そして、プリズナー
それからはトントン拍子だった。
アルムは手錠を掛けられ、頭は皮袋で覆われた。
そのままどこかに魔法で吹っ飛ばされた感覚があり、気付けば重苦しい石の椅子に磔にされていた。
「結構。下がれ」
「ディアエレナ様、お言葉ですが」
「貴公にそれが許されるとでも?」
「ですが! この女は帝国を破壊ーーーー!」
ディアエレナがギロリと口答えした兵士の一人を睨みつけた。金色の眼光が屈強な男を射抜き、そのまま目線に物理的なパワーが乗る。
重厚な鎧を着込んだ男ひとりを、重苦しい部屋の石壁にまで吹っ飛ばした。
「騎士ガレン・グランフォード。貴公の帝国と私への深い愛は痛み入る。
だが、私の言葉は帝王閣下の言葉。それに比肩できるモノはこの帝国には存在しない。
……これは温情だ。二度目はない。殺さぬ内に消えよ」
「ぐっ……」
「ガレン卿。消えるというのはだなーーーーうめき声をあげず、ノイズを出さず、勿体ぶらず、真っ直ぐ速やかに部屋を出ろという意味で私は言ったのだ。
そんなに首だけで家に帰りたいのであれば、その場で理不尽だとみっともなく泣きじゃくれ」
それだけ告げると、ディアエレナ様は腕を組んで目を瞑った。哀れ騎士ガレンはアルムから没取していたオレを部屋に残し、息を殺して部屋から退散した。
ディアエレナ様は何かをつぶやく。壁か一瞬輝いたーーーー気がした。
「防音処理だ。これで、この部屋の中の様子を覗けるヒトは誰もいない。無論、貴公がいくら助けを呼ぼうと誰も聞こえない。
もっとも、帝国反逆者の貴公に味方するモノなど、我らが帝国領地には存在しないがな」
「……わかりません。第一皇女殿下が私に何を?」
「わからぬか? 貴公。ーーーー我が帝国の反逆者、アルム・ミルメット。それを私がどうするか、などと。ーーーーふふふ」
ディアエレナ様が口端を吊り上げ、にたりと笑った。
金色に輝く眼光がアルムの額を貫き、眼球に流れ、頬をつたい、首筋をなぞり、胸を透かす。
ディアエレナ様の白く長い指が伸びる。拘束されたアルムの左胸を掴む。シャツにシワがより、ディアエレナ様の爪が肉に食い込んだ。
「ーーーー私の騎士になってみない?」
「………………ふぇ?」
[は?]
この緊迫したシーンを作り上げておいて、やることが……スカウト…………だと……?
「ああ、そのイモ臭い田舎者じみた感想。いじめ甲斐あるわぁ。いいわね、あなた。私のツボを押さえてる。
私、常々思うのよね。結局パートナーって、利害よりも心身の相性だって。心身共にがベストではあるけれど、私はーーーー肉体関係、重視したいな」
[なんか急に軽い口調になったなこの皇女……てか、女王系?]
「意味がわかりません。それに、殿下には既に何人か騎士様がいらっしゃいます。いずれも劣らぬ有能な、それこそ帝国で五指に入るほどの騎士様が。
先ほどの……ガレン卿だって、あなたの騎士様ではありませんか?」
「ああ、ガレン? ダメよ、あんな騎士、この帝国にはゴロゴロいるわ。帝国で五指なんて恐れ多いわよ、あいつレベルじゃ。
ーーーーまぁ、それでも少し見所があったから手元に置いてやってるわけだけどね。
でもダメ。単に私を愛するそこそこ腕の立つ男なんてね。そんな凡骨、私に釣り合うはずないじゃない?
ほら、私ってこの通り地位も美貌も名誉も魔力も、ご覧の通りに完璧よ。真実、どう謙遜したって私って帝国最強だし」
[ちょっとナルシストっぽいぞこの女王様! くっそ! うぜぇけどこれはこれでキャラ的にアリな気もするからちくしょう!]
「私こそ、騎士としては凡百では? 勲章も経歴もない、ただの駆け出しのタマゴです。それこそ城の近衛兵団のリクルートと何ら変わりありません」
「いいえ、己を卑下し過ぎよ、私のアルム」
[はぁ!? 私のってなんだ!? 私のって!? ぅ私のって!?]
オレのアルムに、オレのアルムに、オレのアルムに、無遠慮にも顔を近づける。
胸まで押し当てる。
ーーーーキス寸前というほど羨ましく密着する。羨ましい!
そして。
ディアエレナは。
オレのアルムのーーーーアルムの、うなじを舐める。
ようにーーーー耳打ちした。
「あなたは第六魔法を発動した。私にはそれがなにより重要なの。他の凡夫と並べて見られるなんて、我慢ならないわ。
あなたは私が管理する」




