それは、熾烈
フィーネの魔法を前に、アルムは剣と鞘をそれぞれ手に持ち、動き出す。
襲いかかる水の竜のあぎとを鞘の腹に伝せて逸らし、空いた空間に一歩踏み込む。
続く頭も二度三度と同じように払いのけて身を守り前進する。しかし水竜の数は多い。すぐに周囲は水の竜に取り囲まれた。
幾十幾百という竜の頭がアルムを見下ろし。
首を一斉に打ち下ろすーーーー!!
「常夜の大地よ、我が声を標とし、第四世界に楔を打ち込め。ーーーー飛翔せよ!!」
アルムの体がぐんと引っ張られた。
アルムにのしかかった水の竜たち。
竜たちは地面に頭を強かに打ち付けた。空振りだ。勢い余って体を飛沫に砕いてしまう。
フィーネもアルムを見失ったようだった。困惑し、左右にきょろきょろ目を走らせ。
ーーーーアルムが上空にいることに気づくのが、致命的に遅れていた。
[ーーーーってワープだとぅ!?]
ちなみにオレまで認識が遅れている。
地面に張り付いていたと思ったら、いつの間にやら空の上。頭の上を取り囲んでいた水の竜達が遥か足下で水たまり同然に絡まり合ってもつれあっている。
「鳩を打ったのは失敗だよ、フィーネ。散った紙吹雪や羽根の魔力素をマーカーにすれば、このくらいの短距離、空間をすっ飛ばしてジャンプできる」
[チートじゃねーか!?]
「いくよーーーー見えたって言ったはず!」
空を舞っていた鳩の羽根を一枚掴み、アルムはふっと息を吹きかけた。
白い羽毛が銀色に輝く。柔らかな質感がメタリックなコートを纏う。それは羽根のナイフに変わり。
そして、投擲。
フィーネを覆っていた水の壁の中に突っ込んだ。
羽根はショートでもしたかのように水の壁の中、火花をばちばちと撒き散らす。ここになってようやくフィーネは異常に気がついたようだった。
そして、爆発。
水の壁が爆発を吸収し、大きく振動する。ぐわんぐわんと共振した吊橋のように大きく震え、うなりーーーー弾け飛んだ。
フィーネがナイフを投げる。5本、6本と立て続けに投擲されたそれはアルムの急所にめがけ一直線に駆け抜ける。
鞘を盾にアルムはナイフを受け止め、遂にようやく、地面に着地した。
鞘を捨て、両手に剣を取るアルム。フィーネとの間合いは中距離。剣での踏み込みの間合いにはギリギリ遠い。
フィーネが腰から二本の鉈を抜いた。もちろんオレほどではないが、ナイフとは刃渡りも厚みも違う。とてもではないが投擲はできないだろう。
間合いは間違いなく剣より短い。だが、それは致命的ではないだろう。どうせアルムの武器も剣。近接戦闘には変わらない。
「ああいう手でボクの魔法をぶっ壊すなんてね。ちょっとショックよ、余計にムズムズしてきたわ」
「あなたの魔法があまりに詩的だったから。リズムに合わせた周波数で私の魔法を突っ込ませれば壊れるって思ってた」
「いいセンスね。それに器用。さっきの手品の仕込みといい、油断させるようなバカな小技からの繋ぎ、この土壇場でやる度胸はバカにできないわ。
…………ああ、本当、たまんないわ。超ぶっ壊したくなってきた、その【星竜】ごと!」
「それは光栄。本当に。…………私の受け継いだ力とあなたが守り続けた強さ。その力比べをさせてもらうよ」
「ふふっ。あなた、頭おかしいんじゃない? ーーーーあんたをぶっ壊す私の方が強いに決まってんでしょぉがぁああああ!!」
「やぁあぁああああああ!!」
ふたりが同時に踏み込む。真正面から刃と刃が交差した。
金属音が耳を裂く。火花が散り、周囲にはびこる魔法の残滓を吹っ飛ばす。
みしりーーーー鉈が軋む。
真正面からの力比べは当人同士よりも先に武器の理由で決着した。
剣圧がフィーネの腕にのしかかり、ほどなく刃に亀裂が走りかけた鉈に舌打ちして、フィーネは刃を引いた。
牽制ついでにミドルキックでアルムの腹を抉る。アルムはうめき声を上げて蹴り飛ばされた。しかし踏ん張り、倒れこそしない。
「恵みとなれ、我らが天星。血肉に裂き開き、栄華を讃えよ!」
怯んだアルムの隙をついて、フィーネが唱える。腕から水の花を咲かせた。
それは盾のようでもあり、風車のようでもある。花弁はくるくると回り、風切り音が鼓膜に爪を立ててくる。ひび割れた鉈が地面に落ち、フィーネが駆ける。
「枯れちまえ。そして、この花は咲き誇るッ!!」
盾の打撃。手刀の突きでアルムを肉薄する。アルムは剣で払いのける。フィーネの苛烈な踏み込みを前に、身体を組み替えてかわし続ける。
隙を見てアルムは剣を打ち込む。ひっつくフィーネに、刃ではなく柄で殴りつけた。しかし花弁の盾はそれを防ぐ。刃ではない柄では、とても盾を突破できない。
速度は速い。アルムも魔法を挟む理由がロクにない。フィーネも同様だ。疾る。回る。貫く。透く。
肉薄の応酬。それが何度も何度も何度も何度も、繰り返され、組み替えられ、入れ替えられ、連続して、連鎖してーーーー。
それを壊す決定的な攻め手が、ない。




