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それは、欲望

 爆散した破壊痕を一瞥し、アルムが視線を走らせる。


 ーーーーこれは、武器による破壊でないと判断する。


 攻撃は魔法によるもの。弾丸のように魔力を圧縮し、ある位置でそれを解除。魔力は発散し、拡散し、爆弾になり、周囲の物質をかき乱す分子結合に深々と傷を入れたのだ。


 ……アルムはそう分析した。


 だが、アルムは生きている。殺す気なら、爆発の規模感とアルムの距離が噛み合わない。致死性のある攻撃ではない。


 であれば、いまのは手加減。いまのは虚仮威し。ーーーー警告、警笛、あるいは、ゴングの類。


[お前は見えないんじゃなかったのか!?]


「こうなるとっ……ダメだったみたい……!!」


 跳ね起きたアルムの手からネコが滑り抜ける。アルムは剣を抜いた。敵の方角を検索。全身の感覚を研ぎ澄ましーーーー。


 攻撃の意思を嗅ぎ分けて、壁を砕いた不可視の弾丸を剣で弾き落とした。


 土煙が舞う。アルムの目はまだ敵の姿を捉えていない。アルムは帽子の角度を直し、剣を低く構えた。


「私が見えている……!?」


「その程度の気配遮断で逃げようなんてぇぇぇーーーーッッ!!」


 土砂を閃光が貫いた。圧力が塵を押しのける。


 その中を、閃光が貫く。


 びくりと剣刃が震える。認識よりも直感がはやかった。


 反射的に、アルムは真正面から打ち合った。


 交差する刃金。青い刃。なびく金髪。揺れる巨乳。


 アルムは踏み込み、フルスイングで無理矢理に払い飛ばした。押し負ける金髪巨乳。青い刃が空を切る。


 構えを正したアルムを前にし、不意打ちを仕掛けた金髪巨乳は間髪入れずに突進ーーーーしなかった。


 壁を背にしたアルムに距離を開けたまま刃先を向ける。片手で握るのはナイフだ。刃は短いが、太い。強度は織り込み済みの代物だ。


「あなた、何者?」


「あなたが悩ましいカラダを晒しているからよ。そんなの揺らして歩かれちゃ、襲うしかないじゃない!」


 唇を舌舐めずりして唾液をこぼし、ソウルからシャウトする金髪巨乳。


 ーーーーどの胸下げて言い出してんだ、この女は。


「はぁ?」


 アルムも理解できないといった風に首をかしげた。


 金髪巨乳はナイフを握りしめ、地団駄を踏み、ウズウズとーーーー目を光らせる。


 さながら新しい洋服を買ってもらった少女のようだった。(そんな可愛らしい体つきをしていない訳だが)


「その腰つきを魅せられちゃあ、たまらないわ。ーーーーこうして、こうして、こうして、こうして! むしゃぶりつかなきゃあ、どうしようもないのよ!」


 もう居ても立ってもいられないらしい。


 アルムが燃えだしそうなほどの眼力で熱を送り、頭を掻き毟り、ナイフを振り回し、舌なめずりする金髪巨乳。ダメだこいつ。


[アルム。よくわからんが……頭のネジが吹っ飛んでる。真性のクレイジーサイコさんだ。グレートですよ、こいつは。


 話しても通じない。下手にこっちが気のある素振りを見せると生涯の伴侶とかに自動登録してくるぞ。イヤなら全力でぶっ飛ばせ。百合の花を散らすがごとく]


「はぁ………………よくわからないっていいつつ詳しいね、サヤ」


 アルムの感想は辟易としたものだった。


 実際に刃を向けてくる相手の気概はアルムもよくわかっているはずだ。


 だからだろう。それまで向けられていた敵意や殺意の類とは違うことは理解できているようだった。


 あまり戦いに身が入っていない。心なしか、オレを握る手がいつもより緩い。


「よくわからないのだけれど……私が原因というなら謝る。ごめんなさい。ーーーー許してくれる?」


「済むわけないでしょう!? そんなやっすい単語ひとつで、このボクの火照りがさぁ!!」


[…………ん?]


「いいから裸にひん剥かせろオラァああああ!!」


 欲望全開で言いたくても言えないような台詞を吠えながら、金髪巨乳が飛びかかった。


 真正面からの斬りおろしをアルムはサイドステップでひらりとかわす。長い金髪の隙間から、にかりと牙を剥き出しにして、金髪巨乳の眼が、光る。


 ナイフが追従する。驚異的なハンドスピードでナイフがくるりと逆手に回り、その切っ先がステップを終えたアルムの白い喉を目掛けてーーーー虚空を切った。


 金髪巨乳がぐらりと体勢を崩したのだ。前のめりに倒れかける。ナイフはアルムの喉に届く前に軌跡を逸らした。

 魔法だ。アルムの唇から漏れ出たいくつかのワードが連立し、一個の魔法を形成した。


 短く、効果も薄い重力魔法で極めて小さい範囲、それこそナイフの周りだけを、重くしたのだ。


 ナイフが地面に突き刺さる。金髪巨乳がアルムを上目遣いに血走った眼光で射る。


 ……ちなみに姿勢はおっぱいを突き出し、谷間を強調している。悩ましい。


 アルムは谷間を強調する金髪巨乳の肩に剣刃を乗せる。


「どう? 落ち着いた?」


「まぁさかぁあッッ!!」


 鈍い音がその場に響いた。


 ナイフの刃がひしゃげた音を鳴らす。刺した地面の穴から濁流が間欠泉のごとく噴き出したのだ。


 アルムに間欠泉が直撃した。上空に吹き飛ばされるアルム。間欠泉は宙空を泳ぎ、とぐろを巻き、その先端は竜のようにあぎとを開けた。


[こいつも魔法を……!?]


 地上に残る金髪巨乳の足元から、次々と間欠泉か飛び出してくる。片手の指で数え切れない数になって、オレは考えるのをやめた。だって剣だし。指ねーし。


 アルムは視線を走らせ、一斉に顎を開き牙を立てる水の竜の隙間を狙い。


 ーーーー剣を投げ込んだ。


 剣は走る。重力に引かれ、加速し、水の竜たちの鱗を横目に飛んでいき。


 金髪巨乳を外れ、その足元に突き刺さった。


 水の竜たちは、武器を持たないアルムを呑み込んだーーーー。


「やったかッ!」


 にかりと野獣じみた笑い方で八重歯を剥き出しにする金髪巨乳。


 …………しかし、それ。そのセリフ。なんて。

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