念が一人歩きをはじめるほど、だ」


「承知している。ああした亡霊のようなものは、既に帝都の至る所で確認されている。かくいう私も、先ほどまで別のーーーーああ、今はおれが話してるだろうが!!」


 咆哮一発。襲いかかる獣魔人6体を大槍の一振りで巻き起こした風で吹き飛ばした。携えていた魔法が搔き消え、床は砂糖細工のようにべりべりとめくれあがった。


 ……アルムが取り囲まれて四苦八苦していた数の獣魔人を、何気ない一動作で収めてみせた。


[ええ……]


 ぶっちゃけ、軽く引くレベルのパワーだった。


 なんだあいつ。ヒトか? あれこそ魔王じゃないのか?


「…………なにを呆けている。今程度の真似、タダノ・アルム殿ならできるだろう。いや、おれのは完全に筋肉だが……アルム殿はそれに魔法を織り交ぜるタイプだ。


 さて、そこでおれの疑問なのだが。このホールの破壊痕からして、派手な魔法は使っていない様子。なぜだ?」


[破壊痕って……ほとんどお前のマッスルのせいだぞ]


 オレのツッコミを呑み込み、アルムは黙りこくった。金色に目を輝かせたまま。剣尖をあげることもない。


 シュラは鬱陶しげに向かってくる獣魔人3体を横なぎに続けて両断する。巻き散る青い霧ごと、返す刀でなおももがく上半身を地面に叩き落とす。


「答えぬか。ではおれの考えを言おう。ーーーー先ほど『現実が歪んでいる』と言ったな。では、原因はそれではないか?


 おれはアルム殿やボスほど魔法に長けておらん故の想像だが、また魔法が暴走すると恐れているのではないか? さきほどの御前試合のときのように。


 自分の魔法のどれがどうしてどうなって暴走になるのかわからぬ。だから不用意に使っていないのだろう。


 ……ふっその心遣い、この戦い、真に帝国を愛する故であるとおれは考えよう。


 であるなら、逃げるがいい、タダノ・アルム殿。ここはおれに任せろ」


「無用です」


「なに?」


「準備は既に整いました」


 アルムは再び宣言する。


 首を傾げ、ついでとばかりに獣魔人をギャグ漫画のように吹っ飛ばすシュラ。


 ……こいつも大概無敵である。死んでも体が死んだことに気付かずシームレスにゾンビ化して普通に日常生活してそうな気がする。そして絶対体は腐食しない。


 アルムは剣を持ち上げる。剣尖から紫電が走る。それは巨大な水晶玉まで地面を這いつくばっていく。


 紫電は蔓のように水晶玉に絡みついた。アルムは剣の白刃を指先でなぞる。紫電が鼓動する。合わせて水晶玉も震えだす。


 やがてーーーー。


 水晶がとぶ。


 電流が磁気を帯び、それに反発するように。アルムの剣尖が上がると同時に、紫電に釣られ、水晶玉が浮き上がる。その動きには重さを全く感じさせない。


 推定1トンに差し迫るかという迫力の巨丸は、鞠のような手軽さで、スケールも無視して虚空に上がったのだ。


 取り巻く紫電は金魚すくいの「ポイ」のように電流のフレームに円を作り、その円に水晶玉を当てはめる。


 円にはすっと真っ黒なフィルムが張り広げられた。ますます「ポイ」を想起させる。


 そしてその「ポイ」はーーーー不思議と、持ち上げた水晶玉の魔力を下に、オレたちのところまで漏れてこないよう、シャットアウトさせていた。


 「重力レンズ」。そんなワードが脳裏をよぎる。光を捻じ曲げるほどの重力のことだったか。


 とにかくそれと同じように、あの黒は水晶玉の姿を通さず、濁流のような魔力を消し去ることなく「逸らしている」。


 なるほど、これなら帝国の守りの結界は途切れることなく、このホールの尋常じゃない魔力をつまみ出せるということだ。


「さやっ……はやく……!」


 今にも唇の間から何かを吐き出しそうな顔でアルムが呼びかけた。


 ーーーーこれは、さすがに。


     なんとしても、やってみせればないない。

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