それは、魔性
スポットライトが目にしみるーーーー。
そして舞台上。真正面にはたった一人が立っている。
金髪を後ろでまとめ、巨乳の前で腕を組む。腰にはあの青いナイフ以外に、鉈を二本下げている。
女の子が立っている。あれがフィラーだ。ーーーーアルムがかつて憧れた、強く若い女騎士が、そこにいる。
「驚いているようね。このボクが今度の対戦相手と知って!!」
やたら自信満々にフィラーが声を張り上げた。
…………とてもしゃないが「そんなことないです」なんてアルムが口を挟む余裕もない。
「そしてボクの正体を知りたくて仕方がないはずだわ!
いいでしょう。逃げなかったあなた、極めて魅力的なあなたに敬意を評し、同じくひとりの騎士として、ひとりの恋する女の子として、名乗らせてもらおうかしらん!!
ーーーーボクはフィーネ・フー・フィラー!! 【殺戮騎士】と恐れられた【魔】を殺す騎士とは、このボクのこと!! あんまり呼ばれたか無いけどッ!!」
「…………【魔】を殺す?」
「その通り。家庭の事情というのでね。…………ふっ、ブタ箱にぶち込まれて少し冷静になったわ。さっきはちょっとやりすぎました。ごめんなさい」
「はぁ……」
あれで『ちょっと』?
つーかブタ箱にぶち込まれてたのか。この短い間に。
しかし傍目から見て、フィーネは特に反省した様子はない。どう見ても「今度はアルムと公然的にヤりあえる」とウキウキしてるようにしかわからない。
「時に聞いたのだけれど、あなたのぷりぷりの腰に下がってるーーーーその魔剣って【星竜】?」
ーーーーなんだと?
ーーーーそうなの?
オレは(剣だが)頭の中がハテナで埋め尽くされた。
アルムは半歩下がってオレを体の陰に隠す。
「…………なるほどね。これが魔剣なら、あなたの【殺戮対象】。ああ、なるほど。そういうこと。それがあなたが私を狙った目的ってことね」
「え? ああいや、そういうわけでも……」
「どうでもいい。あなたの理由に興味ない。私はそれを許容しない。どういう理由であっても。
ーーーーああ、わかった。今ね、私、あなたが不愉快でたまらない」
「ーーーーその意気っ……! ゾクゾクするッ! あぁ、もう、細かいことはどうでもいいわ!!」
そうして自然と、ふたりは武器を取った。フィーネはナイフを、アルムは剣を抜く。
金髪巨乳、改め「フィーネ」はまず宙空に空白の譜面を広げた。多重奏式譜面術。
ナイフがピックのように譜面を弾く。譜面が震え、雫が跳ね、波紋が広がる。音とともに譜面上で波紋同士が共振する、おたまじゃくしが跳ねている。
瞬きする間もなく、フィーネの周囲を水の竜が覆い潰した。
ーーーー指で弾くより、武器を触媒にした方が効率がいいようだった。あの時、アルムがナイフを先に破壊した判断は間違っていなかった。
アルムはといえば、一度抜いた剣を納め戻していた。
水の竜を殻にして閉じこもるフィーネを前に、ただ立ち尽くしている。
[ライラックみたいに重力魔法で押しつぶせないのか!?]
「無理。……それを警戒してるんだ。まず自分の領域を設定して、迂闊に私の魔法の影響を受けないように。ああまで徹底的にフィールドを作られちゃうと手に負えない。
さっきみたいに、一度魔法を破壊しないと。ーーーーこうなったら、私の最大火力で……!」
アルムはスタンスを広げ、剣を腰だめに構えた。目を金色に輝かせーーーーすぐに、かぶりを振った。
[ん?]
「いいえ。よくなかった。……落ち着いて、落ち着いて、斬り捨てるポイントを淀みなく見切ること。…………それが魔法の基本の一つ、でしたよね、師匠」
アルムはふっと笑い、おもむろに羽根つき帽子を脱いだ。手のひらで帽子を撫でる。
ーーーー帽子の中から、鳩が飛び出した。
[…………へっ]
何羽も何羽も何羽も何羽も、白い羽を羽ばたかせ、鳩が飛び立っていく。
紙吹雪が舞う。抜け落ちた羽根が風を泳ぐ。その渦の中でアルムは唇を緩めた。
「ーーーー戦う気あるの?! お前はっ……そんなお遊戯を、この私を捨ててぇええ!!」
破壊する。水の竜たちが身体を編み込み、牙を尖らせ疾走する。空気を噛み砕く。鳩が破裂する。紙吹雪が粉々になる。
アルムは帽子を目深く被り。
「そこだ」
腰から鞘を引き抜き、目を見開いた。




