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それは、情熱

 勝ち誇り「やったかッ!」と笑う金髪巨乳。どうやら『お約束』というのが理解できていないらしい。それとも弁えているというべきか。


 アルムは水に侵されていた。


 水の竜たちが変化した水の牢獄は、外皮の全てからアルムの中に染み込んでくる。


 それは一種の神経毒のようなもの。皮膚を抜け、肉を通り、骨を食い、神経を乗っ取る。乗っ取られ尽きたアルムは標本の虫となにも変わらなくなるだろう。


 ーーーーだろう、が。


 アルムは水に侵されながら、もがくように片手を振り回した。それは斬撃に比べれば弱い弱い身じろぎひとつに過ぎなかった。


 しかし(お約束的には「やはり」のほうがいいかもしれない)、それだけで、水の竜達は呆気なく振りほどかれた。


 金髪巨乳はその理由に気づいていない。目を見開いている。


 ーーーーああ、見えていないのだ。魔力の流れが。


 アルムの投げた剣によって、水竜達の魔力が流れ出す源、魔法の中心部ーーーー『根っこ』が破壊されているというのに。


 宙空の上。水牢獄砕けた雫を払い、アルムの指先が走る。


 唇から、指先から、幾数のワードが行進する。羽根つき帽子の奥で、瞳は金色に輝いた。


 金髪巨乳の足下が隆起する。同時に重力が数十倍に膨れ上がり、金髪巨乳を縛り上げた。


 金髪巨乳は唐突の環境変化に対応し切れていない。シークタイム。振りほどくための時間が圧倒的に不足している。


 そしてーーーー。


 がら空きの金髪巨乳の顔面に、アルムの膝が突き刺さる。


 打撃で吹き飛ばされる金髪巨乳。隆起した地面から転がり落ちる。アルムは一緒に隆起したオレを引き抜き、その後を追う。


 受け身を取る金髪巨乳。しかし青いナイフを構えるほど体勢は整っていない。隙だらけだ。


 真正面からアルムが打ち込む。


 剣が走り、火花を切り抜け。


 ナイフの青刃は、粉々に砕け散った。


 アルムは身を翻す。構えを崩さず、鞘を動かし刃を納めた。


「…………背中を見せるって、どういう了見なのかしら?」


「あなたの火照りっていうのが冷めたのなら、戦う理由もないと思うから。


 自分の魔法を私に壊されて驚いてたし。私を見てビックリして火照ったなら、これで冷えたのかなと思うけれど」


 ーーーーシャックリかなにかと思っているらしい。こいつ。


 まぁ間違ってないと思うが。つまりアレだ。ソフトに言うと「肝が冷えた」みたいなこと。俗っぽくいうと「チンザム」である。……いや、相手は女の子だけどね。


「そうやって…………隙を見せて、お尻を振って誘惑しちゃってさぁ……本当に、たまらないじゃない。


 切り裂いて、傷つけて、穴を開けて、ボクで埋めてさぁ。蹂躙して、愛撫して、凌辱して、犯し尽くさなきゃあ、ボクも正気を保ってられない!!」


「…………マジで?」


[…………マジか?]


「ーーーーマジだ!」


 砕けたナイフの柄を投げ捨て、金髪巨乳の両手が空を掻いた。


 指先から楽譜の様に五線が走る。その間をおたまじゃくしが泳ぎーーーー炸裂。


 また水竜が飛び出した。リズミカルに、踊る様に、うねり、回り、脈打ち、泳ぐ。


 またたく間に竜の頭が増えていく。十、二十と増え続け、すぐに金髪巨乳の毛先さえも見えなくなった。


[さっきの、またできないか!? 魔法の中心ぶっ壊したろ!!]


「無理っ……! さっきは地脈を媒介にしたおかげでわかりやすかったし動かなかった。でも今のはあの子が中心になってる」


[結局近づいて殴るしかないってことか?]


「その通り。……手加減なしってことかな」


[はぁ! さっきまで手加減してたのかアイツ!? じゃあどうーーーーって派手過ぎお前ら!! ヒトが注目してるぞッ!!]


「ーーーーぅえっ!?」


 水竜から逃げ続けつつ、アルムはぐるぐる周囲に目を走らせた。


 目が合う。目が合う。目が合う。目が合う。ヒト。平民。町民。臣民。貴族。騎士。


 …………最初にかけた人除けの魔法など、もはやなんの意味もなしていなかった。


「ーーーーマズい。マズいよ。大会期間中の場外での私闘は出場権剥奪処分。次に進めなくなる……ッ!!」


[なんだとぅ!?]


「ーーーー逃げるよぅ!!」


 指先で記号を走り書きする。煙幕が噴き出した。視界はほとんどゼロになる。


 それでもアルムを見失わない水竜。


「それならっ……!」


 アルムは地面を殴りつけた。


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