拷問の女
既に結果が決まった取り調べ。後は私が首を振るだけーーーー。
私が理解するより早く、ラーマンは首を縦に振った。彼の鋭い眼光が、胸を貫く。
「まぁ、かく言うあたしもコネで入ったクチ。
そこまで帝国に忠誠強いわけではないのだけれどね。それでも引かなきゃならない一線ってやつがある。わかる? ーーーーわからないか。
あなた、におうのよね。田舎臭いのが、ぷんぷん。その帽子のせい?」
女の子が無造作に私の顔をはたき、帽子が床に落ちる。
赤く腫れた私の頰をつねりあげ、女の子はにやにやと笑った。
「でもぉ、あたしも嫌いじゃあないのよ? そのくっさいにおい。実は帝都郊外の農場があってね。あたしも最近だけど、時々作業を手伝うの。
ああ、スイカとかカボチャとかナスとか、あなたそういうにおいがするわ。おいしいわよねーーーーあなたもおいしい? どう思う」
ちらりと女の子がラーマンに目を向け。
ーーーーラーマンの手のひらが、その顔面を覆い尽くした。
「…………………………ラーマン、なにこれ?」
「ーーーー私も肯定する。ジュリア。『引かなきゃならない一線がある』。
おまえの行為からは公正さが感じられない。騎士は清く正しく誇りを持ってあるべきものだ。無論、他者のそれを蔑ろにしていい理由はない」
「ラーマン、誰に向かって……」
「私が付き従うのがどのお方なのか。おまえも知っての通りだ。
その一線を引いている以上、私はそのご意志に反する可能性があるおまえをこの場このまま殺すことには、なんの制約も生じない」
「貴様ァ……!!」
「……あなた、呪いなんて意味為してないんじゃないの?」
「否定する。…………今のは回答意図の拡大解釈だ。私の行動指針、少なくとも『方向性』はある程度制限される。
先ほどの回答であれば、私はジュリアを殺す権利は得られるが、新たな質問がなければ私は死ぬまで睡眠や食事を摂ることができない」
私の問いかけにやや肩を落とし、ラーマンはジュリアの頭から手を離す。
巨漢から無遠慮に放り投げられたためにジュリアはぐしゃりと顔面から落下した。
その後、床を二転三転として、そのままばたりと倒れ込んだ。そのままぴくりとも動かなくなる。
「そして、今はこの通り。『迂闊にも』おまえに回答したため、私はおまえへの自身の思考と呪いの説明をする権利を手に入れたが、ジュリアの殺害権利を失った」
「どうして寡黙のふりなんか?」
私の問いかけに、ラーマンは答えない。少しだけ表情を歪ませる。
ーーーーああ、質問が悪いのか。
「…………あー、あなたは寡黙のふりをしていましたか?」
「肯定する。元々私はおしゃべりで嘘つきだった。しかし私はこの呪いを受け、自由に言葉を発する自由を失った。
であれば、私の寡黙がポーズなのも自然なこと。なにせ喋れないときは常に言いたことを十通りはあたためているほどだ」
そうして、ラーマンは肩をすくめる。
本来ならばこの10倍、適当なことを交えてジョークでも言ってみせてくれるのだろう。
ラーマンは不満げに姿勢を正し、じろりと床に転がるジュリアを見やる。助け起す権利がないのだ。なるほどこれは不自由である。
私もそれに倣ってジュリアをじっと見つめ続ける。
ーーーーやがて、のろのろとジュリアが起き上がった。
顔全体を赤らめ、落とした色眼鏡を拾う余裕もない。
「なに? なんなの? なになに? あんた達面白い? 無様にぶっ倒れて気絶するこの帝国でも上級レベルの力を持つこの私が情けなく顔面から倒れて気絶している姿をじーっとみて面白かった? 殺す。あんた達殺すわマジで」
「彼女、私たちを殺すって本当?」
「否定する。私とジュリアが受けたオーダーの主旨はこの場を殺害現場にすることではない。
しかし、質問されず無抵抗な私と身動きを封じられたあなたのふたり程度、瞬殺できないはずがない。とはいえ、こんなこと、さほど論ずるに値するとは思えんが」
ーーーー「出来ることは認めるが、やるわけないよねそんなダサいこと」みたいな釘の差し方をするラーマン。
これはこれで十分プライドをズタズタにしている感じがする言い草である。
実際、ジュリアはちょっと目尻に涙をためていた。あるいは先ほどの顔から床に叩きつけられた痛みによるものかもしれないが。
反射的に私は目を逸らした。
しかし最後の反骨精神か、ジュリアは私の顎をつまみ、視線を戻させる。
「これから、たぁーっぷり人道的な拷問をしてあげるから。ちょっと体が大きいからって拍子に乗らないことね! この犯罪者! この犯罪者!!」
「否定する」
「ーーーーは?」
「付き合いきれないって意味」
怪訝な顔をしたジュリア。
ーーーー反撃開始だ。




