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それは、天来


 一進一退の攻防。


 意を決して、アルムがリズムを崩し出す。トラップとして宙空に文字を走り書いて舞台を隆起させたり凹ませたり、あるいは重力魔法を空間に織り込む。


 だがフィーネのバランスとリズムは途切れることがない。あっさりと設置罠をかいくぐる。緒戦のようにうまく動きを奪えない。


 それにフィーネは魔法も回転が早かった。アルムが剣戟の間に挟み込めた簡略的な筆記魔法と呟きの魔法にあっさりと追従する。半端な魔力ではすぐに撃ち落とされる。


 ーーーーだが。


 いよいよ観客の興味も失せてきたという頃合いなのだろう。舞台上にアラートが鳴り響き、赤いライトが警笛を鳴らした。


「…………ショウ、ダウン……! アぁルムぅぅ。助かったと思ってる? 魔法のキレ、悪くなってるけれど?」


「いや私は別に。そう言うあなたこそ、息切れしてない?」


 負けず嫌いに負けず嫌いのセリフを返す。


 癇癪まじりにフィーネが腕を大きく振り回す。水の花弁がクレイモア地雷のように周辺に爆発的に射出された。舞台をえぐり、壁を削り、アルムが吹っ飛ぶ。


 およそ十数分ぶりに、ふたりの間合いが開いた。


「あー、うっさいうっさいうっさいうっさい! とにかく、千日手よ。御前試合規定により、あと30秒で試合終了。あんたの負けよ」


[なんでさっ!?]


「ーーーーだって、ボクはシードだから。凡弱の選手とスター選手じゃ、どっちを残すかは明白じゃない?」


[なにそれズルい!]


「ならっ…………なりふり構わず、いかせてもらう!」


 アルムが指を伸ばして記号を描く。剣を構え、唇が呪文を綴る。


[剣も構えて魔法って……3つ並行……!? できるのか?!]


「ーーーー熱量はまだ手の中に。覚醒せよ、我が炎の獣。汝が魂、この身を貫き、遥か魔天に輝きを放て。我が希望の輝きを。……私の、受け継いだ、たったひとつの希望を!」


 ーーーー詠唱に自分の想いを乗せている。


 言葉に詰まる。残りはもう20秒を切った。


 場の魔力が励起し続けているのを感じる。魔力素が濃く放出される。青白く靄がかかる。


 アルムの背後で空間に歪みが生じる。蒼電が周囲に弾け、舞台を抉りとる。


「流転せよ、巻き上がれ、突き上げろ! 第六世界の旗印を掲げ! 地の底から雄叫びを上げ! 我が希望に無限の光を! 汝の名はーーーーッ!」


 フィーネが水の竜たちを引き連れて突撃する。アルムは金色に輝く眼を見開いて、フィーネの竜を剣で斬りはらう。


 アルムの背後の空間に、ぽっかりと穴が開く。


 そこから触手のように、爪のように、雷のように、何かが漏れ出した。


 水竜の飛沫が背後の蒼雷の熱に当てられて霧消する。


 アルムも踏み込む。前進するほど、アルムの背負った高密度の魔力の余剰分が蒼い電光になって水の竜を消し去った。


 残り10秒。


 アルムとフィーネが何度目かの交差をする。空間の穴の闇がいよいよ深くなりーーーー。


 その奥から、ツノが、生えた。


 ーーーー何かが、よくないものが、出てくる。


 直感した。やりすぎだ。


 これは、ダメだ。


 呼んではいけない。こんなもの。


[アルムーーーー!]


 アルムの目がギラギラと輝いている。焦点はキチンと合っているようだがーーーー「見えていない」。


 オレの呼びかけにも応じない。フィーネの刃弁が蒸発する。アルムの剣が食い込み、赤い血が白い肌から噴き出した。


 ーーーーそのまま、首を落とさんとする。


「そこまでっ!」


 凛とした声が、脳裏を突き刺す。


 周囲を満たしていた稲光の足音を突き抜け、場を包み込んでいた魔力の奔流ごと槍の雨が突き貫いた。


 ーーーー赤い槍の集中豪雨。天井から降ってきたそれらのために、刹那の間にアルムの体は標本同然に固定された。


「…………えっ?」


 ぱちくりと目を点にするアルム。


 動けないことよりもーーーーフィーネの腕を斬り落としかけ、首に剣尖を押し込んでいたことに、ショックを受けているようだった。


「…………私は……?」


[聞こえてなかった。無意識だったのか?]


「いいえ、いいえ。…………ごめんなさい、私は、あなたを殺しかけてた」


「……ふん、気にする必要はないわ。ボクだって、あんたを本気で……っていうかなに? なにこれ? 余計な気遣いよ。あんたも、この槍も。ここからボクが片腕を犠牲にした大逆転だったっていうのに!


 あーもう腹立つ。これで終わったら、完全にボクの負けみたいな感じじゃねーかぁ!! どこのどいつがこんなことをしたってわけ!?」


 徐々に語気を荒げていくフィーネ。


 その問いかけに応えるようにーーーー上から、ヒトが降りてきた。ふわりふわりと宙を浮いて、ゆっくりと、降下する。


 女性が、槍の上に降りた。


 …………なんだろう。つい最近、この構図を見た覚えがする。


 フリルのスカートが翻り、黒いセミショートの艶のある髪が埃を弾く。頭のサークレットに埋め込まれた宝石が、霧散した魔法の残り香を吸い、鈍く輝いている。


「ーーーーディアエレナ……第一皇女殿下!?」


「ぅえーーーーゔぇえええぃ!?」


 フィーネが間抜けた声で叫んだ。アルムも姿勢を正そうとするも、槍の海で足も付かずにもがくだけだった。


 第一皇女は槍の柄に降り立ち、槍の海に浸かるアルムとフィーネを下ろし見た。


 交互に視線を走らせて、やがて、アルムを指さした。


「貴公に問う。どういう了見だ?」


「えっ……」


「それとも罪状の確認から必要か? 貴公は何故、帝都の真ん中で第六魔法の使用を試みたのか聞いているのだ、私は。


 偉大なる第六魔法を不躾に執行し、己が技量の顕示が狙いか? 馬鹿な魔法使いもいたものだな、そうだとすれば、だが。


 なにせーーーーこの私が直々に止めねば、貴公は帝国破壊の大罪人であったろうよ!」


「ーーーー……」


 アルムは絶句していた。


 否定も謝罪も口にしない。


 ただ、今の惨状と告げられた事実を受け止めていた。そして、認めていた。


「この試合、無効とする。勝者は騎士フィーネ。対戦者は記録から抹消。極めて危険なテロリストだが、裁定は必要。投獄せよ。


 ーーーーこの決定はこの私、第一皇女ディアエレナ=マクミクシアのものであり、【護帝三騎将】の【帝国の火】としての命令である!」


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