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嵐のパニック

「ーーーーサヤ!」


 悲鳴のような嬌声のような、形容しがたい音が脳裏をつんざく。


 衝撃が体を叩く。加速度を感じる。どこか暗い空間をすっ飛んでいる。


 風を切る。冷気が芯を侵す。青い闇を突き抜ける。


 ーーーー芯に、熱が伝わる。


 鞘がとぶ。白銀の刃が魔力素の青を吸い、淡く発光する。


「はぁぁああああああああ!!!」


 縦一文字。闇を切り裂き、青い雫が迸る。


 返す刀で横一文字に剣が走る。切断した振動と刺激が白刃に痺れる。


 十字に斬られたものはずるずると後退する。


 ーーーーアルムは剣を握り直した。


[………………え? どこここ!? てかアルム?! やったぁアルムだアルムだぁ!! 聞いてくれよぅあのクソ皇女のガチクズだったんだぜ! なんだあいつふざ、てか捕まってたはずじゃ?! 自力で脱出を!?]


「後にして」


[へっ]


「緊急事態」


 アルムは短く答え、剣尖を揺らす。


 その先にあるのはーーーー斬ったはずのなにか。


 青々とした体液はぶちゅぶちゅと沸騰して気化していく。切り傷が塞がっていく。


 大きな牙は唾液で糸を引いていた。腕からはツノが生え、爪は鋭利なナイフのようだ。


 だがなにより、この吐き気を催す悪意。どの外見的特徴よりも雄弁な本能に訴えかける。


 ーーーーこれと似た存在を知っている。


[【獣魔人】……!? この間倒したんじゃ……!? 別の個体にしてもどうして、いや、どうやってここに来たんだ?! ここはホワイトハウスなんだぞ?! 守りは!? どうしてディアエレナのヤツは気づいてなかった!?]


「黙って」


「いーや、黙らないわよ。そっちはどうだった? 例の魔力炉心の場所はわかった?


 ボクはダメ。まるでダメ。っていうか体内の魔力の流れを読み取るって何。触れないで箱の中身を透視しろってこと?


 バッカじゃないの。例え死体が細切れで詰められてたってわかるわけないでしょう」


 ずいと横に現れたのはフィーネだった。変わらない金髪巨乳ぶりだが、片腕を包帯で首から吊り下げている。


 ……いよいよ意味がわからない状況のようだ。


 ツッコミを入れる気力も湧かなくなってきた。とにかくーーーーヤバそうだが。


 アルムはかぶりを振った。【魔力炉心】とかいう聞きなれないモノが見つからないらしい。語感的に、魔力の源、という感じの奴なんだろうが。


 つまり、魔法の中心、魔力の流れ、魔力素の濃い部分。


 なんだーーーー。


 そんなの、オレが今まさに学んだ話じゃないか。


 ならわかる。今のオレは、それを見る目を知っている。


[……アルム、額だ。おでこを狙え]


「…………え?」


[そこに特別濃い部分がある。凄いぞ、青い霞で。アフロヘアーだ。…………信じるか?]


「もちろん。あなたの言葉、疑ったことは一度もない……わからないことも多いけどね」


「…………え? なんだって?」


「もう一度。行くよ、フィーネ」


 フィーネが怪訝な顔をする。アルムははにかみ、剣を構えた。


 呼吸を意識する。指先の震え、場の空気、伝播する魔力、悪鬼の波動、獣魔人の覇気。


 その鼓動がーーーー重なり。


 獣魔人が動く。真正面からの打ち込み。


 これにアルムが避け、フィーネが受け止める。


 水の花弁がびりびりと震えている。獣魔人の一撃は重く、特にフィーネは片腕だ。耐え切れるわけがない。


「もう一度! それならやってみせなさい、アルム!」


 それでも、甲高い声でフィーネが叫んだ。


 彼女にはオレの声は聞こえない。オレが「見つけた」ことなど知らない。


 しかしそれでも、アルムに預けた。信じている。一縷の望みを。


「やぁああああ!!」


 アルムの剣が走る。悪意の重圧ごと斬りとばすような豪快さで。


 ーーーー脳天に鋭く打ち下ろす。


 悪魔が震える。膝が砕け、口から青い霧を吐いた。


 その上半身が力を失う。倒れると同時に体は霞のように消えていった。


「ぶっへぇばっちぃ! なんかかかったぁ!? …………いや、でも、まさか本当にやれるとは思ってなかったわ。アルム。ゾクゾクする」


「ベタ褒めのところ悪いけれど、彼のおかげ。ーーーー本当に、いいところで来てくれた」


 アルムが金の剣を払う。目配せするアルム。はにかむ横顔。


 フィーネはじろりとそれを見つめていた。なにか不機嫌そうに顔をしかめた。


「彼? ……まさかその【星竜】のこと? …………ふぅん、あんまり良い趣味じゃないわね。そんなの。


 つーかなんでここにあんのよそれ。確かあの偉そうなクソ姫様にぶん取られたまま、だったはずよね。後でまとめてヤキ入れにいってやろうと思ってたのに」


 さらりと物騒な計画を差し込むフィーネ。


 ……ふと、周りの破壊痕に目がいった。


 ディアエレナがオレを連れて歩いたのはついさっきのことだ。


 にしては、廊下のひび割れはひどい。窓は一枚残らず粉々。破片が生え抜けになっており、ピースのかけたジグソーパズルのよう。


 そして所々にある、人影。誰も彼も血まみれで突っ伏している。どこを見ても二本の足で立ち上がれるような姿はない。


 …………予感する、というより、察する。


 この時。この場所。そして変態破壊魔の金髪巨乳。


 テロリスト扱いするなら、アルムより絶対こいつだろう。思想的に。


 そしてたぶんもう、未遂じゃない。


 …………このままこいつを近衛兵に突き出せば、アルムはストーカー被害から解放されるのではあるまいか。

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