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欲深い女


「うっふっふ。さすがボク。多少ダメージを負っていたとしても、まぁこれくらいは当然よね。そもそもこの程度の負傷なんて怪我のうちに入らないし。絶好調と言っていいわ。


 なんで誰もわからないかしら。ーーーーねぇ、アルム。あなたならわかってくれるよね?」


 だってこの傷、あなたがやったんだし。


 扉を食いちぎった青い顎ーーーー水竜の体を滑り、フィーネは言った。


 片腕は包帯で吊り下げている。肌は所々白いガーゼで隠されている。


 ……見るからに満身創痍。


 それに反して、体から放出されるエネルギーはじりじりと肌を刺す強烈さ。夏の日差しが悪臭かという遠慮のなさだ。


 とにかく、試合開始のときのからまったく劣化を感じない。


 さきほどのセリフも、単なるやせ我慢や意地っ張りというだけではない。明確なオーラとなって表現できている。


 それ故ーーーー十全に戦えるのであろうフィーネに対して、私は絶不調。


 扉が壊れてくれたとはいえ、あまり喜べる展開ではなかった。


「なっ、なっ、なっ……なんじゃーーーー!?」


「うるせーどけ」


「ぐへ」


 あたふたとしていたジュリアは、フィーネに呆気なく蹴り飛ばされた。


 せっかく取り出した星の杖は使われる間も無くジュリアの手からこぼれ落ち。


 フィーネが容赦無く踏み壊した。


 悲鳴をあげるジュリア。うるせぇ、とフィーネに睨みつけられ、そのままがくりと気絶してしまう。


 さぁーーーーいよいよフィーネは私に居直った。


 野生的な牙を光らせて得意げに笑い、フィーネは指の関節を鳴らした。


「これで邪魔者は総じてご退場のようね。それじゃ、続き、はじめましょうよ」


「……なに言ってるの?」


「だから、試合。決まってるじゃない」


「あなたの勝ちで決まったはずだけど」


「バカ言わないでよ。あんなことで、このボクが満足できるわけないじゃない! まだよ。まだまだやりたりない。


 あぁーーーーもっともっともっともっと! しのぎあって削りあって食い合って舐め合ってしゃぶり尽くして!


 出し尽くしましょう。力の全てでもまだ足りない。器の全部を絞り出すほどの戦いをしましょう! さぁ! さあさあ!!」


「そのために? そのためだけに、こんなーーーー国家反逆を?」


 ぽたぽたと体液をこぼし、フィーネが私はの顔を覗き込む。


 そのショーウインドウのきらびやかな品物に憧れるような表情。


 ーーーーそれは、致命的なほど。私には理解できなかった。


 困惑する。混乱する。


 フィーネの目も、体を抱く両腕の意味も、じっとりと濡れた全身も、背中の魔法術式から顔を出す水竜に込められた感情も。


 ーーーーそれほどに。


     フィーネは本能的だった。


 感性に従い、本能が導くまま、ただ求めている。


 相手を粉々に侵食し、蹂躙し、凌辱し、食い尽くす。その獣性の器を満たすために。


「いい? アルム。ボクらは結局個人で生きてるんだよ。帝国? 親の仇? 騎士の誇り?


 ボクはね、どうでもいい。その全てが。どうでもいいわ。ボクがボクの快楽を追求して何が悪いの?


 ボクは愛したいんだ。注ぎたいんだ。食べて、吸って、犯して、溶かして、満たす。それのなにがおかしいの?


 あなたもそう。あなたが満足したいから騎士をめざしてる。誰かに押し付けられた希望のためにね」


「私は…………違う!」


「同じよ、アルムぅ。この際押し付けられたかはどうでもいいけど。


 たとえば、あなた。ーーーー帝国のために自分を殺せる? 自殺って意味じゃないわ。自分の魂を。欲求を。夢を」


 できないよね。あなたにはできない。


 だってその夢、希望、欲求。それがあなたの強さの原動力なのだから。


 そう言われて、私は言葉に詰まる。


 私の表情を舐めるように見つめ、にたりといやらしく笑うフィーネ。


 ーーーーやがて、その恍惚で緩んだ眼光が引き結ばれた。


 フィーネの後ろ。遥か彼方の廊下の先。


 数多の破壊痕とフィーネに倒され気を失った騎士達。


 その上に、それは立っている。影。


「ち。今度の邪魔者、だぁれ?!」


 今度は怒りに任せて牙をむき出しにし、ぎろりと振り返るフィーネ。


 その先にはーーーー異形が、あった。


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