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ひび割れる剣


 アルムはたどり着いた先は、皇城入り口をまっすぐ進んで、ちょうど一番奥にあるホールだった。


 その中央部にあるーーーー巨大な水晶玉のようなそれは。


 明確に見て取れる。そこには大きな魔力の流れがあった。この巨大な透き通った球体には、そのサイズに見合うほどの強大な魔力の素が押し詰められていた。


[これは……!?]


「帝都を覆う守護魔法の中核。魔法が見えてそこにあるのに中心がわからないのなら、それはきっと、より大きな流れに隠れていたからだよ。そして、この帝都で最も大きな魔力は、間違いなくこれ」


[ここのどこかに…………!?]


「……近いなら、出てくる彼らにも変化があるはず」


 アルムは唇を噛み締め、そう言った。


 ほどなくアルムの周りでーーーー黒い穴が開く。


 まただ。獣魔人だ。今度はーーーー6体。どんどん数が多くなる。


「なるほどね。私の近くから現れるのは、あなたたちだけ、みたいだね。……私を狙う、怨念ってこと」


[冷静に分析してる場合かッ! 囲まれてるんだぞ!!  あんな数で! あんな数で!!]


「……重要なのはここから。見える? 彼ら、みんな『左目がない』。完成度が上がってるんだ。数が多いのもきっと『正解』が近いから」


 アルムはオレを掲げた。目を金色に光らせる。


「サヤ、サーチは任せる。時間は稼ぐよーーーーだから、お願い」


 アルムは身を翻した。向かってくる獣魔人の脳天を切り裂く。


 獣魔人は身じろぎし、目から上を青い霧で包み隠した。そのまま膝をついて崩れ落ちる。


 続く2体。アルムはジャンプで豪腕を避け、1体の頭を縦一文字にかち割った。


 しかし今度は身じろぎもせず、そのまま右腕を払った。爪が伸び、アルムの肩口をかすめた。


「同じ【怨念】でも弱点の場所が変わってる……いや。変えられるんだ。本物の獣魔人みたいに」


[完成度があがってる……ってことか……これも!]


 ーーーーつまりあと5体、アルムはひとりで弱点のわからない悪魔と戦わなければならないということ。オレが魔法の中心を探すまで。


[クソッ……!]


 必死に目を凝らす。周囲をめまぐるしく見渡した。


 無い。無い。無い。


 無い。無い。無い。


 それらしいものがまるでない。見つからない。見つけられない。


 そもそも、ここは巨大な魔力の塊になっているあの水晶玉があるのだ。見えるはずがない。真昼の太陽の近くで星を探すようなものだ。見えるわけない。


 アルムは剣を構える。獣魔人が爪を立てる。炎を吐き、足場を凍らせ、雷が走る。


 魔人の眼光にアルムの身を本能的に震わせた。


 一瞬対応に遅れができる。打ち込めた攻撃が空をかき、避けられた攻撃を防御することになり、受け止められた攻撃に直撃してしまう。


 何度目かのダメージ。アルムは壁に体をしたたかに打ち付けた。金の目を細め、血をぬぐい、歯を強く噛み締めた。


 ーーーーオレは。


 もし、アルムが死んだら、泣くのだろうか。


 ーーーーこのままでは。


[アルムっ……!]


「見つかった?」


[無理だ。逃げてくれ]


「逃げられない。それに、私がいなくなったら他の誰かが襲われるかも」


[無理なんだ。オレにはできない! お前も諦めろよ! ヒーローにでもなるつもりか?! 他の誰かのために死んでなにになる。


 お前は夢があるんだろう?! お前が死んだら、誰がそれを叶えるんだよ!!]


「素敵な考え方。…………でも無理。私がなりたい騎士はさ、みんなの希望を守る騎士っていうのはね、こういうモノ、驚異から他の誰かを守ること。


 剣を取れないヒトの剣になる。なってみせる。私、私はーーーー」


[だったら……お前がいなくなったらオレの希望はどうなるんだ! 言ってみろこのバカ!!]


 心から叫んでやる。手で頰をはたくように。横っ面をぶん殴るように。湧き上がってくる感情をダイレクトに叩きつける。


 一瞬、アルムは目を点にした。そしてーーーー。


 血を再び払い、剣を構えなおし。


 きっと初めて、とてもやわらかに笑ってみせた。


 頰をつたう涙に血が混ざる。顎から滴るそれは、白刃に当たる。


「ーーーーああ、そうか。私、あなたにこんなにも想われていたんだね。サヤ」


 師匠が死んでしまって、独りになって、それでも。


 私を心から想ってくれるヒトが、まだいてくれたなんてーーーー。


 だったら、とオレは続く。


 そうだよね、とアルムは頷く。


「私は、なにも諦めない。希望の輝きも失わない。私自身を諦めない。私のために他のものも犠牲にしない。


 私は、希望になる。みんなの希望を守る騎士になるのだから。あなたも、私自身さえも守り抜く」


 そう宣言する。アルムは剣を構え直す。


 ーーーーだが、状況は変わらない。


 アルムは疲弊して、獣魔人は5体健在。


 変わらない悪魔の圧迫感に足がすくむ。頼みの綱の大魔法の中心は見つからず、逆転の目はない。


[くそ、せめてあの水晶玉が無ければ……]


「あれの何が問題?」


[魔力が強すぎて隠れるんだよ。せめて数秒、アレを消せないか。吹っ飛ばすでも宙に浮かすでもいい。あの光を吸い込むこととかできなーーーーあ]


「サヤ?」


[…………出来るかもしれない。こうなったら賭けだ。アルム、耳貸せ]


 考えていることを伝えた。アルムは獣魔人の爪を避け電光をかいくぐり、しかしそれでもうんうんと頷いた。


「なるほど。それなら、わからない」


[できないとは言わないんだな]


「ええ。やってみせないことにはね。…………でも、あの獣魔人を無視してあの大きな水晶玉をどうにかするのは……無理かな」


[いっそ壊しちまうか?]


「帝都の守りの要だよ? 壊したり魔力を浪費させたりしたら、それこそ魔獣が襲ってくるかも。私は名実共にテロリストになっちゃうから」


[万事休すか。やっぱり逃げよう]


「なにか糸口に繋がるなら、そうするけれどね」


 もう逃げないとは言わず、アルムは目を走らせる。


 柄を掴む指の震えが白刃を鈍らせる。


 壁を背中に背負い、いよいよ、アルムは冷や汗に血をにじませる。

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